天に落ちる   作:kaname24

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数年前の天城都市アンダーにて


第四話 出会いⅠ

この地でグライダーになって1年。それなりにはギルドの信用を勝ち取ってひとまず安定的な地位を手に入れたが、高い地位には厄介事が回ってくるもので、ギルドの方から新人のグライダーを一か月見てくれないかと頼まれてしまった。

 

そんな事を「碧の大楯」のメンバーでもない流れ者の俺に任せられたのは、俺が痣付きでも無い、つまり前科者で無い自分の意志でグライダーとなって真面目に仕事をこなしてきたせいだろう。はぁ…面倒だ。

まぁこの都市を牛耳るギルド様の頼みを断る事なんて出来ず、渋々この面倒な依頼を引き受ける事になってしまった。あー本当に面倒な事になってしまったな。

 

そして今、ギルドの酒場にて新しくグライダーとなった新人を待っている。

待ち合わせの時間はグライダー達が戦闘域へ狩りに出かけ、人手が消えるの14時。

そこでオリオネルは少々遅いセネド(昼飯)を食べながら待ち人を待つ。

 

注文していたステラバードの手羽先をつまみ、人気のない酒場でなかなか来ない新人を待っていると、後方の扉からを背負い右腕に入れ墨のある男が酒場に入ってきた。その男は俺の方を見て駆け寄ってくる。

 

「すみません。今回一か月グライダーのいろはを教えてくださるという、リオネルさんで合っていますでしょうか」

「ああ、問題無い」

「遅れてしまって申し訳ないです。ちょっと宿でのあれこれが中々終わらなくて」

「初日から遅刻か……まぁいい今日から一か月、ギルドから依頼されて新入りの教育を担当する。シルバーⅡのオリオネルだ」

 

グライダーのランクは、下から順にブロンズⅠ~Ⅴ、シルバーⅠ~Ⅳ、ゴールドⅠ~Ⅲとなっていて、徴兵された痣付きはゴールドの位に着けば無罪放免となる為、痣付きのグライダーの大体はゴールドを目指す。シルバーになってからは色々と面倒ごとだったり、色々と拘束を受けるがそれはそれ、これはこれだ。

 

「カゲヨイです。とある貴族の使用人だったんですけど、ちょっとした失態を犯して、グライダーとなってしまいました。これから一か月よろしくお願いします」

「ところでギルドからはどこまで説明されいる? 今日は施設をめぐって演習場であんたの実力を見て、色々と教えなければいけない事の確認を取ろうと思うんだが」

「了解です。えーギルドからは、グライダーの規則とこの都市の法、あと依頼の受け方とか納品する際の注意点についての説明とかを受けました」

「理解した。ギルドは実戦的な事は全てこちらに任せているか……まぁ今日の所はお前……カゲヨイの実力を確かめる為に修練場に行くぞ」

 

大方現場知るグライダーの方が、戦闘域での活動などを教えた方が良いというギルド側の判断だろう。そう考えたオリオネルはカゲヨイを連れ都市の上層にある演習場に向かう。都市の上層に作られた演習場はチェレーロの戦闘域に環境を寄せて作られていて、戦闘域での戦闘に慣れるための施設だ。

 

「着いたぞ。此処がこの都市に住むグライダーや衛兵の技術の為に作られた修練場だ」

「結構上の方に建てられているんですね。飛雲船のお陰で短時間で着きましたが、ここまで数の飛雲船が飛び交っているとは思いませんでしたよ。あれ一隻に相応の値が付くというのに。これも浮遊石の産地である恩恵ですか」

 

このアンダーを回す血液でもある浮遊石は、触れた物質の質量を減らす効果と宙に浮く性質を持っている。具体的な使用用途としては飛雲船が有名だろうか。精錬された浮遊石で船体を浮かし、操者が風を操る魔道具を操って宙を飛ぶ仕組みで、燃料として魔石が必要だが、物を道路や山を無視していち早く運搬出来るし、高い所へ移動するには持って来いの乗り物だ。

 

過去に一体の龍との国の存続を賭けた大戦によって出来た大穴に作られたアンダーは高低差がありすぎて、飛雲船が無ければ移動もままならない。だから都市が蠢くのは飛雲船が運行している時だけだ。

 

