転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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三十六太刀

 

 

 

睨み合う敵と敵。

間には大テーブル。

この状況で、初手! と言ったらこれしかないだろう。

 

「さて、来いとは言ったものの……どうにも邪魔だな」

 

精々不敵に笑って見せる。

周りの観客が、頭の上に”?”を浮かべたのが分かる。

 

先ずは、ご挨拶……っ!

眼の前に横たわる重厚なローテーブルの下に、片足を差し込む。

 

「フンッ!!」

 

「「「!!?」」」

 

見るからに力自慢な赤平部長目掛け、お高そうな巨大テーブルを、ドゴッ!! と一息に蹴り飛ばした。

推定100kg超えの硬い一枚板が、巨壁となって赤平を襲う。

 

観客が目を見開いて驚いているのを感じる。

この大質量、鋭斬刀でもなければ斬るのは困難。

普通の打刀でぶった斬ろうと思えば、達人級の腕を要求される大木斬りだ。

避けるだけなら造作もなかろうが、あんな勿体付けた啖呵をかまして、まさかそんなつまらない事もしないだろう?

 

さあ、どう来る大将……!

 

ゴ……!!! と、視界を覆い尽くす樫の一枚板の向こうで、凄まじい闘気が噴き上がるのを感じた。

 

「笑止!!!」

 

部屋全体に轟く様な大音声(だいおんじょう)

ドゴォンッ!!! という轟音と共に、横にブレるテーブルの残像。

 

「ヒッ!?」

 

白峰が小さな悲鳴と共に頭を押さえてその場に伏せた。

 

ガッシャーン! とけたたましい音を立てて窓を突き破ったテーブルが、グラウンド目掛けて落下してゆく。

遅れて、ズゥンという重々しい音と、「なっ、何だあ!?」「や、山田ぁー!! しっかりしろぉーっ!!」「何でキャッチャーフライがテーブルに……!?」「魔球ならぬ、魔打……!?」という騒がしい悲鳴が響いて来た。

 

眼の前には、拳を固めた片腕を振り切って、ニヤリと凶相を浮かべる赤平。

 

「丁寧なご挨拶、感心だな、二年坊主」

 

「……お見事」

 

つられて、こちらも口角が上がる。

これは見た目を裏切らず、斬並かそれ以上の剛腕……面白いじゃないか!

 

錫杖を支える腕に力が入る。

 

「さあ、ゆくぞっ!!!」

 

気合を全身に(みなぎ)らせた赤平が、両手持ちの刀を大上段に構えて突進してくる。

自分より頭一つ大きい大男の吶喊は、あたかも壁が襲って来る様な威圧感だ。

 

「フンッ!!!」

 

「フッ!」

 

ガインッ!! と頭上で散る火花。

両腕で構えた錫杖に食込む剛剣。

膝にギシギシと衝撃が走る。

 

「ぬぅぅんっ!!!」

 

「はっ!!」

 

続けて繰り出された横薙ぎを、錫杖を滑らせる様に受け流す。

耳障りな音と共に、派手に火花が飛び散った。

完璧に受け流したはずの腕に、甘い痺れが残る。

 

そのまま赤平の連撃を受け流す事数合。

一撃毎に撒き散らされる凄まじい衝撃波で袈裟がはためき、刀を打ち付けているとは思えない様な轟音が部屋中に反響して照明を揺らす。

 

「流石に執行部部長ってだけはあるな……!」

 

「ああ……オカマなんかとは大違いだ」

 

「じょ・そ・うっ!!」

 

赤髪を振り乱して常人離れした剛剣を振るう赤平に、貫木、刺々森の二人が戦慄した様な声を漏らす。

確かに、防御の上から全身に衝撃を通して来る様な、凄まじい馬鹿力だ。

 

……そうではあるが、それだけ、とも言える。

 

(こんなモノか?)

 

何度目かの剣撃をいなしながら、湧き上がる失望の念と、疑問。

 

(あれだけの事をしでかす新たな敵の、首魁の一人ともあろうモノが、この程度?)

