ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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『祝』の頂ヒシミラクル

「それじゃあライスちゃん、今日はトレーニングお願いします」

「うん! ミラクルさんとの併走、ライス頑張るから。よろしくお願いします」

 

 トレセン学園日曜日の朝、ヒシミラクルとライスシャワーは合同トレーニングをすることになった。お互いに礼儀正しくお辞儀をしたあと、まずは準備運動から始めていく。

 

「でもライスちゃんと2人きりでトレーニングなんて久しぶりだな〜。いつもはもっと大所帯でやるもんね」

「マックイーンさんやオペラオーさんにも声はかけたんだけど、今日はそれぞれトレーナーさんとご用事があるみたいで……」

「私もトップロードちゃんやオルフェさんに声かけて見たんだけど、みんな今日は忙しいみたいだね〜。年度末だし仕方ないかな」

 

 今日のトレーニングはステイヤー専用のスタミナ訓練。全速力を出すよりも、一定の速度で息を乱さず淡々と走り続けることを目的としていた。

 

「それじゃあ行こっか〜。えっほ、えっほ……」

「ミラクルさんについてく、ついてく……」

 

 2人はゆっくりと走り始める。ただしそれはトレセンウマ娘にとってのゆっくりであり、人間に出せる全速力レベルの速度である。

 

「……それでね、トレーナーさんたら私が嫌だって言ってるのにカワカミちゃんに頼んで無理やりプールに放り込むんだよ、ひどくない?」

「あはは……でもね、お兄様もライスの苦手なトレーニングでも出来るように工夫してくれるんだけど、それと同じじゃないかなぁ……」

「ライスちゃんのトレーナーさんみたいに素敵なエスコートもされてみたいな〜たまに絵本の中の王子様みたいに見えるよ」

 

 トレーニング中とはいえ、女の子二人が並んでのんびり(時速30km)走っていればぺらぺらとおしゃべりが飛び出す。

 そして、一度始まったおしゃべりは話題を変えながらもそう簡単に止まることはなく、トレセンウマ娘の中でもステイヤーである二人の足はまだまだ止まらない。

 

「それでね、この前ウマ娘カードゲームでライスの2枚目のカードが出て、お兄様が当ててくれたんだ……」

「わっ、ウェディングドレス! ミューズの時にライスちゃん着てたもんね、かわい〜〜〜」

 

 もう走り始めて1時間はたってなお、ライスシャワーは余裕の表情でジャージのポケットから2枚のカードを取り出し、ヒシミラクルも歩幅を揃えて走りながらカードを見る。

 1枚目は普段の黒い勝負服で短剣を鋭く構えたカードと比較して、ウェディングのカードは純白のドレスに笑顔が眩ゆく可愛らしい。

 

「1枚目の『偽りの星夜』も綺麗だけど、ライスは新しい『祝の頂』の方が好きなんだ……ライスにできる精一杯の祝福をみんなに与えられたら、って思えるから……」

「さすがライスちゃん、優しいな〜。あっそうだ! じゃあ私のこともお祝いしてくれる? 実は今日、誕生日なんだ〜」

 

 えへへ、と照れくさそうに笑うヒシミラクル。

 年度末最後の3月31日が誕生日、実はこのトレーニングが終わったらトレーナーと一緒にお好み焼きを食べる予定になっていた。

 

「そうなの!? ごめんなさい、ライス知らなくてプレゼントとか何も……でも、おめでとうミラクルさん」

「ありがと〜。実は他の皆がいなくてちょっとさみしかったんだけど、ライスちゃんの言葉があれば頑張れる!」

 

 ヒシミラクル的には今日の合同トレーニングで皆が祝ってくれるかな、という淡い期待もあったのだが親しいナリタトップロードやテイエムオペラオーがいないので話題に出せなくても仕方ないかなと思っていた。

 なので素直にライスシャワーが祝ってくれて嬉しいと思っていたのだが。

 

