天に落ちる   作:kaname24

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第三話 プロローグⅢ

カゲヨイからの頼み事のせいで予定よりも遅くに戻って来たギルド地下、戦闘域への出入り口は、18時とサーティ(夕食)の時間帯もあってかエレベーターに何時も居る衛兵以外俺とカゲヨイしか居ない。

 

天城都市アンダーへ帰って来た二人はまず、狩って来た有翼種の死体を解体して、身体に付いてしまった返り血を水で注ぎ落した。

 

それからカゲヨイがいらない部位を換金しにギルドの玄関ホールへ行ったから。オリオネルは水場で自身が受けた傷を布できつく巻き付けて止血したら糸で止めて、一通りの治療をしながら彼が戻ってくるのを待っている事にした。

 

「ネルさん、精算が終わりましたよ。これが今回の報酬です」

 

身体の治療が終わって少し経ったのち、カゲヨイは戻ってきて、オリオネルの方へ硬貨の入った小さな袋を投げ渡してきた。

さて今回の報酬は…っと4876ディナーロか。つまり売値は9752ディナーロか。有翼種にしてはまぁまぁだな。

 

「やっぱり有翼種はしけてるな…」

「ですねぇ…久しぶりに有翼種を狩りましたが、売値見てびっくりしましたよ。最近また人増えたからですかねぇ」

 

有翼種のよく売れる部位として貴重な食料である肉や心臓部分にある浮遊石だが、人が増えれば日持ちしない肉の価値は下がり、そこまでの純度を持たないし、量も少ない浮遊石では子供のおこずかいを貯めれば買えるぐらいには安い。

 

「まぁ少し経てば、人も減りますから。それに来月からボラティーノ達も活発になって来ます。来月から稼ぎ時になって行きますから、たんまりと稼ぎませんと」

「そうか、そろそろ葬礼祭が近いのか」

「そうですよ。今年は何の屋台が並ぶのか楽しみですね」

「とりあえず、酒場に入ろうか。席が埋まったらたまったもんじゃないからな」

「そうですね。急ぎますか」

 

二人はサーティを食べに酒場に入れば、酒場は狩りを終えて、サーティを食べようとしているグライダーが来る時間帯故に、席を埋め尽くす様に沢山の客で賑わっていた。

二人は客で賑わう酒場の中から空いている席を見つけて座った後、メニューから何を頼もうか悩みながら、カゲヨイと話を続ける。

 

「空いている席があって良かった」

「えぇそうですね。この時間帯いつも満席ですから」

「カゲヨイは今日、どうする?」

「私は適当にローストチキンでも頼んで、後は…何でも良いのでお酒を一つ頼もうかと、せっかくネルさんが飲むんですから。酔う事は出来なくとも、味や風味は楽しめますから」

 

カゲヨイは滅多に酒で酔う事が無い。彼と二人で酒を飲みかわす時は何時も俺の方がべろんべろんに酔ってしまうし、いつも宿まで送ってもらうはめになっている。

確か前にカゲヨイがどれだけ飲めるかを知りたくて、全部奢るからと酒場に誘った時は、酒瓶を3本空にしてもケッロとした顔でまだ全然いけるけど、って言っていたな、

 

「それでネルさんは何を頼みます?やっぱりいつものですか?」

「あぁそれにするか。それに酒を飲むならつまみも必要だ。つまみとしてイカのスルメも頼もう」

 

そうして頼んだ料理が運ばれてきた料理、まぁ安価な家庭料理の一種と冷えた安いお酒が店員によってテーブルに置かれる。

ギルドが運営する酒場、「ソーニョステラ」の良いところは料理じゃない。何と言っても置かれている酒の種類が多さと、冷えた酒が飲める事だ。

元々、天城都市アンダーは特産品である浮遊石の貿易盛んな事も有って他国との交流が盛んで、色々な物がこのアンダーに流れて来ている。

 

その為、この酒場に置かれた酒の種類はざっと数えても50種類以上もあり、貴族などの上流階級の皆様が嗜む様な酒から民衆が飲むような酒まで取り揃えており、この酒場のマスターが酒好きだという事もあって、カウンター席ではマスター特製のカクテルも楽しめる。だからマスターが作る絶品のカクテルを求めて、この酒場のカウンター席はいつも満席だ。

 

「さて、料理も酒も来た事だし、再会を祝って乾杯でもするか?」

「最近「百鬼夜行」で顔を合わせたばかりでしょう。再会を祝うには少々離れた期間が短すぎかと。いっその事チェレーロに向けて乾杯すればいいんじゃないですか?」

「例えば…「この蒼き世界、チェレーロに乾杯!」とか」

「あーそれも良いな。じゃあカゲヨイの案に乗って、乾杯の音頭でも取ろうか」

「ええ、そうしましょうよ」

 

