「持って来たぞー新入りにオススメなのはここら辺かな」
奥の工房から箱を抱えて戻って来たレンゲはその箱をカウンターに置いて、そこから四つの浮遊具を取り出して並べる。
浮遊具はネックレスの様に小さな装飾品の形で、フレームには小さな浮遊石と装飾には似合わないゴテゴテとした装置が取り付けられている。
「持って来たのは俺と此処の鍛冶師が作った消耗品型の浮遊具で、値段は1万から2万と言った所かな」
「相変わらず良い仕事しているな、レンゲ」
「で、これが浮遊具な訳だが。カゲヨイはどれが良い奴なのか分かるか?」
「不良品を買って、いざという時に故障しても困る。今後命綱となる道具なんだ、それくらいの見分けはついた方が良いぞ」
「はぁ…グライダーになって日が浅いと言うのに、分かるわけないじゃないですか。浮遊具の事は人を浮かせる装置としか知らないですよ」
そう言ってカゲヨイはカウンターに並べられた浮遊具を手に取り、天井の光源に向かってかざす。
ブレスレットの形状をしたソレには小さい浮遊石と別の魔石、恐らくは効力を引き上げる為にある物が連結されていた。
「まぁそりゃそうか。原理や対価を知らずに浮遊具を使っているグライダーも多いよな。よし俺が浮遊具について一つ講義をしてやろう。」
「講義ですか?」
「そうだ。これから日常的に使う物に対して知識を持っておくのは大事な事だろう?いざという時に役に立つだろうから」
「ああ、俺も興味がある。こういう物は本職に聞くのが一番だろうし、浮遊具の構造については前から興味があった」
「それならそこの椅子にでも座ってな。浮遊具について語るとなると長々となってしまうが、時間は大丈夫か?」
「「問題ない(ですよ)」」
レンゲが胸ポケットにしまっていた懐中時計を気にする様なしぐさを見せて、店の外に置いていた看板を回収した後、レンゲは教壇に立った先生の様に悠長に語り始める。
「そもそも浮遊具を語る上で欠かせないのが一つある。そう、浮遊具の根幹を為すこの浮遊石だ」
「さてカゲヨイで合ってるか…「はい」ならいい。新入りに一つ質問だ」
「此処に在る浮遊石は一体何なのか。分かるかい?」
「触れた物体の重さを一定量減らす事の出来る鉱石で、チェレーロでしか採れない珍しい物ですよね?」
「残念ながら厳密には違う。一般的にそう思われているが、浮遊石と呼ばれている物は、魔石と同じ分類にあたる物なんだ」
魔石とは長い時間魔力が一つの場所に集まって結晶化した物の総称だ。
用途としては触媒や魔道具の燃料として使われる事も多いが、純度の高い物はその美しさも相まって、美術品として収集する貴族や王族も多い。
「結晶化する過程の中で何かしらの不純物が混ざって、物を重量を減らし、宙に浮かせる事が出来る魔石となったんだ」
「魔石の一種…だがどんな物を含めばこんな力を宿せる?」
「さぁ?そこはこの石を調べてる学者も頭を悩ませている議題だからね。それこそ人が葬儀場よりもっと深い所まで立ち入れるようになって、浮遊石が生まれる瞬間を観測しない限り、学者の中で永遠の議題となっているだろう。」
「それはさておき、この浮遊具は浮遊石を使って動ごく物だけど二つ問題があって…」
「浮遊石の力と出力不足だろ?」
レンゲが話す事に段々と興味が湧いて来たオリオネルは、早く次の話を聞きたいが半分、さっさと用事を終わらせて帰りたい気持ち半分で話を遮る様にレンゲの質問の答えを言う。
「ネル、正解だ。浮遊石の性質が常時発揮してしまえば、動くのに邪魔になるのは勿論、人を持ち上げる程の出力の在る物を作ろうと思えば、自然とサイズが大きくなってしまい、持ち運びが不便になってしまう」
「あー確かに人を浮かばせる物を持てば動くのもままならない物になりそうですよね…」
