ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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チームリリィの早朝トレーニングのため、朝イチバンにトレセンを訪れたダイワスカーレット。
しかし予約していたトレーニングコースは何者かによって無残に荒らされていた。
穴は掘られ、柵は壊され、石灰で妙な模様のサークルが描かれていたのだ。
犯人を突き止めるためたづなさんに連絡して監視カメラを見せてもらうと、そこに映っていたのは誰がどう見てもアストンマーチャンのトレーナーだった……


逆転ミラクル! 犯人はマーチャンの着ぐるみ(前編)

「開廷ッ! これより、トレセンのコースを荒らし、ダイワスカーレットらへのトレーニング妨害事件についての裁判を執り行う!」

 

 トレセン学園の体育館に、秋川やよい理事長の声が響く。普段はトレーニングやスポーツで賑わっているが、今はまるで裁判所のように厳粛な雰囲気が漂っていた。

 

「トレーニングコースはトレセンの施設であり、ウマ娘達にとって大切な場所、それを荒らした罪は重いッ! それがトレーナーによる犯行ならば、最悪トレーナーバッジを剥奪処分しなければならなくなる!」

 

 理事長の声は厳しい。それは現在犯人と目されているのが、トレセン学園のトレーナーだからだ。

 なにせ、監視カメラにそのトレーニングコースを荒らすトレーナーの姿がはっきり映っているのだから。

 

「しかしッ! 担当のアストンマーチャンの反対と弁護役にヒシミラクルが立候補したことにより、本当にアストンマーチャントレーナーが犯人なのかを審議することとした! 弁護側、準備はよろしいだろうか?」

 

 壇上の両脇に用意された机、片方にはアストンマーチャンのヒシミラクルが弁護側に立っていた。

 

「ヒシミラクルです。準備は……ほどほどにできています」

「マーチャンのレンズさんはきっと、犯人で はないはずなのです。ミラクル先輩、お願いします」

「で、できる限り頑張るね……」

 

 何故ヒシミラクルが弁護側に立っているのか?それはマーチャンに泣きつかれたからである。

 ミラクルは以前、ジャングルポケットがタキオンの薬で体が縮んだ事件の犯人はタキオンでないことを証明し、奇跡的に真犯人を言い当てることができた。

 監視カメラに犯行の一部始終が映っているという絶望的な状況をなんとか逆転できるのはミラクルしかいないとマーチャンは考えたらしい。

 

(マートレさんのことは正直よく知らないし顔も見たことないけど……マーチャンは犯人じゃないって本気で信じてるなら、きっと何か可能性はあるはず! というか、そうじゃないといたたまれない!)

「では検察側も、準備はいいだろうか?」

「大丈夫っす! このオレ、ウォッカがカッコよく真実を掴んでみせますよ!」

 

 ジャケット姿の勝負服を着込み、ビシッとポーズを決めるウォッカ。

 マーチャン、スカーレットとは仲が良くハチャウマGPでもチームを組んでいたことは記憶に新しい。

 

「ウォッカが敵になるのはいつものことですが、今回ばかりは残念です。私たちの友情に大ピンチが訪れています」

「ウォッカちゃんも、マートレさんが犯人だと思ってるんだよね?」

「残念だけど、監視カメラにはっきり映ってるからそこは間違いねぇ……けど、それには理由があったんだ!」

 

 ウォッカが尊敬するギムレットを真似るように、その瞳に手を当てる。

 ウォッカにしてもマートレが犯人だなんて思いたくないはず。よほどの根拠はあるのだろう。

 

「まず、問題の監視カメラの映像を確認させてください! 本当にマートレさんが映ってたんですか?」

 

 ミラクルが手を挙げる。なにはともあれ、犯行の一部始終を映したカメラを見ないことには弁護のしようもない。

 

「承認ッ! プロジェクターを用意してあるのでまずは皆で映像を確認するとしよう! 私もたづなから聞いただけでまだ見てはいないからな!」

 

