転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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三十四太刀

 

 

 

先ずは小手調べ、とばかりに貫木がベルトに括り付けた腰袋から取り出したのは、最早見慣れた感のある手裏剣だ。

 

「俺は忍武士なんでな、毒なんて無粋なモンは塗っちゃいねぇから、安心して喰らいやがれ!」

 

そう言って、左右の手に持った十字手裏剣を景気良く投擲する。

 

「オラアっ!!」

 

無数の手裏剣が、幾筋もの弧を描いて弾幕のように飛翔する。

対する鞘辷(さやすべ)は、ピクリとも顔色を変えず、二本の太刀をユラリと動かすと、ギュッ、と柄を握り締めた。

次の瞬間、四方八方から殺到する手裏剣に対し、凄い勢いで二本の太刀を振り回した。

 

キンキンキンキンキンキンッ!!! と、甲高い音が立て続けに鳴り響く。

大量の火花を散らしながら、全ての手裏剣を打ち落としている。

俺も一度やられているから分かるが、あの密度の飛来物を、避ける事もせずに全て迎撃するのはかなり神経を使う作業だ。

優れた動体視力と集中力、そして冴え渡る刀のコントロールがあって始めて実行できる強者ムーブなのだ。

 

鞘辷という男子執行部員、中々にやるようだ。

 

「…………」

 

この程度か? とでも言っているかのような憮然とした表情で、油断無く二刀を構える鞘辷。

 

「……期待させてくれるじゃねぇか」

 

僅かに冷や汗を垂らした貫木が、脇差しの柄に手を起きながら独りごちる。

隙あらば、迎撃の間隙に突撃を決める腹積もりだったのだろう。

しかしながら、鞘辷三年には、手裏剣の嵐を叩き落としながらも、貫木を牽制する余裕があった。

 

機先を挫かれながら、貫木は想像以上に腕が立つ相手に、楽しそうに闘気を迸らせている。

 

「お次は……こうだっ!!」

 

今度は、一枚の手裏剣を投げると共に、ゴッと力強い踏み込みで一緒になって突進する貫木。

投げた手裏剣を追い掛けるとは、漫画みたいな馬鹿げた脚力だ。

 

迎える鞘辷は、鋭く目を細めて両足を広げ、ごく小さな振りで先行する手裏剣を弾き飛ばした。

 

それとほぼ同時に、

 

「うりゃっ!!」

 

「……!」

 

貫木の鋭い斬撃が、鞘辷の懐の迫る。

弾いた方の太刀を戻す暇もない連携に、もう一本の太刀で受け止めた鞘辷がジリリと後ろ足を引き摺った。

 

「ハアッ!!」

 

その勢いのまま、貫木が拳と脚技も交えた連撃で畳み掛ける。

 

回し蹴り、手刀、踵、肘打ち、柄打ちに膝蹴りに裏拳。

得意の素早さを活かした、正しく息もつかせぬ連携だ。

全身に包帯巻いてるような怪我人の動きとは思えない。

 

しかし受ける鞘辷もさるもので、その全てを顔色を変える事も無く、両手に持った太刀の腹や峰、柄等を使って、綺麗に打ち落としている。

敢えて刃を立てず、反撃も仕掛けないのは余裕の現れか、剣筋を見極めているのか……これは後者だな。

 

「……調子に乗り過ぎだぞ」

 

俺がボソリと呟くと同時に、貫木の高く蹴り上げた後ろ回し蹴りが、カクンと膝を落とした鞘辷の額を掠めた。

鞘辷の両腕が、弓の様にしなる。

 

「!!」

 

「だあっ!!」

 

咆哮一閃。

鞘辷の振るう右太刀が、貫木の左ふくらはぎを捉えた。

 

「ぐっ!?」

 

「りゃあっ!!」

 

ギリギリで身体を捻り回転させ、足を斬り飛ばされるのだけは回避した貫木。

噴き出した血飛沫が宙に半月を描く中、更に鞘辷の左太刀が襲う。

 

キンキンッ! と、またも響く甲高い音。

 

地面スレスレの体勢から手裏剣を投げた貫木が、ゴロゴロと絨毯を転がって距離を取った。

今のは危ない所だった。

あと少し判断が遅ければ、鞘辷の太刀は容赦なく貫木の軸足を刎ねていた。

 

「ほう、あれを避けよるか」

 

「……全く、冷や冷やさせる戦い方だ」

 

感心した様な部長の呟きに、呆れた声で短く返す。

二刀流相手に肉弾戦なんて、何考えてるんだこのエセ忍者。

 

バク転しながら立上がった貫木が、フウと息を吐いて額を拭う。

 

「あぶねぇあぶねぇ……危うく両脚が無くなる所だったぜ! おっかねぇ先輩だ」

 

「…………」

 

そんな軽口を叩いてはいるが、斬られた左脚からはドクドクと出血している。

絨毯に広がる浅黒い染みを見るに、今の傷は決して浅くない。

貫木にとって脚を潰されるのは大きな痛手だが……どうする気だ?

