朝、目覚めれば十分に眠ったのに体には疲労が溜まっている。だけど日常はそう変わらない。
いつもの日課を終わらせて、ちょっと苛烈を極めた昨日と同じ様にギルドでカゲヨイの姿を待つ。
待ち人のカゲヨイはギルドに着いてから暫くして、昨日とは違い時間ピッタリに現れた。
「やっぱり早いんですね。オリオネルさん」
「別にただ
「さて、今日はどんな場所を案内してくれるんです?」
「とりあえず今日は豊穣商会に職人街とか都市の商業をぶらつくつもりだ」
「豊穣商会に職人街ですか、楽しみですね。時間も有限ですし早速行きましょう」
「そうだな。さっさと飛雲船に乗って行こうか」
そうして二人はギルドの目の前にある停泊場から飛雲船に乗って上へと登って行く。
上に上がれば上がるほど、食料や日常的に使われている薬草にあまり使わない様な薬草なども育て居る農場が多く立ち並んでいる。
「凄い…ここまで大規模な農場は滅多に見ません」
「だろうな。ここら一帯は豊穣商会が運営している農場でな。まぁ個人でもやっている者もいるだろうがな」
「ここまでの規模だと水源が足りなくなってしまうのではないのですか?都市周辺では大きな水源が無いはずなのに」
「それこそ豊穣商会の本業だ。都市は余った場所を貸しているだけで、あれら運営には関わっていない。あの商会は植物を育てて、売りさばくのが本業だ。俺も原理は知らん」
そう話していれば飛雲船は目的地へとたどり着き、停泊する。
停泊場の目の前には市場が開かれていた。今日とれたばかりであろう新鮮な食材たちや商人が運んできたのであろう綺麗な織物に骨董品が露店に並び、それらを買いに来た人で賑わっている。
「さぁ着いたぞ。この都市では一番の市場、豊穣市場だ。カゲヨイは何か買っていくか?」
「いえ、見ているだけでも楽しいですから」
「そうか、まぁ此処まで広いとなると見ていくだけで満足してしまう」
二人はきらめいて見える様な活気のある市場をぶらついて、時には目についた薬草の匂いが香る丁度切らしていた包帯などの医療道具を買っていれば、時間は15時を超えていた。
「さて一通りに見て行っていたがどうだったか?」
「活気に溢れている市場でした。としか私には言えませんよ。まぁ私も気になる物を時折見つけましたけど、そういうのは暫く時が経った後に買いに行けばいいですから」
「なんだ、別にそんな物があれば奢ってやったと言うのに」
「え、本当ですか?あー今から行ってもまだやっているでしょうか。そろそろ店じまいの頃ですよね。あちらこちらで店じまいようですから」
「もう16時近いのか、意外と早いもんだな」
来た時よりも人通りが減り、市場に終わりの時間がやって来たようだ。出ていた露店はの商人達は売れ残った商品を荷台に片付けて、出していた暖簾をしまっている。
けれど二人の目を引いたのは、その商人達では無かった。全身を真っ黒に染めて、更には黒いフードでもって顔を隠した女性がポツリと歩いていたからだ。
あんな目立った格好をするのだからどうして視線を向けてしまう。彼女は「葬列者」なんですか?と隣から疑問が溢れた。俺はその疑問に、返事を返す。
「ああそうだ。この街に居る「葬列者」の一人だ」
「あの恰好からして、「葬儀屋」デイジーだろう。あんな堅苦しい恰好を普段からしているのは彼女ぐらいしか居ない」
「葬列者」とはこの都市にとどまらずこの世界に古くから根ずく者たちだ。その発祥は知らないが、あの者たちはこの世界で葬儀を執り行う執行者であり、この世界にとどまらんとする魂を刈り取るのが彼らの仕事だ。
その中で「葬儀屋」とは、「葬列者」の中でも地位の高い人間で在り、高貴な身分の葬儀の担当や大規模な葬式の喪主を務めたり…例で言えば、アンダー悲劇で亡くなった死者を弔う葬礼祭とかが当てはまるか。まぁそんな責任重大な事を担当している人だ。
そんな彼女は店じまいをしていく露店も気には留めずに向こうへと歩いて行き、その姿は遠ざかって行った。
「彼女が「葬儀屋」の一人ですか。その立ち振る舞いを見ての判断ですが…案外若いのですね」
「私が過去に見た「葬儀屋」はもっと年老いた老人でしたよ」
「彼女については特に関わりが無いから余り知らないが、噂では十数年前から過去に居た「葬儀屋」の名を継いでこの都市の葬儀を仕切っているらしい」
「ああ継承したのですか、ならあの若さで「葬儀屋」に地に着いたのも納得です」
「まぁそんな話は置いといて、そろそろ職人街の方へ行こうか。このまま突っ立っても今日が終わってしまうだけだからな」
