VRウマレーター。様々なレースコースを再現できる他、リアルなVRゲームで遊ぶことができるトレセン学園の設備の一つだ。
ヒシミラクルは、そこで友人のナリタトップロードとアドマイヤベガと遊んでいた。
「じゃあルーレットを回すね〜。やった、株券ゲット! はい、トップロードちゃんの番」
「引きがいいですねミラ子ちゃん! 私のルーレットは……わぁ、男の子が産まれましたよ! 御祝儀がもらえます! アヤベさんどうぞ!」
「……双子の女の子。ご祝儀を2倍もらえるのね」
「二人ともお母さんになっちゃった! 私なんてまだ結婚もしてないのに、置いていかないで〜! なんちゃって」
今回遊んでいるのは人生ゲームと呼ばれるものだ。3人でVR空間の中で椅子に座って、テーブルを囲んでいる。
ゲームを進めながら、トプロが誘い主のミラクルに言う。
「それにしても、ミラ子ちゃんよくここを知ってましたね! VRウマレーターの中でボードゲームが遊べるなんて面白いですよね」
「VRは面白いけど他の人も多いし、人気のないゲームを探しててたまたま見つけたんだ〜。のんびり遊びたいときにちょうど良くてね」
「確かに、VRの中でわざわざテーブルゲームをしようと思う人は少ないわよね。静かなのは助かるわ」
一応、テーブルは他にもいくつかあるが他に遊んでいる人はいない。いわばミラクルにとっての秘密の隠れ家のようになっていた。
「ウマ娘にもね、人前で走るだけじゃなくて誰にも知られず一人で毛布にくるまったりしてる時間が必要だと思うの私。だからできればナイショにしててほしいな〜」
「ミラ子ちゃんらしいですね! わかりました。アヤベさんもそういう時間欲しい方ですよね」
「私は、そういうとき山に登るけど……でも、ここで4人で静かにしているのも嫌いじゃないわ」
「ん? 4人?」
アヤベが満更でもなさそうに笑う。しかし、今テーブルに座っているのは3人だけのはずだが。
その時、部屋の片隅でもぞりと布が動いた。中から、ここにいる3人がよく知るウマ娘が現れる。
「……おや、皆で覇王の目覚めを待っていたのかい?」
「オペラオーちゃん!? いつからここに?」
まだ眠そうにまぶたを擦っているオペラオーは、普段より数段テンションが低そうだった。トレセン学園やレース場で高笑いしているところしか知らないミラクルからすればとても珍しい姿だ。
「オペラオーなら私たちより先にこの部屋に来てたみたいよ。毛布にくるまって横になってたみたいだけど」
「ホントですね。VRの入室履歴に書いてあります! アヤベさんは気づいてたんですか?」
「オペラオーがたまにこの部屋で一人になってるのは知ってたから」
あくびを噛み殺すオペラオーの姿は、なんだかラクダみたいでいつもと違う可愛げがあるように見えた。
「ああ、ここにいるボクのことは気にしないでくれたまえ。君たちの邪魔はしないとも」
「目が覚めたならオペラオーちゃんも一緒に遊びませんか?」
「遠慮しておこう。会話を聞く限り、人生ゲームの類で遊んでいたようだけど。最初からやり直してもらうのも悪い。なにより、覇王にとっては我が人生より面白い人生などないからね!」
世紀末覇王らしい物言いだが、今にも眠りそうに船を漕いでいる。
「大方、夜通しでオペラ脚本でも書いていたのかしら。声をかけて悪かったわね」
アヤベが、一度席を立ってオペラオーの毛布をかけ直す。オペラオーも大人しく従って横になった。
「なぁに、気にかけてくれたんだろう? 王子として、
「はいはい、おやすみなさい」
「……( ˘ω˘)スヤァ」
すぐに寝息が聞こえてくる。
覇王世代の一連のやり取りを見ていたミラクルは率直な感想を口した。
「いが〜い。オペラオーちゃんにも一人で毛布にくるまってたい時があるんだね」
「そうですね! でも3年間を走りきってからは、私たちにあんな感じの姿を見せてくれることもありますよ」
「人前では相変わらず絡み倒してくるけど。まぁ、オペラオーも人の子なんだから気を抜いている時間は必要よね」
テイエムオペラオーのシニア期。彼女自身の芝居じみた振る舞いと圧倒的強さが合わさって、レース場がオペラ劇場になったかのようだった。
そんな歌劇王も、今では人目につかないところだとのんびりしていることが多いらしい。
「じゃあこの場所とオペラオーちゃんのラクダタイムは私たちの秘密ってことで〜なんかいいねこういうの」
「ふふっ、ラクダタイム……面白いですね」
「ちょっと声を落として続きを遊びましょうか。次はミラクルさんの番ね」
人生ゲームの続きを再開する。ミラクルがルーレットを回そうとした時、ルーレットの上に1枚のカードが置いてあった。
「なにこれ。あ、カレンちゃんが描いてある。アヤベちゃんの?」
カードにはカレンチャンのカワイイ笑顔が描かれていた。なので彼女と同室であるアヤベのものかとミラクルは思った。
しかし、アヤベは怪訝な顔をした。
「いえ、こんなカード知らないけど……」
「私のでもないですね……って、なんか部屋が変です! ……オペラオーちゃん!!」
トプロが異変を察知して眠っているオペラオーにも咄嗟に呼びかける。視界の端で毛布がもぞりと動いた。
【くすくす……さぁ、カレンと遊びましょう?】
今までいなかったはずのウマ娘の声がして、VR空間がぐにゃりと歪んだ。まるで望遠鏡の景色を一気に拡大した時のように、視界が遠ざかっていく感覚に強い目眩がして、少し意識が途切れた。
「な、なにがどうなってるの〜!?」
「VRウマレーターの故障でしょうか?」
「みんな……周りを見て」
アヤベに言われて、周りを見渡す。
すると、なんということか。
自分たちがさっきまで指先で摘んでいた人生ゲームの駒が、自分たちと同じサイズになっていた。
「す、すごい……すごく大きいです! 人生ゲームのルーレットやコマが巨大化してます!」
「なにこれ!? もしかして私たち……小さくなっちゃってるの!?」
ミラクル達は、さっきまで遊んでいた人生ゲームの上にいた。まるで自分自身がゲームのコマになってしまったかのように小さくなっている。
なぜこんなことになったのかさっぱりわからないミラクル。驚きで語彙力が消し飛ぶトプロ。
冷静なアヤベは、まるで星を見上げるように上を見て言った。
「……カレンさん、どういうことなのか説明してもらえるかしら」
「え、カレンちゃん?いったいどこ……にぃ!?」
【はーい♪ 慈愛のウマ娘、カワイイカワイイカレンチャンです☆】
その声は、遥か頭上から聞こえた。
思わずミラクルとトプロが顔を上げると……とんでもない大きさのカレンチャンがいた。
それこそ、指先一つで自分達の体をつまみ上げられるくらいのサイズ差がある。
「め、めちゃくちゃ大きいです! トレーナーさんより、ヒシアケボノさんよりずっーとでっかい!!」
「私たちが小さくなってるとはいえ正直、カワイさよりも本能的な恐怖が止まらないんだけど!?」
【今のアヤベさんたち、バッタさんみたいに小さくなっててカワイイですよ? ……さぁ、カレンと遊びましょうね☆】
一体なぜこんなことになってしまったのかさっぱりわからない。巨大カレンチャンの目的はなんなのか。この時ミラクル達には見当もつかなかった。
後編で終わります。そんなに長くはなりません。