転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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二十八太刀

 

 

バタン、と扉が閉まるなり、待っていた三人が駆け寄ってくる。

 

「ど、どうだった?」

 

「ありゃダメだね。けんもほろろ」

 

肩をすくめてそう答えると、斬はそんなぁと目に見えて落ち込んでしまった。

 

「やっぱコイツのが早いんじゃねーか?」

 

そう言いながら、貫木が預けていた白鞘を押し付ける様に返してくる。

 

「……いや、あの様子じゃあ、真剣勝負には代理人を立ててくるだろうね。十中八九、外部から雇ったという例の顧問が出て来る」

 

「……来た意味ねぇじゃん。どうすんだ?」

 

待っている間に何本吸ったんだろうか、パンパンになった携帯灰皿を持った刺々森が、つまらなそうに聞いてくる。

一応窓は開けていたみたいだが、廊下中が煙草臭い。

 

「……正直、月島さんの分だけでも取り下げて貰ってから動きたかったんだけど、仕方あるまい。斬、悪いけど、休み時間中は月島さんに張り付いてて貰えないかい?」

 

「ええっ!? ぼぼ、僕がっ!?」

 

途端に顔を赤くして動揺する斬。

そう照れるなよ、お前のヒロインだろ?

 

「まあ常ならば、武士たるもの降り掛かる火の粉は自分で払え……と言いたい所なんだけどね。月島さんの場合、どうも親のとばっちりの面もあるようだし……嫌なら無理にとは言わんよ?」

 

そう伝えると、斬はムムムと暫く唸った後、小さくコクリと首を縦に降った。

 

「わ、分かった……。僕が、月島さんを守――」

 

「あっ! 義兄(にい)さん!?」

 

「おや?」

 

斬が震える声で、勇ましく決意を口にしようとした所で、廊下の向こうから俺を呼ぶどこか聞き慣れた高い声が聞こえてきた。

チラ、とそちらに目をやる。

 

「な、何でこんな所に居るの?」

 

「……それはこちらの台詞なんだけどね、翠乃……と、その友人さん?」

 

そこに居たのは、最近どこかよそよそしいのがちょっと寂しい妹分の翠乃と、友人AB……先日一度通学路で見かけた、目隠れショートカットの女の子と、昨日今日とお互い余り良い印象を抱いていないだろう中分けボブカットの少女……執行部一年、花咲ユリが、自分より小さな翠乃の陰に隠れる様に、動揺も露わにそこに立ってアワアワとこちらの様子を窺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理事長室の前の廊下で、お互いに意外なモノを見たという風に向かい合う、七人の男女。

こちらは長身長髪坊主を筆頭に、金髪三白眼、喫煙半裸、黒髪ツンツン頭だ。

対する翠乃側は、小学生みたいなチビサイドテールと、オドオドした目隠れ少女に、ビクビクした執行部員。

 

肉食獣の群れに出くわしたオカピの子供みたいな絵面だ。

 

「何だぁ、このチビ? 空也の妹か? 似てねぇな」

 

「下宿先の娘さんだよ」

 

「……一人は、昨日ケンカ売ってきた執行部だな」

 

「ヒッ……や、やる気なら相手になりますよっ!?」

 

上から、貫木、俺、刺々森、そして花咲だ。

貫木のチビという発言に翠乃がムッとした表情を浮かべ、刺々森に鋭く睨まれた花咲が、翠乃の小さな背中に隠れたまま、虚勢を貼りつつ戦闘態勢を取る。

 

残った斬と目隠れちゃんは、どちらも相手と自分側の人員を見比べて、困った様にオロオロしている。

 

「……俺達は、理事長にちょっと直談判をしに来てね。丁度、追い返された所だよ」

 

こんな場所で、妹分とその友人相手にケンカになっても困ると、仕方なく俺から説明する。

 

「ま、まさか理事長お爺ちゃんを亡き者にしようとっ……!?」

 

「してないしてない。君、一々言う事が物騒だね……ウチの金髪忍者と発想が同レベルだよ?」

 

「どーゆー意味だコラクソ坊主!」

 

「あ、アレと同レベル……!?」

 

「テメェもだぞ女ぁ!?」

 

大声で怒鳴る貫木に、オロオロしていた目隠れちゃんまで、ヒエッと驚いて翠乃の後ろに隠れてしまう。

 

「……空也義兄さん、付き合う友達が物騒すぎるんじゃないですか……? 義兄さんまで不良になっちゃいますよ?」

 

割と本気気味に心配され、少しばかり頭が痛くなる。

まあ、否定は出来ないと言うか……俺も決して褒められた生活態度でも無いと言うか……。

 

「コホン……そう言う翠乃は、どんな用事でここへ? 見た所、後ろの彼女は俺達を殺そうとしていた執行部の一年に良く似ているようだけど?」

 