「「この蒼き世界、チェレーロに乾杯(祝福を)」」

 

二人はそれぞれジョッキを持ち、少しずれた言葉を周りに迷惑かけない程度に呟いて、カンッ!とガラス同士がぶつかる音を鳴らし、グビっとジョッキの中にある酒を飲み干す。

 

「はぁ、いつ飲んでも此処のエールは美味しいですね」

「あぁそうだな。冷えたエールは身体によく響く」

 

キンキンに氷で冷やされたエールが身体に染み渡り、日々の疲れを癒していく。

氷を使って冷やしている為、いくらでも飲める安価なエールからたまにしか飲めない嗜好品にへと値段が変わってしまうが、そのぐらいの金を払う価値はある。

やって来たつまみと一緒に飲めば、更に酒が進む。

 

「さて、今日はカゲヨイの奢りだったよな?」

「そうですけど…まさか」

「せっかくの奢りだ。普段手の届かない高い酒も、今ならタダで飲めるんだ。この機会に全く手に付けていない物を頼もうかと思うが、どれがいいと思う?」

「はぁ…ちょっと待ってください。考えますから」

 

オリオネルの提案に、カゲヨイは少し考える。このまま駄目だと言えば、ネルは勝手に何かを頼んでしまうだろう。そして酒で潰れたネルの代わりに代金を払うのは俺だ。

ならいっその事、俺が好きな類の酒を頼んでしまおう。ネルも納得出来る様な酒を。

 

「すみません。そこの棚にあるサングティを一本ください」

「分かりました。お客さん一つ確認させて頂きますが、そこに飾ってあるお酒たちは決して、気軽に頼める様な物ではありません」

「アレはマスターの秘蔵品の一つでありますから、時価とさせて貰っています。少々お待ちくださいね。今から値段交渉をしてきますので」

 

そう言って店員は少しの動揺を見せた後、カウンターに居るマスターへと伝える為に二人の席から離れて行く。

 

「正気か?クイント産の高いウィスキーをボトル丸々一本って、十万は軽く超えるぞ」

「前々からウィスキーを飲んでみたかったんですよね。相当酒精が強いお酒だそうで」

「太っ腹だなカゲヨイ。いやカゲヨイ様って言った方が良いか?」

「一杯だけですよ。後は私の家に持ち帰って楽しみますから」

「一杯だけでも十分だ。まさかそこまで物を飲めるとは思っていなかったしな」

 

店員がカウンターに行ってから数分後、二人の前にやって来たのはこの酒場を仕切るマスターだった。

 

「お客様、お待たせしました。あちらにあるサングティはレイングラ―ドの水を材料にしており、クイントの方で5年も蒸留されたウィスキーとなっております」

「私の方ではそうですね、17万ディナーロで売りたいのですが…今、それ程の値を払えますか?」

「ちょっと待ってくださいね。良かった払えそうです。ここまで来てお金が足りないじゃあ、恰好が悪いですから」

「分かりました。今、お持ちしますね」

 

そうして二人テーブルに置かれたのははクイントを象徴する騎士と塔の絵が描かれたラベルが張られたりして、流石は貴族御用達らしく綺麗な作りになっていた。

 

「ありがとう御座います。代金は今払った方がいいですよね。とりあえずまだまだ頼みますし、このお酒の分だけ」

「ご気遣いありがとうございます。丁度ですね。ではごゆっくりどうぞ」

 

「さっさと開けてくれないか。早く飲みたくてうずうずしているんだ」

「はいはい。今開けますよ」

 

カゲヨイは持っていた短剣で蓋を開けグラスに片方にはちょびっと注いで、片方にはたっぷりと注いで行く。グラスからは先ほどまで飲んでいた酒よりも強い香りが漂ってきて、それが更に食欲をそそらせる。

 

「何で俺のだけ量が少ないいんだ?」

「それ割って飲む奴らしいのでネルさんは私程、ざるでは無いでしょう?」

「それ以上飲むなって事か…分かったよ」

 

まぁ少し飲めただけ、カゲヨイに感謝しないとな。少し酒を口に含めば強烈な味と共に熱い熱が喉を通って胃へ落ちていく。

今まで飲んできた中では上位に入る美味い。だが…

 

「この酒も普段飲む酒よりも雲泥の差がある程美味いが。チェレーロで飲む酒の方が美味いな」

「そうでしょう。十万もしているんですから。って、え」

「チェレーロでお酒を飲む?」

「ああそうだが、何か問題か?」

 

カゲヨイに俺の趣味を話した事があったような気がしたが、知らなかったのか。

目の前に居るカゲヨイは俺を何かの変態でも見る様な目で俺の方見ているが、何故だ?

