転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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二十一太刀

 

 

 

「……しかし不様なモンだな、討条戒」

 

突然会話に横入りしてきた怪しい男は、そう言いながら、背中の長剣の留め具を外してスラリと構えながら、小馬鹿にする様に続ける。

長ランに、裾出しのシャツ、肩から斜めに掛けた剣帯。

癖のない黒髪を片目に垂らし、残りを広げた片翼の様に逆立てた、目つきの鋭い男だ。

 

「大した手練れだって聞いて喜び勇んで来てみりゃあ……へっ! 二年の編入坊主にあっさり斬られてんじゃねぇか。どうやら噂に尾鰭が付いてた様だな、小悪党の腰巾着がよ」

 

そう言ってせせら笑い、切っ先を切り落とした様な独特な長方形の形状をした長剣をこちらに突き付けて、言い放つ。

 

「じゃ、連れてってくれや。金蔵とか言うクズも、テメェらも、纏めて斬ってお縄にしてやんよ」

 

……突然出て来ておいて、中々な言い草だ。

 

「……ちょっと、何なのよ、突然! あたし達を纏めてって、いったいどう言うコト!?」

 

たまらず食って掛かるさっきまで顔を青くしていた月島さんに、ちょっと感心してしまう。

こう言う、上から来るタイプの男には、反抗してやらないと気が済まないのだろう。

真剣勝負がトラウマになってなお、変わらない月島さんのアイデンティティだ。

 

「うるせぇ女だな。言った通りだぜ? 討条戒、金蔵とかいうクソ、そこの坊主、それからお前、月島……あー、月島なんとかってお前も、俺等のリストに載ってんだよ、愚図(グズ)が」

 

そう吐き捨てて、殺気の籠もった目でギロリと月島さんを見下す。

 

ヒッ……と、小さな悲鳴を漏らす月島さん。

 

「……な、何よそのリストって……! リストに載ってたら、どうだって言うのよ!」

 

「皆殺しだ」

 

食い下がる月島さんへの答えは、酷く簡潔な物だった。

 

「テメェ等が知る必要のある事は一つだ。テメェ等悪党は俺達生徒会執行部の『敵』になった。だから黙って殺されろ、雑魚ども」

 

それだけを言って、再び討条に向き直る直剣の男。

 

「で、どうすんだ? 素直に案内すんのか、手足を叩き落とされて無理矢理案内させられんのか」

 

……どうやら、仲良くお喋りで分かり合おう、とは行きそうもない。

そのリストとやらも、記憶が確かならば、この無双高校の校長だか理事長だか、何やら黒幕っぽい爺さんの命令で作られた、この学校に要らないヤツのリストだったはずだ。

 

それにどうして、編入したばっかりの俺の名まで入っているのか、さっぱり分からない。

どうせ邪魔なら、最初から編入させなきゃ良いじゃないかと思うのだが。

 

とにかく、折角討条と和やか(当社比)に分かり合えたばかりで、そんな理不尽な理由で素直に斬られてやる道理は無い。

 

一つ、軽く小突き回して裏の事情とやらを吐かせて見ようかと、一歩足を踏み出そうとした所で、肩を貸していた討条が、グイッと俺を押し退けて前に出た。

 

「……貴様が出るまでも無い。其奴は、未だ我が主である坊っちゃんを、一度ならず二度までも、クズ、とそう、吐き捨てた。我が武士道に掛けて……貴様は俺が斬る」

 

そう口上を述べて、左腕をだらりと垂らしたまま、直剣男と正対する討条。

これだけの重症を負って、まだ戦う気があるらしい。

凄まじい武士(おとこ)だ。

 

「オイオイオイ……正気かよ? 半死人がでしゃばってんじゃねぇよ。俺が怪我人に手加減してやるよーなお優しい武士(おとこ)に見えるか?」

 

そう言って、怒気の籠もった目で討条を睨み返す。

 

「ブチ殺すぞゴミが!!!」

 

虫位なら殺せそうな、壮絶な殺気の籠もった視線が討条を貫く。

 

未だ沈む気配の無い初夏の日差しが、向かい合う二人の影を長く伸ばし、生温い風にざわめく雑木林が、囃し立てる様に木の葉を揺する。

 

出血で顔を青白くし、額に冷や汗を滲ませている討条が、フ……と瞑目し、淡々とした声で挑発する。

 

