ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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宝物庫の鍵を開けてやろう

【ヒシミラクル。

 今日の放課後、余の指定した場所へ来い。これは王命である。

                    オルフェーヴル】

 

 ヒシミラクルの寮室に届いた一通の手紙。そこには達筆な字でこう書かれていた。

 シンプルな文面だが、必ず来いという圧は伝わってくる。

 

(ほげ〜暴君のオルフェさんからだ、なんだろいったい。この前タンカで運んだ時なにか失礼でもあったかな……)

 

 そして放課後、ヒシミラクルは指定された場所、トレセンの隅にある倉庫が並んでいるエリアにやってくると、そこには自分と同じく1枚の紙を持ったアグネスデジタルがいた。

 

「ミラクルさん、お疲れ様です! あなたももしやオルフェさんにご招待を……?」

「デジタルちゃん! 良かった、私一人じゃなかったんだね」

 

 周りを見渡すと、一番奥の倉庫の上に茶髪のウマ娘が仁王立ちしているのが見えた。高いところにいるのと大きなマスクのせいで、顔はよく見えない。

 

「こんにちは~、そこのお方、オルフェさん見ませんでした?」

 

 なんで倉庫の上にいるんだろう、と思いつつヒシミラクルが声を掛けると茶髪のウマ娘は重々しく口を開く。

 

 

「頭を垂れて蹲え。平伏せよ」

 

 

 その声は、紛れもなくあの金色の暴君・オルフェーヴルのものだった。思わずその場で跪くヒシミラクルとアグネスデジタル。

 

「オ、オルフェさん……今日はそちらのお姿なのですね、本日もご機嫌麗しゅう……」

「誰が喋って良いと言った。貴様らは余の問にのみ答えよ」

「はひぃ……」

 

 アグネスデジタルの言葉を一蹴するオルフェーヴルは、憤懣やる方ないといった調子で話し始めた。

 

「余は一度死んだ。あのゴリラのせいだ」

(えっ、死んだ……? 生き返ったの?)

「あのゴリラが投げたボールが余を直撃し、ヒシミラクルが余をタンカで運び、冥府に落ちた余をアグネスデジタルが現世に連れ戻した。これは事実に相違ないか」

 

 問い、というのはオルフェーヴルは気を失ったあとの事の次第らしい。冥府うんぬんはヒシミラクルにはさっぱりわからなかったが、自分の行いだけを説明することにした。

 

「えっと、はい……私がタンカでお運びしました……なにか不手際でもありましたか……?」

「オルフェさんを現世に戻す役目を遂行したのはこのおテジめに間違いございません。しかしヒシミラクルさんにはどうかお慈悲を……」

 

 戦々恐々としながらオルフェーヴルの質問に答える2人。

 

(うう、こんなことになるならあの時観戦せずにさっさと退散すればよかったかな……でもそうしたらデジタルちゃんが置き去りになっちゃってたし……

「そう、ヒシミラクル。貴様は今度似たようなことがあったら余と関わり合いにならず逃亡しようと思っているな?」

「ギクッ……そ、そんなこと、ナイですよ?」

 

 思考を読んだかのように、びりびりと威圧感のある言葉を投げかけるオルフェーヴルに、ヒシミラクルの肩がビクッと跳ねる。

 

「━━貴様は余の言う事を否定するのか?」

「もうダメだ……おしまいだぁ……肯定しても否定しても怒られる……育ててくれたお父さんお母さん、大好きなトレーナーさん、先立つ不孝をお許しください……」

「ミ、ミラクルさんお気を確かに……!」

 

 もはやどう答えても詰みな雰囲気に、口から魂が出そうになるヒシミラクル。しかしそこで今まで不機嫌そのものの表情をしていたオルフェーヴルが、フッと唇を歪めた。

 

「冗談だ。もう楽にして良い。そも、今日貴様らをここに呼んだのは余を救命したことに対する下賜を与えるためである」

「ほえ……お、お菓子……?」

「おお、なんという寛大なお言葉……!」

 

