転生した世界が打ち『斬』り漫画だった   作:空使い

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斬の二次小説、ちょっと探して見た限り一本も見当たらないんですが、どこへ行ったら読めるんでしょうか……?


九太刀

 

 

時計の針が12時10分を指す。

校内にチャイムの音が鳴り響き、教卓に立っていた栗沢先生が教科書を閉じて号令を掛ける。

 

「はいっ、今日の授業はここまでっ! 配ったプリントは明日のホームルームで回収しますからねっ! イマドキの武士は英語(えーご)くらい使えなきゃ恥ずかしいですよっ! ちゃんとやってくるよーにっ! きりつっ、きおつけっ、れいっ!」

 

「「「ありがとうございましたー」」」

 

「じゃ、当直の田島くんは黒板消しといて下さいっ!」と言いながら、小さな先生はポニーテールをピョコピョコ揺らしながらテテテテテッと教室を出て行った。

午前の授業がようやく終わって、昼休みの時間だ。

 

後ろの席を振り返ると、丁度斬が腰を浮かせてイソイソと歩き出そうとしている所だった。

 

「今日も購買かい、斬」

 

「うん」

 

この学校、というか大抵はそうだと思うが、無双高校には給食も学食も無い。

生徒達は、弁当を持ってくるか購買を利用するかして、思い思いの場所で昼食を摂る事になる。

斬はもっぱら購買派だ。

時に刃傷沙汰にすら発展するらしい人気パンの奪い合いには参加せず、何時もアンパンやジャムパンなんかの不人気寄りな菓子パンとパック牛乳を買ってきて昼食にしているらしい。

 

斬の父親が既に亡くなっているらしい事は知っているが、詳しい家庭環境は聞いていない。

少なくとも、弁当を持たせてくれる家族はいないようだ。

もうちょっと仲良くなれたら、詳しく知る機会も在るかもしれない。

 

 

「空也君も、また一緒に購買行く……?」

 

「いや、今日はコレを持たせて貰ってね」

 

昨日は下宿先に挨拶する事なく学校に直行してしまったので、斬に連れられて購買で昼食を済ませたが、今日からは翠月さんの手作り弁当だ。

態々申し訳無いとも思ったが、どうせ翠乃の分も作るのだから一つも二つも変わらないと言われてしまったので、お言葉に甘える事にしたのだ。

 

「あ、そうなんだ……」

 

シュンとしてしまった斬に待っているから一緒に食べようと持ち掛ければ、パアッと明るい顔に戻ってタタタっと購買へ駆けていった。

同い年のハズなのだが、可愛いヤツである。

 

クラスメイト達に一緒に食べないかと誘われるのを、斬と食べるからまた今度と断って一人窓の外を眺める。

ふと、誰かが近付いてきて机の横に立った気配を感じ、振り返る。

 

「た、辰爾君……えっと、おはよう」

 

「ああ、月島さん。怪我の手当は済んだのかい?」

 

そこに居たのは、斬の言った通り昼登校してきたらしい月島さんだった。

左袖からは真新しい包帯が覗き、右頬にガーゼが当てられている姿の月島さんは、ちょっと決まり悪そうな顔で片手を上げて、オズオズと声を掛けてきた。

 

「う、うん。腕の方は何針か縫ったけど、ほっぺは浅いって……あの、応急措置してくれたのって辰爾君だよね?」

 

「礼には及ばないよ。立会人の仕事の範疇だ」

 

「ううん、それでも……ありがとね。お医者さんも、これなら傷は残らないって……」

 

「それは重畳」

 

「…………」

 

それだけ言って、所在無さげに立ちすくむ月島さん。

次に掛けるべき言葉を決めかねている様だ。

 

真剣勝負の結果は引き分け、勝負無しだ。

牛尾が刀を引いた以上、過程はどうあれそれは変わらない。

だが、月島さんにしてみればあれだけの醜態、下手な敗北以上に(こた)えたはずだ。

良いように甚振(いたぶ)られ、大事な刀から手を離し、挙げ句戦意を喪失してへたり込み斬る価値無しと断じられる。

世が世なら切腹物だ。

その心中如何(いか)ばかりか、想像するに余りある。

 

「……三人は?」

 

「牛尾と木下は、今日は見てないね。斬は購買に行ってるよ」

 

そもそも、牛尾のヤツが授業受けてる絵面が想像しづらい。

どうやって進級したんだアイツ。

 

