感情を食べて生きている   作:春夏冬しゅう

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現代ファンタジー。生き物の感情エネルギーを食べて生きる人間の姿をした人外である「粧人」の同級生と、ふとしたきっかけでその存在を知った一般女子高校生とそれをよそに人狼にゲームの話で盛り上がっているクラスメイトの話。



登場人物

氷見谷 結衣・人間。女子高生。最近粧人の存在を知った。顔に出る。

加藤 護・粧人。男子高生。氷見谷の隣の席。無表情でいようとしているけれど結構顔に出る。



粧人・姿かたちはほぼ人間そのものだが、食物ではなく生き物の感情エネルギーを食べる生物。背中からほのかに発光する半透明な触手が生えており、これが彼らの口。触手は粧人同士にしか見ることが出来ず、また触手と感情エネルギー以外のものに干渉することが出来ない。


4話 人狼

 昼休みの教室。そこそこ人がおり、氷見谷も加藤もそれぞれの席に座り昼食を食べている。

 

 そんななか、坂宮の机の横にかけてある紙袋の中にある大量のボードゲームに気づいた美作は坂宮に声をかけた。

 

 

 

美作「すごっ。これボドゲ?」

 

坂宮「あ、うん」

 

美作「見ても良い?」

 

坂宮「汚したり壊したりしなければ」

 

美作「気をつけるわ」

 

 

 

 美作が真面目に言うと、坂宮は自身の机の上に紙袋内のボードゲームを出し始める。美作はそれを目を輝かせながら眺めた。

 

 

 

美作「めっちゃある」

 

坂宮「こんなの少しだよ。部室にはもっといっぱいあるし、毎年新作も出るし」

 

美作「へー。あ、これは知ってる! 動画で見たんだよね」

 

 

 

 机に置かれた人狼ゲームの箱を手に取る美作。

 

 

 

美作「やったことは無いけど。やっぱ面白い?」

 

坂宮「向き不向きはあるけど面白いよ。ハマった人はずっとやってる」

 

美作「そっか、遊んでいい?」

 

坂宮「人集まるなら」

 

美作「やった! ねぇ、人狼やる人ー?」

 

 

 

 教室にいる人達に呼びかける美作。すると辰、天神、西崎、畝尾が机の周りに集まってきた。

 

 少し目を見開く坂宮をよそに、ワイワイと話し始める美作達。

 

 

 

辰「はーい」

 

美作「お、これならできるんじゃない?」

 

西崎「アプリでしかやったことないけど良い?」

 

坂宮「あ、あぁ、ルールほとんど一緒だから大丈夫だと思う」

 

天神「見てるだけでもいい?」

 

美作「いいんじゃない?」

 

畝尾「何のアプリでやってんの?」

 

西崎「えっとね……」

 

 

 

 話していると、近くの席に座っていた星衛が坂宮に声をかけた。

 

 

 

星衛「ねぇ、他のボドゲ見てても良い?」

 

坂宮「いいよ、どれ見たい?」

 

星衛「簡単なやつとかあるかな?」

 

美作「倉森は? やる?」

 

 

 

 近くの席に座っている倉森に美作が声をかけると、倉森は驚いたように肩を跳ね上げた後に迷いながらも言った。

 

 

 

倉森「あ、えっと、うん、じゃあ……」

 

美作「そっちはー?」

 

 

 

 美作はスマホでゲームをしている尾村達に声をかける。

 

 

 

伊野「赤アモ持ってない?」

 

山黒「持ってない。タウンの方やりあってるし、避けて探してみる?」

 

尾村「残りチーム少ないし、漁夫りたくはあるんだよねぇ」

 

美作「尾村ー?」

 

尾村「ん、なに?」

 

美作「人狼やる?」

 

尾村「あー……これ終わったら混ぜて」

 

美作「おっけー。そっちは?」

 

 

 

 「なんて?」「人狼やるかって美作が」と話す山黒と尾村。氷見谷と加藤に声をかける美作。加藤は一瞬悩んで首を振り、氷見谷は慌てた様子で口をもぐもぐさせながら自身の机にあるお弁当を指さした。

 

 

 

美作「あっごめん」

 

 

 

 謝る美作にブンブンと首を振る氷見谷。直後、教室に春日井が入ってくると美作は春日井にも話しかけた。

 

 

 

美作「春日井、人狼やる?」

 

春日井「あー……ごめん、私人狼苦手なんだ」

 

美作「そうなんだ」

 

坂宮「あぁ、ゲームでも嘘つくの苦手だとかあるからね」

 

 

 

