転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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十七太刀

 

 

 

温かな初夏の日差しが燦々と降り注ぐ屋上で、昼食を食べ終えて気持ち良さそうに大の字になる貫木と斬の二人。

 

「ふぅ〜、食った食った!」

 

「僕もお腹一杯……お弁当美味しかったなぁ」

 

(カラ)の弁当箱は俺が持って帰ろう。斬が喜んでいたと伝えておくよ」

 

「ありがとう……」

 

屋上に吹く風はそよそよと柔らかで心地良く、昼寝に丁度良い気温も相まって二人仲良くウトウトしている。

つい先程、おっかない先輩達と斬り合いになりかけた後で、ここまでリラックス出来るのだからどちらも中々の図太さだ。

 

「斬。(くつろ)いで居る所悪いが、今日の素振りがまだなんじゃないかい?」

 

「ええっ!? きょ、今日もやるの?」

 

「何を言っている。朝は動けそうも無かったから勘弁してやったけれど、筋肉痛も多少は抜けて来ただろう? 動ける限りは毎日だ。ほら、立った立った」

 

「うう……まだ身体中痛いのに……」

 

渋る斬を無理矢理立たせ、昨日にも散々やらせた構えを取らせる。

取り敢えず一度、何も言わずに踏み込みからの抜刀をやらせて見ると、痛みで身体が強張るのか、昨日の最後の方の完成度はどこへ行ってしまったのかという情けない抜き打ちを見せてくれた。

 

「……やれやれ、痛いのは分かるが、それを嫌がって力の入れ方を変えれば、当然姿勢は崩れるだろう? 傷んで動かし辛い場所こそ、昨日鍛えた正しい居合を放つ筋肉だ。直してやるからもう一度構えようか」

 

「ひぃ〜!」

 

泣き言を言う斬の身体を錫杖で軽く叩いてやりながら、一つ一つ姿勢を修正して小さな悲鳴を上げさせて居ると、ウトウトしていたハズの貫木がいつの間にかムクリと上体を起こして、こちらの方をジッと観察している事に気付く。

 

「……斬よぉ。お前、空也に稽古付けて貰ってんのか?」

 

徐ろに口を開いて疑問を投げ掛けてくる貫木に、ヒイヒイ言いながら斬が答える。

 

「う、うん……昨日から、だけど……っ!」

 

「ほう、余所見とは余裕だね斬。腰の落としが全然足りないぞ? そこ、肘も下がってる」

 

「いっ、痛い痛いっ!? ふー、ふー……はいっ……!」

 

「へぇ……マジメなこって……」

 

風に金髪をそよがせながらそう言いつつも、斬を眺める視線は逸らさない。

立膝に肘を置き、手のひらに頬を預けながらジッと頑張る斬を見詰めている。

 

「……なあ、空也」

 

ややあって、貫木がポツリと口を開く。

 

「なんだい?」

 

「お前、朝方(あさがた)俺とやり合った時、どう思ったよ」

 

「……どう、とは?」

 

「ったく、知らばっくれてんじゃねーよ。一撃で俺をノしたろ?」

 

さっぱりとした口調でそう尋ねてくる貫木に、斬が驚いて姿勢を崩す。

 

「えっ、ええっ!? 貫木君をたった一撃で……!」

 

「こら斬。集中を切らさない」

 

驚いて姿勢を崩した斬に釘を刺しながら、貫木の質問の意図を考える。

……立ち合いで思った事、か。

アドバイスの一つでも求めてるのだろうか?