「……達者なのは口だけか。さっさと斬り掛かって来れば良いだろう」

 

ブチリ、と、執行部の男の血管が切れる音がした。

……ここは討条を信じ、オロオロする月島さんを手で制して三歩程後ろに下がる。

 

この俺に、必殺の居合を抜かせた程の武士(おとこ)だ。

心配するのが、野暮と言う物だろう。

 

「……死に損ないがっ!!!」

 

ドンっ、と、踏み込みも鋭く、直剣男が討条の間合いに飛び込む。

 

「お望み通り、串刺しにしてやんよぉっ!!」

 

そう叫びながら、身の丈程もある直剣を軽々と振り回し、立ち尽くす討条に連続で突き掛かって来る。

 

「百足刺しっ!!」

 

連続で放たれた鋭い突きを、半歩程の脚運びで少しずつ後ろに下がりながら、次々に紙一重で躱してゆく討条。

ギリギリで躱してはいるが、討条が負っている怪我はかなりの物だ。

胸に巻いた袈裟の切端にジワジワと赤黒い染みが広がり、血の雫がポタポタと地面に滴っている。

あれではそう長くは保たない。

 

「ハハハハハアッ、どうした討条っ!! 苦しそうじゃねぇか! 避けてばかりじゃあ俺には勝てねぇぞっ!!」

 

未だ一度も刀を振れないまま、苦しそうに顔を顰める討条に、直剣男は得意気になって攻撃を繰り返す。

 

「刹那突きっ!!」

 

引き戻しきらない直剣を、素早い踏み出しと共に突き出したその鋭い平突きが、上体を反らした討条の頬を掠め、眼帯を切り飛ばす。

 

パッ、と、日差しの中に(あけ)が舞う。

 

トンっ、と怪我をしているとは思えない機敏な脚運びで、一間程飛び退いて間合いを開ける討条。

頬の傷からドクドクと血を流し、切疵の跡も生々しい落ち窪んだ眼窩を露わにした討条が、依然として鋭い目で男を睨んだまま、フゥと息を吐いた。

 

「っ、辰爾君っ! こんなの、真剣勝負じゃ無いよっ! と、止めないと……!」

 

目の前の惨劇が見るに耐えないのか、酷く焦った様子の月島さんが、グイグイと袖を引っ張って武士らしからぬ事を言っている。

 

「……相手十分、己十分という勝負だけが真剣勝負、という訳ではないよ。武士は時に、己の誇りを掛けて、どんなに不利な状況からも逃げずに戦わなければならない事だってあるんだ。――それに」

 

悲痛な顔で袖を引く月島さんに視線も向けず、ただ真っ直ぐと、討条の後ろ姿を見詰める。

傷口から命の欠片を滴り落としながら、腰を落とし、鞘も無く腰溜めに刀を構えた討条の立ち姿を。

 

「――この立合い。既に両者の格付けは済んだ。先程の突きで討条を仕留め切れなかった以上、この勝負――」

 

「くたばれっ、討条ぅぅぅっ!!!」

 

直剣男が、今日一番の踏み込みでもって、その切っ先を真っ直ぐに討条の胸に突き出す。

 

「――討条の勝ちだ」

 

リイィィィン………と、あるはずも無い鞘走りの音を幻聴した。

 

ザア……! と、木々がざわめく。

何処からか飛んできた花弁が一片(ひとひら)、男の突き出した直剣の上に舞い落ちて、直ぐにまた、ヒラリ、と何処かへ飛んで行った。

 

「……………………冗談だろ」

 

男の口から、タラリと一筋の血が流れる。

 

「この俺が…………悪党なぞに、不覚を…………」

 

ブシャァッ!!! と、男の脇腹から鮮血が吹き出した。

ドシャアっとうつ伏せに倒れると、ジワジワと流れだした男の血が、地面に赤黒い水溜りを作ってゆく。

 

討条は、振り切った刀を振るって血糊を飛ばすと、ドスンと刃を地面に突き立てて、何とか膝を付かずにもたれ掛かって荒い息を吐く。

 

「…………雑魚は己だった様だな」

 

その様子を見て、内心胸を撫で下ろしながら、苦しそうに顔を歪める討条に駆け寄って肩を貸す。

後ろから、倒れた生徒会執行部の男と討条を心配そうに見比べつつ、月島さんもやってきて一緒に討条を支える。

 

