――只今を以て、トリニティ謝肉祭の全日程を終了します。
トリニティ謝肉祭終了を宣言する校内放送が流れ、廊下や外の方から、拍手の音や労いの声が聞こえてきて、校内は開催期間中とは別の賑やかさを見せていた。
プログラムによれば、この後は片付け時間となって、日が落ちたら後夜祭が盛大に行われるらしい。
さて、教室を一つ借り切ってお化け屋敷風カフェを行った我らが放課後スイーツ部も、他の部と同じように教室の片づけを行おう――とはしていなかった。
「ふふ……さぁ、スイーツの時間だよ……」
フランケンシュタインの格好をしたナツが、まだカフェ中の役が抜け切れていないような声色で私たちの方を見る。
私たち――アイリ、ナツ、ヨシミ、私、そして宇沢は、カフェで使った中でも一番大きな四人掛けテーブルに着いていた。
そしてそのテーブルの上には、テーブルから皿の一部がはみ出しそうなほどに、数々のスイーツがあった。
「……ええと、その…………?」
仮装姿の私たちとは違い、宇沢はいつもの制服姿。誕生日席で、さっきからずっと目を丸くして、周りをきょろきょろしたり、私の仮装のマフラー部分を引っ張ったりしている。やめてよ、これ借り物なんだから。
閉会間際に『こんにちはぁ!!!!!』とやってきて、スイーツを注文しようとした宇沢の注文を、ナツはなんと拒否。そして固まる宇沢を席に無理矢理座らせたかと思うと、『そのままでいればいいことあるよ。にひ』などと言ったのが、ほんの十五分ほど前。
カフェの中に他の生徒がいなくなったことを確認すると、ナツは教室のドアの鍵を閉めた。そしてドアにモップを立て掛け、物理的に開かないようにした。
そして厨房を兼ねた教室の奥にご機嫌そうに向かっていったかと思うと、カフェで使った丸トレイにスイーツをわんさかと持ってきて、テーブルの上に並べたのだった。――もちろん、注文を拒否されてから今まで、宇沢はずっと目を丸くしていたのは言うまでもない。
「さぁ、放課後スイーツ部の活動を始めよう」
テーブルの中央には蝋燭――風のLEDライト――が一つ。ナツの顔が怪しくオレンジ色に光って見えた。
「っていうか、ナツ、そろそろ宇沢に説明してやんなよ。混乱してるでしょ」
口を半端に開けてテーブルの上のスイーツを眺める宇沢を肘で小突く。隣の宇沢は、そろそろ本格的に目を回しそうになっていた。
「え、これメニューに書いてあったスイーツですよね? あれ? 私スイーツ注文してませんよね? あれ、じゃあなんで放課後スイーツ部の皆さんがここに?」
「説明しよう!」
ナツが急に立ち上がったかと思うと、腰に手を当てて、ふんすと鼻息を一つ。フランケンシュタインの格好では、そのポーズも妙なシュールさがあった。
「トリニティ謝肉祭の出し物で購入した物は、実行委員会の経費で落ちることになっている。ここまでは分かるね、レイサくん」
「はっ、はい。その説明は、クラスの出し物をやるときに言われました」
こういうときに律儀に手を挙げるのは宇沢らしいと思う。お化けと一般人、もとい教師と生徒の関係の二人のやりとりは続く。
「よろしい。流石は我がスイーツ学講義を受けているだけはある。――さて、今の状況を説明しよう。ああ、なんということだ。客の入りが思った以上に少なく、発注したスイーツが余ってしまっているではないか」
ナツは謝肉祭のどこかで演劇でも見てきたんだろうか。いつもよりも結構なオーバー気味で演技をする。言葉以上に、動きがうるさい。――『嗚呼』じゃないよ。フランケンシュタインはそんなこと言わない。
「…………ええと、その…………つまり…………」
隣に座る宇沢は、ナツのわざとらしい演技と説明で、ひとまず思い当たるところがあったらしい。苦笑いの口元がひくついてるのは、どっちの意味なんだろう。
――何というか、回りくどいというか。
「ああ、とても残念だ。こんなにスイーツが余ってしまうだなんて。しかもスイーツは生もの。明日には消費期限がやってきてしまう、とても繊細なものだ。我らは放課後スイーツ部。スイーツをこよなく愛する生徒が集まった部活。このまま廃棄されるスイーツを、見て見ぬ振りなどできるだろうか?」
「…………あー」
途中から演技ではなく演説に――まぁいつものことだけれど――なったナツの話を聞いた宇沢は、無言で私の脇を小突いてくる。今回は割と控えめだった。
――いいんですか杏山カズサと、その目は語る。
――いいんじゃない、別に、と視線で返す。
私の方を見て、何回か瞬きをした後、宇沢は小さく頷く。そして閉じた口の前で指を右から左へ動かす仕草を見せた。『他言無用にしますので』とでも言っているようだった。
「ま、そういうこと。食べたら宇沢も共犯だからね、分かってる?」
ちょっとだけ煽ってやると、宇沢はぶんぶんと首を左右に振る。
「もちろんですっ! 毒を食らわば皿まで。放課後スイーツ部の皆さんとは地獄の果てまで一緒ですよ」
「それでこそ我が放課後スイーツ部員だ。さぁ、歓迎しよう。我らの『後の祭り』に」
「意味違ってるわよそれ……」
