表面には厚く切られた桃が重なり合っていて、その下にはふわふわとしたスポンジと、カットされた桃がごろごろと入った優しい甘みのクリームが交互に層を作っている。
贅沢にフォークを縦に入れて、一口で頬張る。
「んんー、おいひ………………」
口の中に広がる、桃のジューシーな甘さと、クリームのふわりとした甘さ。お店で売ってるスイーツだからこその、食べたときの幸福感。
おいしいスイーツを食べれば、思わずため息だって出る。そして部活で食べるものなら、なおさら。
例え今が梅雨の時期であっても、スイーツは、いつ食べても、おいしい。
――一つだけ難点を言うのばら、ジャンケンで負けた結果トリニティ通りまで部員全員分のスイーツを取りに行かなきゃいけなかったことくらい。
雨だし、やけに気温は高いし、ジメジメするしで、外を歩くだけで髪の毛はべたつくし耳の毛はごわごわするし、色々とやってられない。
しかも部室に戻った時には部員の全員が涼しいクーラーが効いた部屋でごろ寝をしていたとあれば、そりゃあデコピンの一発や二発は必要経費ってやつで。
でも、一口、たった一口、名店シャル・トレーズの贅沢桃ケーキを食べたら、私の機嫌はもうそれだけで治まった。おいしいスイーツは人を幸せにするのは、やっぱり正しいと思う。
――ここに宇沢がいれば、もう少し騒がしいのだけれど、あいにく宇沢は自警団のパトロールに当たっている日らしく、【行けるかどうかは分かりません! 行ければ行きます!】とモモトークのグループチャットに書き込まれていた。
一応、宇沢の分も買っておいてるし、冷蔵庫の中に入れてるから、今日来られなくても今週中くらいで食べてもらえばいいかなと思う。
「――――あ、ねぇねぇみんな」
向かって正面、アイリがスマホに目を落としながら声を上げた。
「今日って
「へー」
机の右辺に座っているヨシミからは、そっけない声。口にフォーク咥えてるの、すごく行儀悪い。……ヨシミはスイーツに関係無い話だと、それほど乗り気じゃないようだ。
「なんかカズサに失礼な事思われてそうな気がするけど。……ま、それはいいや。私たち高校生よ? そんな高そうなの食べれるわけないじゃん。先生とかじゃあるまいし」
「そうそう、我らは健全な一般の高校生。そもそも、もし高い物を食べるとしても、ご飯ではなくスイーツだろう。例えば、ルワゾー・ブッレの限定スイーツとか」
机の左辺に座るナツがヨシミに続く。解説するのはいいんだけど、ケーキが刺さったままのフォークを左右に振りながらなのは見ていてはらはらする。落ちたらスイーツがもったいない。……いや、ナツなら「3秒ルールさ」とか言って食べるんだろうけど。
「ま、そうだよね。コンビニでチラシ見たけど、3500円とか書いてあったし。スイーツ天国3回分って考えたら相当だよね」
アイリの言葉を否定するわけじゃないけど、私としてはナツの言葉に賛同したい。どうせお金を使うなら、おいしいスイーツを、みんなで食べたいな、と思う。
「あれ、でも、『う』が付けば別の食べ物でもいいみたい」
スマホの画面をスライドさせて、アイリが言う。見ているのはニュースサイトみたいに思える。
「……以外と適当だね、そういうの」
「じゃあ、スイーツで『う』がつくの食べればそれでいいじゃん」
ヨシミが歯を見せつつ、全員を見回しながら言う。スイーツの話題になった途端に食いついてきたあたり、やっぱりヨシミだな、と思う。
「んー、『う』がつく、スイーツ、ねぇ……」
少しだけ、頭を巡らせてみる。
――チョコも、ミントも、「う」は付かないからなぁ……。
ならば、とここ二週間くらいで食べた物を思い浮かべてみる。
モモケーキ、マカロン、プリン、スフレ、パンケーキ。見事なくらいに該当無し。
宇沢との勝負で使った、トッピングまで増やしてみよう。苺ソース、ホイップ増し、バニラアイス。
――ああ、そういえば先週、帰りにコンビニの前で宇沢の髪の毛みたいな色のアイスを食べたっけ。
「…………宇沢、」
アイス、は違うか。正式名称じゃないし。じゃあ他には…………。
考えて考えて、結構考えて、さっぱり出てこない。うん、出てこないならやめとこう。考えるのは頭使うし――と顔を上げて。
「…………なに」
何やら三人の目が私に集まっていた。
アイリはいつものにこにこ顔なのはいいとして、残り二人。ヨシミもナツも、なんかすごく、意地の悪そうな顔をしている。
にまにまとした、なんかおもちゃを見つけたような、そんな顔。
「へー、レイサを食べちゃうんだ。へー」
「ん?」
ごめん何言ってるのか分かんない。
「カズサ言ってたじゃん。宇沢って。しっかり」
「…………は?」
「とぼけたって無駄よ。証人は三人もいるんだから」
「確かに聞いた。……ふむ、夜のおかし、と、そういうことか」
「――――――~~~ッ!」
ナツはちょうど座ってても拳が届く位置。反射的に肩パンしようと思ったら、いつの間にか構えられていた盾に防がれてしまった。盾は殴ると結構痛い。立ち上がってゲンコツを一発。防がれた。
「ぼうりょくはんたーい! 我らは暴力には屈しなーい!」
「ああもうその盾じゃま! どけて!」
「どけるわけないさ。カズサのゲンコツは痛いからね」
「うっさい! へんなとこばかり反応して!」
――ああもう。じれったい。
考えごとが口に出るのは――宇沢の前で――何回かやらかしたから注意はしてたのに。全部桃ケーキが悪い。あんなおいしい物を食べたら思考も緩くなるってもんで。
盾が開いているところに手を伸ばす。防がれる。
早い内にシメておかないと、宇沢が来たときにどうせこいつらは変なことを言って宇沢が混乱して騒がしいことになる。早めにやって口止めしておかなければ。
「まったくあんたたち! こんなの宇沢に見られたら――」
「へ?」
――なんか、聞いたことのある鳴き声が聞こえた気がした。
振り向く。アイスみたいな髪色をした宇沢がいた。
「私がどうしたんです? 杏山カズサ」
「………………」
目の前で宇沢が首を傾げているのが見える。
この状況をなんて言えばいいのか、うまく頭が回らない。ついでに口から言葉も出てこない。
背中をナツに突かれる感覚があった。後ろ足で蹴る。防がれる。ああもう。
「――――~~~~なんでもない!」
「? そうですか!」
何も知らない宇沢は、何事か頷いたあと、いつもの場所に座る。
鞄の中から、紙袋を取りだして、机の上に載せて、いつものように騒がしい声で、言う。
「今日は「う」が付く食べ物を食べる日らしいので、卯の花ドーナツをコンビニで買ってきました! 皆さんで食べましょう!」
――さっき、その話聞いたなぁ。
宇沢と逆側を見える。
ナツが腕を組んで、何やらにやにやとしているのが見える。
ノーモーションで肩を殴った。
ガンッといい音がした。
「今日はうがつく食べ物を食べるといいらしい」
と部活内の話で出て、
(そんなスイーツあったかな……)
と頭を捻った結果、
「…………宇沢?」
と口にしてしまい部員全員からジト目で見られる杏山カズサください。
(Xより抜粋)
7月24日は土用の丑の日らしく、そんな電波が吹っ飛んできました。
書きました。
照れキレカズサは可愛いと思います(゜-゜)(。_。)