「そっか」

 

月島さんは、何かに耐えかねたようにギュッと右手首を握り締めた。

目を瞑り、暫くして考えが纏まったのか、目を開いて俺に言った。

 

「……村山君が帰ってきたら、二人に言いたい事があるんだけど、良いかな?」

 

「構わないよ……丁度斬も戻って来たみたいだ」

 

そう言って、教室に入るなり俺と話し込む月島さんを見つけて、せっかく買ってきたパンを取り落としそうになっている斬にさっさと来いと声を掛ける。

 

ワタワタと席まで戻って来た斬が、恐る恐るといった風に月島さんを見上げて口を開く。

 

「お、おはよ……あ、コンニチワだよね。月島さん、怪我は大丈夫……?」

 

見るからに挙動不審だ。

ストローの先がパック牛乳の差し込み口の周りをコッコッコッコッと突きまくっている。

 

「おはよ、村山君。お薬貰ったから、動かしたりしなければあんまり……」

 

「そそ、そうなんだ」

 

昨晩は、ロクに言葉を交わすこと無く別れたのだろうか。

斬も月島さんにどう言葉を掛けて良いか分からないようだった。

 

「斬、月島さんは俺達に話があるそうだよ」

 

「え、そうなの?」

 

このまま放おっておいたら一生お見合いを続けていそうだったので、さっさと本題に入るべく、月島さんに水を向けてみる。

 

「う、うん。えっと……実は二人にちょっと頼みたい事があって……。ゴハン食べた後でイイから、体育館裏に来てもらってもいいかな……? ここだとホラ、ちょっと恥ずかしいから……」

 

すると、僅かに頬を赤らめた月島さんが、モジモジして視線を逸らしながらそう言ってじっと答えを待っている。

 

「頼みたいコト……体育館裏……!?」

 

何を勘違いしたのか、斬が目を見開いて固まってしまったので、代わりに答える。

 

「構わないとも。そうは待たせないから、先に行って待っててくれなね」

 

「ありがとうっ……! じゃ、じゃあまた後でね!」

 

 

そう言ってやると、月島さんは幾らか表情を明るくして、仲の良い友達と二言三言言葉を交わしてから教室の外に走っていった。

あの様子だと、己の未熟を嘆くよりも、より腕を上げて自信を取り戻す道を選んだらしい。

大方稽古相手を頼まれるのだろう。

この御時世、逆風吹き(すさ)ぶ中、女だてらに武道を志すだけの事はある。

気丈な事だ……そこに関しては、素直に関心出来る。

 

「えっ、ここ、告白……!? しかも二人同時に……!!? えぇ〜……?」

 

「斬、斬。さっさと食ってしまおう。待たせちゃ悪いぞ?」

 

明後日な事を呟きながら目を白黒させている斬の額をコンコンとノックして、お留守の正気を呼び戻す。

絡んでいると色々なトラブルを呼び寄せる斬だが、見ている分にもまるで退屈しないヤツだ。

どうせ直ぐに間違いに気付くのだし、勘違いしたままにしておくか。

 

結局その後、喜び勇んで向かった体育館裏で剣の腕を見込まれて稽古の相手を頼まれ、どこかがっかりした様子の斬と共にそれを了承したのだった。

実は頼りないと思ってたとか要らん事まで明かされて、若干煤けた様子の斬はやっぱり面白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早速、手合わせお願いするね。先ずは、村山君から!」

 

放課後。

思い立ったが吉日と、早速稽古を頼まれて斬と一緒に向かったのは、最早見慣れた体育館裏だ。

あいも変わらず埃っぽく、風が吹く度に砂埃が巻き上がる。

 

ご丁寧に薙刀部に行って薙刀用の木刀まで借りて来たらしく、三人共木刀を持って向き合うと、どこか(カラ)元気気味(ぎみ)な月島さんに指名されて斬が一歩前に出る。

杖術部にも棒術部にも、六尺超えの手頃な棒が無かったとは月島さんの弁だ。

 

「ほ、ホントに僕でいいのかなぁ……?」

 

まだどこか躊躇いの色が残る斬に、月島さんが言う。

 

「あたし、昨日は何にも出来なかった。真剣勝負の空気に飲まれて、実力を何にも発揮出来なかったのが悔しいんだ。だから試したいの。研無刀をあれ程に使い熟す村山君に、今のあたしがどこまで通用するのか!!」

 

そう決意を叫ぶと、クルッと俺の方を向いて続ける。

 

「辰爾君は、あたしと村山君の立ち合いを見て、アドバイスを頂戴!」

 

「心得た。傷口が開かないよう、くれぐれも左腕は労ってね」

 

「大丈夫!」

 

そうは言ったが、今更ながら困った。

たしか今の時点の斬、自分の意思で内なる自分を目覚めさせる事が出来ないんじゃなかったか?

