kindleでも買いましたよね?
武士(おとこ)の必修科目だもんね?
リメイク一生待ってますからね杉田尚先生……!
俺は転生者だ。
生まれつき頭がおかしいとかでもない限り、たぶんそうなんだと思う。
この世界に生を受け、物心がついた頃には、前世の日本に生まれ育ち、高校卒業を前にトラックに轢かれて呆気なく生涯を終えた男の鮮明な記憶が頭の中にあった。
その記憶には、死んだ後漫画やアニメやファンタジーなんかの世界に転生して、様々な冒険を繰り広げる物語のジャンルがあったが、まさに今の自分はその状況の真っ只中にいるようなのだ。
この世界の俺は生まれて直ぐに捨てられたらしく、小高い山の上にポツンと建てられたお寺の住職さんに養子として育てられている。
なにぶん、前世の親の記憶なんかがバッチリ残っているので、いっそ孤児であった事は変に気を使わずにすんでラッキーだった位なのだが、まずこの住職からしておかしいのだ。
「……心が乱れておるな
色の褪せた畳の上で、坐禅を組んで瞑想する俺にそう声を掛ける育ての親は、間違いなくお寺の坊主であるハズなのだが、何故かその腰帯に浅く反りの入った簡素な白鞘を差して、かちゃりと鞘音なんかを立てている。
刀だ。
この住職、帯刀しているのだ。
「はい」
そして俺もまた、座禅を崩して正座に直り、瞑想の最中も傍らにずっと置いていた白鞘の打刀に手を伸ばして、慣れた手付きで帯に差す。
前を見れば、
鞘返し、双方徐ろに鯉口を切る。
チン、という
……。
…………。
……………………――
――次の瞬間には、抜き放たれた白刃が目の前で火花を散らしていた。
遅れて聞こえてくる甲高い金属音。
間髪を入れず、立て膝に力を込め返す刀を袈裟切りに振り下ろし――
「うむ、良し。腕を上げたな」
ピタリと、和尚の左肩まであと二寸の所で刃先を止める。
俺の首筋、薄皮一枚の所で止まっていた刃がゆっくりと離れ、音もなく和尚の鞘に収まる。
「……ご指導、ありがとうございました」
俺もまた、それを見ながら刀を鞘に収め、傍らに置くと深く額を畳につける。
「後の二寸は心の迷いだ。引き続き瞑想に励みなさい。半刻後に組打の稽古、その後飯にしよう。私は米を研いでくる」
そう言うと、帯刀住職は乱れた襟を正しながらのっしのっしと炊事場の方に消えて行った。
…………。
……………………。
………………………………………………。
(――――おかしいだろ!!?)
住職の足音も聞こえなくなったのを確認して、おもむろに畳を両手でドスンと叩きつける。
道場の壁に立て掛けられた木刀が、カタンと音を立てた。
何がおかしいって、もう全部おかしい!
この世界に新しい生を受けて早十六年と少し。
自分の暮らす寂れたお寺や
それで安心できるかと思えば、会う人会う人、男とくれば(というか時々女の人ですら)誰もが帯刀していて、テレビのニュースじゃやれドコドコの辻で人斬りが云々。
有名人が何度目かの果たし合い云々!
大手家電メーカーが株式を巡って決闘が云々!!
狂ってるとしか言いようのない出来事がさも当然のようにそこかしこで繰り広げられているのだ。
廃刀令はどこに行ったのだと声を大にして言いたい。
男子は十五に成れば刀を持ち、侍として誇り高く生きよ。
アホかと。
脳みそ薩摩藩かと!
インターネットが世界を繋ぎ、重火器も核兵器もスペースシャトルもあるこの現代に、何が悲しくて刀を振り回さにゃならんのかと小一時間……!
そりゃ戦争も負けるわ!
バーカ!!