 

確かに、強い。

強いが、見掛け倒し……間違いなく討条には遠く及ばない。

剣筋は鋭いが、上手(じょうず)の域を出ない。

並外れて力強いという以外は、教範通りの、綺麗で丁寧な剣。

それも言っては悪いが月島さんよりは上……精々、六段、全国に一歩踏み出したかというレベル。

前の世界ならいざ知らず、この斬世界ではまだまだ修行半ば程度の腕前だ。

 

この程度なら、それこそもう一人の斬を出すまでもなく、万全の貫木や刺々森でも十分に打倒出来てしまう……肩透かしと言う他無い、大した事の無い手合いだ。

 

俺が、そう考えているのが伝わったのだろうか。

先程から型通りの連携を一通り打ち込んできていた赤平が、鍔迫り合いをしながら、フ……と気迫の無い笑みを漏らした

 

「……?」

 

「どうにも、剣道というヤツは難しいのう。柄の握りはこう、振りの角度はこう、相手がこう来たらこう……考える事が多いからとちょっと()をすると、直ぐに折れよる。武士たるもの刀の一本も使えねばとこうして持たされてはいるものの……つくづく、儂には向かん」

 

そう言うと、グッと力任せに錫杖を弾き、まるで棒切でも振りかぶるように無造作に刀を振り上げた。

これまでの綺麗で丁寧な型とは一変、全く剣理に則さないその姿勢。

踏みしめた靴がギシリと軋み、振りかぶった腕を通す学ランの袖がミシミシと音を立てる。

 

突然、赤平が一回り大きくなった様な錯覚を覚える。

ブウン、と、これまでの風切り音とは違う、大気を震わす大振り。

差し出した錫杖に、凄まじい衝撃が走った。

 

バキィン!!!

 

耳をつんざく破砕音。

視界に煌めく金属片。

 

思わず、顔を顰める。

 

「おっと……折れてしまった」

 

何でも無い風にそう言って、柄だけになった刀を掲げて見せる。

右袖が筋肉で弾け飛び、鎖を巻き付けた右腕が顕になっている。

 

「……折った。の、間違いでしょう?」

 

手が痺れた。

間違い無い、今のはわざと折ろうとした振りだ。

 

貫木や刺々森が、勝ったと言わんばかりに顔を輝かせているが、執行部の三人にはそこまでの動揺は見られない。

並み居る猛者達を率いる執行部部長とは思えぬ剣の腕。

真剣勝負の最中に故意に刀を折るという暴挙。

……成る程、コイツ。

 

「折れてしまったからには、仕方無いのう……!」

 

ジャララ……と、両腕に巻いていた鎖を一尺半ばかり解き、垂らす。

 

「!! 鎖か!?」

 

反応した貫木に、赤平が笑みを浮かべる。

 

「まさか。こんな面白い二年坊主、搦手は面白く無いでな」

 

ブンと振った両手に鎖を巻き付け、がっしりと拳を固める赤平。

ギチギチと鎖の擦れる音。

だらりと腕を垂らし、凶相を深める赤平。

 

(コイツ)で続きと行こうか、二年坊主よ……!!」

 

「良く言う。ソッチが本職でしょう、先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気配を一変させた赤平と睨み合い、錫杖を構え直す。

先程までのどこか道場剣術らしい整然さは欠片も無い、無造作な立ち姿。

 

しかし、纏う殺気は段違いだ。

洗練され、研ぎ澄まされた殺意が、濃い霧の様に周囲に立ち込めている。

間違い無い。

刀を捨てた今の姿こそ、執行部部長赤平の、本気の戦闘体勢だ。

 

「先手は貰うぞ、二年坊主」

 

ググッと腰を屈めた赤平が、暴力的な加速で踏み込んで来る。

凄まじい気迫だ。

討条に迫るモノがある。

 

「ハッ!」

 

「ぬっ!」

 

カウンター狙いで突き出した錫杖が、鎖を巻いた左拳に弾かれ、横に流れる。

 

「フンっ!!!」

 

一瞬で懐に飛び込んできた赤平の初手は、顔面狙いの右肘だ。

膝を落とし、首を逸らして避けた真上を、岩の様な肘が通り抜ける。

ブンッ! という轟音。

続いて、左のレバーブロウが唸りを立てて迫り、引き寄せた錫杖とかち合って火花を散らした。

 

「ム……!」

 

ガァンッ!! と、大鎚で殴られた様な衝撃を、歯を食いしばって耐える。

恐ろしい怪力だ。

もしかしなくとも、斬以上……!