 

「……そうさな。速さこそ中々の物だったが、直線的で一本調子……動きに緩急や囮が少ない故、拍子を取るのにさして苦労しなかった様に思う……かな?」

 

「そぉかよ」

 

そう言って、再びバタンと大の字になって空を見上げる貫木。

どうやら今のであっていたらしい。

 

暫く、同じ動きを繰り返す斬の踏み込みの音と、研無刀が(くう)を斬る音が屋上に響き続ける。

ピーヒョロロと、空で円を描いている(トンビ)の鳴き声が、屋上から見える街の景色に物寂しくこだなまする。

 

タンっと軽い音を立てて、貫木が一跳びに立ち上がった。

 

「あ゛〜〜〜……。ったく、修行なんてかったりぃと思ってしばらくサボってたがよぉ。クソ坊主にまでクソ親父(オヤジ)と同じような事言われちゃあ、仕方ねぇな。俺もちっと、気合を入れ直すかな」

 

そう言って、ぐうっとノビをする貫木。

何やら覚悟が決まった様な清々しい表情で、よしっと拳を握り締めている。

 

斬と二人、しばし手を止めてそんな貫木の様子を窺う。

 

「そうと決まりゃあ、善は急げだぜっ! オイッ、斬! 先公(センコー)には俺は早退したって美味いコト言っといてくれや!」

 

「えっ、ぼ、僕がっ!?」

 

「したらなっ!」

 

と、言うが早いが、貫木は斬の返事も聞かずタタタっと階段の方へ消えて行ってしまった。

出席日数だって危ういだろうに、こうと決めたら思い切りの良いヤツだ。

斬が言わなくても、俺の方で体調不良とかなんとか誤魔化しておいてやっても良いかもしれない。

 

「貫木君……」

 

斬も、そんな貫木の姿に何か感じる物があった様だ。

物思いにふけりながら、貫木の去って行った階段をジッと見詰めている。

 

「……さて、どういう訳だか貫木もやる気になっている様だし、斬もうかうかしてられないよ。親父(おやじ)さんの様な、立派な武士(おとこ)に成るんだろう? 気持ちを入れ替えて、素振りと踏み込み、其々(それぞれ)後百本」

 

「……うんっ!」

 

その後。

百本とは言わないまでも、午後の授業の予鈴が鳴るまで、たっぷりと斬の稽古に打ち込んだ。

空飛ぶ鳶は、その間中ずっと、千切れ雲の疎らに浮かぶ中天の空の中を風を切って旋回しながら、時折甲高い声で誰かに呼び掛ける様に鳴き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後一の体育の授業が終わって教室で着替えを済ませていると、男子と違って更衣室がある女子生徒達がポツポツと教室に戻って来る。

こういう時、化粧等の手間がある女子は大変だ。

女の子によっては、次の授業が始まる直前まで頑張っているのを良く見る。

 

そんなお洒落に命を掛けている生徒達とは違う、化粧っ気が無かったり髪のセットが簡単そうな女子達がぞくぞくと制汗剤の匂いが充満する教室に入って来るのに混ざって、月島さんもまた教室に戻って来た。

 

椅子を引いて席に座ろうとした月島さんが、何かに気が付いた様に一瞬固まって、何事も無かった風を装って席に着くのが目に入る。

こっそり様子を窺っていると、月島さんが周囲の目を気にしながら、机の中から一枚の封筒を取り出すのが分かった。

 

それを見て、おやと思い返す。

そう言えばさっきの傘頭、原作で月島さんをどこかに呼び出して、不利な条件でいたぶっていた事が思い出せる。

 

とすると、あの手紙はアイツの一味からの呼び出し状だろうか?

気になった俺はそれを確認すべく、斬に一声掛けてから月島さんの席に向かう。

 

「やあ、月島さん」

 

「あっ……た、辰爾君……!」

 

立てたノートの陰に隠れてコソコソと封筒を開けようとしていた月島さんが、ちょっと慌てて手紙を隠そうとして、直ぐに諦めて机に置いた。

 

「ふふ……しかしモテるね月島さん。ここ数日でもう二度目じゃないかな?」

 

「からかわないでよ……どうせまた果たし状かなにかよ、きっと」

 

ちょっと頬を染めながらそう言って、月島さんがハートのシールで封をされた封筒を開くと、果たして中からは果たし状と筆書きされ折り畳まれた手紙が顔を出した。

 

