転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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三十五太刀

 

 

 

貫木刃は、凄い武士(おとこ)だ。

斬との真剣勝負で負った怪我。

俺との手合わせで受けた追い打ち。

壊原との決闘で全身の骨や筋肉に多大なダメージを受けたその状態で、一切泣き言も漏らさず二刀流の練達者、執行部員鞘辷との大立ち回りを演じている。

 

防御の上からも的確に身体を引き裂く連撃で、学ランもズボンもズタズタ、全身の包帯は真っ赤に染まり、息も絶え絶えに部屋の隅にまで追いやられてなお、その眼光は鋭く、ギラギラと輝いている。

息を飲む様な、見事な漢意気だ。

 

「……もっけだども(気の毒だが)もじゃくたらんべ(もうどうにもなるまい)いくれてんゲ(いい加減)(ぁぎら)めだら良が」

 

追い詰める鞘辷が、一瞬手を止め、何やら貫木に諦めろ的な事を言い放つが、それで簡単に諦める様なヤツならば、あんな状態で執行部に殴り込みなど掛けるはずもない。

 

「へへっ……何言ってっか分かんねーけど、勝負を投げんにはまだ早えーだろうが」

 

そう言って、不敵な表情で傷だらけの腕を上げ、脇差しと苦無を構える。

 

「刺々森の野郎にばっかイイカッコさせるかよ。見せてやるぜパイセン、忍武士の戦いってヤツをよお!!」

 

そう啖呵を切って、壁を背に果敢にも斬り掛かる貫木。

軽々と受け止めた鞘辷が、今日初めて顔を歪め、ドスの利いたダミ声で言い返す。

 

「ほだに死にだぇが!! ばがもンがぁっ!!!」

 

怒り任せの大振りが、貫木の胸元目掛けて袈裟懸けに襲い掛かった。

 

「グウっ!!?」

 

ガキィン!!! と、交差させた脇差しと苦無で受け止めた貫木だったが、衝撃を殺し切れなかった太刀の鋒が肩に食い込んでいる上、両腕を防御に回してしまって胴がガラ空きだ。

鞘辷の右腕が、その特大の隙に振りかぶられる。

 

()った!!

 

全員が、そう思った。

貫木以外が。

 

ニヤリと口元を歪める貫木。

 

「待ってたぜ、この瞬間をっ!!」

 

ズバっと風を斬り裂く勢いで、貫木の左脚が跳ね上がり、鞘辷の顎を狙う。

 

「入ったか!?」

 

「いや、見えてる」

 

その渾身の不意打ちに刺々森が声を漏らすが、俺には鞘辷がグッと腕を引き、目を見開くのが見えた。

これは入らない。

 

「こん……………!!?」

 

あんの上、貫木の爪先は鞘辷の足先を掠める様に、バシュッと空を切った。

だが、それもまた、貫木の作戦だった。

 

「!?」

 

鞘辷の眼前に、解けて広がった真っ赤な手拭いが、ブワッと視界を覆い尽くす。

 

「っ、だああっ!!」

 

一瞬虚を突かれた鞘辷が、烈帛の気合と共に手拭いを切り裂くが、そこには既に貫木がいない。

 

「っ……上がっ!?」

 

「遅ぇ!!」

 

飛来した苦無を、カキィンッと間一髪で弾く鞘辷。

同時に、ジャラララララッと金属の擦れ合う音。

ガシャッ!! と、鞘辷の右太刀の刃に、空中で逆さまになった貫木の袖口から伸びる細い鎖が、雁字搦めに巻き付いた。

 

「ぬっ!」

 

「よっと」

 

鎖の片方を天井の照明に絡みつかせ、片脚で着地した貫木が懐に腕を突っ込み、丸い紙玉を取り出す。

 

「行くぜっ!!!」

 

「…………!!?」

 

ボフッッッ! と、鞘辷が真っ白い煙に包まれた。

煙玉だ。

そこに、脇差を掲げた貫木が一瞬で突っ込む。

 

