幻想郷のやんでれた少女たち   作:静乱

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 何番煎じか分からないですけど、適当に頑張ります。


やんでれ巫女 博麗 霊夢

 青年はもがく。

 この状況を打開する為に、必死に四肢を動かす。

 しかし、青年を縛っているのはある巫女に伝わる特別な結界術。それを当代の巫女自身が独自に改良し、対象の細部を縛るようにした特別製である。多少強度が下がってはいるものの、並みの人間に破壊出来るような代物ではない。人里に住む一般人の青年では、現状打破は不可能だ。

 

「くそっ、畜生! どうなってるんだよ!」

 

 悪態を吐く青年。無理もない。

 現在、青年は妖怪の山に存在する小さな小屋に閉じ込められている。目を覚ませばこんなところに居るのだから、混乱し、悪態を吐くのは当たり前だ。

 ……因みに、この小屋は元々、名もなき小妖怪が住んでいた。青年を閉じ込めるために、犯人が退治してしまったのだか……これは余談だろう。

 

 数十分後。

 体力に自信のある青年も、これだけの時間もがき続けていれば、流石に疲労してくる。一度もがくのを止めたのだが……それを狙いすましたかのように、青年の耳に届いたのは、扉が開く音。びくり、と青年は肩を震わす。

 

 ーー九分九厘自分を攫った奴だ。

 

 流石に自分を助けに来た人物ではないだろう。本当はその可能性に賭けたいところではあるが、もし違ったとしたら、味わう絶望は数倍にもなり得る。

 『何事もあまり期待はするな』

 母親に毎日のように言い聞かされていたのを、青年は思い出した。

 

 足音が迫る。ぎし、ぎし、と木材が軋む音が小屋の中で響き渡る。聴き慣れていたはずのその音は、今に限っては初めて聴く音のように感じられた。

 

 ……足音が止んだ。がちゃり、と扉が開く。

 

 

 

「……霊夢っ!? なんだ、霊夢か!」

 

 心底安心するように青年は溜息をつく。

 無理もなかった。青年と少女ーー博麗 霊夢は、付き合いこそ数ヵ月程度と短いものの、かなり仲がよい。性格が若干きついとは言え、とても良い友人として、青年は霊夢のことを信頼していた。

 信頼しきっていた。

 

「いやぁ、怖かった。お前の足音が聴こえた時、俺、てっきり俺を攫った犯人かと思ってさ。男の癖にびびっちまってたよ」

 

「……ふぅん」

 

 この時、霊夢の態度に何か違和感を覚えてもよかったはずなのだが……しかし、完全に安心しきっている青年は、僅かな違和感などに気付くはずがなかった。

 

「じゃあ霊夢、このよく分からない拘束具、取ってくれるか? もう腕とか足とか痛くて痛くて……」

 

 青年は、この拘束具……もとい『博麗流結界術 霊夢仕立て』の正体を知らない。博麗にしか伝えられない術である為、一般人である青年が正体をしっていたならそれはそれで問題だっただろうけれど……今の状況に限って言えば、知っていた方が、まだよかったのかもしれない。

 『あまり期待しなくて』済んだから。

 

「そうよね。だって、そういう風にかけたもん。『結界術 私仕立て』」

 

「……は?」

 

 理解し難い。

 と言うより、理解したくなかった、という方が的を射ているのか?

 

 ……兎に角、青年は霊夢の発言が理解出来なかった。

 

「な、何言って……。どういうことだよっ、ソレ!?」

 

「はぁ。貴方って理解力無いわよね……まぁ、そういうとこも『好きだけど』」

 

「ーーっ!?」

 

 ぞくり。

 と、寒気を感じる。

 状況が違ったなら嬉しかったはずの唐突な告白は、しかし青年を恐怖に陥れる発言だった。

 

「な、なぁ……!?」

 

「まだ分からないようだから教えてあげる。貴方をここに閉じ込めたのは私。拘束したのも私。そして、貴方が大好きなのも……私」

 

「な、何、言って……っ!」

 

 青年の言葉は続かなかった。霊夢が口を塞いだからだーーいわゆるキス、接吻。それも深い方。

 青年は一瞬、快楽に身を委ねたものの……すぐにはっとして、霊夢の唇から逃げる。

 