「……ほらね。何でこんな紛らわしい封筒使うのかな」

 

そう言いながら、手紙を開いて小声で読み上げる。

 

「『果たし状』……どこかで見た汚い字ね。『本日放課後、体育館裏にて待つ。覚悟して来られたし。牛尾和美』……また、牛尾からみたいね」

 

そう独り言ちながら、僅かに顔色を悪くしている月島さんを横目に見ながら、傘頭からじゃなかったのかとか、牛尾のヤツ、カズミなんて名前だったのか……等と考えていると、ふと、その果たし状の下にもう一枚の紙が見えている事に気付く。

 

「……もう一枚ある様だよ?」

 

「あれ? ホントだ……えっと、『この果たし状をあのタツミ(なにがし)とか言う坊主に渡せ。机が分からん』……はあっ!?」

 

それを読み上げた月島さんが、驚いた様に大声を上げ立ち上がり、二枚目の手紙と俺とを見比べてワナワナと震えだした。

 

……いや、驚きたいのは俺も同じだ。

クラスの皆が見ているから止めて欲しい。

 

「……はは、まさか俺宛とは」

 

「う、牛尾のヤツぅ〜……!! あたしをどこまでコケにしてっ……!!!」

 

「まあまあ、その、落ち着いて……」

 

「辰爾君っ!! あたしも付いてくわ! 放課後、一緒に体育館裏に行くわよっ!」

 

「あ、ああ」

 

月島さんの大声に、教室内が(にわか)にザワついた。

……これは完全に勘違いされてるな。

 

月島さんは肩透かしを食らった怒りからか、そんなクラスメイト達の好奇の視線も目に入らない様で、ストンと椅子に座り込んでプリプリと怒っている。

掛ける言葉も思いつかず、果たし状だけなんとか受け取ってスゴスゴと自分の席に戻ると、様子を窺っていたらしい斬が見るからにどよんとした顔で迎えてくれた。

 

「……そ、空也君……もも、もしかして月島さんって君の事が……!」

 

「違うからね斬。これを見て」

 

例によって勘違いを膨らませている斬に月島さんから受け取った果たし状を見せてやると、斬は青かった顔色を赤くしたり、また青くしたりと百面相しながら、「ええっ、果たし状!? しかも牛尾君からっ!?」と一人で何度も驚きながらアワアワしている。

 

「何ナニぃ〜? 空っちってば、早くもクラスのヒロインのハートを射止めちゃった! みたいなぁ〜?」

 

と、いつの間にか教室に戻っていたのだろう。

身嗜みに時間を掛ける組代表、ゆるふわギャルの愛羽さんが、恋バナの気配を察知して近付いて来た。

ベタっと斬の机に覆い被さった愛羽さんは、さっきまでの体育で汗を流していたハズなのに、既に仄かに花の様な香りを漂わせている。

流石だ。

 

「ねえねえ、それってラブレター? 見せてぇ〜♪」

 

「ラブレターと言えばラブレターだけど……残念ながら差出人は牛尾だよ」

 

「……ええ〜、果たし状〜!? なんだぁ、がっかりぃ〜……」

 

斬の持つ手紙を返して貰って見せて見れば、愛羽さんは輝かせていた瞳をショボショボとさせて、つまらなそうに溜め息を吐いた。

フワフワの髪まで、気持ちシュンとした様に見える。

 

「でもでもぉ、空っちどうするん? ウチは行かなくてもいーって思うなぁ〜。アイツ、一年の頃から何人もケンカ売ってるんだよぉ。三人くらい斬ったって噂だしぃ〜……」

 

メッシュの入った髪をクルクルと指先に絡めながら、気遣わし気な上目遣いで俺を見上げてくる愛羽さん。

割とあっけらかんとした印象の娘だったが、これでクラスメイトの事は結構気に掛かるらしい。

相変わらず間延びした口調ではあるが、随分と心配そうな表情をしている。

 

