転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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二十九太刀

 

 

 

斬を月島さんのもとへ送り出した俺と貫木、刺々森の三人は、階段を一つ降りて執行部室のある四階に来ていた。

この階は、特進科のクラスやそれに関係する施設しか無いため、普段立ち入る事の無い階層だ。

 

創めて足を踏み入れてみて思ったが……何と言うか、どこもかしこも綺麗だ。

壁も綺麗な板材で、床には埃もなく、どの部屋の扉もしっかりとした重厚な造りになっている。

ウチの階のよくある安っぽい引き戸とは大違いだ。

綺麗な格子窓に嵌まるガラスは全て磨りガラスで、中の様子は伺えない。

廊下を歩く生徒達も、同じ学校とは思えないくらい身綺麗で、姿勢も良い。

 

そんな特進科の生徒達にジロジロ見られながら(ほぼほぼ、刺々森の咥え煙草のせい)、生徒会執行部室の前に到着し、一度二人を振り返った。

 

「さて、来たは良いが、どうしようか? 上品にノックでもすべきかね? それとも、道場破り宜しく名乗りでも上げようか?」

 

「……時間もねぇし、手っ取り早く行こうぜ」

 

「オウ。ケンカ売りに来たんだ、コレっきゃねぇだろ!」

 

無表情の刺々森と、目をランランと輝かせた貫木がそう言って、同時に足を持ち上げた。

おーおー、元気の良い事で……。

 

空気を読んで一歩脇に避け、廊下で何事かとこちらの様子を窺っている特進科の生徒達に苦笑しながら会釈を送る。

 

貫木と刺々森が、同時に声を上げた。

 

「「たのもー」!!!」

 

ドガァンッ、と、蹴破られたドアが執行部室の中へと吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、空也に月島の護衛を頼まれた斬は、屋上への階段を足早に上っていた。

一度戻った教室で月島の姿が見当たらず困っていた所を、普段月島と一緒に居る事が多い女生徒に、月島は斬達を探しに屋上へ向かったと聞き、急ぎ踵を返していたのだ。

 

斬は、階段を繰り返し上り下りする負担とは別に、何か胸騒ぎの様なモノを覚えていた。

ココ最近、毎日の様にトラブルに巻き込まれていた斬だ。

この学校に転校してきてからこちら何かと気になっていた少女が、執行部に狙われているというのにもかかわらず一人で屋上へ向かったと聞いた時には、まさかな……と思った斬だったが、有り難くも無い事に、今回もその不安は的中してしまったようだ。

 

屋上へ続く鉄扉の向こうからは、まさに件の月島と、今朝医務室の前で見かけた執行部の二人のモノらしい、何事か言い争う声が聞こえて来ている。

 

恐る恐るそのドアを開けた斬の視界に入るのは、やはり思った通り、刀を抜いて厳しい顔をした月島と、それに相対して拳を構える執行部の女生徒、先程理事長室の前で会ったばかりの、花咲ユリ。

そしてそれを見守る背の高い執行部員の男子生徒、絶山剣舞の姿だった。

 

(ひぃぃ〜……や、やっぱり……!)

 

「……雑魚が一匹増えたか」

 

「村山君っ!?」

 

絶山が面倒臭そうにそう呟き、額に冷や汗を滲ませていた月島が、ハッと振り返って驚きの声を上げる。

その安堵した様な表情に、またぞろ臆病風に吹かれていた斬の覚悟が決まり、グッと目に力が入る。

 

「たっ、助けに来たよっ!」

 

そう言って、月島に駆け寄って隣に立つと、研無刀の鞘を腰溜めに構え、いつでも抜ける様に執行部の二人を睨む。

……どこかまだ遠慮が抜け切らないというか、威圧感が足りないというか、虚勢を張る小型犬めいた微笑ましさがあるが、これでも彼は必死なのだ。

 

「村山君達、どこに行ってたの!? 朝の事とか、執行部の事とか、色々聞こうと思ってたのに屋上に居ないし、かと思ったらコイツ等が来てアタシを消すって真剣勝負を仕掛けてくるしっ!」

 

「ご、ゴメン……空也君達と一緒に理事長室に行ってて……。人相書を取り下げて貰おうと思ったんだけど、上手くいかなくて。一人でいる月島さんが危ないからって、僕だけ戻って来たんだ」

 

「辰爾君達は?」

 

「多分、執行部の方に行ってる」

 

「ほう…………あのクソ坊主は四階か……となると、貴様等なんぞに余計な時間は使ってられねぇな」

 

