ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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VRウマレーターでアヤベさんと遊ぼう!(後編)

 VRウマレーターで人生ゲームを遊んでいたヒシミラクル、アドマイヤベガ、ナリタトップロード。そして端っこで寝ていたテイエムオペラオー。

 のんびりしていたはずが、突如カレンチャンの企みによって体を人生ゲームのコマサイズまで小さくされてしまう。

 なにやらただ事ではない様子のカレンチャンの目的とは……

 

 【説明を始める前に……勝手に混ざり込んでおいてかくれんぼをしてる誰かさんに出てきてもらいましょうか☆】

 

 巨大カレンチャンがその指でちょいちょいとルーレットの周りを指でなぞる。

 すると、押しつぶされるのを避けるようにオペラオーがこちらに走ってきた。

 

「嗚呼、巨大な指に追い立てられるボク! のんびりお昼寝をしていただけなのになんてピンチ、悲劇なのだろう! これじゃあ不思議の国のアリスじゃないか!」

 

 被っていた毛布をマントのように翻すオペラオーは、さっきまで寝ぼけ眼だったとは思えないほどいつもの調子だった。

 

「オペラオーちゃんも小さくされちゃったんだ?」

「トップロードさんに呼ばれた気がしたら、まさかボクまで小さくなっているとはね! ……いや、これはきっと夢に違いない。寝直すからボクのことはおかまいなく」

【おかまいします! 自分の意志でカレンのゲームに参加した以上、付き合ってもらいますからね】

「……ゲーム?」

 

 結局、カレンはなぜ自分たちを小さくしたのだろうか。恐る恐る巨大カレンチャンを見上げるミラクル。

 

「まず今の状態ですが、これはジャーニーさん特製のVRウマレーターで相手を小さくして一箇所に集める虫籠空間です。しつこいコバエさんをぷちぷちするために作ったそうですよ」

「怖いもの作るなぁあの人……」

「VRの中でダメージを受けても実際には無傷とはいえ、トラウマになりそうです……」

 

 笑顔のカレンでもこれだけサイズの差があるとさすがに怖い。これが巨大なドリームジャーニーだったら恐怖のあまり気絶している自信がある。

 アヤベは、真剣な目でカレンに問いかけた。

 

「それで? まさか私たちを潰したくてこうしたわけではないんでしょう」

「もちろん、そんな事するわけないじゃないですか☆ カレンはただ、アヤベさんたちと楽しく遊びたかっただけです」

「遊びたかっただけなら小さくする必要なかったよね!?」

「そうです! なんていうか……すごくすごい強引だと思います!」

 

 抗議を試みるミラクルとトプロ。しかし、それに答えたのはオペラオーだった。

 

「今のカレンさんに正論はムダさ。今の彼女は明らかに精神のバランスを欠いているからね。ハメを外させて上げないとこのままだ」

「精神のバランス?」

「ああ、最近なにかカレンさんに強い心の負荷がかかるような出来事はなかったかい?」

 

 カレンの同室であるアヤベに尋ねるが、アヤベは首をひねる。

 代わりにミラクルには心当たりがあった。

 

「この前スライムになる薬を飲んで、クリークさんに赤ちゃんにされてたよね? それじゃない?」

「そういえば……あの時私はぷにぷるに夢中になって気づいたら自分たちの部屋に戻っていたけど。赤ちゃん扱いをされてたらしいわね」

「それは大変だ、オグリさんでも堪えるらしいからねアレは。しかし、それだけならこんな真似はしないだろう。アヤベさん、なにか彼女を怒らせることをしなかったかな?」

【さっきから何をコソコソおはなししてるんですかぁ?】

 

 カレンが軽くテーブルを叩く。それだけで大地震のような衝撃がテーブルに発生してミラクルは転んだ。

 アヤベは少し考えたあと、決意した顔で走って彼女の指元まで近づいた。 

 カレンの指先一つで、体を潰すことが造作もないように身を委ねる。

 

「私、カレンさんにこんな乱暴をさせるくらい怒らせてしまったのね。謝るから……他の3人は開放してあげて。私のことは、どうしても構わないから」

【……それじゃダメです。何が悪かったのか、ちゃーんと反省してくれないとイヤです】

 

 カレンはアヤベから目を逸らしつつ、指先をテーブルからそっと離してアヤベを潰さないようにした。

 

(もしかして、姉妹喧嘩に巻き込まれたんじゃ?)

 

 話の流れが変わり始めて、なんだかそんな気がしてきたミラクル。いやアヤベとカレンは姉妹ではないのだが、今のカレンからは姉が構ってくれなくて拗ねた妹みたいな雰囲気を感じた。

 

「そういえば、ゲームって何をするんですか?」

【さっきまでアヤベさんが遊んでた人生ゲームですよ。ただし……参加者には皆カレンの兄さんになってもらいます。兄さんは妹のカレンにとーっても優しくしてくれるんですよ】

「私たち全員ウマ娘なのに……?」

 

 言うまでもなく、ウマ娘とは女性である。なのに兄さんになるとはおかしな話だ。

 ミラクルはツッコむか悩んだが、オペラオーが颯爽と指摘を入れる。

 

「カレンさん、君は自分のトレーナーをお兄ちゃんと呼んでいるじゃないか。【兄さん】なんてボクらは今まで一度も聞いたことがないが━━その役、本当にボクらが演じてもいいのかい?」