 バッと顔を上げると、オルフェーヴルはいつの間にか黄金の髪に金の鎖をいくつも纏わせた姿に戻っていた。

 怯え上がっていた2人を見てニヤリと笑うその姿は、暴力的なまでに美しい。

 そして、オルフェーヴルは細く長い指で自分が足をつける倉庫を指差した。

 

「ここは余の宝を管理するための専用宝物庫である。貴様らにはここからそれぞれ1つ、望むもの物をくれてやろう。━━解錠だ」

 

 指パッチンでオルフェーヴルの臣下が現れ、倉庫の重い扉を開ける。

 

「わぁ……すっごいキレイ……!!」

「さすがオルフェさん、財宝の管理さえお美しい! デジたん、感激でございます……!」

 

 その中は、まるで宝島のようにキラキラと。様々な金細工や豪華な衣装の数々に満ちていて。オルフェーヴルの雰囲気が和らいだのもあって2人は興奮を隠せずに煌めく宝物庫の中に入っていく。

 

「余が誇る王の財宝だ。下賜したものは好きにしてよいが、中にあるものは丁重に扱え」

「は~い、お店で買ったらいくらするんだろうこのお洋服……あ、結構カワイイ系のもあるんですね」

 

 ヒシミラクルが衣装棚を見ると、いかにもオルフェーヴルに似合いそうな荘厳で格好良い衣装の他にもふわふわした可愛らしい衣装もそこそこあった。

 

「……余がカワイイ服を着ていたらおかしいか?」

「いえいえそんな滅相もない! ただ、ちょっと意外だったので……サイズ合うかわからないけどちょっと試着してみようかな」

 

 ヒシミラクルが一着のワンピースを手に取る。しかしよく見ると首元にはタグのようなものが付けられていた。

 

【#LookatCurren♡】

 

「やっぱりやめときます」

「そうか。懸命な判断だ」

 

 一抹の不安を感じ、洋服はやめて他のものを見ることにした。視線を移すとアグネスデジタルが大きな本棚を見て感激しているようだった。

 

「さすがオルフェさん……書棚もラインナップも高貴ですねぇ……」

「うわ~すっごい、レースの歴史とか戦略とか……難しそうな本がたくさんあるね」

「王たるもの、先人の歴史を学ぶのは義務である。そして王のレースはトレーナーに頼ることのない知略がなければならない。書籍から知識を得るのは当然だ」

 

 ヒシミラクルが本棚を見ると、『月刊優駿』『追い込みの美学』『トレーニング大全』といった分厚い本が並んでいた。どれもヒシミラクルが読んだら5分で寝てしまいそうなものばかりだ。

 

「あ、下の方になんかピンクでキラキラした背表紙の本がある……なんだろこれ?」

 

 その中で異彩を放つ一冊の本を手に取ると何やら子供向けらしいポップな字体。

 

【おしゃれ魔女デビュー! 黒魔女さんが教える今日から使える魔法!!】

 

 と書かれていた。

 

「こちらには【気軽に使える爆裂魔法】【ゼロから育てる使い魔】と言ったご本もありますね……オルフェさん、もしや魔術にも興味がお有りで?」

「…………まあ、余にも幼き日の思い出くらいある。それより、これらの本は貴様らには無用だと思うが?」

(これもしかしてオルフェさんのものじゃないんじゃ……? いやよそう、私の勝手な予想でオルフェさんを怒らせたくない)

 

 ヒシミラクルの脳裏にさらなる疑問が生まれたが、あまり触れてほしくなさそうにオルフェが他を見るように言うので、2人は宝物庫の更に奥を見ることにした。

 そこにはおよそトレセンの寮室には置けないほどの豪華な机や椅子が丁寧に置かれていた。

 

「すごっ、これ最高級のブランド机だ! あっ、マホガニー材……手触りがすごくすごい……!」

「おお、ミラクルさんの目が輝いておられる」

「ほう、貴様にわかるか。この家具の良さが」

「はい! 私休日は家具屋さんでベッドや椅子に座るのが好きで……でもここまでの高級品があるとこはなかなかないから、感動……!」

 

 宝石でも眺めるように机や椅子を見ていくヒシミラクル。すると何やら異彩を放つ机?のようなものがあった。

 

【全自動麻雀卓】

 