「心配痛み入るけど、大丈夫。こう見えて結構腕が立つんだよ、俺は。自分も牛尾も、死ぬ様な怪我無く終わらせて来るつもりさね」

 

そう言って、丁度良い位置にある頭にポンと手を置いて、あやす様に撫でてやる。

 

「うん……あーっ! 空っちってば、何自然に撫でてんのさ〜。同い年だよぉー!」

 

「おっと、失敬」

 

余りにも心配そうにする物だから、つい翠乃にやるように頭を撫でてしまった。

どう考えても、それ程仲良し……という訳では無いクラスメイトにする事では無い。

ちょっと焦りながら弁明する。

 

「いや、済まんね、年の近い妹分が居る物だからつい……」

 

「も〜。お坊さんみたいなカッコしてるクセに、そーいうの、良くないんだからねぇ〜? ……でもちょこっとは安心したから、みなみんは許してあげます」

 

「……有難う」

 

「えっへっへ〜♪ 気おつけなよぉ〜?」

 

満足そうにそう言うと、みなみんはじゃあねーと言って自分の席の方へ帰って行った。

ギャルグループの方から、キャーキャーと盛り上がる声が聞こえて来る。

 

……愛羽さんが優しいギャルで助かった。

危うくクラス中から総スカンを食らう所である。

 

振り返ると、相変わらずギャルはまだ怖いのだろう斬が、ホッと胸を撫で下ろしているのが目に入る。

愛羽さんが自分の机の上にかぶりつく様に突っ伏していた間中、ずっとカチコチに固まっていた斬は、気を取り直した様に俺の手の中の果たし状を見詰めて、ポツリと呟いた。

 

「……い、行くんだよね」

 

「ああ。月島さんも立会いに来てくれるそうだが、斬も見に来るかい? 見世物にする様で牛尾にはちと悪いが、何か参考になるかも知れないよ」

 

「…………」

 

そう問い掛けて見ると、暫く俯いて何事かを考えていた斬は、ややあって顔を上げ、俺の目を真っ直ぐに見返して言った。

 

「う、うん! 空也君は強いし、きっと負けないと思うけど……ぼ、僕も強くなるって決めたし、空也君の武士(おとこ)らしさを勉強させて貰うよ……!」

 

「ん、承知(つかまつ)った」

 

それだけ答えて、五限目の英語の先生である栗沢先生が入室してきたのを合図に、前に向き直る。

 

しかし、まさかあれ以来姿を消していた牛尾が自分に果たし状を突きつけて来るとは予想していなかった。

よくよく思い返せば、原作では呼び出された月島さんが牛尾と決闘している最中、傘頭一味の横槍が入って真剣勝負がまたも中断、月島さんが拐われる……という流れだった様に思う。

そう考えると、牛尾と言う男も気の毒な位間の悪いヤツだ。

 

(さて…………)

 

プリントを返しますよーっと短い腕をパタパタさせる先生を見ながら、今日の放課後に思いを馳せる。

自分の記憶が正しければ、今日の夜にでも、俺達と傘頭一味、そして暗躍している生徒会執行部の連中とぶつかり合う事になる。

まさか転入してきて一週間も経たずに原作のラストバトルに挑む事になるとは思いもしなかったが、そうなってしまった以上、これくらいの戦いは楽々乗り越えないと十年以上に及ぶ修行の日々が泣くという物だ。

 

これが物語開始一週間のイベントだと言うのならば、この世界にはもっと困難な戦いが数多く待ち受けているのだろう。

そう考えると、討条(なにがし)程度の中ボス如き、鎧袖一触してやらねばなるまい。

 

俺は、後ろの席の斬が貫木の早退の言い訳をするために立ち上がるのを感じながら、放課後の戦いに向けて昂り始める心をジッと目を瞑って鎮めるのだった。

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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