前回のあらすじ:オルフェーヴルが真の姿を現したと思ったらカレンチャンとスイープトウショウに早々に引きずられていった。
「って聞いたからゴルシ様がお見舞いに来てやったんだけど元気そうじゃねーか。せっかく見舞いの果物にナカヤマ厳選チュッパチャップスメロン味1ダース用意したってのによ」
「……余の眠りを妨げてまでわざわざそれを言いに来たのか貴様。ナカヤマも何故こやつを止めぬ」
(うわぁ……また険悪な雰囲気……)
トレセン学園のグラウンドに来たヒシミラクルが目にしたのは、芝で昼寝をしていたオルフェーヴルを叩き起こして、安物のキャンディーを突き出すゴールドシップの姿だった。ゴールドシップの隣には甘い飴玉と熱い勝負をこよなく好むウマ娘、ナカヤマフェスタもいる。
「つれないこと言うなよ王サマ。真の姿を現したか知らないがアンタがオルフェであることに変わりはねぇ。ゴルシはああ言ったが、この飴玉は謁見のための贈り物さ。それとも王サマは安物の駄菓子など口をつけたくもねェかい?」
「……相変わらず口の回るやつだ。良い、赦す。捧げ物を受け取ろう」
オルフェーヴルは意外にも素直に棒付きキャンディーを受け取った。ナカヤマフェスタの王を立てる物言いが気に入ったのだろう。
「だいたいオメー、ずいぶん姿が変わっちまったけどゴルシちゃんと初めて会ったあの日のことまで忘れちまったワケじゃねーよな?」
「なに……? 余と貴様が初めて会った日だと?」
「ナカヤマといっしょに『我ら生まれた日は違えど父親は同じ』━━トレセン学園の伝説の桃の木の下で誓いあったの忘れちまったのかよ!」
(複雑なご家庭!?)
「存在しない記憶を捏造するな。知らぬ」
一瞬びっくりしたヒシミラクルだったが、あっさりオルフェーヴルは否定した。しかしゴールドシップはなおも食い下がる。
「バッキャロー! ゴルシちゃんがオメーの忘れちまった思い出を取り戻してやる! アタシとレースで勝負だ、オルフェ!!」
「……ほう、芝2500でも走るか?」
「いいや、3200だ! このレース……ゴルシちゃんの最強デッキ、【紅茶マックイーンコントロール】でぜってえ勝つ!」
(なんかデッキ取り出したー!?)
ゴールドシップが懐から取り出したのはウマ娘TCGのデッキだった。サトノ家ウマ娘が好きだったりヒシミラクルもCM撮影(第9話)で苦い思い出があるが、オルフェーヴルがウマ娘TCGデュエレースを知っているか怪しい。
「……盤上遊戯か。それもよかろう。我が臣下よ、王命である。デッキを貸せ」
(いいんだ!?)
オルフェーヴルはあっさり承諾し、臣下にデッキを用意させた。どこからともなく臣下のウマ娘が現れ、何やらキラキラしたカードの束で出来たデッキを渡す。
「オルフェ様、こちらフルレート【黄金郷オルフェーヴル】デッキとルールブックでございます」
「……よい。では下がれ」
当然のようにデッキを受け取り、ルールブックをパラパラとめくるオルフェーヴル。
「おいおい、ルールも知らねえのにこのゴールドシップ様に勝とうってか? いくらなんでも慢心しすぎじゃね?」
「……囀るな。臣下から余のカードの性能は聞いている。ならばルールさえ把握すれば王の勝利は必然よ。せめて散り様にて余を興じさせるのだな、ゴールドシップ」
「おっと、私を忘れてもらっちゃ困るぜ? 勝つのは私の大博打デッキ……【勝利宣言葛城エース】だ」
(ホントにカードゲームする気だ……)
3人のウマ娘がデッキを手に、ターフの上で堂々とデュエレースを始めようとする。その時、完全に傍観者だったヒシミラクルの横に1人のウマ娘が現れた。
「ウマ娘TCG、通称デュエレースはあらかじめ馬場や距離を決め、お互いが決めたウマ娘ちゃんがより早く決められたRP(レースポイント)を貯めた方が勝つゲームです」
「うわっデジタルちゃんどうしたの急に」
「真のお姿を現したオルフェさんにゴルシナカヤマさんの黄金コンビが挑む! デジたん、これを見逃してはウマ娘オタクを名乗れない!」
なにやらテンションが上がりまくっているアグネスデジタル。しかしそれが幸か不幸か、オルフェーヴルの目に留まってしまった。
「……そこの傍観者ども、誰の赦しを得て観戦している」
「あ、あばばばっ……スミマセン、推しの邪魔をするとはこのおデジ一生の不覚……! しかしどうかお慈悲を……!」
「ごめんなさい、またカレンチャンのときみたくならないか心配で……」
「……ならばせめてレース開始の宣言をしろ、これは王命である」
