転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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三十太刀

 

 

 

中天から降り注ぐ日差しがジリジリと屋上のコンクリートを焼く。

時折強く吹く風が乾いた砂埃を巻き上げ、パラパラと小さな音を立てる。

 

ざり、と花咲が一歩足を踏み出し、陽光を反射して白く輝く刃を月島に向ける。

 

来る! と思った時には、花咲の突き出す刀の(きっさき)が、月島の眼前に迫っていた。

 

「っ!」

 

身を捻る月島の前髪を掠めて、花咲の鋭い突きが空を穿つ。

 

「やあっ!」

 

今度は月島が躱した勢いのまま踏み込んで、花咲の胴に横薙ぎを放つ。

 

「よっ」

 

「えっ」

 

その深めに踏み込んだ月島の右腕の出掛かりを、花咲の掌底が押さえる。

即座に回転した花咲の肘が、月島の肩を強かに打ち据えた。

 

「ぐっ!?」

 

「悪党のクセに綺麗な型ですね?」

 

月島が思わぬ痛打に顔を顰めながら薙いだ刀に危なげ無く刃を合わせ、お返しの足刀を放つ花咲。

すんでで顔を引いた月島の鼻先を、花咲のローファーの爪先が風切り音と共に通り抜ける。

 

「それっ」

 

それだけでは終わらず、軸足を入れ替えた花咲の後ろ蹴りが、咄嗟に差し込んだ月島の右腕に突き刺さる。

 

()ぐ……!」

 

「トドメっ!」

 

たたらを踏んで大きく体勢を崩した月島に対し、身体を捻り込む様に素早く後ろに回り込んだ花咲が、後ろ手に剣閃を叩き込む。

無慈悲な白刃が振り返る事も出来ない月島のうなじに鋭く迫り――。

 

「っく!」

 

――間一髪の所で、月島が背後に回した刀の根元で受け止めた。

ガリガリと、金属がこすれ合う耳障りな音が月島の耳元で鳴り響く。

 

「このっ……!」

 

刀を軸に振り返った月島が花咲を睨むが、鍔迫り合いを嫌った花咲は素早くその場を飛び退き、クルンとバク転をして間合いを開け直す。

 

開始数秒で危うく首を失いかけた月島が肩で大きく息をしているのに対し、激しく動き回って月島を攻め立てた花咲は、涼しい顔で刀の刃こぼれを確認している。

 

「うーん……ちょっと勝負を焦り過ぎちゃいましたかね? お行儀の良い道場剣術だったんで、楽にカモに出来ると思ったんだけどなぁ。意外とやりますね、先輩」

 

「……そう言うアナタこそ、随分足癖が悪いわね」

 

何とかそれだけ言い返す月島だったが、肘の入った肩はジクジクと痛み、蹴りを受け止めてしまった腕は、塞がりかけの傷が開いてしまったのか、袖にジワリと赤い染みが滲んでいる。

 

未だ真剣勝負に対するトラウマが抜け切らないのか、若干青ざめた顔色とも相まって、既に大勢は決してしまった様にも見えた。

 

「あんまり手こずってると、先輩に怒られちゃうし……もう観念しません? 顔色悪いですし、アナタに勝ち目なんか無さそうですよ?」

 

面倒臭そうにそう提案する花咲。

明らかに自分を下に見るその態度に、月島がギリ……と奥歯を噛み締める。

 

女の身で刀を握る者どうし、敵ながらどこか親近感の様なモノを覚えていた月島だったが……この舐め腐った態度を前に、そんな遠慮は消え失せた。

胸の奥から熱いモノが込み上げ、反対に頭はスゥーッと冷えてゆく。

脚の震えが抜け、固く締めすぎていた柄の握りを気にする余裕が戻ってくる。

 

花咲から目を離さず睨んだまま、ふぅー……っと大きく深呼吸する。

 

肩を打たれた方の腕はまだ甘く痺れているし、利き腕の傷は鋭く痛む。

しかし、牛尾に敗れてからこちら、崩れっぱなしだった調子が幾らか取り戻せている様にも感じる。

 

「……やってみなきゃ、分からないでしょ!」

 

花咲を睨みつけて、自分にも言い聞かせる様に、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お互いに得物を構えたまま、絶山君と激しく睨み合う。

 

(絶山君に勝って、こんなコト止めさせなきゃ……!)

