転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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三十三太刀

 

 

 

俺の薙ぎ払いに素早く反応した白峰が、クルリと半回転しながら斬撃の軌道に小太刀を差し込む。

攻防一体の二刀流、これまで通りなら、コイツを流された次の瞬間には右手の太刀の反撃が待っている。

 

が、そうはさせない。

 

「!!」

 

ピタッ、と、差し出された小太刀に触れる寸前だった鋭斬刀を寸止めにする。

僅かに目を見開く白峰。

 

「ふっ!」

 

「わわっ」

 

直後に、軌道を変化させた鋭斬刀で頭を狙うと、左手を泳がせた白峰が足を浮かせて大きく仰け反った。

まだまだ、すんでで躱された鋭斬刀を急停止し、即座に振り下ろす。

ヒュン、と風を斬る音も鋭い刃を、体勢を崩した白峰の太刀がまともに受け止めた。

 

キンッ! と、鋭斬刀の研ぎ澄まされた刃が、太刀の刀身に僅かに食込む。

 

「うっそ!?」

 

更に方向転換させた刃を、太刀の上を滑らせる様に振り抜いた。

キィンッと景気の良い音と共に、太刀の鍔を斬り飛ばす。

 

クルクルと宙を舞う半円の鍔越しに、呆気に取られた様な顔の白峰を睨む。

 

「次は指が飛ぶぜ?」

 

「くっ……疾い……!」

 

これが鋭斬刀の真骨頂。

とにかく軽い鋭斬刀は、振るも止めるも方向転換も、思うがままだ。

刀とは思えない程の軌道変化、たとえ二刀流が相手だろうと、本気を出した俺が手数で負ける事はありえない。

 

更に踏み込み、息もつかせぬ連撃をお見舞いする。

 

順薙ぎ、逆薙ぎ。

袈裟斬り、逆袈裟。

振り下ろし、斬り上げに連突き。

 

通常ならあり得ない角度から急激に切り返す連続攻撃で、白峰の二刀流を攻めたてる。

 

「くっ、うっ!?」

 

連続して鳴り響く金属音。

盛んに飛び散る火花。

白峰もクルクルと良く受けているが、流し切れなかった斬撃が腕や身体を次々と掠めてセーラー服やスカートを裂き、細かな鮮血が舞う。

苦しそうに、白峰が顔を顰める。

 

「くぅっ!」

 

鋭斬刀の鋒が、避けそこねた白峰の額を浅く裂き、長い髪の一房を斬り飛ばした。

パッと長い髪が舞う。

 

ブンッと乱暴に太刀が振られ、堪らずといった風に一間ばかり飛び退く白峰。

薄く壊れやすい鋭斬刀で受ける事も出来ず、身体を逸らしてそれを見逃し、間合いを離して睨み合う。

 

「痛てて……こんなに斬られたの、久しぶりだよ。ウチこんなに可愛いのに、少しくらいためらったらどうなの?」

 

「……俺達を殺そうとしてるヤツの台詞かよ」

 

「えへへ、確かにそーだ」

 

額から垂れる血で片目をつぶりながら、赤く彩られたセーラー服でなお、優雅に構えを作る。

そろそろ決着だ。

片目を塞がれ、鍔の無い太刀では満足に受けられない。

 

次は本気で、攻めに転じて来るだろう……そこを討つ。

 

「……そろそろ終わらせるぜ」

 

「うん。……斬るよ」

 

ふぅ……と大きく息を吐く。

徐ろに、白峰が上体をユラリと揺らした。

 

「湖月二刀流――」

 

ふらり、と、白峰の身体が幾重にもブレる。

 

(来る!!)

 

そして、フッ……とその姿が掻き消える様な加速で、右手の太刀を背面に隠す様に振りかぶった白峰が、眼前に現れた。

足運びが、見えなかった。

 

「――(つい)(まい)(つごもり)

 

パッと、鮮血が舞う。

刺々森の学ランが切り裂かれ、その胸を横断するように、ツと赤い線が、斜めに走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………この勝負」

 

「ええ」

 

感情を読み取れない部長の呟きに、決着のついた二人から目を逸らさずに答える。

 

鋭斬刀を前に突き出した刺々森の胸から、たらりと一筋の血が垂れる。

その左腕のギプスには、白峰の小太刀が深々と食い込み、真っ赤な雫をポタポタと絨毯に零している。

 

