ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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騒げや光子 連れよ 大和紅

 

 

「和食洋食中華……和食洋食……うーん、とりあえず日替わり定食を確認して……あれ? カフェちゃんだ」

 

 トレセン食堂にて、ヒシミラクルがお昼を食べに来ると和装姿のマンハッタンカフェがカウンター側で和菓子の受け渡しを行っていた。

 

「はい……こちら『チョコチップ入り桜餅』です。次のお客様、『天竺葵と爆進』セットになります……」

 

 どうやらマンハッタンカフェが食堂の一部スペースを借りて和菓子の販売を行っているようだ。なかなかの人気ぶりでウマ娘達が並んでいる。ヒシミラクルもなんとなく並ぶことにした。行列があるとのんびり並びたくなる性分である。

 

「カフェちゃん、和菓子始めたんだ? 他のお店で頑張ってたのは聞いてたけど」

「これはミラクルさん……はい、せっかくなのでトレセンでも同じお菓子を売ったらどうかと、ユキノさんに勧められまして……この通り、盛況です」

「そうなんだ……とりあえず私もチョコチップ入り桜餅一つで」

 

 聞くところによれば、バレンタイン前に近くの和菓子屋さんのために新しいお菓子の開発などしていたらしい。残り少なくなった和菓子はどれも確かに見栄えのある美味しそうなものだった。

 

「ええーい! どいてくれたまえ!」

「この声は……またですか……」

「タキオンちゃん? どうしたの、そんなに急いで」

 

 マンハッタンカフェの顔がかなり渋くなった。何やら急いで来たらしいアグネスタキオンはヒシミラクルの問いかけも聞こえていないようで、いきなり勢いよくマンハッタンカフェを指さした。

 

「カフェ! 君の商品に物申す!!」

「はて……確かタキオンさんは昨日大量に購入した挙句たいへん満足していたような気がしますが……」

「ああ、和菓子は絶品だったとも! けどそうではない! 問題は……君が一緒に売っている『ウマ娘すこやか珈琲』のことだ!」

「『ウマ娘すこやか珈琲』って何!?」

 

 そんな珈琲は聞いたことがない。……が、和菓子スペースの横にそう書かれたメニューがあった。マンハッタンカフェが嘆息しつつ説明してくれる。

 

「和菓子を食べる際に飲むことで糖の吸収を抑え、カロリーオーバーを起こりにくくする機能性飲料珈琲ですね……味も和菓子の甘みを殺さないように苦さ控えめにブレンドしたので、タキオンさんでもまあ飲めるかなと思いましたが……」

「そう……さすがカフェ、私でもなんとか飲めるくらいに悪くない珈琲だった……」

 

 そこでアグネスタキオンは自分の体……お腹を指差す。それは明らかに食べ過ぎで膨れていた。よく見ればいつもの白衣もこころなしかパツンパツンになっている。明らかにコンディション:太り気味を獲得していた。

 

「だが! この通りじゃあないかッ!! 完全にカロリーオーバーだよ!!」

「クレーマーだっー!! タキオンちゃんそれは悪質だよ!?」

 

 マンハッタンカフェは海よりも深いため息をついた後、仕方なしといったふうで言い返した。

 

「お言葉ですがタキオンさん……貴方のそれはただの食べ過ぎです。いくら珈琲が糖の吸収を抑えると言っても限度はあります……」

「聞こえないな! だいたいウマ娘が人より多く食べるのはカフェだって知っているだろう! 各種10個食べたくらいでこんなになるようじゃ詐欺だ! ペテンだ! 優良誤認じゃあないかッ! 折角今日はスカーレット君に競技場で良いところを見せようと思ったのに精神的苦痛だなぁ!!」

 

 何やらすごい勢いでまくし立てた後、タキオンはスマホを取り出してカフェに画面を見せた。ついでにヒシミラクルが覗き込むと何やら難しい実験について書かれているようだった。

 

「というわけで……美味しい和菓子に免じて返金はしなくていいがカフェには責任取って私の実験にたっぷり付き合ってもらおうか! 和菓子やユキノくんにかまけて最近私達の部屋に全然来なかったから寂しかったんだぞ!」

「はあ……最初からそれが目的ですか……」

(あれ? 私痴話喧嘩に巻き込まれてる……?)

 

 ヒシミラクルを挟んで二人が言い合っているのでなんだかいたたまれなくなってきた。しかしここで1人のウマ娘がタキオンの方に歩み寄ってくる。

 

「な……なんてこと……そんなに私とのレースに親身になってくれてたんですねタキオンさん!!」

「げぇ! スカーレット君!」

「『げぇ』……?」

「げ……月下美人の如く美しいねぇ、今日も!」

 

 アグネスタキオンを家族のように慕うウマ娘、ダイワスカーレットがウキウキ笑顔でアグネスタキオンの白衣を掴む。そして持ち前のパワフルさで引っ張っていった。

 

「嬉しいです! 私も全力でトレーニングにお付き合いしますね! まず私達のトレーナーさんを呼んで……少し太り気味みたいですから食事も徹底管理しないと!!」

「待っ……違っ……いやあこれには理由があってだね……聞いてくれスカーレット君」

 

 アグネスタキオンは食堂の外に連れ出されてしまった。マンハッタンカフェは最初よりもわかりやすい満面の笑顔でヒシミラクルへの接客に戻る。

 

「すみません、タキオンさんがご迷惑を……ミラクルさん、珈琲オマケしておきますね……」

「あっ……はい……」

 

 和菓子もそれに合う珈琲も大変美味しかったがその美味しさが少し怖かったヒシミラクルなのだった。

 

 

 

 

 




バレンタインカフェ可愛かったのでつい筆が乗りました。いいイベントでしたね。
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