「元々、実用化には問題がありすぎた浮遊具の原型を見て、消耗型浮遊具を作り上げた「術使」ローレライはこう考えた訳だ」
「「どうにかしてこの問題を解決すれば素晴らしい物が出来上がるんじゃなないか」と、まぁそうしてあの天才が作り出されたのがこの術式だ」
レンゲは二階の工房にある仕事道具を入れた収納箱から紙束を手に取って、その紙束から一枚の紙を二人に見せる。
そこには不定形で、何かしらの規則性が取れる文字列が書かれていた。
「魔力の不活性化と…これは何でしょうか?一見何かと連動させる物の様に見えますが」
「凄いね、魔術の知識を持っているのか。元は良いとこの生まれか、運良く魔術への門をくぐれるだけの縁があったようだ」
カゲヨイは魔術に関する知識を持っているのか。
カゲヨイは確か何処かの貴族の使用人だと言っていたが、それでは彼の技術や魔術に対して説明が付かない。あの治安の悪い国だったら使用人にボディガードとしての役も任せてそうだが…はぁ、確実にカゲヨイの過去には厄ネタが埋まっているな。
「そう、未来の上客様の言う通りだ。「術使」ローレライはこの石が魔石の一種である事を利用して、石に眠る魔力を一時的に不活性化する術式と力がかみ合って不測の事態を引き起こさない様、一度精錬して不純物を取り出した魔石に宿る魔力を使って効力を増大させる術式を作り上げて、この問題を解決したんだ。本当に彼女は浮遊石の分野で最高の天才だったよ」
「それにしても魔術言語を知っているのかカゲヨイ?」
「ええ魔術に関しては少しだけ扱えますよ。色々な関係上、使う機会は滅多に無いでしょうけど」
「まさかカゲヨイが術師だとは驚いた」
魔術とは過去に存在した龍の権能を基盤として成り立つ、今も存在している龍が残した贈り物だ。かの存在達が使っていた言語で術式を作り上げて、発動の際には火種から術式を展開して放つ御業。
魔術を扱うにはそれなりの適正と魔術言語に対する知識が必要で、魔石を燃料とする魔道具と違い術者の魔力を使って発動させる魔術には魔力を緻密に操れる才能と十分な魔力保有量が必要だ。
前提として魔術言語なんて、過去の遺跡や迷宮に残こされている文字を読むか魔術を扱う為にしか使えない、高度な知識であるのだから魔術を扱える術者は貴重な存在だ。
「それを早く言ってくれ。魔術も扱える腕にその立ち振る舞い、ギルドは相当良い人材を手に入れたようだ」
「レンゲに同意だ。あれだけの技術を持ちながら、術師としての才も持っているとは。ギルドはどんな取引を持って、お前を引き入れたのか気になるよ」
「それに関しては、一切の沈黙を貫きますよ。あちらかもあの件は話さないでくれと頼まれていますから」
「優秀な新入りのグライダー様に一つアドバイスをあげようじゃないか。きっと君の役に役に立つはずだろから」
「前述した通り浮遊石は純粋な魔力の塊に何かしらの不純物が混じった物だ。逆説的に言えばその不純物を取り除く事が出来れば、ただの魔石となって、色々なモノに利用出来る万能な物が出来上がるわけだ」
「ネルも不純物に興味を持っていただろう?言葉で説明をしても理解しずらいだろうから、今から道具を持ってきて実際に浮遊石から不純物を取り出す作業を見せるよ」
そういったレンゲはまた二階の工房へ行って握りこぶしぐらいの浮遊石と使い古された杖に謎の白い液体の入った小瓶や乾燥させたハーブや薬草を入れた小鉢を持ってきた。
「実演助かるよ。普段職人の作業なんて滅多に見れる物でも無いからな」
「喜んでくれたら俺はそれでいい。こういった小さな気遣いの積み重ねがお客さんの定着を呼ぶのだから。それにあの馬鹿が帰って来ないせいで一向にこっちの作業が進めなくて暇してた所だったのもあるから」
「なんだカシュウはまた遠出しているのか?」