 

斬の様子を窺うと、名状しがたい顔でぷるぷると震え、どこかへっぴり腰で木刀を構えている。

……不味いな、素の斬の剣は素人以下の棒振りダンスだ。

別に斬がボコボコにされる事自体はどうでも良いが、結果手加減されたと感じた月島さんとの仲が拗れてしまったら、別に俺が悪い訳では無くともちょっと申し訳無さを感じてしまう。

 

かと言って、俺が襲い掛かって斬を追い詰めた所で、目覚めた『斬』が反撃してくるのは俺の方になるだろうし……特に隠す理由も無いんだから、俺にしたようにさっさと打ち明けて仕舞えば良いと思うんだが、それを決めるのは斬だしなぁ。

 

そんな事を考えつつ、まあどうにでもなれと秒で諦めると、丁度そのタイミングで月島さんが気合いの籠もった掛け声を上げる。

 

「行くよっ! ……やあぁあぁあぁあぁっ!!」

 

「わっ、わっ……!?」

 

そうして、哀れ棒立ちの斬の(めん)目掛け、月島さん会心の打ち込みがめり込もうとするその間際。

 

「うっせぇなあ!!! 体育用具室(ココ)の裏で騒ぐんじゃねぇよ!!」

 

ガラッと用具室の扉が開け放たれ、金髪生徒の怒鳴り声が辺りに響いた。

……あれだろうか、この世界では立ち合いの瞬間に誰かが乱入しないといけないルールでもあるのだろうか?

ビクッとした二人が、その場に固まって怒号の主を振り返る。

 

俺はと言えば、ああコイツ、この場面で出てくるんだぁと懐かしい気分に浸りながら、眉間にシワを寄せて厳つい表情を作るソイツが次に何を言い出すのかワクワクしながら眺めていた。

 

「ったく、おちおち昼寝も出来ねぇじゃねぇか」

 

ワックスか何かでツンツンに尖らせた髪を赤味がかった金髪に染め上げたその生徒は、左(まぶた)から頬に掛けての一文字疵が特徴的な顔を顰めて、短ランのポケットに両手を突っ込んだままヒョイッと窓枠を飛び越えてさも面倒臭そうにボヤく。

こんな時間になるまで昼寝していたらしい事といい、分かりやすい位の不良スタイルだ。

 

そんな彼は、向き合ったまま固まる斬と月島さんを見て、今気づいたと言う風にニヤリと笑う。

 

「へっ、なんだなんだぁ? お坊ちゃんとお嬢ちゃんが、木刀片手に仲良くチャンバラごっこかぁ?」

 

そう言って、ふあぁと欠伸を一つ。

 

「いいぞぉ、ヤれヤれ! そこの坊主と一緒に見学でもさせて貰――」

 

貫木(つらぬき)!」

 

月島さんは、彼の事を知っている様だ。

名前を呼んだかと思うと、激昂して怒鳴る。

 

「チャンバラごっことはなによっ!! 邪魔するんならとっとと消えて!!」

 

「うおっ!?」

 

今度は、貫木と呼ばれた方の彼がビクッとたじろぎ、何だコイツと言った表情で月島さんを見返す。

 

「へいへい……ふわあぁあぁ……お言葉通り、邪魔者は消えますよっと……」

 

プンスコする月島さんとそれ以上絡む気も無い様で、つまらなそうに欠伸を漏らしながら貫木(なにがし)はザッザッと体育館裏を去って行った。

不良でござい! と言わんばかりな見た目に反して、結構素直なヤツだ。

その背中には、反りの全く無い菱鍔の脇差しが一本、真横向きに吊り下げられていた。

そういやアイツもたしか、一風変わった剣を使うんだったな……。

 

「な、何だったんだ……?」

 

状況についていけていない斬が、呆気に取られたような表情で貫木の去った後を見詰めていると、月島さんが、ブツブツと何かを言い出した。

 

