転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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→二年転入五日目

季節は分からなかったので春



二太刀

 

 

 

時は移り変わって五月某日。

郵送されて来た簡単な入学試験をあっさりと合格した俺は、それ以外に面接や面談等を求められる事もなくこれまたあっさりと中途入学が決まり、あれよあれよという間に編入の日がやって来ていた。

常の渋面の中に、珍しくも僅かな心配の色を浮かべた住職に見送られて育ちの山を下山し、学校までの長い道のりを歩く。

 

山から学校までは余りに遠すぎる為、高校の間は(くだん)の街にある住職の知り合いのお寺に下宿させてもらう事になっている。

つまりあの修羅のような生臭坊主との修行の日々とは二年の間お別れになるということで、不安だらけの新生活を前にして、俺はいっそ清々しいくらいに気分が良かった。

 

これから始まるであろうなんらかの物語の事なんてどうでもいいと思ってしまうのは、質素な見習い坊主生活から十年ぶりに離れられたからか、頭が空っぽになるまで住職にボコボコにされまくったからか……とにかく俺はウキウキ気分で、鬼住職に堂々たる説教をかまして下さった良識あるお知り合いの奥さんに感謝しながら学校のある街までの十里にも及ぶ道を踏破し、これから二度目の学生生活を謳歌するであろう街、『無双県(なしふたけん)無双市(なしふたし)』に到着した。

 

夜明け前から足早に五時間以上も歩いたが、住職に散々シゴかれ続けたおかげか脚に目立った疲れもなく、県境の橋に掲げられた街の名前の看板を見上げてとうとう来たかと鼻息をもらす。

 

「……しかしケッタイな名前だな……戦国無双ならぬ現代無双でも始まりそうだ。こんな特徴的な名前なのにとんと覚えがないし」

 

そう独りごちて、笠をなおす。

 

そういう今の俺の格好だが、街の名前にも負けないくらい中々にスゴい。

昔懐かしの金ボタンの詰め襟学生服、いわゆる学ランを着た上に、坊主の着るような簡素な袈裟を羽織り、三角の編笠を被って手にはシャランと音も涼しい六環のついた一間一尺の大錫杖。

足元は足袋に草鞋で、袖の下には鉄板仕込の布製手甲脚甲、最後に慣れ親しんだ白鞘の打刀を腰に挿して、珍妙なコスプレ学生僧の完成だ。

我ながらどうかと思う。

 

……どうかと思うが、サラリーマンでもアイドルでも男なら腰に一本差してるのが当たり前という意味不明な世界だ。

すれ違う人々も、「あ、お坊さんかな? いや学生さんか」以上の視線は向けてこないので、気にしたら負けなんだろう。

俺も早々に気にするのをやめた。

 

ポケットから懐中時計を出して時間を確認すると、そろそろ急がないと学校に遅刻しそうな時間だ。

どうやらのんびりと歩き過ぎたらしい。

学校に行く前に下宿先のお寺に挨拶の一つでもしていきたかったが、下校後に回した方が良いかもしれない。

 

そんな事を思いながら葉桜並木の土手を歩いていると、下の河川敷の方から誰かが揉めるような騒ぎ声が聞こえてくる。

 

「?」

 

笠に手をやり見下ろして見ると、何やら俺と同じ学ランを着た小柄な少年が、それぞれ刀と槍を持ったガラの悪いゴロツキ二人組に絡まれている様子が見える。

 

「ふざけんなガキィ! こちとら全身の骨が砕け散ってんだぞ、どうしてくれるんじゃ、オゥ!?」

 

「すすすすすみませんっ! すみませんっ!」

 

「クソッタレが、すみませんじゃねぇんだよ!」

 

……察するに、特徴的な黒髪ツンツン頭の少年がぶつかって、ゴロツキ男の全身の骨を粉々にしてしまったらしい。

平謝りで縮こまってしまっている少年に、金髪の青年が青筋立ててがなり立てている。

骨が砕け散ってる割に元気そうだ。

まあたぶん、そういうことなんだろう。

 

「さて、どうしたもんか」

 