 

離れた所で向かい合う月島達の方から、激しい剣戟の音が響いて来る。

均衡を崩す様なその甲高い音に、ここだ……! と、いよいよ一歩目を踏み出そうと重心を動かす。

 

その瞬間だ。

 

絶山君もまた、機先を制する様な鋭い踏み込みで、自分に向かって突撃してきた。

 

「…………っ!」

 

一瞬遅れて自分もまた一歩目を踏み出しながら、想像以上の速度で迫る絶山に己の失敗を悟る。

 

(速すぎる……これじゃとても三歩なんて……っ!?)

 

これだけをただ闇雲に練習した三歩の踏み込み。

その二歩目すら待たずに、絶山君の初撃が自分の間合いに飛び込んでくる。

 

「オラァッ!!!」

 

「くっ!?」

 

絶山君の直剣が袈裟懸けに振り下ろされる。

とっさに二歩目を踏ん張りながら、不格好な抜き打ちで研無刀を斬り上げた。

 

ガァンッ!! と、刃がカチ合わさる。

 

「むぅ……!」

 

「ぐぐ……!!」

 

剣自体の重さも合わさった重い衝撃が、不完全な形で受け止めざるを得なかった両腕にギシギシとのしかかる。

 

「……雑魚が、研無刀なんぞ持ってイキがりやがって……!」

 

「イキ……がってなんか…………」

 

片腕で振り下ろした剣の柄に、もう片方の腕も充てがって渾身の力で斬を押し潰そうとする絶山君に、歯を食いしばりながら抵抗する。

 

「無いっ!!!」

 

「ぐっ……!?」

 

ガキィンっと、全力で振り切った研無刀に弾かれ、絶山君が大きく一歩飛び退いた。

 

すぐさま刀を鞘に収め、大きく息を吐く。

絶山君もまた、直剣を屋上の床に突き、荒く息を吐いている。

よく見ると、長ランの間に見えるワイシャツの脇腹に、真っ赤な染みが広がってゆくのが透けて見える。

 

「うぐっ…………ふぅ……ふぅ……!」

 

「…………!」

 

絶山君は、昨日討条先輩に大怪我を負わされたばかりだ。

自分だって連日の怪我は全然塞がっていないし、今でもズキズキ痛むけど……絶山君の怪我は、下手したら死んじゃうくらい深かったはず……今こうして立っているのも不思議なくらいだ。

 

平気そうな顔をしているけど、本当は真剣勝負なんてしてる場合じゃ無いはずなのに……!

 

「……たっ、絶山く――」

 

「どうした、村山斬? 今更怖気付いたか……!?」

 

僕が言い掛けたのを遮る様に、ギラギラした目をした絶山君が再び剣を構える。

 

「っ……そんな怪我で、真剣勝負だなんて無茶だよっ!?」

 

思わず、声を上げてしまう。

 

「絶山君が僕達の事を悪党だって思ってるのは……納得はできないけど、分かったよ! でも、何も今の絶山君が戦わなくたって、他の執行部のヒトに任せれば――」

 

「それ以上寝言を続けるようなら、落とした首の口を縫い合わせて校門に晒すぞ……!!」

 

その瞬間、地獄の底から響いて来るような凄まじい怒気を滲ませた震える声で、絶山君が僕を真っ直ぐに睨み付けた。

殺気を凝縮したようなその視線が、否応もなく僕の口をつぐませる。

 

「この絶山剣舞(オレ)を……悪党風情(ふぜい)が……!!」

 

グオッと大きく脚を開き、弓を引き絞るように直剣を構え、凄まじい形相で叫ぶ。

脇腹の出血はシャツを濡らし、ズボンにまで染み込んでいる。

 

「ナメてんじゃねぇえぇえぇえぇっ!!!」

 

命を燃やし尽くすような気炎を吐いて、絶山君が突っ込んで来た。

 

(…………止めなきゃ)

 

僕が止めなければ、絶山君は死んでしまう。

たとえここで僕を倒しても、下で戦っている空也君達の所に勝負を仕掛けに行って、命を落としてしまう……そんな光景が目に見えた。

 

絶山君が間合いに飛び込んで来るまでの刹那に、深く息を吐いて腰を落とす。

その考え方は認められないけど、絶山君は、間違い無く武士(おとこ)だ。

 

だったら僕も、武士(おとこ)らしく――。

 

