転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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十二太刀

 

 

 

「じゃあこれ処方箋ね。お風呂入ったら化膿止め塗って、朝晩ちゃんと抗生物質飲むんだよ。糸抜くから、二三日したらまた来なさいね」

 

「ありがとうございます……」

 

「斬、空也、また明日な!」

 

「うん!」

 

「医者の言う事は素直に聞けよ?」

 

「わぁーってるわ、うるせェな!」

 

養護教諭のお爺さんに包帯を巻かれている貫木に一言挨拶をして、医務室を出る。

この世界、養護教諭も外科医の資格を持っているらしい。

道理で、保健室、では無く医務室と言う訳だ。

学生同士の真剣勝負が横行する様な世界だ、考えて見れば当然かもしれない。

 

この学校の養護教諭の先生は、見るからに優しそうな白髪にちょび髭のお爺さん(犬養(いぬかい)先生というらしい)だったが、刃傷沙汰を咎める様な言葉はついぞ出てこなかった。

あと、腰に木刀差してた。

あんたもか先生。

 

「斬、傷は痛むかい?」

 

「う、うん、少し……でも、これくらいで痛み止め飲んでたら強い武士(おとこ)になれないって言われちゃったし……」

 

「フフ、俺も昔師匠に良く言われたよ」

 

昼休みはもう終わってしまっているが、犬養先生が遅刻証明を書いてくれたので、教室へ向かう俺達の足はのんびりしたモノだった。

 

「……時に斬。先程の真剣勝負で君が見せてくれた居合の構えだが――」

 

談笑がてらそう切り出して見ると、斬は恥ずかしそうにワタワタと腕を振って答えた。

 

「あっ、あれは、たまたま見た雑誌に載ってたのを見様見真似でって言うか……! ホントに焦ってて、無我夢中で自分でも何考えてたんだか……」

 

そう言って、振り回した腕の傷が痛んだのか、イテテ、と顔を顰めた。

 

「成る程、雑誌か……」

 

となると、以前から練習していた訳でも無く、初めて試してみたのがさっきの構えか。

それにしては、結構堂に入っていた様に見えた。

斬の謎の足腰の強さがそう見せたのかとも思うが、意外とセンスがあるのかもしれない。

鍛え上げれば、かなりの手練れになるやも……。

 

「所で斬。君、記憶違いで無ければ昨日の帰り際、明日から頑張るとか何とかほざいて無かったかい?」

 

「ほっ、ほざ……! う、うん、言ったケド……」

 

「……よもや、斬の頑張ると言うのは、何と無く剣術雑誌を流し読みして内容を真似してみる……等と言う巫山戯たモノじゃあ無いよね?」

 

「……………………えっと」

 

「斬」

 

分かりやすく目を逸した斬を見て、コイツ本気(マジ)か……! と思いながら足を止め、呼び掛ける。

それでも成長系主人公か、分かりやすく修行しろ修行!

 

「君、一度俺が下宿してる道場に来ると良い」

 

「ええっ!? ぼ、僕が!?」

 

驚いた様子で振り返る斬に、続ける。

斬が自分で頑張れないならば、友人の俺が鍛えてやらねば。

大体、主人公の斬の居合がへっぽこだと、俺の居合まで霞んで見えてしまうじゃないか。

斬が一流の居合を使ってこそ、俺がそれ以上の一閃を見せた時の、な、何だあの坊主、強い……! と言うカタルシスに繋がると言うモノだ。

 

「……それとも、義理立てすべき流派や道場でもあったかな?」

 

「な、無いケド……と言うか、どの道場に行っても門前払いって言うか……弱すぎて……」

 

「なら、問題あるまいよ」

 

ボソボソと何事かを呟く斬に、重ねて言う。

 

どうやら斬には、代々村山家に伝わる一子相伝の剣術! とか、潰れかけの道場で浮浪者の様な謎の老人師匠に一見役に立たなそうな修行を課せられている! とかの少年漫画らしい秘密は無いらしい。

それならば遠慮する必要も無い。

 

「で、でも、僕なんかが突然行ったら迷惑掛けちゃうかも――」

 

「来い」

 

「…………はい」

 

こうして、やや強引ながら、放課後に斬を刀龍寺の道場に招待する事と相成ったのだった。

…………携帯で連絡入れとくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが刀龍寺だよ」

 

「で、デッカーい!!?」

 

放課後。

余程道場という物にトラウマがあるのか、いつも以上にビクビクする斬を連れ帰り、下宿先を紹介した第一声がそれだった。

良い反応をしてくれて嬉しい。

 

「えっ、こ、こここんなに大きなお寺だったの!? 塀の端っこがあんなに小さい……!」

 

「街の中にあるお寺としては大きいよね。さ、中へ入ろうか」

 

そう言って、通用門の所まで斬を案内する。

俺がインターホンを鳴らしている間も、大きな門を見上げてヒエ〜と小声を漏らしている。

 

