セーラー服の腰に巻いた剣帯に差された小太刀の柄と、佩いた太刀の柄に同時に手を伸ばし、チンと鯉口を切りながら水色髪の美少女が口を開く。
「えへへ、こうして立合うのは何ヶ月ぶりかな、刺々森君」
「…………」
「あれ? ウチとお話する気、無いかんじ?」
無言で煙を吐き出しながら、鋭斬刀をスラリと抜き放った刺々森に対し、左腰の大小二刀を交差した細い両腕で同時に引き抜いた女生徒が、緩く構えを取りながらさして気にした風も無く話し掛け続ける。
「相変わらず
刺々森の事を良く知っているような口ぶりで、左手の一尺六寸程の小太刀を前に、右手の二尺三寸程の太刀を後ろ手に掲げ、半身になって脚を半歩程開いた。
大小二刀流を使うようだが、見た事の無い穏やかな構えだ。
チラッとソファーで腕を組む部長の方へ目線をやると、彼は二人に目線を向けたまま、俺の疑問に答えるように口を開く。
「聞いておらなんだか。あの刺々森という男、一年時は特進科におったのだ。素行不良が原因で進級時に普通科へ落とされたと聞いておるが、内の白峰が奴を良く知っとるのはその為じゃ」
「へえ……あの刺々森が」
意外だ。
いや、素行不良は納得だが、それでも入学時は特進科に入れる位に優秀だったのかアイツ。
金が目的で金蔵なんかの腰巾着をやっていた事といい、家庭環境が気になる男だな、刺々森。
「……あとお前さん、勘違いしている様だが」
「?」
「白峰は男だぞ?」
「……は……?」
驚きのあまり、グリンと首を回転させて、白峰というらしい小柄な
それに気付いた彼が、チラッとこちらを見て、舌の先をチロッと出しながらパチリとウインクをした。
「白峰幸次郎です。どうも、悪党さん」
「…………」
無言で手を上げヒラヒラと返事をしながら、心の中で叫ぶ。
男の娘……だと……!?
どっからどう見ても女子にしか見えない。
確かに月島さんと同じく胸は無いが、ぱっちりとした目やサラサラの透き通った髪、小さな肩や身体の丸みまで、まるっきり美少女そのものだ。
ぶっちゃけ月島さんより可愛いのに、男の娘……!?
「驚くのは早いぞ辰爾空也。白峰は二年じゃが、執行部の副部長を任せておる」
刺々森に向き直り、トンットンッと左右に軽くステップを踏む白峰を見詰めたまま、部長の言葉が耳を通り抜けてゆく。
「強いぞ、白峰は」
「じゃっ、腕が落ちてないか確認して上げるよ、刺々森君♪」
「…………黙って来りゃいいじゃん、女装男」
執行部副部長白峰が、ニコニコしたままキリッと眉を上げ、軽やかに刺々森へと踊り掛かった。
べらべらとおしゃべりなのは相変わらずだが、白峰の剣の腕は確かだ。
学校の剣術の授業なんて、落第さえしなきゃ適当で良かったが、乱取りでコイツと当たった時には、俺には似合わない事に何度か熱くなりかけた。
まして真剣勝負、コチラは左腕が折れたまんまとくれば、先手なんてやって調子付かせるのも具合が悪い。
貫木の野郎も、先ずは俺達の戦いを見守る様に動きを止めている。
情け無い所は見せられない。
先手必勝だ。
「フッ……!!」
近付いて来る白峰に対し、コチラも体勢を低く踏み込んで、先制の一閃を放つ。
出足の浮き際を狙った、不意を打つ逆袈裟だ。
「ん」
「チッ!」
あわよくば一撃でと思った初撃はしかし、白峰の突き出した小太刀に読んでいたとばかりに阻まれ、受け流される。
キィィィンッと火花が散り、白峰の身体がフラリと横にブレる。
「お返……しっ!!」
白峰の髪がフワリと広がり、右手の太刀が横薙ぎに風を切る。
身体を逸らしてそれを躱すが、広がった髪で一瞬白峰の体勢を見失う。
返す刀がユラリとした小太刀に逸らされ、身体を一回転させた白峰の右腕が下段を薙ぐ。