 

 

ブワッ、と、胸の奥から何かが全身に駆け巡る。

一撃で、止める。

 

 

 

「死ねぇっ!!!」

 

絶山君の烈帛(れっぱく)の突きが、()の間合いを貫く。

その瞬間には、研無刀の刀身が音も無く鞘を疾走(はし)っていた。

 

知らず、口が動く。

 

 

 

「――壊凪(かざなぎ)

 

 

 

絶山君の影と、僕の影が交差した。

 

遅れて、研無刀を振り切った腕の感覚が、脳に届く。

更に遅れて、キィン……という済んだ音が、屋上に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お茶。結構いいヤツ」

 

「どうも……先輩、で良いんでしょうか?」

 

普通、粗茶とでも言う所を、わびれもせずに良いお茶だと言ってテーブルに置いてくれた、小夜鳥という長身の男子生徒に向かって、軽く顎を引きながら尋ねてみる。

 

「学年のコト聞いてるなら、そうだね。ボク三年だから」

 

飄々(ひょうひょう)とそう答えて、

 

「キミ等もどーぞ」

 

「おう」

 

「…………」

 

続けて貫木と刺々森にもお茶をお盆ごと差し出す小夜鳥先輩。

刺々森は無言で手の平を差し出し受け取らず、遠慮なく湯呑みを鷲掴みにした貫木は、アツっと言いながら縁を掴み直している。

 

正面の巨漢部長の所にも湯呑みが置かれた事を確認して、俺も湯呑みに手を伸ばして口元に持ってくる。

一口、啜る。

 

…………うん。

多分、美味しい。

お茶の良し悪しが分かる様な育ちでも無いので、取り敢えず分かった様な顔で湯呑みをテーブルに戻す。

 

その辺りで、再び執行部部長が口を開いた。

 

「ク、ク、ク……どうだね、執行部の部室で飲む茶は」

 

「さて、育ちが悪いモノで……しかし、こう苦いお茶を飲むと、()()()でも摘みたくなりますねぇ」

 

暗に、お前らを軽食がわりに捻ってやろうか? と言ってみると、しっかり意味が伝わった様で、笑みを深めた部長が面白そうに返事を返してくる。

 

「甘い物、か。生憎と、儂等の所は見ての通りの男所帯。そういう気の利いたモンは置いて無いんでなぁ」

 

そう言って、髪と同じく赤い顎髭をゴリゴリと撫でながら、左右の部員の顔を見比べる。

それを受けた美少女とちょんまげが、ソファーから腰を浮かせて立て掛けていた刀を手に取った。

 

此奴等(こやつら)なら、そこそこ()()()があると思うが、どうだ? あまり()()()()()がね」

 

大小二本の太刀を左腰に佩きながら、ニッコリ笑って刺々森に手を振る美少女と、左右の腰に一本ずつ、同じ(かな)細工の拵えの太刀を下げ、険しい目で貫木を睨むちょんまげ。

 

「…………チッ」

 

「お! 俺の相手はお前か」

 

刺々森は舌打ちをして。

貫木は湯呑みをテーブルに置いてポキポキと指を鳴らしながら、それぞれ正面に立ってやる気十分な相手を睨み返している。

 

……あの女の子、あの見た目で戦闘要員か。

チラリと見えた手の平や、スッと伸びた立ち姿を見る限り、中々に出来そうだ。

いよいよ月島さんの立つ瀬が無いな……。

ボサボサ髪のちょんまげ男子の方は、この部屋に入った瞬間から強いのが分かっていた。

身長こそ斬と同じ位だが、体格が段違いだ。

貫木はちと厳しいか。

 

示し合わせた様に部屋の左右に別れてゆく二組を眺めながら、正面の部長に尋ねてみる。

 

「……して、俺のお相手はそちらの先輩ですかな?」

 

お盆を片付けた後、留まり木の(フクロウ)と戯れていた小夜鳥先輩に視線を向けると、先輩は無表情で手の平を上に上げ、肩をすくめて見せた。

 

「意地が悪いの二年坊主。小夜鳥じゃ相手にならんだろう」

 

そう言って、執行部部長は前屈みになっていた背中を後ろに倒し、ソファーに大きな身体を沈める。

 

「まあ、狭い部室だ。()ずはそちらの二人の腕前の程を、じっくり見せて貰おうじゃあないか」

 

 

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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