 

更に追撃の、右拳。

ショートアッパー気味なそれを、身体を逸らして躱しながら、お返しに錫杖を薙ぐ。

 

「その程度っ!!」

 

カッと目を見開いた赤平が、肘と膝の挟み受けで錫杖を受け止めた。

鎖と錫杖の擦れる耳障りな音が、鈍く響く。

ヤるなコイツ。

 

「な、なんだよあのデカブツ、さっきまでの動きじゃねーぞ!」

 

「……辰爾のヤツ、押されてねーか?」

 

「フフン、そっちのお坊さんが言った通り、部長の本職は喧嘩殺法! 拳一つでこの学校の頂点にまで上り詰めた武士(おとこ)だよ? 刀も使わず学校中のワル共をバッタバッタと薙ぎ倒して、ついたあだ名は”赤鬼”! 残念だけど、あのお坊さんがいくら強くたって、ああなった部長には敵わないよっ!」

 

猛烈に攻めたてる赤平に(おのの)く二人に、腰を抜かしたままの白峰が得意気に鼻息を漏らしている。

好き勝手言いやがって、盛り上げてくれるじゃないか……!

 

左右の連打をスウェーで躱しながら、反撃の糸口を探す。

赤平め、かなり喧嘩慣れしている。

こうも密着されると、長物ではかえって不利だ。

 

隙を見て腕や腹に何発か入れてやったが、巻き付けた鎖で受けた赤平の顔色は全く鈍らない。

小さい振りではろくにダメージを通せない、というのもあるだろうが、コイツ自身の頑丈さも一級品だ。

喧嘩慣れしているだけあって、痛みに対する覚悟が違う。

 

(さて、どうしたものか……)

 

ガンガンと叩き付けられる拳を次々といなしながら考える。

コイツが討条クラスの強者なのは最早疑いが無い。

このまま錫杖だけでコイツを昏倒させる事も、出来なくは無いが……滅多にいない手練れ相手に、それは些か()()

 

(……やるか!)

 

ただ勝つだけじゃ、面白く無い。

この後には、まだ見ぬ”顧問”という強敵も控えているのだ。

こっちも向こうをビビらせてやる位の気持ちで行こう。

 

下から顎をかち上げる様に繰り出した錫杖を、交差した腕で受ける赤平の、その土手っ腹に足の裏を押し当てる。

 

「ハアッ!!」

 

「ぬうっ!!?」

 

渾身の前蹴りを受けた赤平が、くぐもった悲鳴を漏らしながらズザザーと二間ばかり後退する。

 

「押し返したっ!」

 

「部長っ!?」

 

ようやくの反撃らしい反撃に、貫木が歓声を上げ、白峰が悲鳴を上げた。

 

「おおー……あの部長に蹴り返すとか。バケモンだね」

 

「………………」

 

小夜鳥が感心した様に呟き、鞘辷もまた無言ながら、包帯を押さえる手にギュッと力を込めたのが分かった。

 

「ククク……この儂の拳をここまで捌き続けるのみならず、ただの蹴りでこの儂を押し返すか。成る程、絶山の奴の手には余るだろうよ」

 

「感心頂いている所、恐縮だが……」

 

ガシャアン、と鳴り響く音に、全員が目を見開いた。

両足を開き、開手を前に、錫杖を投げ捨てて素手で構えた俺を、赤平が信じられないモノを見るかの様に口を半開きにしている。

 

「昼休み中に終わらせたい。そちらの流儀に合わせてやるから、手抜きは無しで来ると良い」

 

そう言って、クイクイと手の平で煽る。

 

「喧嘩自慢なんだろう?」

 

そう続けて微笑むと、赤平はキョトンとした顔をジワジワと歪めながら、今日一番の壮絶な笑みを浮かべながら両拳を持ち上げた。

 

「…………後悔するなよ、二年坊主がああああああああっ!!!」

 

その形相は、正しく鬼だ。

顔面を憤怒に染め上げた赤鬼が、烈帛の気合と共に床を揺らしながら突進してくる。

 

心地良い殺気が、肌を粟立たせる。

ああ、これだ。

真剣勝負は、こうでなくては。

 

間違い無く本気の本気を見せてきた赤平に、思わず笑みが溢れる。

 

「来いっ!!!」

 

「あ゛あ゛あ゛っ」

 

盛り上がった筋肉でギシギシと鎖を軋ませている右腕が、ゴウッと顔面に振り下ろされる。

周りで見ている貫木達が、そのあまりの気迫に息を飲んでいるのを感じる。

 

(それでも……!)