「見事でした、討条先輩」

 

「……あの程度の輩に、随分と無様を晒した……どうした月島弥生、私は、一度は貴様を拐おうとした男だぞ……」

 

「……こんな怪我で、何強がってるの! ……ですか! その、金蔵って生徒の事もあるケド、今は早く医務室に行ったほうが良いと思……いますよ?」

 

「この程度……痛痒(つうよう)にも及ばん……」

 

「討条先輩……俺としても、今貴方に死なれては困る。流石に、傷を縫って輸血をする位はさせて頂かないと、復讐どころではありませんよ?」

 

「む……」

 

この状態で、あれだけの美しい一閃。

悔しいが、俺でも出来たかは分からない。

先程までは、もう帰って来るなよという気持ちであったが、あんな戦いを見せられた今となっては、俺はどうもこの不器用な生き方をする先輩が好ましくなってきていた。

 

何とかこの強情な男に治療をさせるべく、行く行かないの押し問答をしている所に、ここ何日かで聞き慣れた俺を呼ぶ声が聞こえて来る。

 

「おーいっ、空也くーんっ……って、どど、どういう状況なのコレっ!!? 知らない生徒が死にそうになってるし、討条ってヒトは怪我しててそれに二人が肩を貸して……ええっ??」

 

「話は後だ、斬。俺はそっちの男に軽く手当をするから、斬は討条先輩に肩を貸して医務室へ連れて行ってくれ」

 

「??? わ、分かった?」

 

「村山君、このヒト、重いっ! は、早くっ!」

 

「わっ、わっ……う、うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渋る討条先輩を何とか宥めすかして医務室に駆け込み、丁度帰り際だった犬養養護教諭を捕まえると、重症でいよいよ顔が青くなっていた討条先輩を押し付けて、ベッドの準備をしようとカーテンを開ける。

 

「おっ」

 

「おや」

 

するとそこには、ベッドに横たわった壊原の横で、全身を包帯と湿布でグルグル巻きにしてミイラ男みたいになった貫木が丸椅子に腰掛け、手裏剣の手入れをしている所に出会した。

 

「なんだ、空也。元気そうじゃねぇか。丁度今お前の真剣勝負を見物に行こうと思ってたんだが……何だ、終わっちまったのか?」

 

「そう言う刃も元気そう……で、良いのか? こっちは決着が着いて、討条先輩の治療をしにね」

 

「待て……討条さんが、敗れた、だと……!?」

 

と、狭そうなパイプベッドの上でむっつりと黙り込んで目を瞑っていた壊原が、俺の言葉を聞いて目をクワッと見開き、身体を起こしてこちらに掴み掛かって来た。

 

「っく……!」

 

「オイオイ、怪我人は安静にしてろっての」

 

その瞬間、傷が痛むのか(いわお)の様な顔を壮絶に顰めた壊原を見て、肩を押してベッドに寝かし付ける貫木。

そう言うお前も、隣のベッドにでも寝てた方が良さそうな様相だが……。

 

「何よ貫木アンタ、重症じゃない。負けたの?」

 

「だぁってろやクソ女っ! 俺の勝ちだっての! メガネジジイが大げさなんだよっ!!」

 

ヒョイッと俺の後ろから顔をだした月島さんに、うわっ、と言う顔でナチュラルに煽られた貫木が、鬼の様な形相でグワーっと反論する。

「お前さんも要安静じゃでなー」と言う、衝立(ついたて)の向こうからの言葉にも、ウルセーッ! と元気良く返事している。

相変わらずタフな奴だ。

 

「……所で、斬の姿が見えねぇが」

 

「斬なら、あっちで縫合待ちだよ。斬は斬で、結構な重症だったんでね」

 

そう言って、親指で後ろを指差す。

今頃、傷の縫合をしている討条の横で、アワアワしながら自分の番に怯えている頃だろう。

 

「ハン……で、アイツも勝ったのか?」

 

「勝ったそうだ」

 

斬はそう言っていた。

たった一日ではあったが、修行の成果もあったらしく、俺としても鼻が高い。

 

貫木は、そうか、とだけ言って、どこか嬉しそうに手裏剣を片付けている。

 

「……未だ、信じられん。あの討条さんが、二年に敗れるなぞ……」

 

