私の部屋のテーブルの上には、数々のコンビニスイーツが並んでいた。
クリームたっぷりプリン、焼きプリンにミルクプリン、杏仁豆腐。スフレ、ミルクレープ、プチケーキにエクレア。リングドーナツにあんドーナツにアップルパイ。その他いくつかのチョコレート菓子の数々に、飲み物。総勢三千円分。
放課後スイーツ部の部活のときだとか、学校帰りに家で食べる用にコンビニでスイーツを買ったりはするけれど、流石にこれだけの量を買ったのは初めてだ。
そして目の前には、それらを並べた机の写真を撮る宇沢の姿。
「こ、これだけ揃うと壮観ですねぇ……」
「ま、ね。と言っても百鬼夜行のあそこに比べたら、たぶん質は落ちるだろうけど」
「スイーツは質が大事です。ですが、時には量を重視するときだって必要なのです! 例えば、そう、今とかっ!」
宇沢はびしっと私に向けて人差し指を向ける。相変わらずその癖直ってないな。ま、いいけど。
「やけ食いしたくなるときだってあるんですよ。私たちだって女の子なんですから!」
「当然のように私を巻き込まないでよ。……や、気持ちは分かるしさ、乗るけどさ」
「へへ、杏山カズサなら乗ってくれるって思ってましたよ。さぁ食べましょう! 私たちの憂さ晴らしにっ!」
宇沢は右手にスプーン、左手にフォークを持ち――もちろんコンビニでもらってきたものだ――机の上のスイーツをキラキラと、いやギラギラとした目で見る。
空腹の獣の目ってこんなんかな、と、そんなことを思った。
――時は四時間前に遡る。
日曜日の、お昼前のこと。
宇沢といつもの踏切で待ち合わせをして、二人で電車に乗って百鬼夜行のお店に向かうはずだったのに、なんでも昨日の夜にトレインジャック事件が発生した上に脱線し、復旧工事で全線運転見合わせらしく、そもそも店にたどり着くことができなかった。――なんてことだ。
宇沢と勝負をする予定は、また後日、ということになった。
かと言って、『はいそれじゃまた明日ね』となるのもなんか寂しいし、私の頭はスイーツを食べることでもう決まっちゃってるから、どこかでスイーツは買って食べたい。スイーツは一人で食べるより誰かと食べる方がおいしい。だったら目の前に宇沢いるじゃん、どっか食べてこ、となるのは当然の流れで。
ならばトリニティ通りのどこかでスイーツ欲を宇沢と解消しようとしたところ、行くお店行くお店、全てが臨時休日となっていた。なんでも、流通の大動脈である高速道路でトラックが横転、荷物がぶちまけられて通行不能となっていて、トラック自体が高速道路から出られず、材料が入らないらしい。――ふざけんな。
じゃあ仕方ないからクッキー系とかの焼き物を出すお店に行って、紅茶と合わせて食べよっか、と宇沢と一緒にお店に向かったら、イートインは5時間待ち。ならばテイクアウトはと言えば、棚の上のあらゆる物が無くなっていた。――流石にピキッた。
行きたかったお店には行けず、ならばと別案で向かったところも軒並みダメ。イートインは大行列。お預けにお預けを重ねられ、スイーツ欲だけが溜まりに溜まり、私の中の何かが暴れ始めそうだったそのとき、宇沢が一つの提案をした。『こんな時こそ、コンビニスイーツです!』と。
――そして、今に至る。
普段コンビニでは抑え気味にしているところを、あれもこれもと籠に入れる宇沢に釣られて買ったら、レジでびっくりする金額になっていた。一度レジを通したものをやっぱやめた、となるのはカッコ悪いからそのまま会計をしたけれど。――ちょっと来週のスイーツは控えめにした方がいいかもしれない、と思った。
とは言え。
それは、それ。これは、これ。
今は目の前に文字通り広げられているスイーツたちで、宇沢とスイーツ欲を満たさねば。
「杏山カズサ、このミルクプリン頂いてもいいですか?」
宇沢が最初に目をつけたのはミルクプリンだった。なんとも言えないゆるい牛のキャラクターが描かれているそれは、一度私が宇沢にお勧めしたところ、宇沢がドはまりしたものだ。
「宇沢、相変わらずそれ好きだね。いいよ。っていうか断らなくていいから。こんなにあるんだからさ」
「いやぁ……杏山カズサが食べるの楽しみにしてるものだったら、こう、アレだなぁ、と思いまして……」
最初の勢いはどこへやら。上目遣いに私を見て、控えめに人差し指をつけたり離したりしている。
「そんなの今更気にする仲でもないでしょ。お互い遠慮無く食べよ。あ、でも一口貰えると嬉しいかな」
「――――! ええ、もちろんですっ! さぁ杏山カズサ、どうぞ!」
勢いよくミルクプリンのふたを開けたかと思うと、ざくっとスプーンをミルクプリンに刺して、それを私の方に向けてくる。
さぁ杏山カズサ、食べてください! と体を乗り出した宇沢のキラキラした目がそう語ってくる。
「いや、最初は宇沢が食べてよ。宇沢が開けたものなんだしさ」
「まぁまぁそんなこと言わず。さぁ!」
更にずい、とスプーンを私の方に向けてくる。……あぁ、これは延々と押し問答が続くやつだな、と半ばあきらめて、目をつぶって、口を開く。
しばらくして、口の中に冷たい感触が伝わったかと思うと、ふわりとミルクの香りと、甘い味が口いっぱいに広がった。
「ん。……やっぱおいしいね、これ」
「ですよねですよね! では私も頂きますねっ!」
テンションが元に戻った宇沢は、スプーンいっぱいにミルクプリンを取り、口の中へ。
もぐもぐと口が動いたと思うと、ぴたり、と宇沢の動きが止まる。そして頬に手を当てて、今日一番の笑み。
「~~~~っ! やっぱりここのミルクプリンは最高ですねっ!」
頭のてっぺんから声が出ているかと思えるくらいの、宇沢のいつもより高く、そして嬉しそうな声と、嬉しそうな顔。
「ほんっと、宇沢はおいしそうに食べるよね」
「へへ。おいしいです。杏山カズサと一緒に食べてるので、なおさらです」
「――――」
まーた宇沢は、そういうことをしれっと言う。顔に出さないようにするの、結構大変なんだからね。言わないけどさ。
「…………そ」
「…………へへ」
頬杖をついて、ちょっとだけ宇沢から視線を外す。宇沢からはなんだか意味ありげな視線を感じるけれど、手が届く場所にいないからデコピンの刑はまた後でにしておく。
行きたかったお店は行けなかったし、今日のスイーツは質よりも量を重視したコンビニスイーツだけれど。
宇沢と食べるスイーツなら。コンビニスイーツだって最高においしい。