 氷見谷がいそいそとお弁当を持って坂宮の机のほうへ歩いてくる。「やっぱやる?」「見たくて……」「じゃあここ来る?」と会話しながら、勧められた空いた席に座る氷見谷。

 

 

 

春日井「それもだけど、人狼って人が、その、死ぬじゃない? それがキツくて」

 

坂宮「……その理由は初めて聞いた」

 

天神「へぇ、おもしろ。じゃあドラマとか見れんくない?」

 

春日井「そう、刑事ものとか医療ドラマとか駄目なんだよねぇ。だからそういうのが無いのだったら、遊びたいんだけど……ごめんね」

 

坂宮「あー、そうなるとアブストラクトか、大喜利系かな」

 

美作「あるんだ?」

 

坂宮「まぁね」

 

辰「え、人狼やらないの?」

 

美作「人狼もやりたい」

 

西崎「……ヤバい。エロいのしか思い浮かばないんだけど」

 

 

 

 西崎は真剣な顔で言った。一瞬の沈黙ののち、全員の視線が西崎に向く。

 

 直後、美作は爆発したように笑い始めた。それに釣られるように畝尾も吹き出してしまい、口を手で覆いながら笑いを抑えている。そんな中辰は顔を真っ赤に染めて悲鳴のような声をあげ、天神は混乱したまま西崎や周囲を見回した。

 

 

 

辰「西崎!?」

 

天神「えっ、なに、え……えっ!?」

 

坂宮「どういうこと?」

 

西崎「だって、人は死なないけど夜に人じゃない何かがなんかして1人ずつ居なくなってくんでしょ? そんなのサキュバスとかインキュバスがめちゃくちゃエロいことして人格破壊しちゃうとかしか無くない?」

 

辰「ちょっと!」

 

天神「いや、いやいやいや!」

 

西崎「じゃあ他どんなのがあるのさ!」

 

坂宮「あー! なるほど、ルールは変えずに、違う世界観のゲームを……考えて……!」

 

伊野「いまエッチな話してた!?」

 

 

 

 ようやく理解できた坂宮も途中から吹き出し、笑いだしてしまう。そしていつの間にかスマホから目を外していた伊野が坂宮達へ呼びかけ、ゲームをしていた尾村と山黒が悲鳴をあげた。

 

 

 

尾村「下がって! これ逃げないと死ぬ!」

 

山黒「前! 伊野前来てる死んじゃう!」

 

伊野「やっべ」

 

 

 

 悲鳴と笑い声があがる教室から、一人二人が気まずそうに引き気味にそそくさと教室から出ていく。

 

 

 

天神「パッとは出てこないけど、それが出てくるのはヤバイでしょ!」

 

坂宮「まぁでも、確かに良い設定ではあるかも……?」

 

天神「インパクトで頭やられてるって」

 

辰「え、この話続けるの? やめようよもう」

 

美作「いや、問題は快楽堕ちと死んだのを同じ扱いにしていいかってことじゃない?」

 

辰「ねええええええ!」

 

美作「真面目にさ。殺人は犯人捜ししなきゃいけないってなるじゃん。自分が殺されたくないから。でもエロいことってなると嫌な人は嫌だろうけど悪ってわけでは無いしむしろご褒美だって言う人もでてくるかもしれないし、犯人捜しを、しなきゃいけないかっ……て言うと……」

 

辰「もう絶対そういう話したいだけじゃん!」

 

 

 

 真剣な面持ちで話していた美作が途中で吹き出しゲラゲラと笑いだすと、辰は吠えた。

 

 

 

 数分後、坂宮の机の周りでは人狼ではないゲームが広げられ、辰と星衛を相手に坂宮がゲームを教えており、氷見谷は一つ離れた席でお弁当を食べながらそれを見ている。

 

 教室の後ろの方では美作、春日井、西崎、天神、伊野、倉森、畝尾が集まっており何とも言えない空気を漂わせている。自分の席が後ろにある加藤は、席から離れはしないがそちらに頑として視線を向けないようにしていた。

 

 

 

美作「じゃあエッチな話するか」

 

西崎「えっ? ゲームの話でしょ?」

 

美作「あっはーい」

 

畝尾「まず人狼のルールを確認しようか」

 

 

 

 畝尾が後ろの黒板に以下を書き始める。

 

 ・人狼陣営対村人陣営の対話推理ゲーム

 

 ・夜のターンに人狼は村人を1人殺害する。昼のターンに全員で誰が人狼かを話し合い、怪しい人1人を多数決で決め、処刑する。

 

 ・人狼を全員処刑できれば村人の勝利

 

 ・村人を全員殺害できれば人狼の勝利

 