「ぼ、僕、学生服で来ちゃったけど大丈夫かな……? 所々破れたままだし……」

 

「逆に、他に何を着るって言うんだい斬……空也です。道場の体験入門者も一緒です」

 

「おかえりなさいませ、空也君。御友人も御一緒ですか、直ぐに開けますね」

 

キイと扉が開き、中から門番の守田さんが顔を出す。

 

「ようこそいらっしゃいました、御友人様」

 

「はっ、はひっ!! 村山斬ですっ!」

 

「これはご丁寧に……守衛の守田です。お見知りおきを。さあ、お入り下さい」

 

「はいぃっ!!」

 

カチコチの斬が、ギクシャクとした動きで門をくぐる。

何もそこまで緊張しなくても良いのにと思いながら、道場に向かう前に一度、帰宅の挨拶のため母屋に寄る。

 

「只今帰りました。こちら、友人の村山斬です」

 

「はははじめましてっ! 友人の村山斬ですっ!(メチャクチャキレイなヒト出てきたーーー!!?)」

 

「まあ、早速お友達を連れて来て下さったんですね? ようこそお越し下さいました、村山さん。空也さんのお友達になってくれてありがとうございますね?」

 

「いいいいいえっ、こここちらこそっ!」

 

……さっき以上にガチガチだ。

男子高校生に翠月さんの姿は刺激が強すぎたかもしれない。

おっとり和装の巨乳美人だ、嬉しかろう?

 

「直ぐに道場に向かうとの事だけれど、少しくらいおもてなしさせて頂いても良いでしょう?」

 

「いえ……斬が気の毒なので、今日の所はこのまま道場に向かいます」

 

「あら、残念ですね……村山さん、ぜひまたいらして下さいね? 空也さんの学校でのお話だとか、色々お話して欲しいです」

 

「はいっ!!!」

 

名残惜しそうにする翠月さんに頭を下げ、頭からケムリを吹き始めた斬をせっついて道場へ足を向ける。

平日の放課後だし、学生門下生はそこそこの数来てるだろうが、隅っこ位は貸して貰えるだろう。

 

五重塔を横目に日本庭園を通り抜け、玉砂利の敷き詰められた飛び石を辿って敷地の端にある道場へ到着した。

幾らか緊張の溶けた斬と一緒に、力強い筆文字で刀龍館と書かれた一枚板の看板を見上げる。

 

「ここが……」

 

中からは少年少女達の威勢のよい掛け声が漏れ聞こえ、活気のある様が感じられる。

……斬がまた気後れしてしまう前に、さっさと入ってしまおう。

 

「失礼します!」

 

そう大声で声を掛け、道場の扉を開ける。

中では、既に稽古を始めている学生達が、一糸乱れぬ姿勢で掛け声を上げながら木刀で素振りをしている。

 

「し、失礼しまーす……」

 

オズオズとした声で、俺に続いて入館してくる斬。

寺内の道場が珍しいのか、キョロキョロと道場内を見回している。

と、俺の挨拶に気付いたであろう師範の双右衛門(そうえもん)さんが手を上げ、門下生達の素振りをやめさせた。

 

一斉に振り返った門下生達が、俺に向かってこれまた一斉に礼をする。

 

「「「今日(こんにち)はっ!!!」」」

 

「今日は」

 

「!?」

 

あまりの大声に隣の斬がビクッっとしているのを感じる。

これは仕方が無いと思う。

俺ですら、分かってはいても毎度ちょっとドキドキする。

正直、これがイヤで門下生が集まっている時の道場にはなるべく立ち入らないようにしている位だ。

 

「何処かで言った気もするが、俺は師範代なんだ。気兼ねしてくれるなよ?」

 

「す、すごいんだね空也君……!」

 

苦笑いしながらそう言ってみると、瞳をキラキラさせた斬が両拳を握り締めて見上げて来た。

ちょっと照れくさい。

 

神棚、仏像、双右衛門さん、門下生と来て、最後に道場にも一礼し、草鞋を脱いで道場主の双右衛門さんに挨拶へ向かう。

 

「やあ、空也君。良く来てくれたね! 今日は体験入門者を連れて来てくれたんだろう? 嬉しいよ」

 

そう言って、柔らかく微笑む双右衛門さん。

 

「村山君だったね?」

 

「はっ、はいっ!」

 

「ウチは厳しいのも優しいのも対応してるから、気に入ったら何時でも本入門してほしいな」

 

「ぼ、僕が入門……!」

 

斬が感動の表情で瞳を潤ませている。

 

「それでは師範、今日の所は俺が斬を見ますので、道場の隅を貸して頂いても?」

 

「構わないよ……たまには、門下生達に稽古をつけてくれると、彼等も喜ぶと思うんだけどね」

 

「……ぽっと出の若造に先生面されるよりも、双右衛門さんの指南の方が嬉しいでしょう」

 