宇沢の言葉が割と重いのにも、ヨシミのツッコミにも誰も反応しない。なんというかいつも通りだな、と思う。
場所が変わっても、衣装が違っても、私たちがやることは結局一つ。
皆で、おいしいスイーツを、よりおいしく食べる。それだけ。
――まぁ、今回はそれが、ほんのちょっとだけアイリが怒られそうなやり方、ってだけで。
「はぁ……、やけに強気の数発注すると思ったら……まったく…………」
もう言う必要も無いし、言ったところで目の前のスイーツの数が変わったりするわけでもないのだけれど。やっぱり一言言っておきたかった。私の胃の痛さを返して欲しい。
「にひ、作戦の勝利と言って欲しいね」
だなんて、ナツはドヤ顔を決めてきた。手が届けば、デコピンの一発でもかましてやろうかと思った。遠くてできないけど。
「…………で、アイリは?」
ナツには言っても聞かないから、念のためアイリにも話を振る。
「私?」
自分自信を指差して、アイリは首を傾げる。
お化け屋敷風カフェ、というお題の中で、一番客を怖がらせていたアイリは、今も血のりが付いた衣装を着ている。いつもの柔らかな感じとのギャップが物珍しく、演技も結構様になっていたと思う。
――なんでも、『演技するときはカズサちゃんをイメージしたんだ』だとか言われて、喜んでいいのか怒っていいのかは分かんなかった。ヨシミなら殴ってた。アイリだから許した。
「……で、アイリ、ナツを叱らないの?
「うん、私。でもなんとかするよ。今回のお化け屋敷風カフェだって、衣装はヨシミちゃんだし、内装はカズサちゃんだし、スイーツはナツちゃんだし、皆が頑張って作ったり決めてくれたことだもん。実行委員会との交渉は、部長の私の頑張りどころだよ」
そう言って、胸の前で両手を握る。服装とのギャップもあって、微笑ましく、可愛らしく見えた。……言ったら照れながら叩かれそうだから、言わないでおく。
「アイリ、交渉だったらだいじょーぶだいじょーぶ」
ヨシミが、既にスイーツをつまみ食いしながら、言う。
「後ろにカズサを連れていけばいいから。アイリの後ろで、カズサがガン効かせてれば実行委員会もうんって言うよ、たぶん」
頬杖を付いて、子どもみたいに歯を見せてミイラ男は笑う。コイツが何が言いたいかは分かった。分かった上で、聞いてみる。
「あ? 私を何だと思ってんの?」
「え? 地獄の凶猫キャスパ――」
ダッシュで行って頭に拳を落とそうとしたら、立ち上がる前に宇沢が腕を抑えてきた。
「まぁまぁ、ヨシミちゃんも悪気があるわけじゃないですし」
「いやいや悪気しかないでしょ。宇沢、いい子だから離しな」
私が睨みを利かせても宇沢は首を左右に振るだけだった。後ろから『それそれ。一発でおっけーもらえるって』だとか聞こえる。おっけー殴らせろ。
「どうどう杏山カズサ。おいしいスイーツが大変になります」
「いいやアイツは一回シメないとダメ。離して宇沢、アイツ殴れない」
「どうどう」
力づくで宇沢を離すのもできるんだけど、これがナツならそうしてたんだけど、相手が宇沢だし、何やら今日一仕事してきたらしいし――ってのを考えてたら、だんだんとヨシミを殴りに行くのも馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「ほらほら、スイーツ食べよ。皆が頑張ったご褒美だからね、きっとおいしいよ」
顔の前で手を合わせて、いつものふわふわとした顔をしたアイリに――服に血は付いてるけど――そう言われると、私はとうとう座るしかなくなる。
相変わらずべーっと舌を出して煽ってくるミイラ男は、仕方ないから帰り道で一発入れることにする。
「さぁ、食べよう。そして放課後スイーツ部の活動が終わったら、次はグラウンドで後夜祭だよ。まだまだ謝肉祭は終わらない――ってね。にひ」
フランケンシュタインが、心の底から楽しそうに笑う。
――まぁ、ナツの企みに振り回されるのはいつものことだからいいか、とも思う。
宇沢も含めて、やっぱり、どこまで行っても、私たちはいつも通りだ。
「それじゃあ、いただきます」
「「「「いただきますっ」」」」
カフェで出したスイーツは、盛り方に失敗したものなどはその場でこっそりと食べたりはしていたものだった。
けれど、皆で食べるスイーツはやっぱり――それ以上に、おいしく感じられた。
お化け屋敷風カフェで謝肉祭に参加した放課後スイーツ部。先生達が来てからは大盛況となったカフェは、終わった後もどうやらやることがあるようで――?
イベント『Serenade Promenade』のメインストーリー自体ももちろん面白かったし、後日談のボリュームがすごすぎた。放課後スイーツ部のハロウィン衣装、どの立ち絵も最高でしたね!!!
放課後スイーツ部のイベントストーリーの、その後を想像して書いてみました。楽しんでいただければ幸いです。
レイサが遅れて来た理由は別の物語で書いてあげたい。レイサもトリニティの平和を守るために東奔西走ドッタンバッタン大騒ぎ!したに違いないのです。きっと。