転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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一コマだけシルエットで登場した原作キャラ達に、肉付けするの巻き。




二十六太刀

 

 

 

無双高等学校には、特進科が存在する。

一学年A〜Dの四組の内、各学年のA組がそれに該当する。

そこに所属する理由は様々だ。

成績が特に優秀だったり、武術の腕に精通していたり、学校に多額の献金をしている家の者や、理事会メンバーの子息であったりする。

いずれも、何らかの一芸を持った特別な生徒が配属されるエリートクラスなのだ。

 

教室のある階も、特進科だけが全学年纏めて四階になっている。

コの字型の校舎の、東棟に一年、西棟に二年、中央棟に三年の教室が設けられ、生徒会室や古書保管庫等の重要施設も、同じ四階に配置されている。

 

そんな、普通科の生徒の出入りが滅多に無い四階に、慣習的に特進科の生徒しか所属できないとされている生徒会執行部の部室もまた、生徒会室と隣り合うように格別の威容をもって鎮座していた。

 

時は進んで昼休み、今まさに学内の話題の中心である執行部室の中に視点を移してみる。

 

磨き抜かれた暗い色の木材壁と、血の染みの目立たない赤い色の絨毯。

他の階より若干高い天井には、防弾防刃フードの付いた調光灯。

壁には書や水墨画が飾られ、部屋の各所には目を休ませる鉢植の緑。

書類の積み上げられた簡素ながら高級な執務机と、四角い一枚板のローテーブル。

 

それを囲むように配置された、暗い赤褐色のソファーには、無双高校の生徒達に恐れられる執行部の部員達が揃って腰掛け…………意外にも、和やかに昼食の時間を過ごしていた。

 

「へぇ……で、絶山君、まんまと逃げられたんだ。ウケるんだケド」

 

「ルセーな! ウケてんじゃねーよ!」

 

「先輩、言葉使い!」

 

「めっちゃタメ口だね。別に良いケドさ」

 

小さな弁当箱を突きながら、感情を読み取りづらい平坦な声で絶山を嘲弄して、大声で怒鳴り返されてもそよと表情を変えない男子生徒。

座っていても分かる程の長身に、ヒョロリとした体格、毛先に向かって藍色のグラデーションが掛かった肩まである癖っ毛を、首の後で一括りにしている。

目隠れ気味の前髪から覗く吊り目は、眠そうに細められていてあまり迫力を感じない。

小夜鳥(さよどり)(ゆう)

生徒会執行部の三年生だ。

 

先輩に対する絶山の失礼な態度を軽く受け流して、ソファーの横に設置された留り木でジッと寝息を立てるフクロウを、優しく撫でている。

 

「でも絶山君、ホント昨日から良いトコ無いよね。ターゲットを一人も始末デキて無いの、絶山君だけじゃないの? 首になっちゃうよ?」

 

「……黙れオカマヤロー」

 

「あ、効いちゃった? ごめんね、ウチはちゃあんとノルマの三人、倒してるから。あーあ、同じ二年として恥ずかしいなー。ウチみたいのでも、簡単に熟せちゃうお仕事だったのになー♪」

 

「…………殺す」

 

続けて、購買のカレーパンのパン屑をほっぺにつけながら、イタズラ()な表情で絶山をからかうのは、絶山と同じ二年特進科の生徒。

一年の花咲よりも、更に小さく華奢な身体。

透き通る様な水色の長髪と、一度も日に当たった事が無いと言われても信じてしまうような白く滑らかな肌。

セーラー服の膝上のプリーツスカートから覗く細い脚は白タイツに包まれ、足元は踵付きの茶色いローファーサンダル。

首にはリボンチョーカー、右耳に水引細工のイヤリングが揺れる。

金魚結びも華やかな剣帯の左腰に佩くのは、この世界では珍しい大小二刀の大太刀小太刀。

 

絶山が座り切った目で腰を活かすのを、チラリとも見ずに頬のパン屑を舐め取って、脚をパタパタさせているこの生徒の名は、白峰(しらみね)幸次郎(こうじろう)

れっきとした男子生徒の、紅顔の美少年だ。

これで性自認はしっかり男なのだから、分からない。

 

「………………」

 

「っ…………鞘辷(さやすべ)先輩……」

 

「…………ごしゃぐでね」

 