と、斬と月島の会話を黙って聞いていた絶山が、こめかみに青筋を浮かべながら背中の直剣を抜き、前に突き出した。

 

「花咲! そっちの女を秒で片付けろ。チビは俺が殺す」

 

「ええっ!? 別に私は二対一でも……先輩大ケガしたばっかりじゃないですか〜、無理しない方が……」

 

「黙れ死ね。さっさと終わらせて下に行くぞ」

 

「はーい……」

 

「…………!」

 

横に歩いて花咲と距離を取りながら鋭い目付きで睨みつけてくる絶山に、自分もまた月島との距離を開けながら追従して間合いを測る斬。

 

月島対花咲。

斬対絶山。

つい先日も貫木との死闘を繰り広げた屋上で、二つの決闘がまた、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

絶山に不服そうな顔で軽い返事を返した花咲が、よっと、と呟きながら、背中に隠していた鍔無しの仕込み刀を引き抜く。

月島が、自分以外で刀を持つ女生徒を、珍しいモノを見たという風に目を見開く。

 

「じゃ、先輩がウルサイんで、さっさと死んでくれますか〜?」

 

そんな物騒な事を言って、クルクルと手慣れた様子で刀をもてあそぶ花咲に、思わずといったように呟く。

 

「……あなたも、女の身で武士を目指しているの?」

 

その言葉に、キョトンとした顔で花咲が答える。

 

「? 何ですか急に。男とか女とか、今関係あります?」

 

「……そうね。ごめんなさい、何でもないわ」

 

「変な悪党さんですね〜」

 

 

 

 

 

「……どうしても、戦わなきゃダメなの?」

 

「黙って死ね、悪党が。命乞いなぞ、武士(おとこ)として恥ずかしくねぇのか?」

 

まるで取り付く島も無い絶山に、少しムッとした様子で斬が言い返す。

 

「その悪党って言うの、ヤメてよ……! 僕も、月島さんも……空也君も貫木君だって、何にも悪い事なんかしてないよっ! 刺々森君だって……金蔵は悪いヤツだったけど、汚い仕事は殆ど討条がやってたって言ってたし、少なくとも殺されなきゃいけないくらい悪い人間じゃないはずだよ!!」

 

いつにない大声で、悲痛な叫び声を上げる斬だったが、はたして絶山は、そんな事まるで意に介さない様子で冷たく答える。

 

「くどいぞ村山斬。上が悪だと断じたならば、悪なんだよ。刺々森とかいうクズも、一度でも下衆の下に付いたなら弁明の余地無く同じ下衆だ。大人しく俺に斬り殺されろ」

 

そう言って、腰を落として長大な剣を構える。

もはや何を言っても聞きそうにないその様子に、斬は悔しくなって叫んだ。

 

「……! 偉い人の言う事は何でも正しくて、命令だったら誰でも斬るって言うの!? そんな武士道、間違ってる!!」

 

「悪党が武士道を語るな」

 

「……っ!」

 

斬が腰を深く落とし、柄頭に手を置く。

交わす言葉は尽き、互いに一歩も譲らない。

刀を合わせずして、分かり合える事は、何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如何にも高級そうな木製の扉を踏み越えて、二人に続いて執行部室の中に歩み入る。

後で弁償しろとか言われたら面倒だなぁと思いつつ部屋の中を見渡すと、これまた高そうな毛足の長い絨毯の敷き詰められた、調度品の一つ一つにやたらと金が掛かっていそうな上品な部室だ。

これが学生の使う部屋かよ……と思いながら、視線を感じて首を戻すと、部屋の中央に設置されたフカフカそうなソファーに深く腰を下ろした三人と、今まさにコーヒーメーカーからカップを取り出した一人の、合計四人の生徒が目に入った。

 

「よぉよぉ執行部のお偉サマ方よぉ! 俺達にツマンネぇ決まり押し付けといて、随分とユウガなお昼休みじゃねぇか? 俺にも茶ぁ出せ、茶!」

 

声色もウッキウキなミイラ男が、ドチンピラ丸出しの態度で、こちらを見て固まっている四人の執行部員らしき生徒を恫喝する。

朝から理由(ワケ)の分からない状況に振り回され、喧嘩の一つも出来ないイライラが爆発したらしい。

敵の本拠地に乗り込んで、ようやく戦えると元気一杯だ。

 

……俺も似たようなモノだが、コレと仲間だと思われたくないな。

 

「……チンピラかよ」

 

「ウッセー、ハダカピアス! テメェだってノリノリでドア蹴破ってただろーが!」

 