「…………ウチの負け、かぁ」

 

「…………」

 

ザン、と、白峰の右手から零れ落ちた太刀が、執行部室の床に突き刺さる。

 

晦、だったか。

巧みなな緩急によって刀身が分裂したかに見える太刀の一閃の下に隠した、不意の小太刀の直突き。

視界を舞う髪すら利用した、見事な一撃ではあった。

 

初撃に隠した必殺の二の太刀は刺々森の左腕に阻まれ、刺々森の突き出した鋭斬刀は白峰の腹の真ん中を見事に貫いていた。

 

背中から飛び出た鋒が、鮮やかな朱を弾いて白く光を反射している。

 

その結果は、誰の目にも明らかだ。

 

「……刺々森の勝ちですね」

 

力の抜けた様子の白峰が、両腕をだらりと垂らす。

崩れ落ちそうになった白峰の肩を、小太刀の刺さったままの左腕でとっさに掴む刺々森。

右手で鋭斬刀の柄を握ったまま、ぐっと苦しそうな顔で青白い顔の白峰を支えている。

 

折れた上に貫かれた左腕で、大したモノだ。

刺々森の考えに思い至り、思わずフッと笑みがこぼれる。

 

「……どうしたの、刺々森君……? 鋭斬刀を引きなよ……それでキミの勝ち――」

 

「うるせぇ、手元が狂う」

 

不思議そうな顔の白峰を遮って、脂汗を滲ませる刺々森が細心の注意を払いながら鋭斬刀を引き抜いてゆく。

 

「んぅっ……!」

 

「動くな」

 

そう言ってゆっくりと、白峰の腹から真っ赤に染まった刀身が抜き取られてゆき、とうとう、ツプっと鋒までが完全に引き抜かれた。

その瞬間にパッと左手を離し、ハアハアと荒い息を吐きながら、ブラリと腕を垂らす。

 

支えを失った白峰が、イテッと言いながら絨毯に尻もちをついた。

その衝撃で、傷口からプシュッと血が吹き出すが、腹部を貫通したハズなのに、意外なほど出血が少ない。

白峰が、自分のお腹に手を当てて、心底訳が分からないという風に目を白黒させている。

 

「内臓を避けたな。見事な腕前だよ」

 

「フンッ……」

 

刺々森のヤツ、あれだけの必殺技を受けながら、きっちり致命傷を避けて決着をつけやがった。

流石に、鋭斬刀などというピーキーな刀を使い熟すだけの事はある。

自由に斬れるという事は、斬りたくないモノを斬らないのもお手の物、という事か。

器用なヤツだ。

 

「なっ、なんで?? ウチ、死んで無い……? ど、どうしてトドメを……!?」

 

「負けたってのにうるせーヤツだな……」

 

ウンザリしたようにボヤきながら、ギプスに突き刺さった小太刀を引き抜いて盛大に顔を顰める刺々森。

ゴトッと投げ捨てられた小太刀には目もくれず、腹を押さえた白峰が苦しそうに詰め寄る。

 

「う、ウチは真剣勝負に負けたんだよ! ウチみたいのには、トドメを刺す価値も無いって言うつもり……!?」

 

「あー……クソっ、かったりぃなぁ……」

 

「刺々森君っ!!」

 

刀を振って血を払い、乱雑に制服の裾で拭き取って鞘に収めた刺々森が、袖で汗を拭いながら面倒臭そうに視線を彷徨わせる。

言葉を探しているようだ……刺々森め、しっかり斬に影響されている。

図らずも順調に、我らが主人公陣営の不殺化が進行している様で、俺の精神衛生上も非常に喜ばしい。

 

ややあって、チラッと俺の方を見た刺々森が、丁度いいとでもいうようにビシッと指を差してきた。

 

「理由は……そこの坊主に聞け」

 

グリン、と、白峰が俺を睨む。

下らない理由だったらただじゃおかないと言いたげに険しい顔だが、如何せん顔が良過ぎて迫力が無い。

決闘の最後に見せた終の舞とか言う必殺技は見事なモンだったが、美少女……コイツは美少年だが、美形は強いってのは斬世界でもお約束なんだろうか?