「……ゥス」

 

そして、コレまた激昂しかけた絶山の肩に手を置いて、しわがれた声で諭した男子生徒の名は、鞘辷(さやすべ)貫八(かんぱち)

男子の平均より小柄な、斬と同じ位の背の高さだが、ガッチリとした体格で背中を丸めているせいか、幾分小柄に見える男子生徒だ。

茶褐色の手入れのしていない様なボサボサの短い髪を、ちょんまげの様なポニーテールにしている。

ジトっと細められた一重の目は白目がちで、その血のように赤い瞳と太眉、大きな口から覗くギザギザの歯に、不機嫌そうな無口も相まって、凶暴な野生の獣を思わせる出で立ちだ。

 

その実、この三年の執行部員の性格は朴訥(ぼくとつ)として温厚、そして恥ずかしがり屋だ。

腕の方は滅法立つが、地元訛が抜けない田舎臭い口調が恥ずかしいらしく、仲間の前ですら滅多に口を開かない。

先程のセリフも、本人は、”そう怒るな”、位の意味で言ったらしい。

執行部のメンバーでさえも、彼に良く懐いている白峰を除いて、皆なんとなくの雰囲気で彼の言葉の意味を推察しているのだとか。

 

ソファーに立て掛けられた刀は、味のある素朴な鉄細工も見事な拵えの、二本の太刀。

先程は先輩である小夜鳥にも不遜に食って掛かっていた絶山も、この先輩には頭が上がらないらしい。

悔しそうにグッと歯を食いしばって、白峰の方を睨みながらゆっくりとソファーに腰を沈める。

 

「えへへ……ありがとうございます♪」

 

「……オメもなガョぐすろ(お前も仲良くしなさい)

 

「はいっ」

 

「チッ……」

 

鞘辷先輩にたしなめられても、反省しているのかいないのか、上機嫌そうな顔の白峰と、まだ不服そうな絶山。

腹が立つとは言え、二日も続けて失態を演じたのは確かな事実だ。

後輩の花咲ですら、少なくとも金蔵への制裁は成功させていると言うのに、自分は真っ先に一番手強いと目されていた討条戒に戦いを挑み、あろう事か手負いの彼に一蹴されてしまっている。

 

お陰で、自分の担当だった辰爾、村山、貫木の二年三人は未だに野放しだ。

何を言われても、満足に言い返せないのは無理も無い。

 

悔しそうに顔を歪めて、箸を握り潰さんばかりにプルプルしている絶山や、周囲で我関せずと昼食をパクついている執行部メンバーを見回して、何を思ったか、意を決したように立ち上がった男子生徒が、絶山に大声で話し掛けた。

 

「せっ……先輩は悪く無いッス! その討条って悪党と辰爾って言う悪い坊主が、絶山先輩より強かっただけッス!! そんなん仕方無いじゃないッスか! 絶山先輩! 俺、先輩のカタキ取りたいッス!!」

 

「ウッセーな黙れ雑魚」

 

「ヨッシーは黙ってた方が良いよ? バカなんだから」

 

「!? 何でッスか!! あと花咲より俺の方が成績いいッス!!」

 

「……ウルサイぞー、ノンデリ国語1勢」

 

「ああっ!? 気にしてるッスのにっ……!」

 

あきらかに失礼を通り越した失言をして、絶山花咲コンビに冷たくあしらわれている無駄に暑苦しいこの男は、武正(たけまさ)義春(よしはる)

大柄な絶山よりも大きなガタイをした、討条や辰爾にならぶ上背の、青みがかった黒髪をごく短く刈り込んだ熱血漢な一年生だ。

他より長めに残した頭頂部をツンツン尖らせ、意志の強そうな濃い眉を困った様に歪めているその姿は、どこか馬鹿な大型犬を思わせる。

椅子に立て掛けた刀は、ごく平均的な刀身の打刀。

一年離れした恵まれた体格で、剣道部と執行部を兼部する若きホープだ。

 

性格が良く頭も良いが、バカなのが玉に瑕とは、彼を直々にスカウトした部長の弁だ。

 

一年花咲ユリ。

武正義春。

二年絶山剣舞。

白峰幸次郎。

三年小夜鳥遊。

鞘辷貫八。

 