ゴロツキの方は今にも刀を抜きそうな雰囲気である。

後ろの槍持ちもニヤつくばかりで止める気配もない。

この世界では、真剣勝負も決闘も、果たし合いも仇討ちも合法だ。

双方同意の下であれば切り捨て御免が成立してしまう。

そして真剣勝負の最中の横槍は御法度だ。

 

「てんめ〜、俺等を舐めてっと――ぶった斬られんぞ」

 

「いっ!?」

 

とうとう刀を抜いてしまったゴロツキと、完全に腰が引けている少年を見て、覚悟を決める。

 

我が義父空徳和尚は言っていた。

袖擦り合うも他生の縁、困っている人がいたら躊躇わず助けなさい。

 

見た所あれは決闘でもなんでもない言い掛かりの辻斬りだ。

辻斬りに関してはこのイカれた世界でも重罪である。

助太刀するとしよう。

 

とっとっとっと土手を走り降りながら見れば、下ではゴロツキの横薙ぎを腰を抜かしながら躱した少年が、涙目で詰められている。

 

「おいおい、どうしたどうした? テメェも武士(おとこ)なら腰にぶら下げたもん抜いたらどうなんだぁ? テメェそれでも、武士(おとこ)かぁっ!」

 

「いぃっ!?」

 

金髪が刀を振りかぶり、少年が観念して腰の刀を抜こうとする、その瞬間に二人の間に割り込んだ。

 

「横入り失礼すっ――ぐっ!?」

 

「うあぁあぁあぁあっ!」

 

片手をゴロツキの手首にあて、刀を止める。

それは良かった。

しかしもう片方、少年が目をつぶって振り抜こうとした刀を止めようと掲げた錫杖の方に、凄まじいまでの衝撃が走る。

 

「うおっ!?」

 

地面に突き刺した鉄製の大錫杖はかなりの重量だ。

それがどういう訳だか、遥かに軽いハズの少年の剣の威力を殺し切れず、弾かれるままに地面を二メートルばかり引きずられ、草鞋の裏から焦げ臭い臭いが漂う。

物理法則が仕事してねぇ。

 

「ち、ちくしょう……!?」

 

俺はなんとか踏ん張ったが、一緒にふっ飛ばされたゴロツキの方は踏ん張りが利かずに地面で一回転して大の字になっていた。

情けないことに、武士の魂たる刀は地べたに転がっている。

 

「つつ、手が痺れたぞ。なんつう馬鹿力だキミ……助太刀は余計なお世話だったかな?」

 

さすが、推定漫画の世界。

あんな弱そうな少年が、信じられない程の超パワーだった。

これなら自分が間に入らずとも斬り殺されるのはゴロツキの方だったろう。

依然、目をつぶったまま、「うああああああ!!」と刀を振り回し続けている少年を横目に剛剣を受け止めた錫杖を見ると、受け止めた場所に隠し切れないヘコみと、鋼鉄をしたたかに擦り付けた様な跡がついている。

 

はて、と思う。

いかな鋼鉄とはいえ、斬れ味鋭い日本刀を受け止めたなら切り傷の一つも付きそうなものだ。

というか、あれだけの馬鹿力でこんな鉄の棒に刀を叩き付ければ、刀のほうが折れてもおかしくない。

だというのに、少年の刀には折れも曲がりも刃こぼれ一つ見当たらない。

 

すると、後ろの方でずっと事態を静観してニヤニヤしていた槍を持ったゴロツキの方が、俺の錫杖のヘコみを見てワナワナと震えながら何かを説明するように喋り始めた。

 

「ま、まさか……あの刀、研無刀(けんぶとう)!?」

 

「……は?」

 

「真剣は斬れ味がある分扱いやすいし素人から玄人まで幅広く使われている基本武器……!」

 

「お、おい、どうした突然」

 

「対して研無刀は見た目なんかは真剣と変わらねぇが、あえて斬れないように鋭く研がない分、硬度と重量をかなり増幅させて斬るより破壊を目的とした玄人好みのあつかいにくすぎる刀っ!」

 

「おい、聞けって」

 

「使いこなせねぇとナマクラ刀より弱いただの()()()みてぇなもんだってのに、なんだあのガキは……!」

 