 体育館内が暗くなり、プロジェクターに映像が映る。まだ日の昇りはじめで暗いが、グラウンドは完璧に整備されている。

 

 映像を早送りすると、まだトレセン学園の門が開く時間より早い時間にコースへ誰かがやってくる。

 のっしのっしと歩いてきたその人物は。

 シャベルでコースに穴を掘り。

 キックで柵をいくつか蹴り壊し。

 石灰で奇妙なサークルを描いて。

 のっしのっしとトレセン校舎に戻っていった。

 

 その姿は、誰がどう見ても。

 アストンマーチャンの、着ぐるみだった。

 

「ちょっと!? これのどこがマートレさんですか!?」

「こんなにはっきり映っていては、言い逃れの余地もありません。レンズさんが牢屋に入ってもマーチャンだけは味方です」

「けど、マートレさんがこんなことをしたのには理由があるはずなんだ!」

「決定ッ! これより、判決を言い渡━━」

「着ぐるみ! あれはマートレさんじゃなくて着ぐるみですよ!? 弁護側は、誰かがマートレさんに罪を押し付けるために着ぐるみ姿で犯行に及んだと主張します!!」

 

 誰もあの着ぐるみがマートレであることを疑わない状況にめまいがするミラクル。とにかくマーチャン着ぐるみ≠マートレだと説明した。

 

「た……確かに! あまりにも着ぐるみ姿に慣れすぎて、いつの間にかあの着ぐるみがアストンマーチャントレーナーだと錯覚してしまったようだ!」

「おお、なんと。その発想はありませんでした。さすがミラクル先輩は弁護の達人ですね」

(なんでマーちゃんまで驚いてるのさ……)

 

 言葉はゆっくりだが、目をパチクリさせるマーチャンにも目眩がするミラクル。

 しかし、対面するウォッカは驚いていない。

 おもむろに、両手でギターを構えるようなポーズを取り……

 ジャーン! という音が聞こえてきそうなほど完璧なエアギターを披露した。カッコいいポーズ付きで。

 

「残念ですけど、ミラクル先輩……それはあり得ないんですよ。あれはマートレさんで間違いありません」

「ど、どうしてそう思うの?」

「あの着ぐるみは、マートレさんのトレーナー室にしかないんですよ。他の誰かに持ち出すことはできません。━━そうだろ、マーチャン?」

 

 ウォッカは派手にマーチャンを手のひらで示す。ギムレットに似てる、とミラクルは思った。

 

「……むむむ。否定したいところですが、裁判でウソをつくと偽証罪になってしまいます。どうやら着ぐるみの管理に関して証言したほうが良さそうです」

「要請ッ! アストンマーチャン。着ぐるみの管理に関する証言をお願いする!」

 

 理事長の一声で、マーチャンが弁護席から証言台に移動する。

 ここでマートレ以外の誰かが着ぐるみを持ち出した可能性を指摘できなければ、理事長は容赦なく有罪判決を下すだろう。

 

「アストンマーチャンです。覚えていてくださいね」

「うむっ! 君たち世代の活躍はもちろんこの胸に刻んでいるともっ!」

「アストンマーチャンはこれからもウルトラスーパーマスコットとして活躍を続けます。更には引退後もあの着ぐるみでトレーナーさんと全国各地を練り歩き、ずっとずっと覚えてもらう計画を企てているのです。そのためにトレーナーさんのお部屋はマーチャングッズ制作本部として重要な機密があり、着ぐるみは春夏秋冬4体が仕立て済で」

「ちょっ、マーちゃんストップストップ!」

「証人は、必要ないおしゃべりを止めるように!」

「はぁい。せっかく証言台に立ったのでマーチャンアピールをしておこうかと」

 

 自分のトレーナーのクビがかかっている状況だが、相変わらず肝が据わっているマーチャンだった。

 

 証言開始 〜マーチャングッズ制作本部〜

 

『ウォッカの言う通り、マーチャン着ぐるみはトレーナーさんのお部屋にしかありません。

 

