夏合宿中にトレーナーの寝室に忍び込んだり、王様ゲームの命令とはいえ投げキッスと告白をしたヒシミラクル。
合宿も終わり、トレーナー室に戻った二人の絆は深まったかと思われたが……
「お小遣いを一時没収します。しばらく1日三食以外の間食は禁止!」
「鬼! 悪魔! 英語の先生!」
溝が深まっていた。財布を取り上げるトレーナーにミラクルはせめてもの抗議をする。
「こ、これはお母さんがくれた大切なお金なんですよ!トレーナーさんでも取り上げる権利はないはずです」
「安心してくれ、君のお母様には話はつけてある。お小遣いアップの要望についても俺からの評価を聞いて検討すると仰っていた」
「安心できる要素がありませんよ!? アップどころかダウンしかねないじゃないですか!」
いつの間にかミラクルの両親とも仲良くなっているらしいことに戦慄するが、まだトレーナーからの罰は終わっていない。
「トゥインクルシリーズを走って3年以上経つとはいえ、ヒシミラクルは学生の女の子なんだ。安易に男の寝室に入ったり告白するなんてことはしないように」
「うー……安易にしたわけじゃ……」
とはいえ、トレーナーの言葉は尤もかつ真摯にミラクルを案ずるが故の言葉なのも伝わってくる。
なので、文句も言いつつ素直に受け入れようとした。
「反省文として、『私はトレーナーをからかったことを反省しています』という英文を書きなさい」
「本当に英語の先生みたいなことをし始めた!?」
「今後は海外遠征に行くかもしれないからな。英語の先生とも交流して教えられる準備はしてあるんだ」
ご丁寧にミラクルの前に紙とペンが用意されている。しぶしぶ英文を書き始める。
「反省する、は確かreflect onでしたよね」
「よく覚えてるな、偉いぞ」
「そりゃー英語の先生にもよく書かされますから」
「前言撤回。何してるんだヒシミラクル」
「だって苦手なんですもん……何度ノーリーズンちゃんと一緒に脱走を試みたことか」
「これからはノーリーズントレーナーとも協議して行く必要がありそうだ……」
ミラクルがため息をつきながら書いた英文をトレーナーが読み上げる。
【I reflect on tasted the trainer.】
「……【私はトレーナーを味わったことを反省しています】だな。からかう、はteaseだ」
「なんてこと言うんですかトレーナーさんのえっち!」
「えっちな文を書いたのは君なんだが。ともかく次は『私は反省しているので週末のプールトレーニングのあとプール掃除をします』だ」
「それは大変そうですね、頑張ってください」
「英訳しなさい、と言ってるんだ」
すっとトレーナーの目が据わる。カンカンカン!! という音がトレーナー室に響き渡り反省を促されるミラクルだった。
️
そんなやりとりがあった日の夕方。間食を禁止されたミラクルはぐったりして座っていると、同期のノーリーズンが声をかけてきた。
「ミラ子よ〜、今日はずいぶん元気がないのう」
「だって、トレーナーさんが意地悪するんだよ〜聞いて聞いて?」
事の顛末を聞いたノーリーズンは、災難じゃったのう! と笑いながらもミラクルを労ってくれた。
「間食禁止としてお小遣い没収か……ではひもじくする友のためにワシが一肌脱ごうではないか! おやつを買ってくるから待っておれ」
「やったぁ! ノーリーズンちゃん大好き!」
駆け足で購買に行き、5分もしないうちに戻って来るノーリーズン。テーブルの上にあんみつとプリンと緑茶とオレンジジュースが置かれた。
一刻も早く食べたいミラクルだが、買ってくれた友達への礼儀としてどれを選ぶか聞く。
「ノーリーズンちゃんはどっち食べるの?」
「あんみつとプリンと緑茶とオレンジジュースじゃ」
「私にフタの裏しか舐めさせないつもり!? あんまりだぁ!」
裏切られたショックで鋭いツッコミをしてしまうミラクルに、ノーリーズンは心底楽しそうに笑って。背中に隠したもう一つの袋を取り出した。
「やはりお主は愛いのう〜♪ ほれ、ところてんとゼロカロリーコーラも用意しておる」
「ありがとう! けどカロリーゼロ!」
「まぁ、ミラ子のトレーナー殿が間食を禁止しているのなら意味はあるのじゃろうからな。ひとまずこれで我慢じゃ」
ひとまず2人でおやつを食べながらおしゃべりを始める。
「そういえば、今日ファイン殿がついにトレーナーに告白をしたそうじゃ」
「本当にやっちゃったの!?」
この前の王様ゲームでやってみたいと零していたのは覚えているが、実行に移すあたり行動力がすごい。
「SP隊長やファイン殿の御父上に了解を得たうえでのドッキリ告白とのことじゃが、トレーナーは大層驚いたそうでのう」
「お父さんにまで了解得てるならそれはもう本物の告白なんじゃ……?」
ミラクルは訝しんだが、深く考えると国際問題に片足突っ込みそうなのでやめた。
「なんかもう、ここまできたらいっそみんなにやってほしいよね。投げキッス告白」
「ギムレットやクリスエスは平然とやってのけそうじゃが……デュランダルは面白いことになるやもしれぬな!」
「おや、私を呼びましたか?」
「あっ、デュラちゃんちょうどいいところに!」
デュランダルは騎士道を志しているが、結構女の子らしいというか乙女なところもある方だ。もし罰ゲームで告白するとなればかなり照れるのではないか……と話していたら本人が来た。
「この前の王様ゲームの告白ね。ファインちゃんもやったしデュラちゃんもどうかなって」
「流石はファインさん……ですがそうですね。私がもし告白するなら先にジャーニーさんとカレンさんに確認しておかないといけません」
「そういえば、スイープやオルフェ殿のことも担当しておられるのじゃったか?」
デュランダルのトレーナーは、かなり担当範囲が広い上に個性派揃いとして知られている。そのトレーナーが新人のときに最初に担当したのがデュランダルであることを彼女本人も誇りにしていることは知っていた。
「でも、なんでジャーニーさんとカレンちゃんなの? 告白に真剣味が出るようサポートしてくれるとか?」
「2人とも賢くて優しい方じゃからのう。2人のプロデュースした告白ドッキリなら、デュランダル自身の魅力もあって思わずOKしてしまうのではないか?」
「いえ、そういうことではなく」
デュランダルの目が遠くなった。そしてミラクルとノーリーズンの耳元で小さく言う。
「もし私がトレーナーさんに告白して彼がOKしたことをあの二人に知られたら。私とトレーナーさんの命はどうなると思います……?」
「……………………ごめん」
「……………………すまぬ」
『おめでとうございますデュランダルさん。次の遠征は海がいいですか? 山がいいですか?』
『カレンと海中正座する? それともお山で穴掘りする? 大丈夫、人工呼吸の練習はしっかりしてあるからね、お兄ちゃん♪』
……そんな幻聴が聞こえた気がした。ともかくトレーナーに気軽に告白するのはやめようとミラクルは改めてそう思ったのだった。