プール授業前に突如として無くなったヒシミラクルのスクール水着。
たまたま通りがかったアドマイヤベガとナリタトップロード、何故かクラスの違う教室のロッカーに潜んでいたテイエムオペラオー、プール嫌いで自ら水着を忘れた前科はあるがアリバイのあるヒシミラクルに、その友人。その中にヒシミラクルの水着を奪った犯人がいる。そうタニノギムレットは宣言した。
「ギムレットさん……本気で言っているんですか? ミラ子ちゃんの水着を盗んだ犯人が私達の中にいるなんて」
「無論、空言ではない……現に、証拠はすべて揃っている。今までの会話は全て聞いていたからな」
「だったら、勿体つけないでさっさと言ったらどうなの。あまり時間はないわ」
次のプール授業まで、もう15分もない。本来ならもう水着に着替えなくてはいけない頃だ。
「元よりそのつもりだ、双子星の織姫よ……そして犯人はお前だ!!世紀末覇王、テイエムオペラオーよ!!」
タニノギムレットが、テイエムオペラオーを鋭く指差す。驚くナリタトップロードに、顔を青くして周囲を見るヒシミラクル。
「オッ、オペラオーちゃんですか!?」
「おや、ボクを告発するというのかい? おお、まるで今のボクは偽りの罪で監獄に送られる水夫のようだ!」
疑いをかけられたテイエムオペラオーは、まるで舞台の上に立つ役者のように堂々としていた。
「そうだ……この教室は一時間目移動教室によりもぬけの殻だった。そしてその隙にお前はヒシミラクルのスクール水着を奪い、そのロッカーに隠れたのだ!!」
「……まあ、なんで違うクラスのロッカーに隠れてたのかは疑問よね」
アドマイヤベガは、一部同調しつつもオペラオーに意見を伺うように目を向けた。
「おや、そんな程度の推理かい? だとしたらがっかりさ! ボクが━━」
「そ……それは違うよ、ギムレットちゃん!!」
意外なことにギムレットの推理を否定したのは水着を盗まれたヒシミラクル本人だった。
「ほう……まさか被害者自ら意見とは。いいだろう、聞かせてみろ、お前の反論を! そしてワタシとのショーダウンだ!」
証 言 開 始
〜一時間目の空き教室〜
ヒシミラクル
「だってオペラオーちゃんが私の水着を盗んだなら……
わざわざロッカーに隠れたりなんてするわけないよ!
ギムレットちゃんも言ってたけど、一時間目この教室には誰もいなかったんだよ?
もしオペラオーちゃんが犯人なら、私の水着を取ってすぐに自分の教室に戻ればいいだけじゃん!
犯人のオペラオーちゃんが、この教室に留まる理由なんてないよ!」
よほど緊張しているのか、発言したヒシミラクルは顔を青くして肩で息をしている。
ナリタトップロードとヒシミラクルの友人は、心配してその背中をさすってあげていた。
「……そうね、私もそれに賛成だわ。この中で一番怪しいのはオペラオーだけど、いくらオペラオーがふざけた王様でも人の水着を盗んでそのままロッカーに隠れるわけがない。そもそも外部の人間が持っていった可能性もあるのだし」
「ア、アヤベちゃん……そうだよね」
「正直、私はヒシミラクルさんの自作自演だと思っていたけれど。こんなに必死にオペラオーを庇うなら彼女も犯人ではないのでしょう。やっぱり、先生を呼ぶべきだと思う」
「うう、アヤベちゃんの目線が冷たい……」
アドマイヤベガも、ヒシミラクルの意見に同意した。だがタニノギムレットの瞳に自信が揺らぐことはない。
「なかなかの論理だ、ヒシミラクル……しかしその言葉、蹴らせてもらう!」
「な、何を…」
「『犯人のオペラオーちゃんが、この教室に留まる理由なんてない』……否ッ!! むしろ、犯人だからこそこの教室に留まるしかなかったのだ!!」
「……まさか」
アドマイヤベガが、何かに気づいたようにオペラオーを見た。その動きにはさっきまでとは違う明確な疑いの念があった。
「双子星の織姫が言っていたな……トレセンウマ娘のトレーニングを意図的に妨害する。その罪は非常に重い!」
