今日は放課後スイーツ部の部活がない日。部室でだらだらしていようかと思ったところ、放課後になった直後に宇沢から【今日は放課後にトリニティ通り行きませんか???】とモモトークが来た。下駄箱で待ち合わせをして、トリニティ通りへと繰り出すことにした。
放課後ということもあり、そして学校に近いこともあってか、トリニティの生徒が多い。そしてどの生徒も、手にアイスやらクレープやらたこ焼きやらを買い食いしながら歩いている。
通りには、おいしそうな匂いが至るところから漂ってきていて、隣を歩く宇沢も、きょろきょろと通りの左右を見回して、何を買おうかと物色しているようだった。
この時間帯、結構なお店が外にテーブルを出して店外販売をする所が多いのは、きっと私たちみたいなのを狙ってるんだろうな、と思う。私はそんな簡単な罠には引っかからないけど。……あれ、カフェトリニティの秋の新作? ちょっとまってそれ聞いてないんだけ
「――杏山カズサ杏山カズサっ!」
「ぐぇ」
見てる方向と逆側に、突然引っ張られた。
私のパーカーを。
一瞬、息が詰まった。
――宇沢、あんたは…………。
未だに引っ張ってくる宇沢の方を見る。
目をキラキラとさせた宇沢が、店と店の間の、小さな路地の方向を指差していた。
「杏山カズサ、あれあれ!」
頭の上から出ているような声を上げて、そして私のパーカーを引っ張ったまま、そっちの方へと私を連れて行こうとする。おーけー分かった。宇沢。ちょっと止まれ。
「宇沢、ステイ」
「私は犬じゃないだだだだだ、頭、頭割れちゃいますってあの杏山カズサその手あだだだだ!」 宇沢の頭を掴んで、ちょいと力を入れる。宇沢は通りに響くような声を上げた。通りを歩く生徒の視線を感じて、宇沢の頭を掴んだまま、宇沢が指差した方向へ。
――せめて私の腕をタップしたりしたら離してあげてもいいのに、宇沢は全然そんな気配が見えないから手を離すタイミングを失って、結局路地の方へと入った辺りで手を離した。
ちなみに、全力で力は入れてない。入れるのはいざって時だけ。
「で、何」
「これこれ! 面白そうじゃないですか?」
目をキラキラとしたものに戻した宇沢が指差したのは、メーカーの名前も書いてない自動販売機だった。――さっきの声は割と縁起だったようだ。次はもうちょっと強くしよう。
自販機のラインナップを見ると、よく見知った飲み物は並んでなくて、雑貨屋で売ってるような怪しい飲み物が並んでいて――しかもエナジー系な飲み物が多い――その中に、明らかに見慣れないものがあった。
『スイーツガチャ! なにがでるかおたのしみに』
とだけ書かれた紙の下に、ボタンがある。書かれている値段は百円。
自販機の枠を三つも使っているのに、なんとも怪しい気配しかしなかった。
「なにこれ」
「たぶん、書いてあるとおりだと思いますよ。珍しいなって思いまして!」
すっごくわくわくと、うきうきとした顔をしていた。……マジ?
「えぇ…………」
「やってみませんか!?」
「いやいや宇沢、こういうのは碌なの出てこないって」
「じゃあ杏山カズサ、こうしましょうっ!」
私を指差して、宇沢は言う。パーカーといい、人を指差す癖といい、なんというかコイツは。まったく。
「これを二人で買ってみて、出てきた物でお家スイーツ会しましょう!」
トリニティ通りに来る目的も、買い食いだとかの部活の延長線だったから、まぁ宇沢の言おうとすることは分かる。その題材にしようということだろう。やってることはコンビニでお菓子を買うのと同じ感覚って言われれば、そうかもしれないけど。何が出るか分かんないってのが、やっぱり気になるよね。こう、ゲテモノとか出てきてもさ。
「……何が出ても、ちゃんと食べてよ?」
「大丈夫ですっ! 私は好き嫌いはありませんのでっ!」
どん、と胸を叩く。宇沢は嫌いなものは無いのは確かだし、何を食べても大体おいしいと言ってくれるから、まぁ無駄にはしないんだろうと思う。
――とは言っても、何があるか分かんないのに、百円を出すのはなぁ。
宇沢をちらりと見る。わくわくとした目で、私の方を見つめていた。
――あ、私の方が先なんだ。いやまぁ、いいけどさ。
「ま、何出ても文句言わないでよ」
ここで宇沢に『言い出しっぺの法則。宇沢が先ね』とは、なんとなく言いにくい気がした。
財布を取り出して、百円を入れる。『なにがでるかおたのしみに』の下で光っているボタンを押す。カコン、と軽い音を立てて何かが落ちてきた。――少なくとも、詐欺だとかそういうんじゃないのは分かった。
取り出したら、箱に入ったチョコボールだった。しかもスーパーで買ったらもう少し安く買えるやつ。
「…………外れじゃん」
宇沢に見せると、「あー……」とでも言いそうな顔をした。
「……そっ、そうです! 運は収束するものですからねっ! もう一回買ったらいいのが出るかも知れませんよっ!」
「えぇ………………?」
苦笑いを浮かべていた宇沢は、突然そんなことを言ってきた。私、名案を思いつきました!!! って宇沢の顔に書いてある。
宇沢は楽しそうに財布を取り出したかと思うと、百円を迷わず自販機に入れた。
一回買ってこれなら、なんか次も碌なの出なさそうだな、と思っている内に、宇沢は押すボタンを決めたようだった。
「これでいいのが出たら、二人で半分しましょうねっ!」
そう言って、私が押したボタンの右側のボタンを押した。
カコン、と音がして、ものが落ちてきた。
私の耳は決して悪い方じゃ無いから、なんとなーく、嫌な予感がした。
さっきと似たような音が、聞こえたなぁ……と思った。
「ふんふんふーん、何がきましたかねー?」
ご機嫌そうな鼻歌が聞こえる。……気がついたことは、ひとまず言わない方がよさそうだった。
宇沢は自販機の穴から、何かを取りだした。
パッケージを見る。
さっきとまったく同じ、チョコボールだった。
ランダム自販機という概念を教えてもらったので、短編にしてみました。
何でもない毎日を楽しく過ごすカズサとレイサであってほしい。
カズサと同じものが出てきたものを見た時の二人の反応は、ぜひみなさんの頭の中で思い描いてみてください。