「ぷはっ! ……な、いきなり何すんだよっ!?」

 

「何って、キスでしょ? キス、接吻。大好きな人にする行為ーーでしょ? 私は貴方が大好きだもの、キスするのは当たり前だわ」

 

 そう言って、再び青年に迫る霊夢。話にならない、と青年は、腰を軸に足を動かし、霊夢を突き飛ばした。霊夢は小さく悲鳴をあげ、尻餅をつき、表情に陰を落とす。

 

「……どうして私を拒むの?」

 

「どうしてって……常識的に考えたら、誰だって拒むだろうが!? いきなりこんなことされて、拒まずにいる方が難しいぞ!?」

 

 青年の常識。

 今の霊夢には、そんな物は通用しない。

 

「……常識って、何? 私は貴方が好きなだけよ。大好きだから、貴方を私だけのものにしたいだけ。それのどこが、可笑しいって言うの……?」

 

「……!」

 

 そう言って、下を向く霊夢。いつもの青年なら心配の一つしただろうけれど、……だけれど、青年は思う。

 こいつは異常だ、と。

 こいつには何を言っても無駄だ、と。

 ……逃げなければ、と。

 

「っ!」

 

 脱走経路は分からない。しかし、今を逃せば確実に自分は終わる。霊夢から、博麗 霊夢という狂人から、逃げられなくなる。彼女が沈黙している今がチャンスだ。こんなところで人生を捨てる訳にはいかない……!

 決意を固めた青年は、まるで陸に上げられた魚の如く、跳ねながら扉へ向かう。扉を潜ると、すぐに分かれ道があった。

 

「……こっちだっ」

 

 一瞬迷った末に、青年は『左手方』なるものを思いだし、左に跳ねて行った。この状況、左手方なんて使い物にならないが、しかし、青年は幸運だった。

 

「や、やったっ!」

 

 二分の一。

 確率的には半分の選択肢を引き当て、青年は入り口ーーもとい出口に辿り着いた。歓喜する青年。

 

「よしっ、これで!」

 

 『期待』を込めて入り口に体当たり。一度では破壊出来なかったが、二度目ならば。

 

「それでも駄目なら、三度目だぁっ!!」

 

 扉は音を立てて粉砕された。三度目の正直、という奴だろう。

 扉の先から差し込む光に、青年はようやく救われた気がして。どうにかして人里に戻って、人里の守護者に助けてもらって、暖かいご飯を食べて、ゆっくり寝ようと、夢を膨らまして。

 希望に満ちた表情で、青年は扉を潜った……。

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 小屋に出た。

 小屋に、出た。

 

「……は? どう、なってんだよ。どうして、どうして小屋に出るんだよっ!?」

 

 叫びながら、小屋の『出口もとい入り口』を潜り続ける。……しかし、どれだけ潜っても、どれだけ潜っても。

 青年は、小屋の外に出ることが出来ない。

 

「『元祖博麗流結界術』。名前通り、今貴方を縛っている『私仕立て』の元祖よ。本来は妖怪を指定した空間に閉じ込める為の物なんだけど……こういう時にも役立つなんてね」

 

 青年は思う。

 そんな事の為に、結界を貼るな、使うな。

 

「酷いじゃない。いきなり逃げちゃうなんて」

 

 青年に迫る霊夢。逃げようと扉を潜っても、再び小屋の中に出て、霊夢は目の前に居て。

 とうとう青年は、恐怖で、立っていられなくなった。後ろに倒れ込んだ。

 

「だからね? 私、貴方が逃げない方法、考えたの」

 

「……や、やめ……」

 

 霊夢がパスウェイジョンニードルをちらつかせた事で、青年はこの後の展開を察した。

 ……察しながらも、無理だと思いながらも、どうにか生き残るべく、生き延びるべく。青年は、首を振って、霊夢の接近を拒んだ。

 

 

 

「これからは、ずぅっと、一緒よ」

 

 そんな青年の心中なんて、彼女が察する訳もなく。

 青年の胸元に、無慈悲に、パスウェイジョンニードルが突き刺さった。

 

 

 

 

 




 本日一番の被害者『名もなき小妖怪』
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