夏合宿。それはトレセンウマ娘達が己を更に鍛えるための大事な期間であり、ヒシミラクルにとっては毎日のようにプールや海で泳がされる地獄の期間。
(どんなに逃げてもトレーナーさんには必ず乗せられてしまう……そこで私は考えました。トレーナーさんをだらけさせてしまえばいいんだと!)
日中のミラクルトレーナーはそれはもう夏の太陽にまさるほど熱い男だ。しかし早朝や夜は割と静かなことをミラクルは長い付き合いで知っていた。
「トレーナーさん、トレーナーさん、朝ですよ〜」
そこでミラクルは朝、トレーナー用の宿に忍び込んだ。静かに眠るトレーナーの寝顔を眺めながら、優しく囁く。
するとトレーナーの目がゆっくりと開き、うめき声のようなものを発した。
「ん……?」
「あ、やっとお目覚めですか〜? ふふ、朝だけは私よりねぼすけさんですね~」
「ミラクル……?」
「ええ、けど大丈夫、今日はオフですからどうぞお好きなだけ眠ってください」
一応、ウソではない。もともと昨日たっぷりしごかれて今日は軽く流す予定だったから。
「そうか……なら、大丈夫、か……」
「はい♪ トレーナーさんがいくらダラダラしてダメになっても私だけは愛……会いに来てあげますから!」
ふと変な言葉が口から出そうになって慌てて訂正してしまった。とにかくトレーナーは微睡みに落ちていったようで、すーすーと寝息が聞こえる。
「ふふっ、やった……ついにトレーナーさんをやり込めてプール回避してみせましたよ……!」
その場で小躍りしたい気分だが、トレーナーの宿に忍び込んでいるので代わりによく眠っているトレーナーの頬をつつくミラクル。
「ダンツちゃんに比べるとカチカチだ……あ、ちょっとヒゲも生えてる。真面目な人だし、毎朝剃ってるんだろうな〜」
3年間以上お世話になってる人の隙をみれた気がしてニヤニヤしつつ、寝顔を観察したり部屋の中を軽く物色するミラクルだったが……30分もするとやることがなくなってきた。
トレーナーは、一向に目を覚ます気配がない。
「でもトレーナーさん、ずっと寝てるだけっていうのも面白みに欠けますよね。オフだから1日寝てるなんて、だらけシロウトのやることですよ?」
寝ているトレーナーの前に立って、わざと煽るように言いながらチラチラ寝顔を見てみる。これで目を覚ましてプールに連れて行かれたらどうしようと言う気持ちとこのままだとそれはそれで退屈という矛盾した気持ち。
「夏合宿なのにVRウマレーターの海で遊んじゃうとか、カロリーを気にせずお昼ごはんの前にキャロットアイスを食べたりとか……夜更かしして、二人きりで花火で遊んじゃうとか! ね、そろそろ私とゆるっとだらけたくなってきたんじゃないですか?」
結構声のボリュー厶が上がったのを自覚する。トレーナーを起こさないために来たはずなのに、眠ったままだと寂しい。来たとき同様こっそり抜け出してトレーナーのいないオフを満喫すればいいのにいざ実現すると勿体なく感じる。
(こ、これじゃあまるで私がイヤイヤ言いながらトレーナーさんにプールに無理やり入れてもらうのが好きなヘンタイみたいじゃん!)
チラッ。トレーナーを見ると……爆睡、という表現がピッタリなほど寝息を立てていた。
「……zzz」
イラッ。自分が身悶えしているのに目の前で眠りこけられいることに我ながら理不尽極まる怒りを覚えたミラクルは、ついにトレーナーのベッドに飛び乗った。
「ちょっと〜いい加減起きてください! 私、あなたの愛バですよね? 愛バをナイガシロにして許されるとでも〜!?」
「…………」
「き、貴重な夏合宿を寝て過ごすとか、もったいないと思わないんですかーーー!?」
もはや自分がここになんのつもりで忍び込んだかも忘れて叫んでしまうミラクル。
その時、ガチャリと音を立てて部屋のドアが空いた。ミラクルがハッと我に返って振り向くと、そこにはたづなさんがいた。
「た、たづなさん! これは、その……違うんです!! 決して私は無理やりプールに入れられるのが好きなヘンタイなんかじゃ」
「ミラクルさん、もしかしてトレーナーさんを起こしに来たんですか?」
「えっ……」
たづなさんはどこから聞いていたのか、ニコニコとした余裕の笑顔を崩さずミラクルに諭すように言った。
「あなたのトレーナーさんは、決まった時間に起きないと眠り続けてしまうタイプのようで、毎日気をつけているとのことですが……目覚ましの故障でしょうか」
「え、ええっ!? そうなんですよ!」
全然知らなかった。だって今までミラクルのトレーナーが寝坊なんてしたことないから。今明かされる衝撃の真実。
「ふふっ、それにしてもミラクルさんが夏合宿にこんなに取り組むようになるなんて。トレーナーさんも起きたら喜ぶと思いますよ」
「は、はいっ……ソウデスネ……」
目をそらさざるを得ないミラクル。本当はトレーナーさんを寝かしつけてトレーニングを全部サボろうとしていたなんて口が裂けても言えなくなった。
「トレーナーさんは自然に起きるまで眠らせてあげるとして……ミラクルさん。実は私、一般のヒトより耳が良いんですよ」
「えっ」
突然の告白。たづなさんの帽子の中が小刻みに動いた気がした。
「だけどこの部屋でミラクルさんが話していたことは聞かなかったことにしてあげますから……トレーナーさんが起きたらトレーニング頑張ってくださいね。これからの活躍にも期待しています♪」
「た……たづなさんのイジワル〜!!」
眠りこけるトレーナーをよそに、この夏合宿中は真剣にならざるを得なくなったミラクルだった。
久しぶりにわからないパロです。アニメ見たら衝動的に書いちゃいました。