「もしオペラオーが本当に盗んでいて、先生に知られたら厳罰……数ヶ月の出走停止くらいはあり得るかも」
「2人共……冗談ですよね? オペラオーちゃんが、そんな事するわけないじゃないですか!」
教室内に動揺が走る。ナリタトップロードはオペラオーが本気で疑われていることに戸惑いを隠せない。
タニノギムレットは、その不安を制するようにチッチッチと指を振った。
「案ずるな、盟友よ……確かに意図的に奪えば重罪だ。しかし今回の得物は水着とはいえ学園指定の規格が統一された制服……つまり! 『他ウマ娘の服を間違って身につけてしまった』というのは集団生活において決して珍しくもなければ悪行でもない! 歌劇の覇王はそれを逆手に取ったのだ! いたずら者の妖精が惚れ薬を取り違えたあの歌劇のようにな!」
「確かに、私もポッケちゃんのジャージを間違って着ちゃったことがありますけど……じゃあオペラオーちゃんが勘違いで水着を何処かに持って行っちゃったと?」
「……ギムレットの言葉を信じるなら、今でもオペラオーが持っていると思うわ。万一にも『故意に持ち去った』ことにはならないように。どうなの、オペラオー」
その場全員の目線がオペラオーに突き刺さる。しかしオペラオー当人はやれやれ困ったもんだと言いたげに笑顔で肩を竦めた。そして手ぶらであることを強調するようにヒラヒラと手を振る。
「へえ、じゃあ何かい? ボクがこの制服の下にヒシミラクルさんの水着を着込んでいるっていうのかい? 何故ボクがそんな事をしないといけないのかな」
「そ、そうだよ。オペラオーちゃんに私の水着を着る意味なんてないって……」
「なかなか面白い推理だったよギムレットさん。レースを引退した後で本格的に劇作家になったらどうかな?」
勝ち誇ったように笑うオペラオー。しかしタニノギムレットは再びオペラオーを、いやその首元を指差した!
「ホワイダニット……否ッ、そんなものは必要ない!
何故ならば、ワタシにはずっと! その首元にわずかだが学園のスクール水着が覗いてるのが見えていた!
そしてオペラオー、お前のクラスは私達と違って次は水練の授業ではない……よって間違いなく、犯人はお前だ。
お前は何らかの理由でヒシミラクルの水着袋からスクール水着を取り出し、それを着込んだあと制服を上から重ねて隠し、そして盗んだことならないよう敢えてこの教室に中にずっといた!
そうなんだろう……レースの世紀末覇王にして超高校級のオペラ作家、テイエムオペラオー!!」
ヒシミラクルが、その友人が、ナリタトップロードが、アドマイヤベガが。オペラオーの喉元を凝視する。たしかにこれで僅かでも水着の痕跡が見えれば決定的だ。あるいはオペラオー本人が動揺しても証拠になるだろう。
「ふふふ……ははは……はーっはっはっは!!」
「オ、オペラオーちゃん…?」
「流石はギムレットさん、この覇王にここまで堂々とブラフをかけるとはね! だが生憎ボクは犯人じゃないし、そうだったとしても、そんなハッタリは通じないさ!」
しかしオペラオーは、全く持って平然たる態度を崩さなかった。アドマイヤベガが、ため息をつく。
「……どうするの。正直授業に遅刻するのはもうこの際仕方ないけど……結局先生に頼るしかないかしら」
時計を見ればプールの授業はもう始まる寸前だ。仮に今から着替えても間に合わない。
「いいや、もう事件は解決している。覇王が動じないことも想定済だ。だが……下手人は見つかったようだな」
タニノギムレットは、指差すのではなく手のひらでそっと一人のウマ娘を示した。
彼女はずっと不安そうにオペラオーの首元を凝視し、その瞳には大粒の涙が浮かんでいる。
「もう、やめて…お願い、私が悪かったから……」
「ミラ子ちゃん……どうしたんですか、さっきから顔が真っ青ですよ?」
「自分の水着が見つかるかもしれないのに、そんなに怖がるっていうことは……そうか、共犯者ってそういうこと」