俺に視線を向けられた花咲が、うぐっと呻きながらこちらに構え直す。

冷や汗こそ浮かべている様だが、月島さんと違って戦意までは失って居ないようだ。

朝は結構な体たらくだったが……。

 

花咲の足元を見ると、流石にニーソックスの代えは持って来ていなかったようだ、医務室で借りたであろう、飾り気の無い白いハイソックスに履き替えている。

 

「うぐぐ……!」

 

チラッと見られた事に気付いたのだろう。

花咲が恥ずかしそうに内股気味になって、頬を赤く染めている。

 

そんな俺達の様子に気付いたのだろう。

翠乃が、俺と花咲の顔を交互に見比べて一言。

 

「えっ……寝取られ……?」

 

「違うから」

「違いますっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も、義兄さんが粛清なんかされなきゃいけないのは納得出来ないから、理事長さんを説得に来たんだ!」

 

ジットリとした目で、裏切り者を見るように花咲に迫る翠乃の誤解を解き、ここに来た理由を尋ねてみた所、返ってきた答えがそれだった。

 

「義兄さんの事は昔から知ってるもん。変な所はあるけど、悪人なんて呼ばれるような人間じゃ無いって事は確かだよっ! ユリにもそう言ってるのに、全然信じてくれないし……しかも義兄さん、ユリ達執行部に命を狙われてるんだって? どうして教えてくれなかったの!?」

 

そりゃ、朝の時点では執行部に対してさしたる脅威を感じて無かったし……無駄に心配もさせたく無かったからだが……。

 

怒った顔の翠乃に詰め寄られ、秘密を”お漏らし”したであろう花咲をジトっと睨む。

コイツ、上も下も弛すぎだろ……と言う目で見詰めてやると、花咲は顔を反らして明後日の方を見詰め、冷や汗を垂らしている。

 

まあ、親友の義兄を殺さなきゃいけないなんて、こんな脳天気そうな花咲でも思う所はあったのだろう。

あわよくば、俺が悪人であると翠乃に納得させて、気分良く任務を遂行しようとしたのかもしれない。

 

「……逆に聞くが翠乃。そこな友人程度が束になった位で、たとえ俺が素手だったとしても……勝てると思うかい?」

 

「思わないから止めにきたんでしょ? 一応、ユリは友達だし、クラスメイトにもう一人居る執行部の男子も、ウザいけど悪いヤツじゃ無いし……義兄さんに思いっ切り手を抜かれてボコボコにされたら、かわいそうじゃん!」

 

……スゲェはっきり言うじゃん。

見ろよ、後で花咲がメチャクチャショック受けた顔してるぞ?

 

「クカカッ! 良ぉく分かってんじゃねーかチビ! まっ、コイツの心配なんざ、するだけムダだぜ」

 

そんな様子を見て、頭の後で腕を組んだ貫木が、愉快そうに笑う。

翠乃は、怖い顔の不良にチビと言われた事への憤りと、義兄の俺を褒められた嬉しさか何かで、複雑そうな何とも言えない表情をしている。

 

「それに、ここに来たのも無駄足だったよ。理事長は、俺の手配書を取り下げてくれたからね」

 

渋々だったけれど、と付け加えると、翠乃と目隠れちゃんは安心したように、花咲は信じられないといったような顔で、それぞれの反応を返してくる。

 

「……なぁんだ。じゃあ、私が焦って来ることもなかったね」

 

「嘘……そんなはず」

 

俯いてコクコクと満足そうに頷く翠乃に見えない様に、花咲の方に向かって、口元に一本の指を立てて合図を送る。

どうせ、お前にどうこう出来る事でも無いんだ、黙っといてくれよ……?

 

花咲は、どうやら俺の嘘が分かったようで、黙ってコクリと小さく頷き返して来た。

一瞬、目隠れちゃんの方もその様子に気が付いた様だが、敢えて事を荒立てたく無かったのだろう、黙って翠乃の制服の袖を握っている。

 

後頭部に突き刺さる責めるような視線を努めて無視しながら、言う。

 

「じゃ、翠乃の用事も済んだろう? こんな所にいて、変な因縁をつけられても事だ。さっさと教室に戻りなさい」

 

「うん。……じゃ、また家でね、義兄さんっ!」

 

そう言って、翠乃は友人二人の手を引いて、廊下の先へと消えて行った。

 

「……よ、良かったの? あんな嘘ついて……?」

 

恐る恐るといった風に、斬が尋ねる。

 

「何、今日中に執行部との()()をつけてしまえば、問題ないだろう?」

 

そう言って、そうこなくっちゃという顔でニヤリとしている貫木と、目をつぶって煙を吹き出している刺々森に振り返る。

 

「では、行くとするか。執行部とやらの根城に」

 

 

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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