仄かに照らす照明、最初に入って来た時よりも静かな酒場、そして目の前で酔い潰れてるネル。
まだ大丈夫だと言って、ケラケラと表情をほころばせながらジョッキを仰いでいたネルは案の定テーブルに突っ伏していた。
「起きろーネルさん」
「起きてください。私が運ぶはめになるんですから」
「駄目だ…完全に酔いつぶれている」
周りに迷惑をかけない程度の声で話しかけても、頬を軽く叩いても一向に目を覚ます様子は無い。
いや、ここまで酔っているなら、もうまともに歩くことさえままならない筈だ。なら俺が運んで行くのは決定事項か。
カゲヨイは勢いで買ってしまったサングティを片手に持ったまま会計を済ませたら、ネルを背負って、帰りの路地を歩く。
いつもよりもだいぶ高くなってしまったな。あのサングティのせいで今月の稼ぎの大半が飛んでしまった。しばらくは財布の紐を閉めとかないとな。
「あぁクソ重い…」
カゲヨイは重たい身体を支え、悪態をつく。今はもう1時だ。もう飛雲船はやっていない時間帯だろう。つまりこの長い帰路を重い荷物を持って行かなけれならない。
体力的には問題無いのだけれど、人を背負って長時間歩くのは精神的に少々くる物がある。
「なぁかげよい、もしおれがしんだらかげよいはみとってくれるのか?」
ふと、唐突にオリオネルが縁起でもない事を俺へ呟いた。
「どうしたんですか、突然に縁起でもない事を言って」
「貴方が死んでしまったら、勿論私は貴方の為にある葬儀であなたを見送りましょう」
ネルは返事を返さない。浅い目覚めなのだろう。ネルはいまだ夢の中に居て、うつつの言葉がこぼれて来ただけだけ。それにしても彼はなんの夢を見ているのだろうか?
ネルの言動的に俺が出てきているのは確かだろうが。
「嗚呼、■■■■がおれを見ている…あの…や、ろう」
「そんな…ことを、おれにいわれてもな」
「わかって…るよ、そんなこと。わか…きった…とだ」
「…………いったい何を見ているのでしょうか、あなたは」
俺はネルとの付き合いはそこまで多くは無いが、あなたがどういう夢を見ているのか分からない。でも、確かにあなたは何かを抱えて生きていることぐらいは俺にだってわかる。誰しも何かを抱えて生きているものだが、あなたが抱えている物は人生の根幹を揺るがすほどの物なんだろう。
「オリオネルさん、あなたはきっとチェレーロに殉じる人なのでしょう。だけど私が、あなたが一人で奈落に落ちぬ様にちゃんと見送りますから。」
明日になれば羞恥心で死にそうになってそうな、キザったらしい台詞だ。
まぁどうせネルは覚えてない筈だから問題ないだろ。飲み過ぎて記憶を飛ばす事がよくある人だから。
「じゃあ…やくそくだな」
小さな声でネルは言葉を返す。聞こえていたのだろうか…そんな事はどうでもいいが
カゲヨイはオリオネルを支えながら街道を歩いて行く。いつか
いつか終わりを迎えた時、あの蒼き世界の果てはどんな景色を見せてくれるのか。あの奈落の底はどうなっているのだろうか?
あの蒼と同じ様な景色が延々と続いているのか、はたまたボラティーノ達が巣くう場が作り出されているのか、それともあの奈落の底には神と形容される程の存在が眠っているか。
そう考えていれば俺の家に着いていていた。俺は背負っていたネルをベットに寝かせて、サングティを割れない安全な場所に置いたのちに、俺も疲れの反動で来た眠気に耐えきれず、倒れるようにネルの隣で眠りについたのだった。
翌朝、二人はカゲヨイの自宅で目を覚ます。片方は帰ろうとした時以降の記憶が飛び、
もう片方はこの野郎二人が狭いベットで寝ていた惨状に頭を抱えていた。
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