 勝手に誰かが持ち出さないように、トレーナー室にもしっかり鍵をかけているのです。

 

 なので、トレーナーさんが招き入れない限り誰も持ち出す事は出来ないはずです』

 

 証言自体はコンパクトに終わった。マーチャン着ぐるみを持ち出すには、マートレに部屋を開けてもらわないといけないらしい。ウォッカはそれを知っていたからこそマートレが犯人で間違いないと思っているようだ。

 

「そういえば、スカーレットちゃんは今どうしてるの? 第一発見者だよね」

「スカーレットなら、マートレさんに取り調べをしてますよ。昨晩部屋に誰かを入れてないかって」

「スカーレットちゃんも、誰かが着ぐるみを持ち出したと思ってるのかな?」

「アイツ、監視カメラの映像を見てすぐにマートレさんのところにすっ飛んで行ったみたいで。そしたら扉が開きっぱなしになってて椅子で寝てるマートレさんを発見したらしいんですよ」

「椅子で寝てた……?」

 

 眠りこけるマートレをどうにか起こし、昨晩のことを聞いてみたが一人で仕事をしていて誰も来ていないし、もちろん自分の犯行でもないと口にしているらしい。

 

「整理ッ! 素直に考えれば、着ぐるみ姿でコースを荒らしたあと、トレーナー室に戻ったはいいが睡魔に負けてしまったことになるな」

「……やっぱり、おかしいです。トレーナーさんが、そんな変なことをするとは思えません。変な人ですけど、とても真面目で良い人なのです」

 

 理事長の意見も辻褄は合うが、大人であり指導者であるトレーナーの行動とは思えない。

 とはいえ、マートレが誰もトレーナー室に入れていないと証言している限り、他に犯人候補がいないのも確かだ。

 

「さて弁護側、今の証言を聞いてマートレ以外の犯人に心当たりはあるのだろうか?」

「え! ええっと……もちろん、ありますとも?(だって、そう言わないと裁判終わっちゃうし)」

 

 とにかく今は無理矢理にでも犯人候補を挙げるしかない。なんとかならないかとマーチャンの証言を思い出して……その時、ふと閃いた。 

 

「マートレさんが招き入れない限り、誰もトレーナー室に入れないし着ぐるみは持ち出せない。本当にそうでしょうか?」

「ヒシミラクル、どういうことだろうか?」

「マートレさんは眠っていたそうですね。なら、鍵さえ持っていれば着ぐるみは持ち出せたはずです」

「しかし、その鍵を持っているのはトレーナーだけなのでは……」

「そんなはずはありません。トレーナー室の鍵なら必ず持っている子がいます。━━担当ウマ娘のマーちゃんだけは!」

 

 証言台に立つマーチャンを指差すミラクル。驚く理事長に反し、マーチャンは目をぱちぱちさせながらも平静だ。

 

「なんということでしょう。真犯人は依頼主で、自分のトレーナーを陥れようとしていた。ドロドロの愛憎を感じます」

「マ、マーチャンが犯人なわけないですよ、ミラクル先輩!」

「まぁ、それはそうなんですけどね?」

 

 ミラクルとて本気でマーチャンを犯人扱いしたいわけではない。ただ、マーチャンが犯人の可能性が生まれたことが重要なのだ。

 

「マーちゃん。マートレさんに電話してくれる? 本当のことを話してくれないと、自分が犯人になっちゃうって」

 

 マートレは何か隠しているのは間違いない。理由はわからないが、トレーナーである以上担当の安全より大事なものなどないはずなのだ。まして四六時中マーチャン着ぐるみを着るようなトレーナーならなおさらだ。

 

「おおう。人質作戦ですね。なかなかワルのやり方です。しかし囚われのお姫様になれるのは悪い気はしないマーちゃんなのでした」

 

 スマホを取り出し、電話を始めるマーチャン。なにやら独特のやり取りが続いたあと、通話を切った。

 