 

ユラ……と上体を僅かにずらし、右手の甲でその鉄塊の様な拳の軌道を逸らしながら、圧縮された時間の中で思い出す。

 

(師匠のゲンコツの方が、もっと怖かったぞ!!)

 

そのまま腕を交差し、渾身の掌底を赤平の顔面に叩き込んだ。

ミシッ……という嫌な感触が、腕に伝わる。

 

「グブ……!!?」

 

自身の渾身の打ち下ろしの勢いをカウンターでモロに受け止めてしまった赤平が、鼻血を噴き出しながら大きく首を仰け反らせた。

人中(じんちゅう)を強かに打ち抜かれ、意識を混濁させた赤平の膝が、ガクッと折れる。

 

すかさずその顔面を右手で鷲掴みにして、気合一発、全身に力を込めて一本背負いの様に床に叩き付けた。

 

ズウンッ!!! と部屋が揺れる。

天井のシャンデリアが、ユサユサと揺れ動き、驚いた鳶と梟がバサバサと翼をはためかせた。

 

「「「!!?」」」

 

全員が、呆気に取られた顔で床に頭を突き刺して沈黙する赤平と、一瞬でそれを成した俺を見詰めている。

ピンと伸び上がっていた赤平の身体がドシャリと崩れ落ち、白目を剥いて気絶する血塗れの顔が顕になると、緊張の糸が切れた様な顔で、貫木と刺々森が駆け寄って来た。

 

「おいおい、テメェ、一撃かよ! そんな事出来んならさっさとやれよクソ坊主が! ハラハラさせんじゃねー!」

 

「いや、一撃だったのは赤平の拳の勢いがそれだけ凄かったからだよ。腕の芯まで衝撃が奔ったよ……こりゃ、明日まで残りそうだ」

 

「お前、柔術もイケんのかよ。討条さんは居合で倒したんだろ? 弱点とかねーのか」

 

「あっても教えんよ。君等キャラ強いし、対抗する俺は謎多き強キャラ坊主でいこうと思ってるんでね」

 

「へっ、言ってろ! あと空也、お前今度素手でも俺と勝負しやがれ! 素手同士なら負ける気ねーぞ!」

 

「その包帯が解けたらな、ミイラ男」

 

実際、赤平は中々に出来る武士(おとこ)だった。

斬以上の怪力と、喧嘩慣れからくる洗練された身のこなし。

鎖を巻き付けた腕や腹は、大抵の斬撃など容易に跳ね返した事だろう。

 

一撃貰うだけで骨の数本は粉々になる様な剛拳使いだ。

楽に勝てはしたが、決して油断出来ない益荒男だった。

斬なら、どう戦っただろうか……?

 

そんな事を考えていると、ようやく衝撃から目覚めたらしい執行部員達が、床でノびる部長に駆け寄って手当を始めた。

 

「ぶっ、部長、大丈夫ですか……!?」

 

「うわぁ、ホントに強いじゃん二年生君。僕戦わなかったの正解だね」

 

「やんやんうろたぐでね! がらがら手当すろ」

 

「…………う………ぐ……」

 

今一つ達成感に欠けるが、これで執行部員達との戦いに関しては一段落ついた……そう、気を抜いたのがいけなかったのかもしれない。

 

「おやおやぁ……これはどうした事だね、執行部諸君?」

 

低いような、高いような。

中年の男の、嘲弄する様でいて、全く面白そうでない静かながら良く通る声が部室内に響き、室内の全員が弾かれた様にドアの無くなった部屋の入口に視線を向けた。

 

「そろそろ昼休みも終わりだからと戻って来てみれば……私の居ぬ間に襲撃か? 成る程、代表理事の言う通り、躾のなっていない武士気取りの仔犬共が、態々自分から去勢して貰いにキャンキャンと煩く吠え掛かって来たか。結構な事だ」