「なんで!?」

「この麻雀牌、なにか変……。半分以上がガラス製でスケスケです。これでは遊べないのでは……?」

 

 2人揃ってオルフェーヴルを見ると、なんだか気まずそうに目をそらされた。

 

「……余の戯れで作ったものだ。気にするな」

「あの、オルフェさん……質問いいですか?」

「なんだ、言ってみよ」

 

 ヒシミラクルがそっと手を挙げる。オルフェーヴルの許しが出ると、おずおずと突っ込まずにはいられないことを聞いた。

 

「ここは本当にオルフェさん専用宝物庫ですか?」

「当然だが?」

「そうですかありがとうカワイイお洋服と魔法の本とギャンブル道具すごいですね」

「それほどでもない。優れた王は万に通ずるものよ」

「いやこれ、どう考えてもカレンちゃんとスイープちゃんとナカヤマちゃんの私物」

「━━貴様は余の言う事を否定するのか?」

「アッハイ」

 

 暴君ムーヴであっさり黙らされるヒシミラクル。実際、本当にオルフェーヴルのものではないという証拠もないのだが。

 

「ぬおぁー!? オ、オルフェさん、これは一体……!」

 

 一方他のところを見ていたアグネスデジタルが、何やら叫び声をあげる。思わずヒシミラクルとオルフェーヴルがそちらを見ると、そこにはとんでもないモノが鎮座していた。

 

【UFO(ゴールドシップの顔写真付き)】

 

「ゴルシめ……さっさとこの異物を片付けろとあれほど言っておいただろうが……!!」

「うわぁ、焼きそばの屋台まで後ろにおいてある」

「オルフェさん、これはもしや……ゴルシさんの?」

 

 頭を抱えるオルフェーヴルだったが、さすがにもう誤魔化しきれないと判断したのか、真相を語り始めた。

 

「あやつら、余の宝物庫にトランクルーム感覚で道具を置いていくのだ……」

「洋服とか本くらいならともかく、雀卓とUFOはよく許してあげたね!?」

「何一つ許した覚えなどない……」

「お労しやオルフェさん……」

「オルフェさんでも、あのメンバー相手だと苦労するんだね……」

 

 最初の怯え上がっていた雰囲気もどこへやら、いつの間にか2人でオルフェーヴルを励ましていた。

 

「そんな事はともかく、これで一通り宝物庫は見ただろう。欲しいものは決まったのか」

「うーん、家具は欲しいけど私の寮室には置けないし……デジタルちゃんは?」

「1つとはいえ、オルフェさんから直接モノを頂くなど余りにも恐れ多く……」

 

 豪華なものはたくさんあるが、倉庫で管理されているだけに気軽に使えるものはあまり無い。しかしあまり悩むのもオルフェーヴルの機嫌を損ねないとも限らない。

 しかし、改めてオルフェーヴルの姿を見たヒシミラクルには名案が浮かんだ。

 

「そうだ、オルフェさんの身につけてる金色の鎖……予備とかあります?」

「当然だ、毎日付け替えているからな。……まさか、それでいいのか?」

「はい! 1つだけなら私でもアクセサリとして使えるし……何より、せっかくオルフェさん本人から貰えるなら普段使いもできる方がいいかなって」

「では、デジたんも今宵の記念としてオルフェさんの金細工を頂きたく思います! 宜しいですか……?」

「そうか……良い、気に入った。余が身につける金の鎖、貴様らにも同じものを身につけることを許す」

「やっと許しが出た!」

「封印がとけられた!」

 

 こうして、オルフェーヴルから下賜された金色の鎖をヒシミラクルとアグネスデジタルは腕に巻き、ついでに3人で写真も撮ってウマスタにあげた。

 

#奇跡の黄金デジタルショット

#王の財宝の尊みを見よ

#もっと腕にゴールド巻くとかさ

 

 こうしてオルフェーヴルとアグネスデジタルとの絆が大いに上がり、たまにトレーニングを見に来てくれるようになったのだった。

 

 

 

 

 




これでひとまずオルフェーヴルとの話はおしまいです。ウマ娘の供給がすごくて書くことがなかなか追いつきません。
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