「えいっ!!」
「甘ぇ」
緩急の効いた一閃を跳んで避けながら、追撃を避けるために振るった鋭斬刀が、
刀と刀を打ち合ったとは思えない異様に軽い感触。
半間ばかり飛び退いた所に、朧気に揺らぐ剣先が突き出される。
ピクリと左腕を疼かせながら、ギリギリで首を逸らし……此方も身体を半回転させて突き、当たり前の様にチリリと流された刃をV字に斬り上げる。
小手が無いのが痛すぎるぜ、畜生。
「させないよっ」
「相変わらず、面倒な……!」
胸元を切り裂く様に放ったそれは、白峰の引き戻した太刀の刃の上を、ジジジっと滑って空に流される。
間髪入れず、俺の手首を撫でる様な小太刀の一閃。
すんでで身をよじり、脆い鋭斬刀の峰を削りながら受け流す。
流れる様な斬り下がりは右手の太刀でいなされて、ようやく一度、ふう、と息を吐いた。
受けの上手さは相変わらずだ。
大小
忌々しい程に、攻撃一辺倒な俺の鋭斬刀と相性が悪い。
本当に厄介な野郎だ。
「ヘヘ……刺々森君も相変わらず剣筋は鋭いけど、なんか調子悪そうだね。頼みの左腕はそんなだし……なんか右脇腹も怪我してる? 動きがぎこちないよ?」
執行部の自分にしてみれば、その方が都合が良いだろうに、不服そうに柳眉を顰めながら俺に問い掛けて来る。
「…………関係ねーな」
「いや、関係大アリでしょ! 篭手も鞘も無しでウチの湖月二刀流に勝てるなんて思われてるなら、ちょお〜〜っと心外だよ?」
「……だからそう言ってんじゃん」
ムッとした顔でコチラを睨む白峰の視線を受け流しながら、咥えた煙草の吸いさしを、左手でピンと弾き飛ばす。
クルクルと回転する煙草はテーブルの上の湯呑みの中へと吸い込まれ、ジュッと音を立てた。
呑気に見物してやがる坊主が「おいコラ」等と言っているが、無視する。
確かに、俺の鋭斬刀は手数には優れるが、受けに特化した白峰の二刀流が相手ではさして優位を取れない。
あわよくば刀身を切り飛ばしたい所だが、肉厚で反りの深い太刀で、ああも不規則に踊るような受けをされると、ただでさえ困難な斬鉄など、試す気にもならない。
俺が鞘を使った二刀流や、無崩篭なんてモノを使い出したのも、この手の面倒な手合いを楽に打倒するためだった。
しかし――、
「俺は鋭斬刀使いだ。元々右腕一本あれば、なんだってバラバラに出来んだ。他なんかオマケに過ぎねぇ」
肺に残った白煙を吐き出しながら、何時になくクリアな頭で刀を構える。
余計な事を考えなくて良い分、かえって普段より”斬る”という一点に集中出来ると言うモノだ。
「御託は終わりとしようぜ。言いたい事があんなら勝ってから言えよ」
それだけ言って、鋭斬刀の先が床に突くくらいの下段に構え、腰を深く落として前傾姿勢をとる。
あの鬼強ぇ討条さんだって、辰爾にバッサリ
そんなら、たかが骨折と打撲くらい、どうという事は無い。
勝つのは、俺だ。
「……半殺しで退学、くらいで勘弁してあげよーかなー……って、思ってたけど、やーめた。後悔しても遅いからね、刺々森君」
「言ってろ、オカマ野郎」
「ムカッ。ウチは女装家だから。何度言ったら分かるかなあ」
「死んでも分からねぇ」
「むむむ……!」
顔を紅潮させて、気持ち力の入った構えをする白峰に、今度はこちらから突撃する。
無駄に長引かせちまったが、今度こそ終いだ。
二日も続けて負けるなんて、ありえない。
鋭斬刀の真の恐ろしさ。
ここに居る全員に、思い知らせてやろうじゃん。
あなたはジャンプ作品『斬』を……
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