 

 

畝尾「このルールはそのままに、殺害・処刑を別の言葉で代用できる世界観にしたいと」

 

 

 

 すごいことになっちゃったな……という表情を人知れずしている春日井。

 

 

 

美作「で、西崎の案はこれ」

 

 

 

 黒板に以下を追記する美作。

 

 人狼→サキュバス・インキュバス

 

 殺害→快楽堕ちさせて人格破壊

 

 

 

伊野「いいじゃんエッチで」

 

天神「いや駄目だろ」

 

西崎「これしか思いつかなかったんよ本当に」

 

美作「でもそれ自体はただの妖怪みたいなものでしょ? ゲームだし、生々しい描写があるわけじゃないからそこは良いんじゃないかと思うんだけど」

 

伊野「そういえばさ、エロは18禁だけど殺人とか死ぬとかは18禁じゃないんだよな。普通にドラマでもやってるし。なんでだろ」

 

美作「描写の程度じゃない? グロテスクはエロと同じで18禁だし、ヤった翌朝~みたいなのはよくあるし」

 

 

 

 居心地の悪そうな表情ながらも話を聞いている倉森。

 

 

 

西崎「あ、でも処刑はどうしよう。同じ事やり返すのはなんか違うよね」

 

伊野「普通にご褒美っぽいよな」

 

美作「サキュバスが人間にエロいことされて負けるわけないよね」

 

天神「いや、冤罪で村人が処刑された時が地獄すぎるだろ。普通に……牢屋行きとかさ」 

 

 

 

 おぉーと歓声が上がる。言った後にサキュバス人狼の案に肯定的な言い方をしてしまったかもしれないと後悔する天神。

 

 

 

美作「牢屋は良いけど、冤罪で村人が吊られる絵面は普通の人狼でも地獄でしょ」

 

天神「そもそもの話すんな。人狼の存在まで遡ってやろうか」

 

 

 

 かき回そうとする美作にピシャリと天神が言い返すと、美作はケラケラと笑った。

 

 

 

伊野「でも結構良いんじゃね? 上手く替えれてるじゃん」

 

 

 

 渋い顔で息を吐く天神。

 

 

 

畝尾「春日井はどう?」

 

春日井「まぁ、そっちは別に拒否感無いし、普通の人狼よりは辛くなく遊べるかな」

 

 

 

 苦笑しつつも「ありがとうね」と言う春日井。頭を抱える天神。

 

 

 

畝尾「じゃあそれで遊ぶかこれから。坂宮にゲームの手札だけ借りてサキュバスの体にしてさ」

 

 

 

 畝尾がそう言って坂宮の方へ行こうとすると、西崎は半笑いで皆をきょろきょろと見回し、春日井は視線を逸らし、倉森と天神は顔を曇らせた。

 

 

 

春日井「あー……」

 

畝尾「?」

 

天神「……俺パス。不参加」

 

伊野「えっなんで?」

 

天神「嫌だよこんな真っ昼間の教室でさ。先生とかも来るかもしれないのに。いや、勝手にやってる分には好きにすればいいけど俺は参加したくない」

 

美作「あー」

 

伊野「そっか……」

 

畝尾「……?」

 

美作「なんできょとんとしてんだよ」

 

春日井「……倉森はどう思う?」

 

倉森「え、えっと……。あの……」

 

 

 

 周りを見回すと視線が集まっていることに気づく倉森。おどおどし、何を言えばいいか考えあぐね口を何度か開閉した後、おずおずと言った。

 

 

 

倉森「……修学旅行の夜とかに、部屋とかで、クラスメイトだけでやるのは、すごく楽しそうだなって……」

 

天神「……それなら、まぁ、楽しそうだけど」

 

畝尾「そう……?」

 

美作「……よし! いったんサキュバスは置いておいて、別のアイデア考えてみよっか!」

 

西崎「そ、そうだね! 三人寄ればなんとやらって言うし、他の案思いつくよ絶対!」

 

 

 

 腑に落ちない顔をしながらも、畝尾は西崎の案の隣に・を書き足す。それを見て腰を浮かしかけていた天神はその場に座りなおした。倉森はキョロキョロと周りの様子を伺い、春日井はふうと安堵の溜息を密かに吐いた。

 

 

 

伊野「つってもさ、サキュバスのインパクトが強すぎて俺なんにも思いつかないんだよなぁ」

 

春日井「元のルールから連想するんじゃなくて、別の世界観にルールを当てはめてみるとか?ファンシーな……」

 

 

 

 そういって思い浮かべたキャラクター達が人狼ゲームで殺伐とする様を思い浮かべてしまい、目が虚ろになる春日井。

 

