ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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カレンチャンはスライムになってもカワイイ

 

 

「カレンさん……考え直して」

「止めないでアヤベさん! カレンは新たなカワイイのためにここで立ち止まるわけにはいかないんです!」

 

 ヒシミラクルが廊下を歩いていると、とある教室の前で2人のウマ娘が言い合っていた。

 カレンチャンとアドマイヤベガ。寮の同室コンビであり、アドマイヤベガがシニアを走りきってからはすっかり仲の良い姉妹のような雰囲気があるとミラクルは思う。

 

「タキオンの薬に自分から関わりに行くなんて危ないわ。タキトレさんみたいに光りたいの?」

「大丈夫ですよ、こういう薬を作って欲しいってちゃーんとお願いしましたから!」

 

 ミラクルが教室を見ると、そこはアグネスタキオンの実験室と呼ばれる場所だった。

 

(そりゃあ、アヤベちゃんも心配になるよね。タキオンちゃんの薬、いろんな騒ぎになるからな〜)

「どんな副作用があるかわからないわ。思いとどまって」

「アヤベさんはクラシックの時。カレンが止めたら思いとどまってくれましたか?」

「それは……ひ、卑怯よ……」

 

 その言葉に、ピンと立っていたアヤベの耳がへにゃりと折れた。語気がどんどん萎んでいく。

 クラシック期のアヤベは自分を追い詰めるあまり、カレンの制止もまともに聞かなかったという。その負い目があるのだろう。

 

「私は、あなたを心配して……」

「わかってますよ。あの時のカレンも同じでしたから。でも、カレンは大丈夫です。アヤベさんが隣で見てくれれば……ね?」

「そう、よね……ごめんなさい」

 

 意気消沈してしまったアヤベに、カレンが満足げにハグをした。安心させるように、背中をポンポンと撫でている。

 

「やったぁ♪ 大好きですよ、アヤベさん」

「せめて、どんな薬なのかは聞かせてもらうから……危ないなら止めるわよ」

 

 なんだか不思議な力関係を見てしまった気がするミラクルだった。

 とはいえ、足を止める理由は特にない。このまま素通りすることにしたのだが。

 

(タキオンちゃんもウマ娘を傷つけることはしないし。カレンちゃんなら上手くやるでしょ)

「まぁ見ててください、カレンはカワイイスライムになって、ぷにぷにぷるぷるのカワイイを体得してみせますから!」

「スライム!?」

 

 思わず振り向いてツッコんでしまったのが運の尽き。

 

「さっきからうるさいねぇ君たち! 私の部屋の前で騒がないでくれないか! ……おや、カレンくんじゃないか。そこの二人も入りたまえ」

 

 タキオンも実験室の中から勢いよくドアを開けて出てきた。

 どうやら完全に巻き込まれたミラクルは観念して実験室に入ることになったのだった。

 

 

「体をものすごく柔らかくする薬?」

 

 

 カレンはカワイイスライムになる。その言葉につい足を止めて関わってしまったミラクルはタキオンの実験室で一緒に話を聞くことになった。

 タキオンは椅子に座って紅茶を飲みながら、自慢げに講釈をする。

 

「レースを走るウマ娘にとって、ケガや骨折は大敵さ。私やアヤベくんも随分悩まされたようにね。

 その手のケガは体の硬さが原因となることも多い。硬いものが割れると元に戻すのは大変だからね。

 そこで! 体を極端に柔らかくする薬があればケガの予防や予後に役立つのではと思ってこの薬を作ったところ、カレンくんがテスターに名乗り出てくれたわけだよ」

 

 タキオンがビーカーに入れた薬品を見せる。見た目は、ラメの入ったジェルのようでなかなかキレイだ。

 

「カレン、もっともっーとカワイクなるために、色んな可能性を追求したくて。タキオンさんのお話を聞いて、お願いしたんです! ぷるぷるで、キラキラにしてくださいって」

「カレンくんはウチのスカーレットくんと仲良くしてくれていることだし。実験に協力してくれるなら、多少の注文は受け付けるとも」

「タキオンちゃんって結構人に頼まれるの好きだよね」

 

 要するに体を柔らかくしつつ、ラメのようにキラキラするらしい。危険な要素はなさそうだ。

 しかし、アヤベとしてはまだ心配らしく手を挙げて質問した。

 

「……柔らかくって、どれくらい影響するの。溶けたりしないでしょうね」

「なぁに、臨床試験はモルモットくんで行ったとも! 彼は体が柔らかいともスキンケアに気を使っているとも言い難いが、そうだな……わかりやすく言えばダンツ君くらいの柔らかさになったねぇ」

「ええっ!? 大人の男の人がダンツちゃん並みのぷにぷにに!?」

 

 驚くミラクル。ダンツフレームのお肌の凄さは同室としてよく知っている。

 

「ウマ娘として立派な筋肉の上にしっかりついたお肉……毎日お肌を触っても飽きないくらいのぷにぷにがこの薬で!?」

「どうした急に。デジタルくんみたいな早口になって」

「というか、同室の後輩に何してるのよ……」

「あはっ、アヤベさんもカレンのこと毎日触っていいんですよ? それじゃあ、早速……いただきます♪」

 

 タキオンから手渡された薬をぐいっと飲み干すカレン。その体がキラキラと発光し始めた。

 

「うおっまぶしっ。というか、男の人がダンツちゃんくらいぷにるならもカレンちゃんが飲んだらとんでもないことになるんじゃ」

「じゃーん! スライムになったカワイイカレンチャンでーす!」

 