咥え煙草の刺々森の呟きに、勢い良く噛み付く貫木。

コントやってる場合じゃないだろうに、怪我人同士仲の宜しい事だ。

 

「うわぁ……ヘンな人達だぁ……」

 

四人の内の一人、水色の髪をした小柄な少女が、代表して感想を漏らす。

 

金髪ミイラ。

喫煙ピアスで片腕ギプス。

袈裟と錫杖の長髪坊主。

 

……まあ、変ではあるな、遺憾ながら。

 

早くも闘争の空気では無くなりつつある中、ずっと油断無く俺達――その中でも、特に俺――を見詰めていた、一番奥のソファーに腰掛けていた大柄な赤髪の男が、重々しく咳払いをした。

 

「「!」」

 

バッ、と、言い争っていた二人が同時に振り返り、そちらを睨む。

 

「……その蹴破った扉の弁済費用については後に置くが……」

 

……あ、それは俺無関係なんで一つ宜しく。

 

「……本当に茶を飲みに来ただけ……という訳ではあるまいな? のう……二年坊主共よ」

 

赤髪の男は、がっしりと組んだ大きな手の後で、ニヤリ、と嗤いながらそう、呟いた。

その堂々とした佇まいから、討条にも似た強者の気配を感じ取った俺は、釣られて笑みを浮かべながら、問に答える。

 

「勿論。俺達は、俺達に認められた()()を行使しに、はるばる生徒会執行部室まで足を伸ばした次第でございましてね。……もっとも、どうしてもと言うのなら、お茶の一杯位付き合うのも、(やぶさ)かでは無いですよ……先輩殿?」

 

すると、大男は心底愉しそうに目を細め、クツクツと喉を鳴らした。

取り敢えず、俺も空気に合わせてフフフと笑っておく。

 

貫木と刺々森、そして小柄な女生徒が、変なモノを見る目で俺と大男を見比べている。

 

「……共鳴?」

 

可愛らしい声で首を傾げる女生徒。

 

「ク、ク、ク…………のお、小夜鳥(さよどり)。この活きの良い二年に茶を煎れてやれ」

 

徐ろに、大男がコーヒーメーカーの所で我感せず、とマグカップを啜っていた長身の男に声を掛ける。

 

「良いの? ソイツ等、()()()で、しかも()()()でしょ?」

 

「構わん。もっと賑やかになると読んでおったのに、先生方が攻めて来て以来、休み時間になってもだあれも()んので退屈しておった所だ。やっと骨のある奴等が出てきたんだ、叩き潰す前にちょっともてなしてやってもバチは当たらん」

 

「……ま、部長がイイんならいいけど」

 

「ほれ、(ちこ)う寄って、座れ」

 

小夜鳥、と呼ばれた男子生徒が言うのを聞くに、この大男が執行部の部長か。

歴史と伝統あるジャンプ漫画において、図体のデカい幹部はザコでも、図体のデカい首魁はマジモンの強者と相場が決まっているのだ。

外部の顧問とやら以外、大した手合いは居ないと思っていた所に、この配役。

イヤがおうにも期待が高まる。

 

その部長に手招きされ、胸の高鳴りを抑えながら堂々と風を切って中央のテーブルに向かう。

 

「では、遠慮なく」

 

一言断って、刀を抜いてテーブルに置き、部長の大男の正面のソファーに腰を下ろす。

革張りのクッションが、俺の重い身体を受け止めて、深々と沈み込む。

……この柔らかさ、少々抜き打ちに不利だな……等と物騒な事を考えながら、錫杖を肩に預け、背筋を伸ばす。

 

両側に座っていた二人の執行部員……小柄な少女と、これまた小柄なちょんまげ頭の男子生徒が、揃って腰を浮かせて、部長の脇を固める椅子に場所を移す。

二人が二人共、二本の刀を持ち上げて、ソファーに立て掛けている。

斬世界では珍しい二刀持ち二人……もしかすると、双方共に二刀流か?

 

俺がそんな事を考えていると、貫木と刺々森もまた、俺の横まで歩いて来る。

貫木は、自然な動作で俺の座るソファーの肘置きに軽く腰掛ける様にして腕を組み、刺々森は背もたれに右肘を突いて、ギプスをはめた左腕で煙草を挟んで、煙を吐き出している。

 

どちらも、座る気は無いようだ。

喧嘩慣れした二人には、ソファーに座る不利が良く分かっているのだろう。

茶なんか要求しておいて、中々にふてぶてしい。

……それは良いが、なんかこの態勢、ヤバいヤクザ坊主が用心棒二人に脇を固めさせている様に見えないか?

絵面大丈夫?

 

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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