もう一度、ドスンと何の罪も無い畳に八つ当たりする。
カランと木刀が倒れた。
もうとにかくこの世界はメチャクチャなのだ。
中途半端に現代化してる癖に、双方合意の上での決闘では殺人が合法だったり、悪人と見做されれば切り捨て御免がまかり通ったり、学生同士のささいな喧嘩で簡単に刀が抜かれて死人が出たりするのが日常茶飯事だったりするのだ。
殺伐とし過ぎだと思う。
コレが末法か……!
乱れた
生まれ変わりを自覚して十余年。
どう考えてもココは漫画かアニメかライトノベルの世界だ。
もしかしたらゲームとかかもしれない。
そうでなきゃ一般人からお寺のお坊さんまで刀を振り回すこの珍妙な世界観の説明がつかない。
――つかないのだが。
(原作がなんなのか全くわかんねぇ……!)
そう、分からないのだ。
異常を認識してから十年以上、それこそ目を皿にしてそこかしこを観察し、図書館で歴史を調べ、日本地図で片っ端から変な地名がないか探し、頭から煙が出る程に記憶を攫ってもなお、ココが何を原作とする世界か判断がつかないのだ。
現代に至るまで廃刀令が出されず(実際には出そうという案はあったらしいが、全国の反対運動と決死隊の国会襲撃、集団自決と初代総理大臣との果たし合い等々によって最終的には反対多数で取り下げられたんだとか。頭痛い……)、封建制度の廃止によって士農工商の身分が無くなって以降、誰もが刀を持ち武士の魂を心に宿すようになったらしいが……こんなトンチキな世界観、それこそ設定のガバい少年漫画かなにかじゃ無いとあり得ないと思うのだが。
「…………ダメだ、やっぱり思いつかない」
肩を落とし、ため息をこぼす。
どうしてもこの世界の原作に思い当たるモノが浮かんでこない。
ここまで分からないとなると、もうココは単にそういう設定の異世界か、超絶ドマイナーなクソ漫画世界だったと諦めるしかないのかもしれない。
「諸行無常……虚しい」
再び、重いため息をつく。
孤児としてやたら血生臭いお寺で育てられ、仏法と武の修行に明け暮れる日々。
勉強に関しては寺子屋宜しく住職が付きっ切りでつけてくれたので、俺は今日までこの世界の学校というものに一度も通った事が無かった。
国民皆学校の義務教育はどこへ行ってしまったというのか。
もちろん前世の記憶もあって、たかだか中学生程度の勉強で躓くことも無く、別段困ることもなく日々を過ごしていたが、先日とうとう街にある同じ宗派のお寺の知り合いに、俺が学校に行ったことが無い事がバレ、何時もは偉そうにしている和尚が珍しく詰められる、と言う事件があった。
俺の境遇はこの世界の基準でもなお、相当に哀れなモノであったらしい。
おのれ和尚。
とにかく、その知り合いの懇々とした説得(あるいは説教)の結果、俺は急遽下山して街の学校に通う事となった。
学年は高校二年生。
中途半端にも、春の半ば過ぎての中途入学となる。
不安だ。
とてつもなく不安である。
二年での高校中途入学なんて、いかにも物語が動きそうなタイミングじゃあないか。
托鉢や檀家巡り、法事法要に決闘の立ち会い(←武僧の一般的な仕事らしいよ。おかしくない?)以外で殆ど俗世と関わる事もなく今日まで来てしまったが、俺はこのどこかも分からない世界で上手くやっていけるのだろうか?
「……どうした空也。また心が乱れておるではないか」
「あっ、し、師匠。コレは……!」
随分と考え事に熱中してしまったようで、気づけば俺はハゲ頭に血管を浮かせた住職に呆れた顔で見下ろされていた。
「よい。おおかた高校入学の事でも考えていたのだろう」
「は、はい、その通りで――」
「それもまた心が未熟だからだ。色即是空、空即是色、心頭滅却すれば明鏡止水。立て空也。稽古をつけてやる」
「……はい」
結局この日は、いつも以上に苛烈な住職のシゴキで指先一つ動かなくなるまでボコボコにされ、それ以上未来の事なんか考えられないくらいに疲労困憊する事となるのだった。
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