「あぁそうだ…あの馬鹿は3日前に突然「ウェーセルに行って、珍しい物を仕入れてくる」と言って、全てを放り出して行きやがった!嗚呼今思い出してもムカついて来る」
「それは中々大変な相方さんなのですね…」
「游美」の鍛冶師であるカシュウの破天荒な行動に、カゲヨイは引きつった笑みでオブラートに話せば、
「あの馬鹿は腕と良い物を見つけ出す才能は良いが、たまに後先考えずにぶっ飛んだ行動をして俺を困らせるし…あぁそれに店番や経理も俺に任せきりなくせに、こんな店を出すには不向きな所に店を構えるわ、馬鹿高い物を俺の相談なしに買ってくるわと、アイツは!」
日々積み重なっていたであろう愚痴をこれでもかと吐き出す。
そう話していく内に不純物を取り出すための準備は終わって、触媒が組み込まれたキセルの口を浮遊石に向ける。
「すまない。ちょっと愚痴が溢れてしまった。さて、事故ってしまうかもしれないから少しばかり離れておくと良い」
溢れては止まらない愚痴をレンゲは呑み込み、気分を切り替えて雑に術式を詠唱し始める。
『物質に宿りし穢れよ、小瓶に集まれ!』
レンゲがそう唱えれば布に置かれた鈍い白色の浮遊石から一つ、また一つと白い雫が浮き出て、隣にある小瓶へとポタリと落ちていく。
全ての工程が終わった頃には布の上にあった浮遊石は透き通って、向こう側が見えてしまうぐらいには透明な一つの魔石へと変化していた。
「よし成功だ。まぁこんな感じに不純物を取り出すと純粋な魔力の塊になって、魔道具の燃料や触媒の材料に最適な魔石に早変わりするわけだ。わざわざ触媒を買うってなると金が嵩むだろうから、節約には持って来いだと思うよ」
「なるほど、とても参考になります。その術式はどの紙に書かれている物でしょうか?私も触媒に関しての問題に頭を悩ませていたので、その術式がとても気になりますから、見せて貰ってもよろしいですか。それに浮遊石から抽出したあの白い不純物は何でしょう?とても気になります」
レンゲが見せた術に驚いたカゲヨイは早口で話し、カウンターに置かれた、レンゲがいつも魔道具や武具に刻む術式や本人が使う魔術を忘れない様に
書いた紙束の中からさっきの術式を探す。
「んーたしか萃取って右上に書いてる紙がそれだった筈だ。刻む事何て早々に無いから、恐らく下の方にあると思う」
「見つけました。これですね。何と無駄の無い洗練された術式、礼は出来ませんが感謝します」
「いいって事よ、 長くここで物を買ってくれれば、それだけでありがたい。ほら、ここって中々人が来ないだろ?はぁ…カシュウの奴何で此処に店を構えたのが、もっと人通りのある所であれば客が増えると思うけどなぁ」
「おーいレンゲにカゲヨイも俺を置き去りにしないでくれ。それとその小瓶に入った液体は何なんだ?見たところ粘り気が強よそうに見えるが」
「あーちょっと待ってくれネル。この不純物に関しては色々と扱いに気を使わないといけないんだ。浮遊石の加工中に爆発を起こしたり、その力が暴走して周囲にまで影響を与えたりするから、抽出したらさっさと封じて置かないと行けないんだ」
レンゲは浮遊石から抽出した不純物が入った小瓶をコルクでキツく閉めて布をグルグルと念入りに巻き付ける。
浮遊石の色と同じ濁った白色で、瓶からは蓋を閉めているというのに何かが腐った臭いが漂ってくる不気味な物。
レンゲは不純物が入った小瓶を片付けて、それから頭を少し捻らせる様なしぐさをした後、中途半端に投げ出された講義を続ける。
「さてネル。この不純物に関して、現状俺の意見としては浮遊石を浮遊石たらしめる不純物としか言えないな」
「正直な所、これに関して色々と個人的に調べて見た結果として、この不純物自体は色々な物が混合している物では無いと言う事と、コレそのものが物を浮かす性質を持っているのだと俺はそう思っている」
あとがきに設定を小出しするの
-
いる
-
要らない