レイカズ/カズレイ作品 短編集   作:みょん!

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隠れ家的お店の苺タルト

「はい、今日連れて来たかったのはここ」

 トリニティ通りを曲がって、歩くこと五分ほど。裏路地とも言える所に、ひっそりとその店の看板は掲げられていた。

「新装オープンしてまだそんなに経ってないのに、キヴォトススイーツランキングでちょくちょく名前が挙がるようになったんだ」

 周りは住宅地に囲まれていて、看板がなければ、そこがお店だとは分からないほどひっそりと佇んでいる。きっと、家だった建物をそのままお店に改装したのだろう。

 『隠れ家的お店』とはおそらくこのような作りのお店なのだろう、と思いつつ、目をきらきらとさせて、手招きしても動こうとしない宇沢の手を引いて、ドアを開ける。チリリンとドアベルの音とともに、甘い匂いがふわりと漂ってきた。

 目の前に広がるのは、ガラスケースとその中に見えるスイーツの数々。

「どう? フルーツタルトの専門店。珍しいでしょ」

 隣を見ると、目を閉じて大きな深呼吸をした宇沢がいた。そして、目を開けて、一言。

「杏山カズサ。なんでこんな素敵なお店の情報を教えてくれなかったんですか」

 と。

「見てくださいよこれ!」

 足早に数歩歩いたかと思うと、ガラスのショーケースの中に飾られているタルトの数々を指差して、言う。

「ショーケースの中、どれもこれもキラキラしてるし美味しそうだし、何より種類も豊富だし、一回で食べきれる種類と量じゃないですよ!」

 いつも以上に、騒がしかった。宇沢のテンションが上がっているのが、目に見えて分かる。あと、声を聞くだけでも。語尾が跳ねて聞こえるし、うずずうとした感情がこれでもかというくらいに、伝わってくる。

 ガラスケースにおでこをくっつけるくらいに近づけて、中のスイーツたちを眺める宇沢を見ていると、多分この間の私もきっと、こんな感じだったんだろうな――と思える。宇沢には黙っておくけど。

 私も、店の情報をスイーツ店のまとめサイトで偶然見つけて、地図アプリを手にしながら半信半疑で道を歩いていて、このお店にたどり着いた。

 店の中に入った途端の香り。そしてショーケースに並ぶ色とりどりのタルトたち。

 私だって胸がわくわくしたし、どれを買おうかとすごく悩んで、結局決めきれなくて、最終手段の『店員さんのお勧め』を使った。

 旬の苺を使ったタルトがおいしいと聞いて、先生におみやげに持って行ったのが、ついこの間のこと。

 ――その時、ついでに私の分も買ったんだけど、それがもう、ほっぺたが落ちるくらいにおいしかった。

 だからこれを宇沢にも味わわせてあげようと思って、宇沢と休日に会う約束をしたんだ。

「宇沢ならそう言ってくれると思った。さ、イートインスペース行こ」

 呼んでも返事はない。見ると、宇沢はガラスのショーケースに文字通りくっついていた。もう一度声をかける。視線はショーケースの中に注がれている。返事はない。

 いつまで経ってもショーケースから離れなかったから、上着の襟を引っ張った。「ぐぇ」と何かが潰れたような声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 席に着く。

