天に落ちる   作:kaname24

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第二話 プロローグ

「よし、準備は出来た。始めよう」

 

オリオネルは戦闘域に居るグライダーや補修屋に観測に来ている学者に向けて注意喚起をする為に、葬儀場に備え置かれた通信機に手を掛ける。

手に触れたソレはひんやりと冷たく身体を冷やすが、もう慣れている事だ。

一呼吸ついてからオリオネルはハッキリとけれど声は出来る限り抑えて通信機に声を放つ。

 

「「あーこちらオリオネル」」

「「これから空葬を行う。環境は良好、戦闘域にいる者は以後、巻き込まれない様に注意しろ。それと横取りするなよ」」

 

オリオネルが放った言葉に遅れる様に耳を貫く程に大音量の音となって、戦闘域中にリピートされる。何時聞いたって馬鹿げた音量だ。

いくら他のグライダーとのトラブル防止やこの戦闘域に狩りとは違う目的で来ている補修屋や研究者を護る為に義務付けられているとはいえ、少しばかり音量を落としたっていいだろ。

 

そんな事を考えながらオリオネルは息を一つ吐き、棺を慣れた手つきで葬儀場からチェレーロへ蹴落とした。

棺は臓物と花をまき散らしながら段々と加速しながらチェレーロの底へと落ちて行く。

あの蒼い奈落の底には何があるのだろうか、ふと落ちてゆく棺を見ながらオリオネルは考えた。ただの人間なんかにその問いが分かる訳も無いが、此処に来た者であれば誰だって考えそうな疑問。

誰だって一度は考えるはずだ。人が未だ観測していない不可侵領域――その先に何が眠っており、どんな色を見せるのか。まぁチェレーロの神秘より迷宮の神秘の方が人々にとっては魅力的なんだろうが。

 

オリオネルはそう思考を巡らせながら有翼種がおびき寄せらるのを待っていると、チェレーロの底から強風と翼の羽ばたく音が聞こえてきる。

 

「ピィーー!!」

 

オリオネルの目の前に鳥どもが甲高い鳴き声と共に現れたのだ。

その体躯はやって来た中で一番有翼種であっても俺の身体よりも容易く上回る巨大さで、数は有翼種大型が2体、小型が4体といつも以上に有翼種が上がってきたが問題は無い。

たとえ相手どる数が多くとも、有翼種との戦いは慣れているのだから。

 

「こっちだ!ついて来い!」

 

オリオネルは声を張り上げて、ボラティーノ達の注意を引き付ける。

このままカゲヨイの所まで上へ約300か400メートルぐらいだ。このまま楽に逃げ切りたいが今回の役目は囮役、故に一定の距離で逃走を続けなければならない。まぁ有翼種相手に上への走りで振り切るって事は起きないだろうが。

オリオネルは戦闘域に張り巡らされたレールを伝ってカゲヨイのいる第3支柱へと逃走を開始する。だが容易くゴールまで引き付ける事など有翼種達は許さない。

 

有翼種達は建物を巻き込み、突風を吹かせながらオリオネルに迫りくる。オリオネルは有翼種たちの攻撃で崩壊していく戦闘域を傍目に上へ上へと駆け上がっていくのだった。

 

それに対してオリオネルは、崩壊し奈落へと落ちてゆく足場たちを躱して、カゲヨイのいる第三支柱に向かって駆け上がっていた。

 

精霊達の宴や百鬼夜行などの定期的に起こる大規模な現象によって戦闘域全体ががボロボロになってしまう為に、いっその事壊れるのを前提としてチェレーロに作られた戦闘域に作られた建築物や足場は戦闘中の足場として機能しないぐらいには脆い。

 

故に戦闘域周辺には戦闘中に信用に値する足場として、浮遊石を素材に利用して一部が壊れようとも奈落に落ちずに宙にとどまり続ける様に作られたレールが至るところに張り巡らされている。

オリオネルはそれを足場にして有翼種達の突進を躱し、時には双剣ですれ違い様に翼を切りつけ、持ち帰れないだろう小型の有翼種達を奈落へ墜落させる。

 

「ふぅ…大分登って来た。あー面倒だ。もうここで堕としても良いか?」

 

第3支柱まで残り200メートルを切った。鼓動が駆け巡り、身体は降ってきた破片や有翼種達の猛攻によって傷を負ってしまったが、その程度の事など動きに支障が出る程度は無い。むしろ身体中の熱はまだ上がり切っておらず、まだまだ余力が残っている。

 

「後、100」

 

さすがにお相手も学習して来たのか、足場であるレールを壊し、連携して逃走先を誘導して、挟み込む形で攻撃して来るようになっていたが、それならば縦に良ければいい事。

オリオネルは下に浮かび続けている砕けたレールに飛び降りて躱し、上に戻る際にはワイヤーで繋げられた双剣の片方を何処かに巻き付けて、ギュルリと巻き取られた時の反動で上に上がり、細いレールの上へ着地して立ち止まる。

 

もう逃げる必要も無い。もう既にカゲヨイの射程圏内に入っているのだから。

 

オリオネルは持っていた双剣の片方をクルッと逆手に構え直して、向かってきた鳥へ羽を傷つけない様に切り裂く。

 

「ピィーィイ⁉」

 

そうすれば有翼種は五月蠅い鳴き声を上げて苦しみ、動きが鈍くなってくれる。もう片方も同じようにやればこちらの仕事は終わりだ。

 

構えた双剣を鞘に戻し、代わりに腰にあるフック付きのロープを取り出して、上に居るカゲヨイへ言葉を呟いた。けれどその声はチェレーロが生み出した音にかき消された――

 