タニノギムレットは、最初にこの教室に入った時共犯者と口にした。てっきりいつものギムレット特有の言葉遊びだと皆思っていたが。
今回はそのまま、『ヒシミラクルとテイエムオペラオーが共犯で水着を隠している』ということだったのだ。
「オ、オペラオーちゃん……みんな、ゴメン、こんなつもりじゃ、なかった……」
ヒシミラクルが、限界になったようにフラフラとその場に崩れ落ちた。そっとその体を抱きとめるオペラオー。
そしてオペラオー自身も、負けを認めるように制服の上を脱いでヒシミラクルの上にかけ、中に着込んだスクール水着を顕にした。
「はーっはっはっは…………さあさあ皆、ご笑覧あれ……! 次なる物語の舞台を求め、自ら盗みに手を染めた……哀れな覇王でござ━━痛っ!?」
おもむろにアドマイヤベガがテイエムオペラオーの頭をチョップで黙らせた。
「……多分、ヒシミラクルさん。本当にちょっと具合が悪かったんでしょう」
「どういうことですか、アヤベさん?」
「ヒシミラクルさんがこれまであの手この手でプール授業を避けようとしてて、水着を忘れたって言い訳もトレーナーさんの手によって出来なくなってるなら。体調不良を言い訳にすることもあったと思うわ」
「まあ、確かに……でも今は、なんだか本当に辛そうですよ? ……あっ」
「フッ……どうやら気づいたようだね、この事件の真相に……」
そこでこの場の全員が理解した。
今日は本当に少し具合が悪かったが、それを言ったところで誰も信じてくれない。
困窮したヒシミラクルは、たまたま朝出会ったオペラオーに水着を預かってもらおうと考えた。
しかし他人のトレーニング道具であるスクール水着を持ち去るわけにもいかないオペラオーは、敢えて水着を着込みヒシミラクルの教室から出ずにロッカーに潜んだのだ。
本来なら友達一人に水着が無くなったと言い、すぐにオペラオーがロッカーから出て水着を返し、何食わぬ顔でやっぱり見つかったというだけで誤魔化せるはずだったが。
たまたま通りがかったアドマイヤベガとナリタトップロードによって、先生を呼ばれてしまいそうになったのでオペラオーがロッカーから飛び出したというわけだ。
更にタニノギムレットがやってきて推理劇まで始まってしまい、軽度の体調不良に加えて事が大きくなった不安と周りを巻き込んだ罪悪感でついにヒシミラクルは倒れてしまった。
「えっと、ともかく本当にミラ子ちゃんしんどそうなので保健室に運ばないと! でも、水着のことは先生になんて言えば……」
「……『ヒシミラクルさんの具合が悪そうだったから、大事を取ってみんなで保健室に連れていきました』だけでいいんじゃない」
「おお、アヤベさんからそのような言葉が出るとは! てっきりボクはこのままアルカトラズに幽閉されるものかと思ったよ!」
「……こんな騒ぎ、説明するのも面倒なだけよ」
ナリタトップロードがヒシミラクルを背負い、タニノギムレットが落ちないように支える。オペラオーが水着を脱いで、アドマイヤベガがそれを畳んで水着入れに戻した。
そして全員で、プール授業前に本当にヒシミラクルの具合が悪そうだったので保健室に運ぶことを優先したため授業に出れなかった……ということにした。
「これで此度の事件は闇に葬られ…しかしその記憶は刻み付けられる。言わば皆共犯者というわけだ!」
「なぁに、全ては夏の夜の夢、あるいはプールの泡のせいだとも! なかなか愉快な喜劇だったよ!」
「……二度とゴメンだわ」
「でも、平和に解決したしこれも一つの思い出になりましたよね! ミラ子ちゃんも、これで懲りてくれるでしょうし!」
「うう……もうサボりません……」
こうして当分の間、ヒシミラクルは真面目にプール授業やプールトレーニングに励むようになったのだった。
思ったより長くなってしまいました。色んなミステリ作品のパロディに気持ちFGO要素も入れたのでご容赦下さい。