 正面に、ふくれっ面の宇沢がいる。

「………………」

 今頬をつついたら、さぞ綺麗に空気が漏れる音がするんだろうなってくらい、膨れている。

「悪かったって」

「むー」

「だって宇沢が動かないから」

「急ぐ必要ないじゃないですか。もっと見たかったのに」

「や、理由があるんだって」

「つーん」

 理由は言えない。でもこの時間に席に着く必要がある。でも言っちゃうとネタバレになっちゃうから言えなくて、宇沢の機嫌を直す方法が見当たらない。

 宇沢の恨めしい視線を感じること、数分。

「おまたせしました」

 店員の声がするのと同時に、ふわりと苺の甘酸っぱい香りがした。

 席に着く前に、店員に『まだ間に合いますか?』と聞いて、『大丈夫です』と言われていた、それが届いた。

 テーブルの上に、照明を反射してきらきらと輝いて見える、苺タルトが載せられた。

「――――――」

 途端、宇沢の頬がしゅっと元に戻って、目の輝きがさっき以上になる。

「苺タルト。しかも、出来たて」

 前回ここで買ったときに、散々悩んでいたせいか、店員さんが耳より情報ということで教えてくれた。毎週土曜の午前十一時に、焼きたての苺タルトをご提供しています――と。

 直接手を触れていないのに、温かさを感じるそれは、見た目からしておいしそうに見える。硝子のショーケースに入っていたものも、もちろんおいしそうに見えた。

 ――けれど、これは、その比じゃなくて。文字通り、輝いて見える。

「食べて、いいんですか?」

「もちろん。この時間に、ここに座ってる人限定だよ」

「――――! それでは、いただきましょ――――、あ」

 手を合せる宇沢は、何かに気づいたのか苺タルトに伸ばしかける手を引っ込める。

「こんなに見た目が綺麗なタルト、写真に残さなきゃ罪です!」

 宇沢がスマホを取り出すのを見て、私も取り出す。そして芸術品とも言えるタルトを撮ってから顔を上げると。

「………………」

 それはもう、顎が外れそうなくらいに大きな口を開けた宇沢が見えた。

 そして、一口。タルトに隠れていた宇沢の顔が見えるようになると、予想通りに、宇沢の鼻の頭に苺ソースの赤色が付いていた。

「~~~~~! おいひいえふ!」

 落ちる頬を支えるかのように、タルトを持っていない手を頬に当てる。

 目も、口も、それはもう横に広がって、宇沢の表情のあらゆるところが、『おいしい』と叫んでいる。

「そ。よかった」

 そう、そんな宇沢が見たかったんだよ、私は。

 お勧めのスイーツを食べて、それを美味しいと言ってくれるとき、やっぱりすごく嬉しいなって思うし。それが宇沢なら、より楽しいって思うし。

 私が食べて好きだって思うんだから、きっと宇沢の好きにも当てはまるんだろうなと思っていたから、ここに宇沢を連れて来てよかったな、と思う。

 ――スイーツ勝負をすれば勝てたよなぁ、と思ったけど、まぁ宇沢には全勝してるし、勝ちの数を今更増やしたところであんまり意味は無い。

 

 ……と、それはそうとして。

 

「宇沢、さ」

「ふぁい?」

 私と宇沢の前には、タルトが載った皿と、その両隣にはナイフとフォークが置いてある。

 これはもちろん、飾りのためだとか、見栄えのためだとか、そういうものじゃない。本来であれば、食べる時に使うはずの物で。

 ――でも宇沢は、手づかみでタルトを掴んで、しかも一口で、苺タルトを囓りとった。

 まぁ割と見慣れた光景ではあるから、今更言うことでもないんだけど。

 私の鼻の頭を指差して。

「付いてるよ」

 一応、指摘しておく。

 ほんの一瞬、首を傾げて。そして宇沢は自分自身の鼻の頭を指で触って。

「………………、え、へへへへ」

 恥ずかしそうな笑みを見せた。

 

 囓った断面のタルトとのツーショットを撮って――むしろ宇沢から撮ってと言われて――放課後スイーツ部のモモトークに上げたら、思いのほかナツにウケた。




先生に苺タルトを差し入れしたカズサは、その流れで宇沢と苺タルトを食べに行ってたら尊い
って電波が降ってきたので書きました!

苺タルト、おいしいですよね。酸っぱさと甘さの組み合わせが本当にたまりません。そして同時にタルトの正しい食べ方も分かりません。あれを綺麗に食べるにはどうしたらいいんでしょう。私はレイサタイプです。口いっぱいに頬張るタルトは幸せ。
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