ワイルドハント芸術学院にマツモトという生徒はいない(いないとは言っていない)   作:フガイナイ

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なかなか独特なお答えですね

 

 

 とある事業家の屋敷にて商談が行われていた。

「これがお約束していた品でございます」 

 スーツを着たロボット━━型落ちのカイザー平社員が事業家の前に絵を差し出す。

「おおっ! これが……!! 」

 二足歩行の犬がその絵をのぞき見る。

 それは絵の具が所々がかすれた抽象画だった。

黒い背景の真ん中に縦三つの端が重なった黄色くゆがんだ円。

 その左上からは若干中央円に被さるように青色の間の狭いジクザクが描かれており、その下部に重なるように絵画左下部には同じ色の殴り書きが見える。

 絵画上部には青色のジクザクを横断するように紫色の細い線が入っており、その右端に被さるように縦に流れる黄色が下部に余分の黒を残し描かれていた。

「お気に召しましたか? 」

 型落ちのカイザー平社員が事業家に問い掛けると

「いやはや、これは素晴らしい作品ですな……! ……失敬、尻尾が……」

「お気になさらず」

と尻尾をその柔らかな手で押さえながら答えた。

 目線を戻し、また絵画をしばらく見つめた後、ハアと見とれるようにため息をついた。

「いやはや、この絵画を見ていると感じ入りますな、これはまず間違いなく、過去の惨劇、ブラックマーケットで起こった第二次企業間抗争を示唆していますね」

「ああ、あの戦いでは私も企業戦士としてこの戦地に参加していました」

「ブラックマーケットでのあの下積みこそが私の今につながっていましてね……この時は若く勇猛果敢に……」

「この中央の三つの丸はクラスター爆弾ですね、三つと言う数字にも深い意味が……」

「この青は企業と民衆の深い悲しみを洗い流す雨でありまして……」

「紫の線は一筋の希望の光なんてないというシニカルな暗喩的表現……」

「私も夢中で気が付いたら返り油でギトギトで……」

「縦の黄色は最後に一人勝ちしたカイザーコーポレーションを示していて……」

 饒舌に舌が回り、話し続ける事業家。

それに対して

”そうなんですか“

“それはすごい”

“素晴らしい先見の明で“

“お目が高い! “

“私もそう思います”

“苦労なされたのですね”

と相づちを打つカイザー平社員。

 そうしている内に、窓からは夕焼けが差し込んでいた。

 

「いやはや、貴重な物を手に入れられたよ」

「ご満足して頂けたならなによりです」

 事業家は満足して舌を止めたが、興奮がさめやらぬようで尻尾をブンブンと振っていた。

「噂には聞いていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()マツモト……まさか学生の身でこれほどとは……会ってみたくはあるが……」

「まあ、難しいでしょうね……彼女か彼か……それさえも明かさぬほどの人間嫌いで、自らの噂が立つことさえ嫌い、作品が市井の場に出回るタイミングも無名の作品として公に出ることが稀にある程度という徹底ぶり……」

「まあ、無理でしょうな……それはともかく、これからもご贔屓にさせてもらいますよ、カイ()ーギャラリー!」

「これからも末永くよろしくお願いします、カイ()ーギャラリーを……」

 

 

 

「ええ、はい」

 夜風の吹く波音立つ海沿いの公道。

 ポツポツとまばらなうす暗い街灯に照らされ、型落ちのカイザー平社員━━レアチーズは電話口にて上司に商談の結果を報告していた。

『それにしても……幸運だったじゃないか! 道ばたで拾った落書きがあんな高値で売れるとは! 』

「いえいえ、先輩方の日頃の下準備のおかげですよ」

『まーじで馬鹿だよな~、ま、そのお陰で俺たちドブネズミはおまんまにありつけるわけだ』

 電話口から、わざとらしい笑い声が鳴り響く。

 通話が切れピーピーと残るのは複数社から届いた返済催促メールの履歴。

 潮風がおんぼろで隙間の空いたボディにしみる。

街灯に照らされかすかに見える波をしばらく眺めた後、あるはずもないペンだこを握りしめ、行きつけの海底油田のうまい居酒屋に足を進め始めた。

 

 

 

 

 

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