二人は修練場の入り口に入り、カウンターにいる管理人のチローネから代金を払って、空いている場所の鍵を受け取りカゲヨイと共にカウンター横にある螺旋階段を上り。『第三演習場』と書かれた看板が掛けられた扉を受け取った鍵で開けて入る。

 

演習場には、機動力や体幹を鍛えるために設置された不安定な足場や、戦闘域にも実際にあるレールが張り巡らされたりしている。横にはそこまで広く無いが、縦には35メートル程の高さがあり、クッションが申し訳ない程度には設置されているが、普通に落ちれば死ぬような高さだ。

 

「えげつない高さですね……安全設計は何処に行ったのか」

「元々戦闘域の環境を模して、高低差の高い施設にする筈だったが。此処を作った奴が加減を間違えてな……城ぐらいの高さにまでなってしまったらしい」

「これ落ちたら最悪死にますよね……」

「ああ、運悪く何処かに引っかからなければ死ぬな。それとカゲヨイ、これを持っておけ」

 

オリオネルは身に着けていたネックレスをカゲヨイへ投げ渡す。ネックレスの装飾にしては大きい石が付いていて、鈍い光を放っている。

 

「ちょっ、投げ渡さなくてもいいでじゃないですか。それでこれは何です?」

「一般的に浮遊具と言われている魔道具だ。文字通り、人を一定時間浮かせる魔道具で、これは使い切りタイプの安い奴だが、お守りとして持っておけ」

「起動句は?」

ル・セレト(浮かべ)だ」

「了解です。足を踏み外した時に使えばいいわけですね」

「ああそうだ。グライダーにとって浮遊具は死ぬ確率を減らす必需品だ。今度安めに売っている店を紹介するから、その時に何個か買っておくといい」

「まぁそれはともかく。今からカゲヨイ。お前がどれぐらい動けるか見るんだが、その前に一つ聞きたい事が有る。近接戦闘出来るか?」

 

グライダーの戦闘は主戦場は至近距離の近接戦だ。なぜなら弓を撃つには足場が不安定で、術を行使するには採算が合わない。それに討伐したボラティーノを回収するのに近寄る必要があるからだ。

 

勿論それはろくに儲からない有翼種を一人で相手取る事になるブロンズの間の話だが、近接戦闘を出来なければやっていくことが厳しいのは事実だ。

 

「えぇ少しは、私は詰められた時に自衛できる程度には出来るのですが、如何せん対人戦用のものですから。ボラティーノ相手に使えるかどうかは分かりません」

 

カゲヨイは腰に差していた短剣を抜いて、空に向かって素振りをして見せる。

その太刀筋は長年繰り返して来たのであろう無駄をそぎ落とした様な綺麗な筋で、その一瞬だけで彼が熟練の者である事を証明している。

 

「それなら一戦、俺と戦うか? いくらお前のソレが対人用であっても、実力の確認は大事だ。ブロンズの間は一人で戦闘域で狩りを行う必要がある。駆け出しのお前が相手取るのは有翼種だが、回収するのに近くで戦わなければならない。だから近接戦闘が出来るのはとても重要なことなんだ」

「あの面倒なギルド規則ですか。わかっていますよ、私の弓は一人獲物のそばで戦うのに向いてはいない。当分はこの短剣で戦うことになるのでしょうね」

「ああ、あの面倒なギルドの規則だ。人をふるい落とす役目があるのだろうが、一人で戦う事が慣れぬ者や遠距離が主戦場の奴にとことん合わないからな……」

 

ギルドの規定により、パーティーやクランに入れるのはシルバーからとなっている。何故かと言うと信用に足らない痣付き達が集まり、集団で集まり、犯罪行為をを防ぐ為だ。

 

一人の犯行なら、この都市を揺るがすまでのものは出来やしない、それに仮にそこまでものが出来る痣付きであればギルド側から何かしらの契約によって枷を付けているだろうし、集団な何か事を起こそうとしても、痣付きの身分が孤立させ、パーティーやクランと言う建前的な集まりも規則により防がれ、何か良からなぬ事を企んでいる事が露見しやすくなって、この都市を守る者たちにとっては都合がいいからだ。

 

「話は此処までにして、始めようか」

「そうですね、時間が勿体無いですから。訓練用の剣はそこにある物を使えばいいですよね?」

「ああ、そこから好きな物を使ってくれ」

 