 

 その言葉に。一瞬だけ、カレンの表情が固まった気がした。カワイイ笑顔を崩さないように、奥歯を噛み締めたような。

 

【……本当に鋭いウソつきさんですね】

「ボクはボクが観客に嘘をついていることを否定しないとも。舞台の上の役者は本心を口にしていないことは観客も分かっているからね。しかし、君は嘘をついている事自体隠したいだろう?」

 

 巨大カレンが小さくなったオペラオーを睨むが、オペラオーは余裕を持ってその視線を受け止めている。

 

【そこまで他人の心がわかるなら……クラシックの時、どうしてアヤベさんを助けてくれなかったんですかぁ?】

「そりゃあ、ボクは歌劇王であると同時にレース界に終末を齎す世紀末覇王でもあるからね。助言はすれど、誰か一人だけ助けるわけにもいかないさ」

 

 オペラオーがなにやら難しい話でカレンの注意を引きつけている間に、ミラクルとトプロがアヤベから話を聞く。

 

「カレンちゃんのスライム薬の効果は切れたんだよね?」

「ええ、気づいたら部屋に戻ってて……もう一度抱きしめてみたけど、あのときほどの感触じゃなかったわ。もちろん、ふわふわではあったけど」

「……アヤベさん。それ、もしかしてカレンちゃんに直接言いました?」

 

 つまり、カレン目線ではクリークの赤ちゃんプレイからなんとか解放されて部屋に戻ったあと、再びアヤベさんに抱きしめられたわけだ。そして。

 

「ええ、柔らかいけどあのときほどじゃないって言って……それから、あなた達に誘われてここに来たけど……それが何か?」

 

 あまつさえ少しがっかりされた挙句、アヤベはカレンを置いて遊びに行ってしまった。 

 それは、いくらカワイイカレンチャンでも拗ねて暴れるというものだ。

 しかしアヤベは、何が悪いのか分かっていなさそうに首を傾げる。

 ミラクルとトプロは思わずアヤベの眉間にチョップをした。

 

「痛い……」

「トップロードちゃん、判決をどうぞ」

「有罪です! なんかこう……配慮でしょうか? 配慮が足りなくて残酷です! 体を使い捨てにされたカレンちゃんがあまりに不憫です!!」

「言い方! でもそうとしか言えないくらいのことをアヤベちゃんはしたよ、うん」

「ボクからも覇王チョップをお見舞いしよう! 正直いつ虫のように潰されるかヒヤヒヤしたとも!」

「う……ごめん、なさい……」

「まずカレンちゃんに謝ってあげて!」

 

 アヤベは再び、カレンの前に一人で立った。ただし、今度はおずおずと。

 

「その……カレンさんを、そんなに傷つけてしまうなんて思わなかった。あなたは強い子だしファンも多いから、私が抱きしめたりなんかしなくても大丈夫だって……」

【つーんだ。カレンだって勇気を出してタキオンさんの薬を飲んだし、クリークさんに赤ちゃんにされて怖かったのに。アヤベさんたら触感のことばかり。もう知りません。一生ヨギ棒でも抱いてればいいんです】

 

 カレンはにべもなくそっぽを向いた。しかしその顔は少し赤らんでいるのはこの場に全員にバレバレだった。

 

「これからは、カレンさんのこと大事にするから……沢山、気にかけてくれたこと恩返ししたいし。辛いことがあったら、私に話してほしい。あなただって……人の子だもの。人に見せたくない本音や、ワガママだって。私にぶつけていいわ。このゲームだって……私一人なら、何度だって付き合ってあげるから」

 

 アヤベが、小さくなってもウマ娘特有の脚力で一気に飛び上がってカレンの肩まで飛び乗る。カレンが払い除けでもすれば転落真っ逆さまだが、カレンは抵抗しなかった。

 

「だから……他の人が見ている前でこんなカワイクないことはしないで。カレンさんのためにもならないし……私のせいで、カレンさんのカワイイに傷をつけたくないから」

【アヤベさんは……今みたいにカレンが悪い子になったら、叱ってくれますか?】

「そうね。あなたも強くてカワイイだけじゃない、一人の女の子だってわかったから……ダメなことはダメって言うわ」

【……約束ですよ。破ったらプチッ、ですからね】

 

 その時、再びミラクル達の視界が歪んだ。今度は部屋が一気に縮んでいくような感覚がして。

 ふと目を開けると、元通り目の前にテーブルと普通サイズの人生ゲーム。そしてカレンチャンがいた。

 アヤベは真っ赤になったカレンを優しく撫でながら、ミラクルたちに頭を下げる。

 

「私のせいで、巻き込んでしまってごめんなさい。あなた達にも、私からお詫びをするから……ここでのことは、黙っていてもらえるかしら」

「もちろん、アヤベさんがそう言うなら! いいですよねミラ子ちゃん、オペラオーちゃん!」

「そりゃー、いいですとも。あの時私がクリークさんを止めれなかったのが原因でもあるし」

 

 部屋の隅っこで毛布にくるまっていたオペラオーはもぞもぞと起き上がり、さも今まで寝てましたみたいな素振りで言った。

 

「……はて、なんの話だい? 何やらおかしな夢を見ていた気がするが……まぁ、全ては夏の夜の夢さ!」

 

 




妖精双六虫籠遊戯、面白かったです。
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