キィィィンッ…………と、モクモクと立ち込める白煙の中から、甲高い音が響いた。

ガシャン、と、鎖で繋がったシャンデリアが揺れる。

 

「ど、どうなった……?」

 

「鞘辷先輩……!」

 

「さて……」

 

上から順に、刺々森、白峰、部長。

一瞬の内に起こった高度な攻防に、一同揃って息を飲む。

小夜鳥先輩が、バタン、と執行部室の窓を開け放った。

 

外から風が吹き込み、部屋の一角に立ち込めた煙が、徐々に晴れてゆく。

 

「「「!!!」」」

 

顕になったのは、床に突き立った太刀と、体当たりする様な形で、鞘辷の肩口に深々と脇差しを突き立てた貫木の姿だった。

 

右腕の太刀を鎖分銅に絡め取られ、肩を突き刺された左腕からもう一本の太刀を落とした鞘辷が、呆然とした顔で貫木の頭を見下ろしている。

 

……勝負有りだ。

 

「……勝ちやがった」

 

「そんな、鞘辷先輩が……!」

 

「ほう、これはこれは……」

 

ほんの数瞬前には、圧倒的に不利な状況だった貫木。

思えば、左ふくらはぎにわざと解けやすく手拭いを結び付けたその時には、この細い道筋を描いていたのだろう。

 

劣勢を装い……実際に劣勢だったが、頼みの右脚以外の被弾は覚悟の上で部屋の隅まで後退し。

挑発して大振りを誘い、目眩ましの手拭いに戸惑っている隙に、壁を蹴って宙に。

あえて苦無を弾かせ、その太刀を鎖分銅で封じ。

煙幕で互いの目を塞いで決死の一撃に掛ける。

 

こうして列挙してみても、綱渡りの様な一発勝負な作戦だ。

俺にはとても真似出来ない。

命知らずの貫木らしい、持てる力を全て使った大博打だ。

称賛する他無い。

 

徐ろに、鞘辷が口を開いた。

 

「……おメも、(ごろ)さね気が」

 

「応。……手ぇ抜いてたろ、パイセン。今度は俺も本調子んトキに、全力で()ろうや」

 

「…………」

 

ジャラジャラと、右太刀に絡み付いた鎖を解き、床に突き立てる鞘辷。

「お、おい……」と動揺する貫木を片手で制し、肩を貫く脇差の柄に右手を置いて、

 

「ふん゛っ!」

 

と一息に引き抜いた。

傷口から噴き出す血が、貫木の出血で汚れた絨毯に、真っ赤な染みを増やす。

逆手に持った柄を貫木に突き出しながら、鞘辷が呟く。

 

「……悪党(あぐとぉ)だど聞いでだんだがなぁ」

 

そうして、どっかりと腰を下ろし、あぐらをかいて肩の傷に手を押し当てながら、言った。

 

「申す(わゲ)無え、部長。オラにごいづらは斬れね」

 

きっぱりとそう言い切り、むっつりと黙り込んでしまった。

……これにて、二勝。

いよいよ、俺の出番がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、鞘辷までが二年坊主に敗れるとは、儂の知らん内に随分と活きのイイのが育っておったようだな。痛快痛快……!」

 

ソファーにもたれ掛かったまま、赤髪の大男は心底面白そうにクツクツと含み笑いを漏らしている。

自分の所の部下が二人続けて倒されたというのに、その様子からは焦りも怒りも見受けられない。

小夜鳥先輩は、相変わらず無表情で座り込んだ鞘辷に包帯を巻いているし、白峰も残念そうな顔で新しく煎れたコーヒーに息を吹き掛けている。

 

なんというか、緊張感が無い。

 

「……俺が言うのもなんですが、良いんですか? 鞘辷先輩、俺達は斬れないって言ってましたよ?」

 

そう水を向けてみると、赤髪の部長はさも何でも無い様に答える。

 

「当の本人が斬れんと言っておる。元より、悪党以外には刃を向けん武士(おとこ)だ。大方、また小夜鳥の報告が間違っておったんだろう、仕方あるまい」

 