 もとより髪や尻尾が触ればトリコになるふわふわの手触りと呼ばれるカレンの体が、キューティクルという言葉ですら表せないほどつやつやのぷにぷにになっていた。

 触るまでもなく全身に柔らかさと弾力を兼ね備えつつ、髪や尻尾がジェルを塗ったかのように煌めいている。

 

「……アヤベさん。さぁ、どうぞ好きに触ってください。さっきはイジワル言ってごめんなさい。でも、新しいカレンのカワイイをアヤベさんに一番に見てほしくて」

 

 瞳を潤ませてアヤベに近寄るカレン。その涙すら弾性をもってぷるぷるしている。とんでもない泣き落としだ。

 

(まさか、実験室に入る前のやり取りからカレンちゃんの思惑通りだったんじゃ……)

 

 アヤベの方を見れば、スライムカレンの肌艶に目を輝かせていた。クールな性格とは裏腹に、ふわふわした手触りのいいものが好きであることは知っているのでこうなるのも無理はない。

 

「そんな……サンタ衣装のハヤヒデさんを超える手触りが、この世に存在したというの……」

 

 アヤベが触れた瞬間、ぷにっと柔らかい音がした。そのまま抱きしめると、カレンの体が振動で震える。 

 最初の心配もどこへやら、一心不乱にカレンをぷにぷにするアヤベを心の底から愛おしそうに見つめるカレン。

 

「私がダンツちゃんを触ってる時もあんな感じなのかな……?」

「いやはや、この場にデジタルくんがいなくてよかった。彼女がこんな光景を見たら実験室が血の海に染まってしまうからね。カレンくん。しばらく自由に動き回って、明日にでも感想をレポートにまとめて提出してくれたまえ」

「はーい♪ タキオンさん、素敵なおくすりをありがとうございます!」

 

 タキオンはひとまず用は済んだとばかりに実験室の奥の机に戻っていった。

 

「タキオンちゃんは触らなくていいの?」

「私の興味はあくまで身体を柔らかくしたことによる身体機能と修復力への影響だからね。薬による手触りはモルモットくんで堪能してあるし」

「こっちはこっちでいちゃついてた!」

「ミラクルさんも触ってみますか? ダンツさんにもきっと負けてませんよ♪」

「ほんと? じゃあお言葉に甘えて」

 

 ミラクルも触ってみたくはあったので。抱きしめるアヤベの邪魔にならないように、カレンの肩を揉むように触ってみる。

 制服越しなのに、人肌ではありえないほどの心地よい弾力と、近くで見ると首周りの素肌もいつも以上にキラキラしていた。

 

「すっご~い。カレンちゃんのスキンケアとかの賜物なんだろうけど、もう赤ちゃんと同じくらいの柔らかさだね」

「えへへ、ありがとうございます! カレンの新しいカワイさ、気に入ってもらえて嬉しいです」

「ぷにぷにだわ……」

「アヤベちゃんは完全にダメになってるし。それじゃあまぁ、気をつけてね〜」

 

 もう少し手触りを楽しんでいたい気持ちもあるが、カレンとアヤベの邪魔をするのも忍びない。そもそもミラクルは無関係だ。

 ゆるっと実験室から出ようとした時、ドアが開いて大きな影がミラクルの前に現れた。

 

「今ここに……赤ちゃんがいるって言いましたか〜?」

「あっ、クリークさんこんにちは〜。実はぷにぷにシカジカこれこれウマウマ」

 

 スーパークリーク。オグリキャップやタマモクロスと並ぶ最上級生にして優しいママのような雰囲気を纏うウマ娘だ。

 

「あら、あらあらあらあらまあまあまあまあ……」

(なんか変なスイッチ踏んじゃったかなこれ)

 

 クリークは実験室の奥のぷにぷにスライムカレンを見て、今までミラクルが聞いたことのないような猫なで声を出した。

 目が怪しく輝き、カレンへとゆっくりにじり寄るように近づいていく。

 

「ク、クリークさん? これはタキオンさんにもらった薬で柔らかくなっただけで、本当に赤ちゃんになったわけじゃ」

 

 カレンも異変を察知したのか、ちょっと困った声でクリークに対応した。

 

「まぁ、タキオンちゃんのお薬……じゃあ、効果が切れるまで誰かがお側にいないといけませんね〜?」

「あ、アヤベさんが見ててくれますから! ね、アヤベさん!」

「ぷるぷる……ふわふわ……」

「アヤベさーん! 夢中になってないで助けてくださーい!!」

「わぁ、本当に赤ちゃんみたいにすべすべでぷるぷるですね〜。でも赤ちゃんのお肌も繊細で傷つきやすいですから、私がアヤベちゃんも一緒にお世話してあげましょうね〜」

 

 クリークの中でカレンとアヤベは赤ちゃんにされてしまったようだった。

 カレンも自分に対する純粋な善意を無碍にできないのか、困り顔をしつつも拒否できないようだったので。

 

「一応、タマモさんかオグリさん見つけたら伝えとくね」

「待ってミラクルさん! 人の心とかないんですか!」

「あらあら、お友達がいなくなって寂しいんですね〜。でも、私がいてあげますから大丈夫ですよ〜」

「あ、あはははは……」

 

 カレンに止められない相手が自分に止められるはずもない。今度こそ立ち去りつつ、カレンちゃんにも止められない相手っているんだなぁ……と思うミラクルなのだった。

 

 

 




ぷにるはかわいいスライム。面白いですね。ぷにるの声もカワイイ。
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