 

 

伊野「別の世界観……」

 

 

 

 大きく息を吐き、天井を仰ぐ伊野。沈黙。それに耐え切れなくなったように、倉森が少し声を裏返させながら言った。

 

 

 

倉森「が、学校とか……ですかね」

 

 

 

 沈黙。周囲の目が倉森に集まり、倉森はひっと息をのむ。

 

 

 

美作「いい! いいね! ナイスアイデア!」

 

西崎「そっか、学校なら単純に来なくなったでいいんだ! 死ななくて良い!」

 

畝尾「そうすると、学校に来なくさせた犯人が人狼代わりになるわけか。となると……」

 

 

 

 ある朝登校した生徒が自身の机を見ると、落書きや傷が大量につけられている。翌朝、その生徒の姿は無く、別の生徒のジャージがズタズタに切り裂かれている。大量の水をかけられずぶぬれになる生徒。写真を貼り出される生徒。机の上に弔うように花瓶が置かれる生徒。殺伐とした話し合いの情景。そして、誰も来なくなった教室に1人、何事も無かったかのように机に座り、笑顔を浮かべる主犯の姿。……が全員の脳裏に浮かぶ。

 

 重い静けさ。苦々しい顔をした加藤。心配そうな視線を向ける氷見谷。

 

 

 

畝尾「これもいったん置いておくか」

 

倉森「ごめんなさい……」

 

伊野「いやいやナイスアイデア!」

 

天神「うん、ナイストライナイストライ」

 

西崎「世界観が近すぎたかもね!」

 

春日井「医療ドラマも本物のお医者さんとか看護師さんは楽しめないって聞くし」

 

畝尾「じゃあ他のアイデア……」

 

 

 

 長い沈黙が降りる。耐え切れなくなったように、顔を顰めた美作が絞り出すように呟いた。

 

 

 

美作「逆カプ人狼とかだと死にはしないけど……」

 

伊野「ギャクカプ人狼?」

 

美作「あ、カップリングって分かる……?」

 

畝尾「CDとかの?」

 

伊野「なにそれ」

 

西崎「恋人作るみたいな?」

 

天神「それはマッチング」

 

美作「いや、けっこう近いかな。人と人をくっつけるのをカップリングっていうんだけど、順番があって」

 

畝尾「順番?」

 

美作「せm……」

 

 

 

 言おうとしたことを間一髪飲み込んだ美作は、つらつらと説明を始める。

 

 

 

美作「きのこたけのこ戦争とか、コーンフレーク先に入れるか牛乳先に入れるか論争とか、芋煮派閥とか分かる? そういう、譲れない主義の戦いみたいなのあるじゃない」

 

 

 

 聞いたことはあると同意する皆。

 

 

 

美作「村はそれの片方の陣営の人しかいない村で、そこに人狼である別の陣営の人が紛れ込んで、村の人を鞍替えさせちゃうんだよ。それで村から1人ずつ出ていって……みたいな」

 

西崎「死んでない! いいじゃん!」

 

天神「お前早く言えよそういうの」

 

伊野「ゲームのフェスみたいな?」

 

畝尾「あれは派閥の看板堂々と背負ってゲームするじゃん」

 

美作「まぁ、そう、それなんだよね。遊びとして分かりやすいのはそっちとかガチ討論なんだよ。設定としてはめちゃくちゃ面白いけど、うん、ごめん取り下げる」

 

天神「取り下げとかあんのかこれ」

 

春日井「本人がしっくり来てないなら詰めてもあれかもね」

 

伊野「そっか。じゃあ……」

 

 

 

 ふたたび長い長い沈黙が続き、西崎が恐る恐る訊く。

 

 

 

西崎「もしかしてサキュバスが一番丸い感じ……?」

 

天神「……いやなんか無いか!? なんか、せめて、他の良さそうなそこそこ悪そうな化物とか妖怪とか!」

 

伊野「そこそこってなんだよぉ。どれくらいの悪さだよ!」

 

畝尾「いっそ人狼のままとかは?」

 

美作「いや人狼だったら村人食い殺しちゃうじゃん」

 

畝尾「人を食べない人狼とか」

 

美作「それもう人でも良くない?」

 

畝尾「でも人が人殺すってなんか理由があって殺すわけだから、毎晩殺す形にはならないでしょ。人狼だったらそういう生態だからってなるし」

 

美作「いやー、人でも理由なく殺す人はいるでしょ」

 

天神「まてまてまて、結局死ぬ殺すの話になってんじゃん。そうじゃなくしようって話だろが」

 