曲者揃いの執行部員が一堂に会したこの場所で、様々な難があるメンバーを纏め上げる凄い奴、一際大きな巨体で、時代錯誤にも熊笹に包んだドでかい握り飯を大きな口で黙々とパクついていた男子生徒が、おもむろに声を上げた。

 

「……その辰爾とか言う二年。ヌシから見て、どれ程のモンじゃったかの、絶山」

 

「っ…………俺は、一度もマトモに戦ってねぇんで、確かな事は言えねぇっすけど……」

 

その、囲炉裏で爆ぜる燠火(燠火)の様な、静かに燃え滾る紅蓮の髪の間から覗く、澄んだ瞳に射竦められた絶山が、先程までとはうって変わったたどたどしい口調で言葉を紡ぐ。

 

「……負傷した討条にすら、俺は不覚を取った。赤平(せきだいら)部長が、討条は自分と同格だと言ってたのを、俺は眉唾だと思ってましたが……あれは、事実だった。ムカツクが、討条はアンタに匹敵する手練れだ。間違いねぇっす」

 

苦苦し気にそう言って、一度息継ぎをする絶山。

賑やかだった執行部のメンバーは一様に静まり返り、時折チラと部長の大男の顔色を窺いながら、絶山の続く言葉を待っている。

 

「……ヤツは、その討条を、万全の状態で無傷で下しやがった」

 

その言葉に、花咲以外のメンバーが、程度の差はあれど揃って驚愕を露わにし、赤平と呼ばれた部長もまた、炎髪の奥で片方の眉を釣り上げた。

 

「赤平部長……辰爾の野郎は、多分アンタより上っす」

 

「ほう……」

 

「――そうなんですよっ! 絶山先輩ときたら、それが分かってるのに私に直ぐ連絡くれなかったんですよぉっ!? お陰で、地下で辰爾先輩に出くわしちゃったトキ、私メチャクチャ挑発する様なコト言っちゃったんです! もー今日は生きた心地がしなかったですよぉ〜!! 医務室前で出くわしたトキなんか、私プチッて潰されちゃうんじゃないかと思いましたっ! アイツすっごい悪いヤツですよ! 破戒僧です! 極悪坊主です絶対!!」

 

「……一々ぴぃぴぃウルセーんだよお漏らし女。俺はその時ゃ気絶してたって言ったろーがクソ雑魚ナメクジ」

 

「しっ、しーっ!! しーっっっ!! 内緒だって言ったじゃないですかっ!!?」

 

「……花咲、チビったッスか?」

 

「うわー」

 

「チチチチビってませんっ!!」

 

「……静かにせぃ」

 

部長の静かな一言に、一斉に黙り込む一同。

……若干一名は、まだ赤い顔で隣の絶山をチラチラ睨んでいる。

 

「……しかし成る程……クク、儂より上か……」

 

そう呟いて、何が面白いのか、クククと喉の奥を震わせるように、くぐもった笑い声を漏らす赤平。

 

赤平(せきだいら)菊之進(きくのしん)

身長は二メートルと十センチ、体重は驚きの百十キロ。

学生どころか、半ば人間離れした筋骨隆々の肉体と、伸びるがままに背中に広がるゴワゴワとした赤髪。

頭頂部で二房跳ねた髪の毛が、突き出る二本の角の様に見える事から、付いた渾名は”赤鬼”。

 

背中に背負った刀は、身体に見合わず刀身僅か三尺。

窮屈そうに筋肉でデコボコと膨れ上がった学ランの両袖の中から、重々しくジャラジャラと響いて来る鎖の音が、彼が刀だけの武士(おとこ)で無い事を如実に物語っている。

 

そんな、腕っ節一つでこの血風渦巻く無双高校執行部部長にまで上り詰め、全校生徒からの畏怖と尊敬を集めるこの男が、その厳つい顔を上げて言った。

 

「……そうまで言われると、儂としても一度手合わせしてみたくもあるが……儂ら執行部に下された指令の完遂を考えるならば、(きゃつ)めの手を借りざるを得んのぅ」

 

そう言って、執行部室の奥、隣の生徒会室に繋がる赤樫の扉が、僅かに軋む音と共にゆっくりと開くのを見詰める。

 

「のぉ……顧問殿よ」

 

執行部の面々が、一斉にそちらの方に目を向けた。

 

 

 

 

 

 





明日の更新はお休みします。

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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