「どうしよう、聞こえてないのかな……」

 

「あのガキ、全然使いこなせちゃいねぇ見るも無惨な太刀筋のクセして、なんつう馬鹿力だ……! 本来扱いにくい研無刀が、あの怪力のせいでとんでもない凶器になってやがる……あんなのとヤリあったらタダじゃすまねぇ……!」

 

ひとしきり、誰かに語るようにグオオオっとまくし立てた槍持ちさんは、俺を無視して倒れた仲間のゴロツキを抱えると、

 

「に、逃げろぉ〜〜〜!」

 

と、砂埃を上げて猛然と走り去って行ってしまった。

取り残される俺と、固く目を瞑ったまま刀をブンブン振り回し続ける少年。

……なんだかドッと疲れが来た。

 

気を取り直して、少年に向き合い、声を掛ける。

 

「……もし、キミ、キミ」

 

「う、うあぁぁあぁあぁあ……あ……?」

 

恐る恐るといったふうに、パチリと少年が目を開けてこちらを見た。

 

「あ、あれ……不良は? お坊さん……? いや、学ラン……学生?」

 

刀を持った手をダランと下げて目を白黒させている少年に、胸ポケットに付けた校章のピンバッチを見せてやる。

 

「ああ、学生だよ。多分キミと同じ学校の」

 

学ランを見たときにもしやとは思ったが、少年の学ランに付いている校章を見つけて確信を得られた。

どうやら俺達は同じ学校に通う学友らしい。

 

「今年から無双(なしふた)高校に通うことになる、辰爾(たつみ)空也(そらなり)だ。この格好は育ての親がお寺だったものでね。まあ、見習い坊主だよ」

 

そう自己紹介すると、ツンツン頭の少年は驚いたように肩を跳ねさせた。

 

「えっ、と、年下!? 先輩じゃないんだ……」

 

「あ、いや、中途入学なんだ。色々と事情があって二年からの転入? みたいな……」

 

今世の俺は背も高く、加えて鬼住職に散々鍛え抜かれたせいでかなりガタイが良くなってしまっている。

袈裟で身体のラインが隠れると実際以上に大きく見えてしまっているのかもしれない。

 

「二年なら僕と同じだ! 僕も5日前に転入してきたばかりで……あれ、そ、そういえば不良たちはドコに?」

 

そう言って、キョロキョロと辺りを見回す少年。

なんという偶然か。

季節ハズレの転入生なのは彼も同じだったらしい。

しかも学年まで同じと来ている。

なにか作為的なモノを感じざるをえない。

 

周囲に不良が居ないのを確認し再び俺を見上げた少年は、頬を上気させながら口を開いた。

 

「も、もしかして、き、キミ……えと、辰爾君が追っ払ってくれたの!?」

 

「いや、そのつもりだったけどキミが――」

 

「あ、ありがとうっ、辰爾君! ぼ、僕は村山(ざん)! さっきも言ったけど、僕も無双高校の二年生だよ!」

 

「じゃあ、タメだね、宜しく。俺のことは空也でも空でも好きに呼んでいいよ。俺も君のこと斬って――(ざん)?」

 

「うん! よろしくね、空也く……ああっ!? じ、時間が!? 空也君、急がないと遅刻しちゃうよっ! ぼ、僕走るから、また後でねっ! 助けてくれてホントにありがとうっ!」

 

「いや、アイツらはキミが自分で……ホント誰も話聞いてくれないなこの世界」

 

言うが早いが、ピューっと駆けて行った斬少年の背中を見送りながら、空を見上げる。

 

研無刀。

そして斬。

 

ようやく。

ようやく思い出した。

 

現代にまで残る武士の魂。

サラリーマン、芸能人、はたまた高校生まで腰に刀を下げ。

腕に覚えのある武士(もののふ)達が日夜プライドを掛けて真剣勝負や悪人退治に明け暮れる。

武士(おとこ)達の魂は今もなお太陽のように燦然と輝く……。

 

(ZAN)だ。斬の世界だったんだ」

 

俺が転生したのは、伝説の打ち切り漫画の世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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