「そうでしたね。行きましょうか」
二人は店じまいをしている豊穣市場を去って、飛雲船に乗って中層にある職人たちの街、職人街へ向かう。豊穣市場に来た時にも思ったが、あそこから煙る煙はいつも絶えない。
それは一日中誰かが金槌を振るい、何かを炉へ入れて溶かしたりして、せわしなく稼働している証拠だろう。
「ゴホッゴホッ、煙たいですね。いつもこんな感じですか?私の故郷にある大溶鉱炉でも、ここまで煙を残してはいませんよ」
「あー大丈夫か?カゲヨイ。この煙がキツイなら布で口元を抑えれば、いくらかはマシになる」
「いえ、大丈夫です。直ぐに慣れますから」
「なら良いが…ああ職人街が見えてきな」
職人街は排気孔から排出される煙に包まれたせいか、この職人街を照らす街灯がぼんやりと仄かな光だと感じる。
飛雲船が職人街前に停泊すれば、代金代わりの懐中時計を見せて飛雲船を降りる。
「さて、カゲヨイは何か職人街で欲しい物はあるか?じゃなければどの店を紹介するか迷ってしまう」
「私が今欲しい物で言えば、浮遊具も勿論ですが矢の補充もしたいですね」
「矢か…それなら、あっちにある店が矢とか弓などの狩猟につかう道具を扱っているはずだ」
「なら早く行きましょう」
二人は歩いて弓が扉にぶら下げられた店に入ると、そこらに並べられた商品たちを見る。
俺は触った事も無い物だから、物の良し悪しも分からず、突っ立っている事しか出来ない。
だがカゲヨイは慣れたものなのか、次々と並べられた者たちを品定めしていって最終的に彼の手には数十本矢と、フック付きのロープが握られていた。
「さて、豊穣市場で何か奢ってくれると言ってましたね」
「分かったよ、今回の代金は俺が払おう」
「感謝します。節約はなるべくしたですから」
笑みを浮かべるカゲヨイを背に、オリオネルは受け取った商品の支払いを済ませて、店を後にする。さてこの店での用事は終わった事だ、職人街での主題を済まそうか。
「さて、時間もそろそろ遅い頃だ。次に紹介するので最後にしよう」
「最後はどんな店を案内してくれるんですか?」
「俺がいつも行っている鍛冶屋「游美」って場所だ。そこの店主は色々とひねくれているが、腕が良くてな」
「へぇーそうなんですか。まぁ楽しみにしてますよ」
オリオネルを先導に二人は職人街の外れへと歩いて行く。道中には捨て置かれたゴミや何か不定形な形をした謎の物体まで散乱する路地裏を歩き、配管の隙間を通って行く。
「本当にあってます?私達以外に人が居ない様に思えるのですが…」
「大丈夫だ。この先の道を行った先にある」
「なら良いんですけど…」
余りにも人が通る道では無い為に不安な表情を浮かべるカゲヨイをそっちのけに狭い通路を進み、俺は看板が立てかけれた所で立ち止まった。
「カゲヨイ、此処だ」
「なるほどこの地下に続く階段の先に店を構えているんですね。それにしても、店主がひねくれているのは本当なようですね」
「アイツのヤバい話が気になるのならば、この店の中にいるレンゲに聞けばいい」
「腹が満杯、いやあふれ出て来るぐらいの愚痴が沢山聞けるから」
「いえ、まぁ気になりますけど、そこまでの物は求めてませんよ」
二人は「装備屋「游美」開いていますのでご自由にお入りください」と書かれた看板を横目に地下へと続く階段を降りて行き、その先にある扉にオリオネルがノックをかければ、キセルを口に咥えて都市ではあまり見ない異国の恰好をした男性が出迎えてくれた。
「レンゲ、客だ。開けろ」
「はーい。今開けるよ」
「ん?珍しいね。ネルが人を連れて来るなんて」
「初めまして、新人のカゲヨイです」
「へぇーー。将来かなりの上客になると見た。初めまして。鍛冶屋「游美」にて刻印士と店番をやっているレンゲだ」
店内は見るからに高そうな物から、素朴で奇抜な形の物などが雑多に置かれ、そこまで掃除をしてないせいかホコリくさい。
「お二人様はどんなご用件で「游美」に訪れたんだい?今、カシュウは残念な事に外をぶらついていて居ないんだ。製作依頼だったらまた今度にしてくれ」
「それなら残念だ。一つ頼みたい物があったが、それはまた今度の話だな。まぁそれはともかく。今回来た要件は新入りの浮遊具をいくつか見繕って欲しくて来たんだよ」
「了解。少し待ってな、数分もすれば良いのが見つけてくるから」
そういってレンゲは工房の奥へ商品を取りに行き、数分後に箱を抱えて戻って来たのだった。
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