「あ、ありがたき幸せっ……レース開始ぃぃぃぃぃぃ!!」
アグネスデジタルは尊みが限界に達したのか鼻血を吹いて後ろに倒れながらも王命を遵守した。
「昇天しながら宣言したー!? デジタルちゃんが死んだ、このひとでなし!」
「……そうか、それで? こやつも王命を果たして死んだのなら本望だろう」
「うーんこの暴君! まあデジタルちゃんだから大丈夫だろうけど……」
「貴様もそやつの友なら代りにこの遊戯で王の凱旋を見届けよ。それがせめてもの餞であろう」
「しれっと観戦を強要された!」
傍観者のつもりがすっかり巻き込まれツッコミポジションになってしまったヒシミラクル。
「そんなこと言ってる間にゴルシちゃんの1ターンは終わったぜ! 友人カード、【メジロの主治医、杉田】を召喚だ!」
「私はイベントカード、【クロフネ来航】を使わせてもらったぜ。さあ、王サマのターンだ」
芝の上に置かれたカードを見やり、オルフェーヴルは颯爽と二人に向き直る。
「いいだろう……余のターン、ドロー。余は走者である余の効果を発動。手札をすべて捨て、その枚数分のRPを獲得する」
「バカな1ターン目から手札をすべて捨てるだと! こいつ正気か!?」
「……捨てられたトレーナーカード、【癖ウママスター】の効果。ウマ娘の効果で墓地に送られた時、ターンの終わりに手札に戻る。この意味がわかるな?」
「ヤバいぜゴルシ……あの王サマ、毎ターントレーナーを手札から投げ捨てる気だ」
「くっ……やるじゃねーか」
なんやかんや始まってしまったカードゲーム対決。ヒシミラクルも言われるがまま、よくわからないなりに観戦していたが、どうやらオルフェーヴルの優勢で進んでいるらしい。しかし、レースの終わりは唐突に訪れた。
「危ねえオルフェ、後ろだ!!」
「その手は食わんぞナカヤマ。貴様のことだ、余が目線をそらした隙にカードをすり替えるつもりだろう」
「違うそうじゃねえオルフェ! 伏せろっーー!」
「くどいぞゴルシ、このレース……伏して拝するのは貴様らよ」
「違うんですオルフェさん! ほんとに逃げてっー!!」
「何……?」
ヒシミラクルの真剣な呼びかけに、オルフェーヴルが一瞬目線を後ろに向ける。
時すでに遅し、オルフェーヴルの眼前に迫ったのは、一球の、尋常じゃない速度と回転で飛んでくるドッジボールだった。
ボールの先にいるのは肩で息をしているヴィルシーナと。更にその向こうで顔を赤くしながらも余裕の表情を浮かべボールを投げたであろうジェンティルドンナの姿だった。
「避……否……死……おのれジェンティルッ━━!?」
「あっーとオルフェくんふっ飛ばされた!」
「オルフェが死んだ、このひとでなし!」
「言ってる場合じゃないよ!? デジタルちゃんじゃないんだから! タンカだ、タンカだ、タンカを持ってきてー!!」
文字通り吹っ飛んだ王に駆け寄りつつ、応急処置をしてオルフェーヴルとついでにアグネスデジタルを保健室に連れて行ったヒシミラクルだった。
「……お目覚めください、オルフェさん!」
「ん……そうか、余はあのゴリラにふっ飛ばされて……正直、死ぬかと思ったぞ。」
数刻後、オルフェーヴルはアグネスデジタルに起こされて目を覚ました。しかしそこはトレセン学園のターフやましてや室内とは思えない、なんだかこの世とは思えないおどろおどろしい場所だった。
「おい、ここはどこだ」
「はいっ! 実はここはその……説明が難しいのですが」
「……余の時間を奪うな。不敬であろう」
オルフェーヴル自身も周りを見るが、高く積まれた石や川のようだが水とは思えないものが流れている溝などオルフェーヴルの見たことのない場所だった。
「実はその……ここは所謂あの世なんです! ですがご安心を。デジたん、オルフェさんが起きる前に渡し船の方に話はつけてありますので無事帰還できます!」
アグネスデジタルの指差す方を見れば、人ともウマ娘とも思えぬ鬼のような化け物が船で2人を待っているようだった。
「……なるほど、王が目を覚ますと、そこは冥府の辺りであった、か」
「ご理解が早い! そういうことになります!」
「なるほど、なるほど、なるほど……」
オルフェーヴルが神妙な顔で頷き、そしてカッと目を見開いて咆哮した。
「━━って本当に死んでいるではないか余!! おのれおのれおのれぇ!!」
オルフェーヴルの性格が好きすぎて臣下になりそうです。それはそれとしてギャグ適性もすごく高そうでワクワクします。