西崎「それで人食わない人狼かぁ」

 

美作「でもそれだったらその人狼がどんな悪いことすることにする?」

 

伊野「人殺すんじゃなくて、ペットとか家畜とか食うとか? それで家主寝込んじゃうとか」

 

倉森「え」

 

 

 

 目をガッと見開き伊野へ向ける倉森に肩が跳ねる春日井。

 

 

 

天神「それは寝込むんじゃなくて復讐しに行くだろ」

 

畝尾「まぁ寝込んでる場合じゃないな。駆除しなきゃ」

 

伊野「じゃあ人じゃないとか」

 

 

 

  話している人達を二度見する氷見谷。思わず視線を送る加藤。

 

 

 

春日井「それ探す必要ある?」

 

伊野「いや、紛れ込んでるなら追い出すために探さん? 怖いし」

 

春日井「なにも悪い事してないんでしょ?」

 

伊野「悪い事してなくても怖くない?」

 

春日井「…….みんなは?」

 

畝尾「悪事働いてないならどうでもいい」

 

美作「……人じゃないってことを隠して人間の村に紛れ込んでるのは、後ろめたいことがありそうで嫌かも」

 

 

 

 苦々しく目を伏せる加藤。

 

 

 

天神「そうかぁ? まぁ人じゃないなら前もって教えてほしいかもしれんけど。面白そうだし」

 

 

 

 ハの字に下がっていた眉がパッと跳ね上がる氷見谷。

 

 

 

伊野「そうかぁ……倉森は?」

 

倉森「あっ……えっと…………」

 

春日井「……保留?」

 

倉森「すいません……」

 

春日井「そっか、じゃあ西崎は?」

 

西崎「私は……怖いと思う派ではある」

 

 

 

 目を伏せ思いつめたような表情で呟く西崎。しかし、ガバっと頭を抱え上を向くと確信混じりの声色で吠えた。

 

 

 

西崎「けど、えっぐい美人が実は人外でしたって言われても怖いじゃなくて納得になりそうなんだよなぁー! なんなら伏して全力でおもてなしするかもしれない……!」

 

 

 

 呆気にとられた顔をする加藤と氷見谷。

 

 

 

天神「お前さぁ……」

 

西崎「だって! 芸能人のあの人とかモデルのあの人が実は天使でした悪魔でした吸血鬼でしたって言われても「どおりで人知を超えた美しさ!」ってなるじゃん!」

 

天神「なんねぇよ」

 

春日井「すごい発想」

 

伊野「うーん……?」

 

畝尾「つまり、すごい所があれば人外でも受け入れるけど、無ければ悪い事してなくても受け付けないってことか?」

 

西崎「うー、あの、う—―――――ん……!」

 

 

 

 身を捩って苦悶する西崎を見て美作がにやっと笑う。

 

 

 

美作「逆に、もしめちゃくちゃ顔が良くてエッチだったら、悪い事しても許しちゃったりする? 人とか人外とか関係なしで」

 

西崎「そ、れは……ぬうううううぅぅぅぅ……!」

 

 

 

 呻き声をあげて悶絶する西崎の様子に倉森が慌てふためく。それを見てけらけら笑い始める美作を呆れたように見る天神や春日井。

 

 そんな中、教室の出入り口に立っていた教師である赤江が声をかけた。

 

 

 

赤江「おーい」

 

 

 

 始業のチャイムが鳴る。いつの間にか山黒と尾村もゲームを止めボドゲを見学しており、かなり時間が経っていたようだった。

 

 

 

赤江「授業始めるよー」

 

全員「ええええええええええ!!!??」

 

 

 

 天神以外の話していた全員が声をあげる。天神は慌てて黒板消しに飛びつき板書していたものを消し、伊野と西崎は抗議した。

 

 

 

西崎「先生もうちょっと待っててもらえないですか!?」

 

伊野「ロスタイムちょうだい!」

 

美作「先生、いったん忘れ物無いか職員室に確認してこない?」

 

赤江「なに、何の話してたの?」

 

天神「やめろやめろ! 解散!」

 

 

 

 首を傾げる赤江に説明しようとした美作と伊野の口を遮る天神。

 

 

 

赤江「え、本当になに? 気になるんだけれど」

 

春日井「気にしないで良いですよ、ゲームの話なので」

 

赤江「そう……? じゃあそれは授業の後でね」

 

美作「えぇ~」

 

 

 

 不服そうながらも席に戻っていく数人。他の生徒も席に着く(元々チャイムが鳴る前に席に座っている人も多数いる)。

 

 

 

赤江「では前回のおさらいから。教科書の……」

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