 

「問題以前に論外ですよ、それは…はぁ何となく分かって来ましたよ、前々からギルドで話題になっていたのは貴方だったんですね」

「ああその話か、「黎明前のチェレーロで酒を飲むグライダーがいる」って話だろ?別に俺的は噂になる程か?って思うが」

「正しいのはあなたでは無く、大多数のグライダーの方ですよ。基本的に酒を飲みに戦闘域に赴く者など、気が狂っているとしか言えません。…早死にしたいのですか」

「はいはい、俺が悪かったですよ」

 

俺はルナーレがに戦闘域に酒を持って一人ひっそりと酒を飲む事が、どうにもその行為は他人とっては気が狂っている行為らしい。確かに酒で酔っている状態で土砂降りの浮水とか想定外の出来事に巻き込まれてあっさりと死ぬ。なんて事が起きてもおかしくはないが…

 

結局、色んな人にやめろと言われ続けてきたが俺はそんな悪癖をやめられずにいる。こんなことを続けてもう4年、何事もなく…あぁ何事も無く生きてはいるが、いつかは痛い目に合うのは分かり切っているというのに、この悪癖をやめれない。その原因は俺にもわからない。

 

「はぁ、私はあなたの趣味に口を出すつもりも無いですけどね、私はそんな話をする為に来ているわけでは無いのです」

「さぁ儲け話でもしましょうよ」

「次の「百鬼夜行」の開催時期とか今、価格が高騰している魔石とか浮遊石の話とか」

「本当に金の話が好きだなぁ…」

「まぁ此処に来る前は仕事が趣味だったもので、グライダーとしての私には不測の事態に備えて金を積み上げるのが今の私の生きがいなんですよ。それに積み上げた金を眺めるのも好きですから」

「こんな酒を買ったのにか?」

「あれは…前々から気になっていたから。それに高い酒を飲みたいとネルさんが言い始めた話じゃないですか!」

 

金稼ぎの話か。少し話が逸れてしまうが、俺が知っている話で面白そうなモノと言えばこれだな。

 

「たしか…次の「百鬼夜行」は来月にやるだろ。あのバカみたいな契約が履行されてないせいでここ2年間は毎月の様にやってるからな」

「アレってまだ終わって無かったんですか?もう2年経ったのにまだ足りてないんですね」

「そりゃあこの階層一の大国、クイントが国で一番の学園を創設する為にわざわざ宙に浮く島を作るんだぞ?あのクイントが十数年の年月を要して作るような学園だ。

数えきれない程の浮遊石が必要になる。それなりの純度の持った…妖精級位の浮遊石がな」

 

浮遊石には、品質を分かりやすくし、商談をスムーズのする為のランク付けがされている。下から順に魔獣級、妖精級、精霊級、大精霊級となっており、魔獣、妖精級はよく市場に出回っているが、精霊級、大精霊級は滅多に市場に出ない一品だ。

 

クイントが国の一大事業として作ろうとしている学園はそれなりの規模を誇るだろう。島を浮かす炉心を作るのにいったいどれだけの浮遊石が必要になるだろうか。

いくら万物の質量を無くし、宙に浮かせる浮遊石であろうとも、それには限度がある。はぁ…いつになったら足りるのやら。まぁ毎月の様に百鬼夜行が開催されるからいくらでも伸びて良いんだけどな。

 

「それにギルドには他の国からの依頼もある。いくらアンダーを此処までの貿易都市に発展させた立役者の一人とは言え、今はどの国とも中立の関係を結んでいるから、クイント一つの国に供給を絞る訳にも行かない。で、次の百鬼夜行はカゲヨイも参加するのか?」

「もちろんですよ。お金をたんまりと稼ぐ機会ですし、ブラッチに呼ばれているので、参加する予定です」

「ブラッチ…主催の「妖精掃討会」の薬屋か。羨ましいなぁ、そいつとの縁を持っているなんてな。ああ勿論俺も参加する。戦闘域で顔を合わせると思うがその時はよろしくな」

「えぇ、背を合わせる機会があったらよろしくお願いしますね」

 

カゲヨイと久しぶりに話していると、酒がついつい進んでしまう。こうしてカゲヨイと飲むのはいつぶりだろうか?思いだそうとしても酒が回り思い出せない。

と言うか今何時だ?20時ぐらいから飲み始めたはず…だが。

一瞬、グラっと脳が揺れた。次に来たのは強烈な眠気と、歪んだ視界。

オリオネルは酔いが回って来たのかと、他人事の様な感覚を覚えながら意識を落とした。

 

そうして目覚めたのはそれから数時間後の事。いつもとは違う、部屋のベットの上で起きたオリオネルが状況を理解しようと周りを見れば、カゲヨイがベットの上で頭を抱えていた。

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