「確認が取れました。昨晩、スティルさんとスイープさんが2人で訪ねてきたそうです。それも、寮の門限が過ぎた夜に」

「驚愕ッ! ではマーチャントレーナーは自分が疑われているにも関わらず、二人の来訪を隠していたのか!」

「スティルもスイープも、マーチャンとは仲良いもんな……トレーナー室を訪ねてもおかしくねぇし、マートレさんとしては二人を犯人候補にしたくなかったってところか」

 

 昨晩2人が来たと言えば罪をなすりつけるような形になってしまう。トレーナーとして、担当ウマ娘の友人に疑いを向けることはしたくなかったのだろう。

 

「天晴ッ! ……と言いたいところだが、そうなるとスティルインラブとスイープトウショウをここに呼ばなくてはいけないな」

「スカーレットに頼んで連れてきてもらいましょう! アイツ、絶対犯人を見つけるんだって張り切ってますから!」

 

 朝イチバンにトレーニングをしようと意気込んでやってきたのを邪魔されて怒っているのは想像に難くない。

 スカーレットが二人を連れてくるまでの間、ミラクルは気になったことを質問した。

 

「もしかして、スカーレットちゃんの早朝トレーニングってチームリリィのみんなでやる予定だったりしたの?」

「その通りなのです。マーちゃんのトレーナーさんがコースの準備などをする手筈になっていました」

「つまり、スティルちゃんもスイープちゃんも今朝スカーレットちゃんがトレーニングに来ることは知ってたわけだね」

 

 そうなると、やはり2人が怪しくなってくる。特に気になるのは、スイープの方だ。

 

「そういえば、犯人は石灰で変な模様を描いてましたよね。……魔法陣みたいな」

 

 とびきりワガママで魔法の実験と称して変わった行いをすることが珍しくないウマ娘だ。

 マートレを眠らせて、着ぐるみ姿でコースに魔法をかけようとした可能性は、否定できない。

 

「ではこうしましょう。あの魔法陣について、スイープさんにお話を……」

「あんなの魔法陣じゃないわ! ただの五角形じゃない!」

 

 大きな音を立てて体育館のドアが開かれる。とんがり帽子を被り箒を持ってズンズンと入ってきたウマ娘は、スイープトウショウだ。

 

「私を犯人扱いしようなんて、いい度胸じゃない! いいわ、天才魔法少女スイーピーは魔女裁判なんかに負けないんだから!」

「いや、スイープちゃんが犯人と決めつけてるわけじゃ」

 

 その時、スイープの後ろからひょっこりとスティルインラブが現れる。体はスティルの方が大きいはずなのに、影の薄さもあってスイープの大きな態度に隠れていたようだ。

 

「やはり裁判ですか……いつ証言します? 私も同行いたします」

「スティル院。じゃなくてスティルちゃんも来てくれたんだね」

「ミラクル先輩、この前はどうもありがとうございました。マートレさんが疑われていると聞いて、もしかしてと思ったのですが……やはり━━」

「スティル、余計なことは言わないで! 全部私が証言するから、あんたは黙ってなさい!」

 

 何かスティルには思い当たることがあるようだが、スイープが箒を振り回して遮った。

 

(なんか今のスイープちゃん、慌ててたような……)

 

 スイープの気が強いのはいつものことだが、何か言われたくないことがあるようにも感じた。

 

「……わかりました。私の証言は、スイープさんに代わってもらいますね」

「だいたい、この事件の犯人なんてわかりきってるじゃない! 着ぐるみがコースを荒らしたんでしょ? つまりあの着ぐるみには━━やっぱり、魔法がかかっていたのよ! 私の予想通りにね!」

 

 マーチャン着ぐるみによって荒らされたグラウンド。その中に潜んでいるのはマートレに罪をなすりつけようとした悪魔か、魔法か。 

 チームリリィの全員とミラクルを巻き込んで、裁判は続く。

 

 

 

 

 




ハチャウマのチームリリィがわちゃわちゃする二次創作を書こうとしたら逆転裁判パロが出力されました。次で終わります。
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