ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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メガネに宿る知性は……

「ヒシミラクル、シュヴァルグラン。何故生徒会室に呼ばれたかはわかっているな?」

「はい……大変申し訳ございません……」

「ご、ごめんなさい……」

 

 トレセン学園生徒副会長、エアグルーヴが仁王立ちで鋭く言う。目線の先にはヒシミラクル、シュヴァルグランの二人が生徒会室で正座させられていた。

 本来なら、生徒会役員しか入らないその部屋に二人が呼ばれたのはもちろん相応の理由がある。

 

「私はキャッチボールをしている途中にうっかり暴投してビワハヤヒデさんの眼鏡を壊しました……」

「ボクがキャッチボールに誘ったせいでハヤヒデ先輩にもミラクル先輩にもエアグルーヴ先輩にも迷惑をおかけしました……」

 

 事の起こりは、シュヴァルグランがキャッチボールの相手を探しているようなのでヒシミラクルが声をかけたところから始まる。

 ヒシミラクルは野球よりサッカー派だが、キャッチボールくらいなら付き合えるだろうと思ってやっていたらものの見事にボールがすっぽ抜け、ウマ娘パワーで放たれた暴投は運悪くビワハヤヒデの鼻先を掠め眼鏡が破損。それをビワハヤヒデといっしょに歩いていたエアグルーヴが現行犯として2人を生徒会室まで連れてきたのだった。

 

「……キャッチボールをするのが悪いとは言わん。だがお前たちも本格化して鍛え上げたウマ娘の力は自分でわかっているだろう。これからはVRウマレーターを使うか、トレーナーのもとで行うなど改めるように」

「はい……ごめんねシュヴァちゃん。私がうっかりしたせいで……」

「いえ……ボクがボールの握り方とかちゃんと教えていればこんなことには……」

「……反省しているのはいいが、一番の被害者であるハヤヒデにもしっかり謝ってこい。一歩間違えれば頭に直撃して大事になっていた可能性もあるのだぞ」

「「はい……」」

 

 しょんぼりする2人にやれやれとため息をつくエアグルーヴ。しかしそこで生徒会室のドアをノックし、1人のウマ娘が入ってきた。

 

「まあそう怒らないでやってくれエアグルーヴ。私ならこの通り問題ない。予備のメガネもこの通り万全だ」

「おお、ハヤヒデか……良かった。換えのメガネも……いや待て。なんだそれは」

 

 エアグルーヴの表情が引きつる。

 現れたビワハヤヒデは、いつもの赤いフレームのではなく、いつぞやのサンタ衣装で使っていた面白メガネをかけていた。

 

「っ……! ハ、ハヤヒデさん。なに、それ……」

「おい笑うなヒシミラクル。誰のせいでこうなったと思っている」

 

 突然の事に少し笑いを吹き出してしまうヒシミラクル。シュヴァルグランは必死に口を抑えているが笑いそうになっているのは明らかだった。

 そんな2人を見つつ、ビワハヤヒデは背走サンタ眼鏡をクイッと直しながら、平静にこう言った。

 

「生憎予備のメガネは現在メンテナンス中……だがこのメガネも悪いことばかりではない。2人を見れば分かる通りこれで私の面白さは鰻登りのひつまぶし。ファンイベントを開いた暁には笑いのシニア3冠制覇、普段以上の参観者(3冠だけに)が訪れること請け合いだ」

「……」

 

 エアグルーヴのやる気が下がった。

 

「もしかして、ハヤヒデ先輩実はちょっとどこかぶつけてたんじゃ……」

「そうだよね、ハヤヒデさんがこんなになったら皆心配するし……私、せめてもうちょい賢そうなメガネ持ってくる!」

 

 流石に笑っていられなくなるヒシミラクルとシュヴァルグラン。特にヒシミラクルは直接の責任と先輩として、率先して生徒会室の外に出てメガネを探す。

 

「お待たせ! これなんてどうかな……」

「ほう……これはなかなか……【あんし〜ん】できるメガネだ」

 

 しかしヒシミラクルが持ってきたメガネは速攻でエアグルーヴが取り上げてしまった。即座にたづなさんへ不審者が現れたことを連絡すると、ヒシミラクルに向き直る。

 

「たわけ……! もっと他になかったのか……!」

「いやなんか安心できるかなって……」

 

 不調のまま絞り出すように言うエアグルーヴに萎縮するヒシミラクル。

 そこでシュヴァルグランが恐る恐る手を挙げた。

 

「あの……そういえば、生徒会長さんもメガネを持ってらっしゃいます、よね。図々しいかもしれませんけど、お借りすること、できないでしょうか……」

「おお、シュヴァちゃん天才!」

「か、会長の眼鏡か……」

 

 トレセン生徒会長、シンボリルドルフはデスクワーク用のメガネを用意している。机を見れば、確かにメガネケースが置いてあった。

 

「ハヤヒデがこのままだとチケットやタイシンにまで影響がでかねん……やむを得ない。お借りします、会長……」

 

 エアグルーヴが丁重にシンボリルドルフのメガネをビワハヤヒデに渡す。そっと装着したビワハヤヒデの姿は普段にも勝るとも劣らないほど知的に見えた。

 

「おお、流石はあのルドルフ会長のメガネ。かけ心地、一点のキズや曇りのないレンズ。至高の領域に近い」

「よし、これでいつものハヤヒデに戻ってくれたか」

 

 心底安堵するエアグルーヴ。ビワハヤヒデは頷いて知的に答えた。

 

「流石は生徒会長。メガネ1つとっても生徒が異常になっても助けてくれる……ということだな」

「生徒会長だけに?」

「…………」

 

 エアグルーヴのやる気が下がった。

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