「……でも、貫木の言う事も一理あるか……あたしが実力を発揮出来なかった理由の一つは、真剣の迫力に怯え過ぎちゃったからだもんね……」

 

そして、一人で納得したのか、うん、と頷いて木刀を地面に置き、スラリと腰の刀を引き抜いた。

 

「例え稽古でも、真剣でヤらなきゃ意味無いよね!」

 

そう言って、片手持ちに構えた(きっさき)を斬に向ける。

 

「えぇえぇえぇえぇぇっ!?」

 

突然の宣言に、斬が分かりやすい悲鳴を上げる。

そりゃそうだ。

俺だって、師匠に初めて真剣で手合わせをすると言われた時はコイツ馬鹿なんじゃないかと思ったものだ。

 

いや、理屈は分からんでもないけど、稽古の度に怪我してたら捗らなくない?

と思っていたのも今は昔。

悲しいかな、真剣の恐ろしさは、真剣を使う事でしか学べないのだ。

 

すっかりやる気になった月島さんが、腰を落として構えを整える。

どうやら本気の様だ。

 

斬が助けを求める様に俺の方を見て、口の形だけで(無理無理無理無理!)と言っているがこれを無視する。

俺もちょっとは驚いたが、よくよく考えて見ればこれは斬にとっても都合がいい。

真剣同士の勝負ならば、斬の命の危機という条件を容易に達成出来る。

願ったり叶ったりだ。

 

「村山君、抜いて!」

 

「………………」

 

どうやら俺に全く止める気がない事に気付いたらしく、諦めの表情で研無刀を抜く斬。

見様見真似のそれらしい構えを取る。

いざ、手合わせだ。

 

……だが、また直ぐに斬り掛かるものと思って暫く待ってみても、双方刀を構えたまま睨み合いの不毛な時間だけが続く。

おやと思ってよく見ると、月島さんの手がカタカタと小刻みに震えている事に気が付いた。

唇を引き結び、キッと勇ましく睨んでは居るが、額には冷や汗が滲み、肌はどこか青白い。

 

……気丈に振る舞っていたので大丈夫なのかと思ったが、どうやら昨晩の事はしっかりとトラウマになっていたらしい。

これは……厳しいか。

 

「……真剣ゆえ、多少の切り傷はやむを得ないが、当然致命打は避け、寸止めを持って一本としようか。危ないと思えば俺が止めよう。双方気兼ねなく全力で打ち込むと良い」

 

仕方無く俺がそう言ってやると、ようやく意気地が付いたらしい。

掠れた様な掛け声で月島さんが斬に打ち掛かった。

 

「…………やあっ!!」

 

「いっ!?」

 

……昨日と比べれば、幾分マシな踏み込み、しっかりと腰の入った左薙ぎだ。

しかし、本当に斬りに行くのならば、今のは右薙ぎにすべき場面だった。

斬る事に躊躇いが生まれてしまったのだろう、斬の構えが右によれたのを感じて、咄嗟に防ぎやすい方を狙ってしまった様だ。

 

しかし、

 

「いつっ!」

 

「っ!?」

 

腐っても剣道五段。

中段者の鋭い剣筋は、素人の咄嗟の防御など弾き飛ばして斬の頬に浅くは無い斬り傷を刻んだ。

舞い散る鮮血に、月島さんの顔がサッと青くなる。

 

一撃入れたハズの月島さんの方が、素早く一歩間合を離す。

 

斬は斬で、月島さんの剣の想像以上の鋭さに青くなっているが、月島さんの顔色の悪さはそれ以上だ。

 

ハアハアと肩で息をして、半開きの唇を小刻みに震えさせている。

 

「なっ、何で今のが掠っちゃうの!? 村山君まで、私が女だからって本気で戦う価値無いって思ってるの!!?」

 

「ちっ、ちがっ!?」

 

最早半狂乱な様子の月島さん。

先程までは自分の心配ばかりだったであろう斬は、何やら相手の様子も自分に負けないくらいおかしい事にようやく気付いたようだ。

 

「つ、月島さ――」

 

「たあぁっ!」

 

「うわっ!?」

 

思わず斬の剣先が落ちた所に、月島さんの連撃が襲い掛かる。

 

「えいっ!! やあぁあっ! たあっ!!!」

 

「っ! わわっ……!!」

 

来るかもしれない反撃の事など忘れた様な月島さんの破れかぶれの乱打に、斬は必死になって刃を合わせる。

 