壊原は、こうして五体満足で無事ここに居る俺を見てもなお、納得が出来ないのか、俺の方を眉無しの鋭い目で見詰めて唸り声を上げている。

 

「ま、コイツの強さは戦って見なけりゃ分からねぇよ。しかしイヤミな坊主だぜ、自分だけ無傷で涼しい顔しやがってよう。心配して損したぜ」

 

「何だ刃、お前さん、顔に似合わず心配なんぞしてくれてたのかね」

 

「ウルセー!! 言葉の()()だ!!」

 

()()よ、貫木」

 

「テメェは何なんだよさっきからっ!? 助けて貰って感謝も無しかっ!?」

 

貫木にそう言われ、そう言えば、と言う様な顔をする月島さん。

モジモジしながら、チラッと俺の顔を見上げてくる。

 

「えっと……その、助けてくれて……」

 

その唇に、そっと人差し指を当てる。

目を白黒させる月島さんに、微笑みながら声を掛ける。

 

「それを言うにはまだ早いよ、月島さん。君と金蔵の決着が、まだついていないだろう?」

 

「あっ、あれって本気だったんだ……」

 

「勿論だとも。売られた喧嘩は、飛び切り高値で買わなきゃね、月島さん。君は武士だろう?」

 

「……うん!」

 

フライングが恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめて、決意の籠もった目で頷く月島さん。

ヒロインはそうで無くては。

それに、頑張った斬を差し置いて、俺が先に感謝を受け取る訳にもいかない。

斬は、俺にとっても大切な友人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして暫く、討条の治療が済むのを待っていると、コンコンっと、医務室のドアを叩く音があった。

おやっと思ってガラガラと引かれる扉を見ていると、

 

「チーッす……」

 

と、どこか控えめにキョロキョロしながら、医務室へ入室してくる金髪ピアスの刺々森と、あっ、と目が合った。

こんな所なのに、しっかりと咥え煙草だ。

流石に控えとけよ。

 

「お前っ……斬と一緒にいた坊主……!」

 

「あっ! 刺々森君っ!」

 

「おっ…………なんだ斬、やっぱここに居たのかよ」

 

俺を見て、ビックリした様に目を見開いた後、治療待ちの斬に声を掛けられて、ホッとした様に白い煙を吐く刺々森。

犬養先生が、嫌そうな顔でそんな刺々森を睨んでいる。

 

「体育館裏に居ねぇから、もしかしてもう討条さんに斬られちまったのかと……と、討条さんっ!?」

 

「……静かにしろ刺々森」

 

今度は犬養先生に麻酔無し(自身の強い希望だ)の縫合を受けながら、微動だにせずに椅子に座る討条を見つけて、ビクッと肩を竦める刺々森。

忙しい奴だ。

 

「え……な……何で討条さんが……!!?」

 

「真剣勝負に敗れた。それ以外あるまい」

 

「んな……!?」

 

余程の驚きだったのか、口からポロッと煙草を落とし、絶句する刺々森。

拾っとけよ、それ。

 

「……それだけ元気があるならば、丁度良い。辰爾空也、月島弥生。そこの刺々森が坊っちゃんの所まで案内する」

 

「え……ど、どう言う事ッスか、討条さん?」

 

「今言った通りだ。我々三人は真剣勝負に敗れた。なれば、主の元に通すのが道理だ。……随分と待たせている。そろそろ坊っちゃんも焦れて我慢が利かなくなっている頃だ。さっさと行け」

 

それきり、黙り込んで犬養先生の治療を受ける討条。

どうしてあそこまで冷静で居られるのか、目指すべき強キャラの姿として、参考にしたい物だ。

……麻酔無しの縫合は勘弁願いたいが。

あれはめちゃくちゃ痛いのだ。

 

「え、えっと、行くんなら僕もっ……痛つっ!?」

 

「斬、君は大人しく治療を待っているといい。腹を斬られているんだよ?」

 

「俺も連れてけピアス野郎!」

 

「君も寝てるんだミイラ男」

 

「んだとコラッ! 放せっ!?」

 

そうして、暴れる貫木を拘束用のロープ(何でこんなモノが医務室にあるんだ)でベッドに縛り付け、何が何だか分からなそうにしている刺々森に連れられて、俺と月島さんの二人は、金蔵の待つ学校の地下とやらに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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