反応を窺うような双右衛門さんの視線から逃げるように斬を引っ張って道場の隅に避難する。

双右衛門さんの困った様な視線を後頭部に感じるが、どうにもここのコ()の相手は苦手なのだ、勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、斬。先ずは今の実力が見たい。学ランと靴下を脱いでコイツを持ってくれ。ああ、刀も壁に」

 

「うん」

 

お互いに木刀を持って向き合う。

 

「俺からは攻撃しない。良いと言うまで好きに打ち込んで来てくれ」

 

「分かった」

 

そう言って、斬の出方を見守る。

緊張しているのか、何度か深呼吸してから改めて木刀を両手で握り直し、意を決したように飛び込んで来た。

 

「やあぁっ!」

 

ドタドタとした足運びで距離を詰め、先ずは振り下ろしを放って来た。

相変わらず、身のこなしと剣速が噛み合っていない。

俺が半身をずらしたその鼻先を、ブンっと凄まじい速度で木刀が通過する。

 

「えいっ!」

 

膝辺りの高さでピタリと急停止した鋒が、鋭角に切り上げられる。

カアン! と小気味良い音を立てつつ、剣閃を上に弾く。

 

「やあっ! たあっ! やあぁあぁっ……うわっ!」

 

袈裟斬りは上体を反らし、横薙ぎは木刀で受けて、胸に飛んできた突きは出足を蹴ってすかす。

…衝撃のかなりの部分は逃がして受けたが、それでもまともに受けると手が痺れる。

つんのめった斬が転びそうになりながら、ドンッと床が抜ける位の勢いで一歩踏み直し、木刀を構える。

やはり、この程度では転ばないか。

 

「こ、攻撃はしないんじゃ……?」

 

「すまんな斬、ぶつかってしまった。……ここからはこちらからも打つよ。寸止めするから、安心して受けると良い。隙を見て反撃する様に」

 

恨めしそうにこちらを見る斬にそう言って、木刀を中段に構える。

 

「そら、面だ」

 

「うグッ!」

 

トンと踏み込んで振り下ろした剣先を、頭上に掲げた木刀で防ぐ斬。

 

「一本」

 

スルリと流れる様に喉仏に鋒を突き付け、固まる斬にまだ続けるぞと一歩距離を取る。

 

「次は逆胴」

 

カアンと快音を立てて、斬のかざした木刀と打ち合う。

……コイツ衝撃を殺すという事を知らないらしい。

鉄筋でも叩いてる気分だ。

 

「次、突き二連、その後胴」

 

斬の体幹を試すべく、またちょっと仕掛けてみる。

顔面にギリギリ避けられる様放った突き、ヒイッと声を漏らしながら仰け反って躱す斬。

更に続けて、無理に躱せば足がもつれかねない角度で肩を突く。

 

「わわっ!?」

 

まんまと足を絡ませ、まるでスケート選手の様に仰け反って片足立ちになる。

ここだ。

 

「ふっ!」

 

わざと斬からも良く見える様に大きく振りかぶり、振り下ろし気味の胴を放つ。

それに対し、

 

「うわあぁっ!!」

 

浮いていた足を一瞬で大股開きに道場の床へ叩きつけた斬が、諸手で振り上げた木刀で俺の振り下ろしを迎え撃った。

真芯で交差する木刀。

 

バキィっ! という大きな音と共に、斬と俺、両方の木刀が砕け散る。

 

お互い、剣を振り切った体勢で固まる。

気付けば、俺達だけでなく、道場中が目を見開いてこちらに注目していた。

 

カランカラン、と、折れた木刀の剣先が道場の床に転がる。

 

ハッとした様に、斬が慌て始めた。

 

「わわっ……! ご、ゴメンナサイっ! ぼ、木刀折っちゃった……!」

 

どこまでもズレた斬の反応に呆れながらその足元を見てみれば、斬の踏み締めた床板がたわみ、ヒビが入っている。

道場の床は、大抵の衝撃はしなって()()()、そうそう割れる事は無い。

木刀だって重ぉ〜くて(かった)い樫製だ、どうかしてると言う他無い。

 

……今の攻防、あそこまで体を崩せば、かなりの手練れであっても転倒は必至、そんな状況だった。

 

呆れる程の馬鹿力と、瞠目する程の体幹を誇る下半身。

どこで培われたのか知らないが、腕に見合わない黄金の素質が、斬にはある。

 

「……鍛え甲斐のある奴だな」

 

自分の口元が笑みの形を作っているのが分かる。

 

「分かったよ、斬。君に居合を教えよう」

 

間違いなく斬は強くなる。

原作で苦戦していた相手を一撃で沈める怪物の様な剣客になれる。

そんな斬と戦う事を想像しながら、床に散らばった木刀の欠片を拾い集める斬にどんな稽古をつけてやるか、頭の中で考えを纏める。

 

本当に、面白くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





怪我の治りが早いのは仕様です。
原作はもっと早いです。

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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