 

下の方から、建物が崩れ落ちてゆく音、有翼種たちが羽ばたき追走する音が微かに聞こえてくる。ネルが空葬を行い、疾走劇を繰り広げているのだろう。

今回持ってきたのはいつも戦闘域で長距離狙撃の時に持ってきてる自作の矢と、予備というかお守りとして持って来た狩魔矢が五本。

 

狩魔矢は俺が苦労して作った手製の矢で、使い捨ての触媒としての側面を持つ、魔術を矢に乗せて使う時に用いる矢だ。

 

出来れば少しでも矢代を浮かせたいから、一発も外したくは無い。

それに積み上げてきた経験が俺にこんな事で外すのかと、言っている。…あぁ外しはしないとも、外すことなど私に許されている訳が無いのだから。

 

カゲヨイは息を深く吸い、狙撃の体勢へと入り、これからやってくる有翼種を待つ。決してネルに誤射しない事だけは頭に留め、目に魔力を巡らせて有翼種が射程圏内に入る、ただその時を待つ。

 

どんどんと下から聞こえて来る音は大きくなり。遂にはカゲヨイの射程圏内へとオリオネルと追走する有翼種達がカゲヨイいる方へ向かってくる。

 

「標的、目視で確認。チェレーロに吹く風の観測、狙撃には特段影響は無し」

 

来た。カゲヨイの目にはオリオネルとそれを追いかけてきた標的をその目に捉える。数は大型2体、小型の有翼種はもう既にネルの方で剪定が終わっている様で、小型の排除をしなくて済んで楽で助かる。

 

矢をつがえて限界まで引き絞り、あの鳥たちが隙を見せるその時を待つ。

だがチェレーロに吹く風は移ろいやすい。隙を伺う間にも風は刻々と変わり行き、カゲヨイの束ねられた髪を揺らしていた。

 

「この風は…軌道を再計算の必要性あり。魔術で…いや、もう遅い」

 

この強風じゃあ矢が逸れてしまう。魔術を使おうと、ここから矢をつがえ直せば一瞬を逃す。有翼種が隙を見せる一瞬だ。なら、このままやるしかない。

 

カゲヨイは息を止めて頭を空っぽにして、下でネルが繰り広げている戦闘を意識を向ける。

彼らの戦闘はもう既に終盤に移行しているようで、ネルが隙を作ろうと有翼種達の隙間を縫うように舞っている。

 

そしてあの鳥たちに傷を負わせたはオリオネルは己の武具をしまい、回収用の道具を持ち出して立ち止まり、俺に向かって何かを言った。

 

「」

 

その声は聞こえない。けれど何を求めているのか分かっている。ならば無論、それに答えよう。

そうでなけれは、私の積み重なねた物が崩れ去ってしまうから。

 

カゲヨイはオリオネルの声に従い、動きが遅い二体の有翼種を狙って、2本の矢を続けざまに放つ。矢は静寂と共に風に揺さぶられながらも標的に向かって飛び、2体の有翼種の頭部を綺麗に突き刺さった。

 

これで私の役目は終わった、後はネルさんが回収してくれるだろう。カゲヨイは不足した酸素を取り戻す様に息を深く吸い、オリオネルのもとへと降りたのだった。

 

 

上から降って来た矢が有翼種の頭に突き刺さる様を見ていたオリオネルは、落ちて行く二つの有翼種の死体に対してフックを突き刺し、自身も奈落へ落ちていかない様に全力で引っ張ってそこらのレールへ縛り上げる。

 

ボラティーノ達は体内には浮遊石を有しているが、有翼種はその翼を持って飛ぶためか、ボラティーノの中ではそこまでの浮遊石を有していない。そのため体重が他のボラティーノよりも重い。他のボラティーノは奈落に落ちずにその場に静止するどころかそのまま上に上がって行くのに、有翼種は下へとゆっくり落ちていくから。こればっかりは今やらねばならない。

 

「ありがとうございます。ネルさん。面倒な役回りをして貰って」

「いや、問題無い。これが一番リスクが無い方法だろ?」

「はい。危険を排除するのも大事な事でしたから。ほら目的の有翼種は仕留められましたし」

「仕留めた獲物を持って、アンダーに帰りましょうよ。ギルドで久しぶりに二人でお酒でも飲んで、たっぷりとお話しがしたいので」

「せっかくのただ酒だ。遠慮なく飲ませて貰うからな」

「手加減ぐらいはしてくださいよ。そこまで財布の中身は豪勢なわけじゃないので」

「話がそれるが、解体について何だが…俺も手伝うよ。まぁ今から飲むお酒の礼としてな」

「それはありがたい申し出です。流石に大型二体となると解体に少々時間が掛かってしまいますから」

 

そう二人は雑談でもしながらレールに掛けられた有翼種を運び、第1支柱ヘクトール付近にある仕留めた獲物を運ぶ納品用のエレベーターの前に居る衛兵に、懐中時計を見せてエレベーターに乗る。

 

懐中時計は人々が生活する中で、唯一の時間を示す物だ。その重要性から何かの所属を示す物や身分を示す物として良く使われている。

俺たちが今持っているのも全グライダーに支給されている物で、裏にはチェレーロを象徴するソレイユが描かれている。

 

確かこの魔道具が時を示す原理として、クローズプレン中央に存在する、天を突き破る様に聳え立つ塔、迷宮から発見された遺物の一つ「狂いなき大時計」の秒針と同期して、現在の時を示す仕組みだっけか。

 

それはともかくギルドに戻った二人は、狩った獲物を解体して換金したのちに酒場へ歩いて行ったのだった。

 

 

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