そう言って、テーブルの湯呑みに手を伸ばし、グイッとあおる。

 

「……鳥の報告ですか?」

 

「なんだ、気付いておったか」

 

俺がカマを掛けると、意外な程にあっさりとそれを認められ、肩透かしをくらってしまう。

鞘辷の所で医療道具を広げている小夜鳥先輩の方に視線を向けると、それに気付いた小夜鳥先輩が変わらぬ無表情でヒョイと肩をすくめた。

スッと差し出した左腕に、窓からスゥーッとトンビが飛んできて、スタッと留まる。

ピュイッ、と一度高く鳴いて、ツンツンと翼をつくろい始めた。

 

「……僕の鳥達に、悪人かそうじゃ無いかの判断なんて出来るワケ無いでしょ? 精々、誰と誰が刀を抜いて戦ってたか……その報告を元に、悪人かそうじゃ無いかを判断したのは理事長さんだよ。逆恨みはよしてよね」

 

悪びれなくそう言って、カリカリと鳶の頭を撫でる小夜鳥。

予想通り、この先輩が執行部での諜報担当らしい。

本当にこんな漫画みたいな方法で情報収集していたとは、この目で見ても驚きだ。

 

……というか、何だかあっさり悪人では無いと認められてしまった気がするのだが……?

 

「……と、なると。少なくとも俺達に掛けられた手配書きについては、取り下げて貰えると――」

 

「そうは言っておらん」

 

期待を込めて部長に振り返ると、赤髪の大男はむべも無く切り捨てて腰を浮かす。

刺々森がビクっと肩を揺らし、大の字になっていた貫木がピョンと起き上がった。

お前等は休んどけよ。

 

「不甲斐ない部下共が、如何に斬れんと言おうとも。上が悪と断じたならば、それを上から取り下げられない限り、断固として斬るが、儂の務めよ」

 

そう言って立ち上がった部長は、座っていても大きいと思っていたが、途轍もない大きさだった。

身の丈七尺弱……二メートルと十センチはありそうな、180半ばの俺でも見上げる程の大男。

肩幅も相応に大きく、学ランの上からでも盛り上がりが分かる筋骨隆々の体付き。

体重も、百と数十キロあるのは間違い無い。

腹に巻いたさらしの上からジャラジャラと巻き付けられた太い鎖は、鎖帷子(くさりかたびら)のつもりだろうか?

背中まであるモジャモジャの赤毛は頭の上に二本の角を作り、太い眉、鋭い目付きの(いわお)の様な顔面と相まって、さながら昔話の”赤鬼”を前にしている気分になる。

 

その赤鬼が、ゆっくりと背中の刀――刃渡り三尺の、ごく普通の打刀だ。この大男が持つと、まるで爪楊枝の様に頼りなく見えてしまう――を引き抜いて、綺麗な正眼に構える。

 

「故に恨むなとは言わん。ただ死ね。ヌシを斬り、残りの二人も儂が斬る。ここに()らん残りの”悪党”も、必要とあらば儂が斬ろう。……さあどうする二年坊主。ヌシが止めねば、二人の勝利も水の泡だぞ」

 

灯りに照らされる白刃が、冷や汗を垂らして見守る貫木と刺々森の顔を映し、キラリと光る。

 

「……どうあろうと、最後には部長が帳尻を合わせる……とんだ茶番だ、(はな)から話など聞くつもりも無かったか」

 

「クク、いやいや、中々楽しめたぞ二年坊主共。昼休みも残り幾許も無い。()く疾くと死ぬが良い」

 

「刺々森、刃、座ってると良い。こいつの固くて融通の利かない頭を、少しばかり柔らかくしてやる」

 

そう言って、錫杖を手に、テーブルを挟んで執行部部長と睨み合う。

 

「無双高校生徒会執行部部長、赤平(せきだいら)菊之進(きくのしん)、参る」

 

「二年辰爾空也。来い」

 

長い昼休み、おそらく最後になるであろう戦いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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