カゲヨイは訓練用に刃が潰された短剣を一本。オリオネルは同じく刃が潰されたショートソードを二本を手に取り、両者向かい合って剣を構える。

 

「ルールはこうしようか、勝利条件は相手の武器を弾くか、相手に多少の傷を負わせらる状況になるかの二つ」

「そして場所はこの第三修練場の全てを使っていいものとするで良いか?」

「それと寸止めは必ずしてくれ。いくら訓練用の刃を潰したものであっても、それはそれで鈍器だ。勢いが付けば骨も折れかねない」

「流石にしませんよ。ケガさせたら大変ですので」

「じゃあカゲヨイ、始めるとするか」

「いつでも来て下さい。それに合わせますので」

「なら開始の合図はこっちでやろう。3、2、1…行くぞ!」

 

オリオネルは開始の合図をしたのと同時にカゲヨイに詰めより、片方の剣先を剣を持つ手に向かって突く。カゲヨイは身体を右に逸らして避けるが、オリオネルはもう片方の刃で追撃。

それに対してカゲヨイは刀身で滑らせて受け流し、逸れた所に首を狙った刺突がお返し言わんばかりに間を開けずやってくる。

そのカウンターは深く鋭いものだったが、狙い所が分かりやすい分、躱しやすい。

 

首が狙われているなら重心を深く沈めればいい。低い姿勢でそのカウンターを距離を詰める事で躱して、その勢いを利用してカゲヨイに対してタックルを仕掛ける。

 

「ぐふッ。はぁ……」

 

息が詰まり、くぐもった声と聞こえるが、押し倒すには少し足りなかったようだ。カゲヨイはタックルの勢いを利用して後ろに引き、その手に持つ短剣を持ち直して、その場を仕切り直した。

 

次に仕掛けて来たのはカゲヨイの方で、ゆっくりと俺に近寄ってくる。双剣と短剣じゃあ確実に手数の多さで俺の方が有利だ。もしカゲヨイに勝ち目があるとすれば、それは剣も満足に振れぬ超至近距離での格闘戦。

なら、俺はその土俵にあえて踏み入れよう。じゃなきゃカゲヨイの実力も測れないから。

じりじりと両者の距離は詰まって行き、その均衡はオリオネルの一撃によってぶち壊され、眼にも止まらぬスピードへと加速した。

 

オリオネルの一撃はカゲヨイの右手によって遮られ、流れるようにもう一撃。ガキンっと鳴る音と共にそれも弾かれるがオリオネルの連撃は止まらない。

眼にも止まらぬ連撃は対してカゲヨイは冷静対処していくが、段々と綻びが出てきて、遂にはその短剣が弾かれ地面に拘束される。

 

「チェックメイト、お前の負けだ」

「確かにこの状況では、ルール的に私の負けかもしれませんね」

「どう考えてもお前の負けだ。この絶望的な状況返せるのか?」

「勿論だとも。ウォーガの民を舐めないで貰いたい」

「ウォーガ、あぁ、あそこの国の人間か……なッ!」

 

カゲヨイは拘束されてはいない両腕を使い、その弓を弾きぼる腕力でもって向けられた刃を地面へ退かせ、腹に力を入れてわずかに隙間を生じさせた後、くるりと横に回転し、オリオネルを地面に叩きつける。すかさずカゲヨイはその衝撃で身を悶えさせるオリオネルからショートソード片方を奪いとり、もう片方の剣を弾き飛ばして悠々と、でも残念そうにオリオネルに向かって話す。

 

「ほら、ひっくり返しましたよ。でも残念ですが私の負けです」

「ああそうだなお前の強いよ。だがお前の負けは変わらない」

「ええ私が短剣を落とした時点で私の負けは決定していまいしたから」

「もう一戦、やりましょう。これじゃまだまだ物足りない」

「ああ分かった。次はお前の手に捕まりはしない。せっかくの広いフィールドだ。俺を捕まえて見せろグライダー」

 

オリオネルはぶつけらた肩を回し、身を解して気分をリセット。弾き飛ばされたショートソードを拾い立ち上がれば、カゲヨイは既にやる気十分なご様子だ。

 

「まだまだやれますよね? オリオネルさん。私よりもランクが上なんですから。さぁ続きを始めしょう」

 

そうして第二ラウンドの火蓋は切られた。

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