 

油断無く鞘辷の出方を窺いながら、懐から取り出した手拭いを左ふくらはぎに雑に結び付ける。

 

「……しっかし無口な野郎だな。武士(おとこ)らしいのとコミュ障なのは別のハナシだぞ、根暗ちょんまげよぉ」

 

相当不利な状況であるはずなのに、依然としてふてぶてしい態度を崩さない貫木に、今度は鞘辷の方から打って出て来た。

 

ジリジリと半歩ずつ、すり足で間合いを詰めてゆく鞘辷。

貫木はそれを待ち構えながら、腰袋から取り出した苦無を逆手に持ち、左手の脇差しと合わせて疑似二刀流で迎え撃つ様だ。

 

ピクリ、と、殆ど動かなかった鞘辷の眉が僅かに持ち上がる。

それはそうだろう。

二刀流の自分に対して、よりにもよって今思い付きましたみたいな、なんちゃって二刀流で対抗してくる。

ナメていると取られても仕方が無い。

 

表情をより険しくした鞘辷の間合いが、貫木の間合いにジリジリと近付き……接触した。

 

「――だらぁっ!!!」

 

「来いやっ!!!」

 

凄まじい殺気のこもった剣撃が、貫木の差し出した脇差しと鍔迫り合って盛大な火花を散らす。

パワーでは鞘辷の方が上だ。

 

「ぐっ……」

 

押し込まれる貫木が、苦しそうに顔を歪める。

しかし、二刀流が怖いのはここからだ。

 

鞘辷の振りかぶっていたもう一本の太刀が、鋭く風を切りながら貫木の脇腹を狙う。

 

「うぐっ!?」

 

右腕に構えた苦無をそこに差し込む貫木だったが、ガキィンッ! と火花が散り、拮抗したのはほんの一瞬だけだった。

 

苦無を押し退けた太刀が学ランと包帯を斬り裂いて、貫木の脇腹から少なくない血飛沫が上がる。

ブシュッ、という生々しい音。

 

堪らず、貫木がたたらを踏んで後ろに下がる。

 

鞘辷は、そこにさらなる連撃を浴びせた。

 

右から左。

左と思えば右。

 

舞う様に滑らかで、流麗だった白峰の二刀流とは違う。

力強く猛々しい、嵐のような怒涛の攻めが、既に満身創痍の貫木に襲い掛かる。

 

立て続けに鳴り響く不快な金属音。

辺りに飛び散る火花。

時折混ざる鋭い出血の音。

 

「うおぉおぉおぉおぉっ!!!」

 

「………………!!!」

 

雄叫びを上げながら必死の形相で刃を合わせる貫木だが、鞘辷の無言の連撃にまるで対応しきれていない。

体調が万全であっても苦しかったであろう程の手合いだ。

全身を痛めている上、左脚の切り傷と、脇腹からの出血。

いかな根性の武士(おとこ)貫木と言えど、手練れの二刀流使い鞘辷の攻撃に身体中を切り刻まれ、あれよあれよと部屋の隅にまで押し込まれてしまった。

 

「クク……勝負はあったかの?」

 

「お、おい……貫木のヤツ、ヤベーんじゃねぇか……?」

 

全身血塗れになりながら荒い息を吐き、とうとう薄ら笑いの一つも出来なくなってきた貫木を見て、部長は薄っすらと笑みを浮かべ、ずっと余裕そうに煙草を吹かしていた刺々森の額に冷や汗が滲んでいる。

確かにヤバそうだ。

しかし……。

 

(貫木の目。まだ死んじゃあいない……それどころか、ずっと機会を窺っているかの様に、ギラギラと……)

 

「……いや」

 

貫木は、諦めちゃいない。

最初から最後まで、獰猛に勝利のみを狙っている。

俺に敗北したのがどう影響したのかは分からないが、今の貫木の勝利への執着は、以前斬と戦った時とは比べ物にならない。

 

コイツは必ず、何かしでかす。

 

「あれは勝負を諦めた奴の目じゃない。刃の奴、どうやってかは知らないが、勝つ気らしい」

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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