カンキンカンと連続して金属音が鳴り響き、眼前で飛び散る火花に泣きそうな表情だ。

寸止めの取り決めを忘れてしまったとしか思えない遠慮のない打ち込みに、素人なりに何とか刀を合わせていた斬だったが、とうとうその瞬間が訪れる。

 

「やあぁあぁっ!!!」

 

月島さんの放った突きが、直前の篭手斬りを何とかいなして体勢を崩してしまった斬の顔面に向かって真っ直ぐに突き進む。

明らかに寸止めは無い。

しかし、俺は反射的に止めに入ろうとする身体を抑えつけてやっとかと独り(ごち)た。

 

「……ヒヤヒヤさせる」

 

気付けば、剣先は斬の鼻先を掠め、空を穿っていた。

全身から異様な気配を漂わせる斬が、研無刀をブラリと片腕に垂らしながら、冷たい瞳で月島さんを見下ろしている。

『斬』がようやく目を覚ました。

 

月島さんが目を見開き、一瞬、硬直する。

 

「っつ、あああああっ!!」

 

即座に、首筋目掛けての横薙ぎ。

 

「……」

 

膝を曲げ、上体を反らしてまたも紙一重で躱す『斬』。

 

逆袈裟。

躱す。

振り下ろし。

躱す。

刺突。

躱す。

 

先程までのワタワタした斬は何処へやら、顔色一つ変えず、瞼をピクリとも動かさずに、軽々と全ての剣を躱しきる『斬』。

こうして改めて見ても、斬と同じ人間の体捌きとは思えない。

 

殆ど全力であろう下段薙ぎを高く跳んで躱した『斬』が大きく間合を空けて着地すると、月島さんはとうとう剣先を地面に付けて呆然と立ち尽くした。

 

「…………」

 

「…………」

 

片や『斬』は、息一つ切らす事無く泰然と立ち。

片や月島さんは、真っ白な顔に汗で髪を張り付かせ、ハアハアと荒く息を漏らしている。

真新しい包帯には、ジワリと(あけ)が滲んでいた。

 

ドンっ、と力強く地面を蹴りつける音が響く。

月島さんは、ピクリとも反応が出来ない様だった。

その右頬から僅か二()

研無刀の鋒が、ピタリと静止している。

 

「……勝負あり」

 

二間程の距離を瞬きの間に詰めた『斬』の、見事な一閃だった。

静寂が体育館裏を満たす。

遠くグラウンドから、部活動に勤しむ生徒たちのイヤに明るい声が聞こえてくる。

 

一陣の風が二人の間を駆け抜けた。

 

「……流石だね」

 

ポツリ、と月島さんが呟く。

その目尻には、一雫の涙が光っている。

 

「全然ダメだね、あたし」

 

そう言って、力無く笑う月島さん。

気付けば、斬の瞳に光が戻り、気遣わしげな表情で研無刀を引き、鞘に収めた。

 

「……そ、その……」

 

「課題が多いね。月島さん」

 

何かを言いかけた斬を遮って、月島さんに声を掛ける。

こういう時、勝者から敗者に掛ける言葉など無いのだ。

 

「……そうだね……あたし、女でも武士になれるんだって日本中に伝えたいだなんて、ホント、先ずは自分からだろって話だよね…………道は遠いなぁ!」

 

最後の部分を殊更に大きな声で言って、グイッと左腕で涙を拭う。

イテテっと小さく呟いて、小さく笑う月島さん。

 

「……今日はありがとね、村山君」

 

「う、うん……」

 

「辰爾君もありがとう……ゴメン、わたし今日はちょっと、これくらいにして後は自主練にさせて貰うね!」

 

「精進だよ」

 

「うんっ! ……じゃあ、村山君、辰爾君、また明日っ!」

 

それだけ言うと、月島さんはタッタッタッと逃げるように去って行った。

後に残された俺達は、互いに黙ったまま暫くの間立ち尽くす。

 

徐ろに、斬が口を開く。

 

「……月島さんって、スゴいよね」

 

「ああ」

 

「僕なんかより、全然」

 

「全く」

 

「…………」

 

自分で言ったくせに、ちょっと不満そうな顔で俺を見上げて来る斬。

事実だぞ。

 

「……僕も、()()()()頑張ろうかな!」

 

「そういう所だよ、斬」

 

 

あなたはジャンプ作品『斬』を……

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