 

ククク……と押し殺した様に笑いながら、クイと直した片眼鏡のレンズが白く光を反射する。

 

その男は、異様な雰囲気を纏っていた。

白髪混じりの黒髪と、面長山羊髭(やぎひげ)で四十幾らかといった中年男。

男前だろう顔の造りを、白の革手袋から覗く酷薄な笑みが酷く悪い印象に変えている。

 

刈り込んだ右側頭部には梵字の剃り込み。

首にはサンスクリット語らしきタトゥー。

教師らしく上下スーツながら、その色は葬式の様にネクタイまで真っ黒。

その上にロングコートを羽織り、足元は丈夫そうなブーツを履いている。

 

そして、腰の長刀とは別に、殊更(ことさら)目を引く肩に掛けた銃――金鍍金(きんめっき)の鎖で繋がれた、金細工も精緻で美麗な四尺六寸の樫と黒鉄(くろがね)の死の芸術、火縄銃だ。

 

「銃だと……!?」

 

「ってこたぁ、アイツが……!」

 

「……その様だ」

 

刀と火縄銃の二刀流。

間違い無い。

並み居る先生達を返り討ちにした、理事長巌刀山の奥の手……無双高校客員教授兼、無双高校生徒会執行部顧問、塵芥均(じんかいひとし)

眼の前にして初めて、先生達が口を揃えて”戦うな”と言った意味が分かった。

 

(格が違う……!!)

 

塵芥均は、俺よりも強い。

それどころか、あの頭のおかしい師匠と同格……下手したら、それ以上かもしれない。

 

そうして緊張に固まっていると、塵芥は凍り付いた俺達の眼の前で懐から煙草のケースを取り出し、口に咥えてジッポライターの火を近付けた。

生徒の規範となるべき教師という身分でありながら、なんの悪びれも無く白煙を吐き出し、ニタリと嗤う。

 

「しかし不可解だ……見た所、御遊戯に勝利したのは闖入者共……負けた筈の諸君等執行部員が、何故斯くも無様に生き恥を晒して居るのか……明王の教えを解さぬ凡俗(ぼんぞく)の所業、()ん方無き事とはいえ、心が痛む」

 

端々に見下す様な言葉を交えながら、何という風もなく、本当に自然に、肩に掛けた銃を持ち上げる塵芥。

そのあまりにも何気ない仕草に、煙草に近付いた火縄にジジッと火が灯るその瞬間まで、俺を含めた誰一人、指先一つ動かす事が出来なかった。

 

まずいっ!? と思って身構えた頃には、懐から取り出された二尺程の銃剣が、カチャリと銃口に取り付けられてしまっている。

ここまで、奴は独り言の様に淡々と喋るばかりで、俺達に挨拶の一つも無い。

言葉を交わす事も、互いに意見を擦り合わせる素振りも無く、ノータイムで戦闘準備をする塵芥。

 

その金の瞳には、何の迷いも見て取れない。

紛う事無き、狂人。

 

「執行部っ! 机の後ろに……っ!!」

 

「……もう遅い。塵芥殿が来た時点で、儂もお主等も終いだ」

 

叫ぶ俺に対し、目を覚ましたらしい赤平の酷く冷静な声が被さる。

 

「ぶ、部長……?」

 

「儂等に付き合って、この時間までダラダラと部室に居座った、お主等の負けだ……観念するが良い」

 

コイツ、初めから自分は時間稼ぎのつもりで……!

相手は絶滅主義者の明神寺派だぞ、部員達まで巻き添えにするつもりか、あの馬鹿野郎!!

塵芥の火縄銃が、俺達を通り越して、真っ暗な銃口を赤平に向けて掲げられる。

赤平以外の執行部員達が、一様に息を飲んだ。

 

塵芥が、最後の口上を滔々(とうとう)と述べる。

 

「故に私が、塵芥均が葬送(おく)ってやろう。(いづ)れ天道でまた逢おうぞ、我が愚かなる同胞(はらから)共よ」

 

パァンッ!!! と、無慈悲な銃口が火を吹いた。

 

 

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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