「ライスのせいだ……ライスの不幸のせいでせっかくミラクルさんのお誕生日なのにみんな来れなくなっちゃったんだ……」

「ライスちゃん!?」

 

 余裕で走っていたのにいきなり青ざめた顔で膝をつくライスシャワー。慌てて足を止めるヒシミラクル。

 

「ごめんね……ミラクルさんはみんなにお祝いしてほしかったしみんなもミラクルさんのお祝いしたかったはずなのに……」

「そうだけどライスちゃんのせいなわけないじゃん!? 大丈夫、ライスちゃんの祝福は百人力だから!」

「え……そ、そうかな……」

 

 青ざめていたライスシャワーの顔にわずかに赤みが差す。ヒシミラクルはここぞとばかりに褒め倒すことにした。

 

「大丈夫! ライスちゃんは強くてカッコよくて、唯一無二のレコードブレイカー! 最近は絵本もどんどん上手くなってる! 幸せの青いバラ!」

「えへへ……そんなこと、ないよ……ライス、ぜんぜんダメで……でも、あと3分くらい褒めてもらえたら嬉しいな……」

「3分!? えーっと、他には……優しい! 黒いナイフも似合うけどウェディングドレスも似合う! 王子様も見惚れるヒロイン!」

 

 倒れるライスシャワーを抱きとめながら必死に褒め言葉を考えるヒシミラクル。

 

(どうしよ、もうレパートリーが……すごくすごいくらいしか思いつかない……日頃私もいつまでも褒めてくれるトレーナーさんって凄かったんだな……そうだ!)

 

 3年以上前から平凡な自分をずっと褒め続けてその気にさせてくれたトレーナーのことを考えた時、ミラクルなアイデアが閃いた。

 

「安心して、ライスちゃん……3分と言わずトレーニングが終わるまでずっと褒めてあげる!だから走ろう、それでめいっぱいお腹をすかせてたくさんお好み焼き食べるんだ!」

「ミ、ミラクルさん……わかった、ライス頑張るね!」

 

 こうして、2人は立ち上がり再びスタミナトレーニングを始めた。そして数時間後……

 

「よーし、ミラ子ちゃんへのサプライズ準備はすごくすごくバッチリです! 私が買ってきた全部のせのお好み焼きの具材に、オルフェさんの宝物庫からアヤベさんが厳選したふわふわ家具、そしてオペラオーちゃんとミラ子ちゃんのトレーナーさん合作のミラ子ちゃんを称えるお歌まで! しかもその後はギムレットちゃん達による第二部まで用意されてるとか……さて、ライスちゃんとのトレーニング、そろそろ終わっている頃でしょうか」

 

 トレーニングに行けないふりをしてサプライズ誕生日パーティーの準備を終えたナリタトップロードがトレーニング上にやってくると、まだ2人は走っていた、なにやらヒシミラクルの元気な声も聞こえてくる。

 

「せーの、レースの天才! 未来のレジェンドウマ娘! 菊花賞に天皇賞・春、しかも宝塚記念も乗り越えた私達最強ステイヤー!」

「ミラクルさんすごい……こんなに褒められるのなんて初めて……ライス、もう何も怖くない……!!」

「ふっふっふ……まだまだ行くよー! トレーナーさんの褒め煽てレパートリーは百八式まである!!」

 

 トレーニング開始から4時間以上、スタミナ切れの気配もなく走り続け、自身とライスシャワーを褒め続けるヒシミラクルを見て、ナリタトップロードも思わず笑顔になった。

 

「ふふっ、ミラ子ちゃんは自分を平凡なんて言いますけど……いつも周りのすごさを褒めて、ミラ子ちゃん自身もすごくすごく褒められてるウマ娘ですよね! 

 

━━誕生日おめでとうございます、ミラ子ちゃん!」

 

 

 

 




3/31誕生日おめでとうヒシミラクル。たくさん褒められてて欲しい。
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