 

……なんて戯言は良いとして、殺さない理由か、さて……。

 

「……一度勝った位で、相手を殺してはい終わりだなんて、”逃げ”、みたいだとは思わんかい?」

 

怪訝そうな顔で黙り込む白峰を横目に、刺々森が懐から煙草のケースを取り出して一本口に咥えている。

左腕からドクドク血ぃ流れてるんだから後にしろよヤニカス。

 

「見た所、君はまだまだ強くなる。君が腕を磨き、最高到達点に至るまで、何度挑戦してきても叩き潰すっ……て言ってるんだよ、刺々森は」

 

そうなのか、という風に刺々森を見る白峰。

刺々森は、そうだとも違うとも言わずにそっぽを向いて、白い煙を(くゆ)らせている。

 

「……屈辱なんだケド」

 

「当然だろう、それが負けという物だ。負けて命乞いなど見苦しい。同じ様に、負けて見逃されておいて、止めの強要もまた許されんよ。君に出来る事は、奮起して再戦するのみだ。武士たる者、勝者の言う事は潔く聞く物だ」

 

「…………ま、そういう事だ。諦めろ」

 

「………………はあ。スミマセン部長(ぶちょー)。負けちゃいました」

 

暫く刺々森を睨みつけていた白峰だったが、前言を翻すつもりは無いと悟ったのだろう。

深々と溜息を吐いて、悔しそうな声で自身の敗北を認めた。

先ずは一勝だ。

……斬の方は、上手くやっているだろうか?

 

「クカカ…………良い良い。跳ねっ返り共め、威勢が良いだけあって中々やるではないか。ほれ、小夜鳥。後輩共に包帯でも巻いてやれ」

 

「はいはい」

 

意外な程にあっさりとそれを受け入れた部長が、ノッポに目配せして手当をさせる。

自分の所の副部長が負けたというのに、やけにサッパリとしたモノだ。

 

ダウナーなノッポさんが黙々と白峰のお腹に包帯を巻き付けているのを眺めていると、後ろから楽しそうに弾んだ声が聞こえて来る。

 

「ヘヘ……半裸野郎、随分苦戦してたじゃねぇか。空気読んで待ってたが、待ちくたびれちまったぜ!」

 

刺々森の勝負が終わるまで、相手のちょんまげと睨み合いながらじっと待っていた貫木が、焦れたように伸びをしている。

 

三白眼をキリッと細めて、気を取り直した様に腕を下げ、腰を落とす。

 

「さあて、刺々森の相手が副部長で、そこのデカいのが部長って(こた)ぁ、テメェは三番手くれぇか? ったく、折角ドア蹴り破ってまで乗り込んで来たのに、行儀良く一対一をやる事になるたぁな……どうせなら一番強ぇヤツと殺りたかったが、仕方ねぇ。ちったぁヤるんだろーな、チョンマゲヤロー?」

 

相変わらずふてぶてしい口上をぶち上げたミイラ男貫木が、ニヤリと笑いながら口元に添えた左手で手印を結び、正面に立つちょんまげ執行部員を睨み付けた。

 

言われた方の執行部員は、依然黙り込んだまま、鋭い眼で貫木を睨み、両腰に佩いた太刀の柄に手を伸ばす。

シャァァァ……と、その白銀の刀身がゆっくりと引き抜かれる。

平均よりもやや低い背中をググっと丸め、二尺程とやや短く、珍しい腰反りの太刀を互い違いに構えて息を吐いた。

 

赤褐色の髪、太い眉、白目がちな赤眼。

がっしりと鍛え抜かれた身体に纏う気配は、とても弱者のそれでは無い。

貫木も、分かった上で挑発したのだろう。

見ているこちらにまで漂ってくる殺気に、嬉しそうに笑みを深めている。

 

「三番手、か……言われておるぞ」

 

「むぅ……ちょっとそこのミイラ! 鞘辷(さやすべ)先輩はウチなんかよりずっと強いんだよ! チョーシに乗ってると三枚おろしだかんね! ……い、痛い痛い!」

 

「お腹に穴空いてるんだから、騒がないでよ」

 

執行部のメンバーの信頼も厚いのだろう。

貫木の見え透いた挑発には小揺るぎもせず、ゆったりとした見物の姿勢を崩さない。

 

「……鞘辷(さやすべ)貫八(かんぱづ)

 

それに答える様に、カスカスとしたダミ声で静かに名乗りを上げる執行部員、鞘辷。

 

「貫木刃だ」

 

「…………()ぇ」

 

二戦目が、始まる。

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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