ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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スティルインラブは静かに暮らしたい

 ハチャメチャGPの開催が発表され、トレセン学園ではバスケがブームになっていた。

 

「ギムレットちゃん、パスパ〜ス!」

「俺の破壊を受けろヒシミラクル! デストロォイ!!」

「普通にパスしてくれるとうれしいったぁい!?」

 

 ウマ娘による球技は、人間のスケールをはるかに超える。

 ギムレットによって投げられた豪速球のバスケットボールは、キャッチしたヒシミラクルの体ごとゴールポストのそばまで運んだ。

 

「そのままシュートじゃミラ子!」

「よーし、なんとかなれっー!」

 

 ノーリーズンにうながされる勢いのままミラクルがダンクシュートを決めた。

 

「ナイスキャッチだ! 確信していたぞ、お前なら栄冠をその手に収められると!」

「ギムレットちゃんもナイスパス! だけど手が超痛いんだけど! なんとかならない!?」

 

 体が運ばれるほどの豪速球を受け止めた手がヒリヒリしているミラクル。それでもきちんと受け止めてダンクまで叩き込めるのは伊達にトレセンウマ娘をやっていない。

 バスケの相手も今のプレイには拍手をしだした。

 

「ギム先輩カッケー! オレもあんなパス出してみてぇ!」

「バカねウォッカ、あれはミラクル先輩が痛みにズブ、強いからできるのよ! 私とかチームにやったら怒るからね!?」

「嗚呼……なんて力強い……」

 

 ピピッー。そこで終了のアラームが鳴り、ミラクル達は他のウマ娘と交代した。

 

「はぁ、まだ手がビリビリして熱い〜。もう少し加減してくれると嬉しいんだけど、みんな熱心だからな〜」

 

 近くの手洗い場で冷やしていると、ふと最後に誰かの気配を感じた。

 

「わかります……皆様の熱かりし衝動を受けて火照ってしまうその気持ち……」

「うわぁ!? ス、スティルちゃんいつからそこに!?」

 

 ミラクルが振り返ると、頭巾を被って物憂げに息をつくスティルインラブがいた。

 

「さっきのバスケでお相手して、終わってからずっと後ろにおりました……」

「試合中もいたの!? だからさっきの試合スティールが妙に多かったんだ」

「はい……3on3で試合をしているのに皆さん私を見失って幻の6人目がいるなどと言われてしまい……嗚呼、困りました。参加したからにはお役に立ちたいですが、きっと私などいてもいなくても変わらないのでしょうね……」

 

 スティルインラブ。ティアラ三冠という偉業をなしていながら普段はとても影が薄く存在に気がつかないことがあるほどだ。

 バスケでもその特性は健在らしく、どこぞのバスケ漫画の主人公のようだがスティルはそれを知らないらしい。

 

「でも、なんで私の後ろにいたの?」

「ミラクル先輩からは、強者のオーラ……覇気……思わず食べ尽くしたくなるような匂いを感じないので……実は今までもよく後ろで見ておりました」

「そうだったの!? な、なんか照れるな〜」

「嗚呼、私なんて失礼なことを……申し訳ありません」

「ううん、全然平気だよ。私は周りと違ってゆるくてふつ~のウマ娘だし……私の近くにいるとスティルちゃんが落ち着くならオールオッケーだよ」

 

 ミラクルは自分が強そうに見えない自覚はあるし、事実周囲のみんなみたいに強くもないと思っている。

 だから申し訳なさそうにうつむく後輩に、にっこりと笑いかけた。

 

「その……菊と春天と宝塚を勝たれた方がふつ~のウマ娘は無理があるのではないかと……」

「ティアラ三冠の子に言われたくはないよ!?」

「そんな……私など三冠を取ってからはなんの勝ち星もなく……」

「それ私にも突き刺さるからやめて~? アーアーキコエナイ!」

 

 ウマ耳を塞いでそんなジェスチャーを取るミラクル。

 するとスティルは、初めて。少しだけ可笑しそうに笑った。

 

「嗚呼、ミラクル先輩のお側は落ち着きます……私の中の悪魔も、大人しくしてくれる」

「えへへ、ならよかった。私も部屋の中にお菓子があるとつい悪魔の誘惑に負けちゃうんだよね」

「お菓子……それにコーヒーがあって、目の前には愛しのあの方がいる幸せは、何物にも代えがたく……」

「おっなになに? スティルちゃんも自分のトレーナーさんのこと好きなの?」

 

 はっ、と我に返るスティルの顔がりんごのように真っ赤になっていく。ニマニマしながら眺めるミラクル。

 

「嗚呼、困ります……私が普段あの方といっそ駆け堕ちてしまいたい衝動を抑えるためにお誘いを断ろうとしても毎回乗せられてしまうはしたない女であることが露呈してしまいます……」

「うん、今全部口に出したからだね」

 

 ポワポワしながら恥ずかしがるスティルに、少し親近感を覚えるミラクル。

 

「でもわかるな〜スティルちゃんのトレーナーさんも乗せるの上手いんだね」

「はい……たまには断ろうとは思うのですが、いつの間にか……」

「具体的に理由を言ってみたら? 〇〇で忙しい〜みたいな」

 

 ウマ娘側にも、学校行事などいろいろ予定はある。それを言えば、教育者であるトレーナーも深入りはしてこないはずだ。

 

「実は、私もそれは試してみて……『トレーナーさんを見つめるのに忙しくて』と……」

「OKしちゃってるじゃん!?」

 

 とんでもない惚気と天然だった。思わずツッコミを入れるミラクル。

 

「実は、学園内でも他の皆様から色々とお誘いを頂いてしまって……もう、悪魔が抑えられなくなりそうで困っているんです」

「トレセンのみんな押しが強い子多いもんね〜。そうだ、トレーナーさんのことはともかく、そっちは私の方からそれとなく断っといてあげよっか?」

「良いのですか……?」

「もちろん、スティルちゃんも大事な後輩だからね! 私に任せて!」

「なんとお優しい……私のことはなんと言っていただいても構いません。よろしくお願いします」

 

 悪魔ってなんのことだろう? と思いつつ、それからミラクルはスティルがなにかに誘われそうなのを見るとこう言うようになった。

 

「やめとこやめとこ。あの子はつきあいが悪いんだ。

一緒に遊んでてもあの子は楽しいんだか楽しくないんだか……。

『スティルインラブ』。中等部のティアラ三冠ウマ娘。

任された仕事はまじめでそつなくこなすけどそれ以外はどこか情熱のない子でね。

深窓の令嬢っぽい見た目をしてるけどラモーヌさんやジェンティルさんには使い走りみたいなことまでさせられてるんだって。

悪い子じゃないんだけどこれといって特徴のない……影の薄いウマ娘だよ」

 

 ミラクルの広めた言葉によってスティルには一人の時間が増えたが、別の悩みができてしまった。

 

「最近、何故か『キラークイーン』なんてあだ名をつけられてしまって……1番人気のあの子を下して三冠になってしまったからでしょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハチャウマ面白かったです。チームリリィ可愛かった。
 
 


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