ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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ライツ博士はわからない

 

 

「ヒシミラクル。今日キミに来てもらったのは他でもない。ST-2開発の成否に関わる重要な相談があるのだ」

 

 シュガーライツ。自分の意識をフルダイブさせるメカウマ娘開発の為にトレセンに協力申請をしている車椅子のウマ娘。

 彼女のST-2はまだウマ娘と同等に走れるとはいい難いものの、タニノギムレットやシンボリクリスエスから彼女の情熱と技術は素晴らしいとヒシミラクルは聞かされていた。

 

「あの……私ロボットのこととか何もわからないんですけど……」

 

 しかし、なぜ彼女の研究スペースに呼び出されたのかさっぱりわからないミラクル。ロボットの知識なんて皆無だし、トレーナーのお陰で大したケガなく3年以上走れているのでケガの苦しみをわかってあげることもできない。

 

「いや、そういう話ではないんだ。もっと日常的なことというか……その、なんだ」

 

 ライツ博士が言葉に詰まる。その様子に、少なくとも冗談やドッキリの類ではないことは伝わってきた。

 ならせめて自分も真剣に答えよう。つばを飲んで博士の質問を待つミラクル。

 

「ギムレットの言葉が難しくてわからないことが多くて……彼女の友人であるキミに翻訳のコツなどあれば聞いておきたいと思ってな……」

「わかる〜〜〜〜」

 

 予想外の内容に思わず素で共感してしまった。

 ミラクルから一気に肩の力が抜ける。

 

「いやー難しいですよねギムレットちゃんの言葉。なんやかんや3年以上友達やってますけど今でも全然わからないです。私は雰囲気でやってます」

「そ、そうなのか? しかし私が見たときは普通に話していたように見えたが……」

 

 呆気にとられたように手を広げる博士。ギムレットと会話するミラクルを見て何か理解するコツがあると思ったのだろう。

 

「うーんとですね。うまく言えないけど全部分からなくてもいいんです、だいたいで。まぁテンションMaxだとほんとに何言ってるか分かりませんけど」

「だいたいか……難しいな……」

 

 博士は真剣に考え出してしまった。研究者気質な人がミラクルのようなゆるくて大雑把な考え方は苦手なのは理解しているので、相談された手前少し真面目に考えてみる。

 

「この前神経衰弱で遊んだんですけどね。ギムレットちゃんが『難問から逃げるのか、アキレウスの死因を知らないとでも?』って言ったんですよ。私アキレウスがギリシャ神話の人ってことしか知らなくて」

 

 ギムレットの目を押さえるポーズを真似しながら言ってみる。

 

「ペーレウス王と女神テテュスとの間に生まれたトロイア戦争の英雄だな。本人が不死の肉体を持つ上にウマ娘を超える足の速さがあり、ウマ娘3人が狩る戦車で敵を轢き潰すなど数々の武勇を誇った。最終的に唯一の弱点である踵を討たれて亡くなり、我々の急所でもあるアキレス腱の由来とされている」

「どうしました急に。めちゃ詳しいじゃないですか」

 

 ものすごい早口になった博士にちょっと驚く。とはいえアグネスタキオンやアグネスデジタルもたまにこんな感じになるので慣れてはいる。

 しかし、我に返ったライツ博士の顔はみるみるうちに真っ赤になった。

 

「いや……すまん。知識分野になるとついな。研究者の悪い癖だ。続けてくれ」

「とにかく、私はよく分かんなかったので苦手なことは苦手だからしょうがないって答えましたけど。ギムレットちゃんもそれで納得してくれました」

「つまり、分からないところは飛ばして答えてもいいということだろうか?」

「そうそうそんな感じです。とはいえ、私がゆるいだけかもしれないので……ファインちゃんにも聞いてみたほうがいいかもです。一番頼りになると思うので」

 

 ギムレットと普段から話していて、相談すれば親身に有益な助言をしてくれそうなウマ娘として彼女の名前を挙げた。

 しかし、その名前を聞いた博士の表情が少し引きつった。

 

「いや……実は相談したいことがもう一つあってな。まさにファインモーション殿下のことなのだが……」

「あれ、ファインちゃんって何かロボウマ娘に関わってましたっけ?」

 

 ギムレットやクリスエスからそのような話は聞いていない。ファインもミラクルと一緒に進展を聞く側のはずだ。

 

「たまに、殿下がこちらをじっと見つめていることがあって……私は他人の機微に疎い方なのでよくわからないが、少なくとも快い感情を持っているわけでは無さそうなんだ。

 もしアイルランドの姫君から私やST-2が不興を買って計画が頓挫したらと思うと恐ろしくて夜も眠れない」

「ええっ、ファインちゃんが?」

 

 あのファインが他人を嫌そうに見つめるなどにわかには信じがたい。しかし博士は本気で恐れているし実際目の下にもクマができている。

 

「例えば、どんな時に見られてたんです?」

「そうだな……この前シャカールとプログラミング言語で会話していたときに物陰からじっとこちらを見ていた」

「ほうほう、他には?」

「後は、クリスエスとシャカールと3人で計画の進展について話し合っていた時にも……」

「あー……なるほど?」

「何か心当たりがあるのか!?」

 

 つまりシャカールが話している時ということだ。なんとなく察しがついたミラクル。しかし、他ならぬファインのプライベートな気持ちに関わることなので勝手に言い切るのも気が引けた。

 ミラクルはスマホを取り出し、ファインとのチャット画面を開いた。

 

「私、直接聞いてみますね。察しはつきますけど、本人から聞いたほうが確実なんで」

「待て待て、殿下に直接アポが取れるのかキミ」

「いやまぁ、クラスメイトですし。聖蹄祭のやり取りとか日直当番とかでふつ~に」

「そう言われると納得できるような……いややっぱりすごくないか……?」

「私も最初は緊張しましたけどね〜。あ、今からここに来てくれるそうです」

「えっ……待ってくれ、心の準備が」

 

 自分の研究室だと言うのに所在なげにオロオロし始めるライツ博士。トレセン学園の卒業生で成人している大人というのは知っているが、なんだかこうしてみると少しかわいいなとミラクルは思った。

 ほどなくして、礼儀正しいノックのあと研究室の扉が開かれた。

 

「ファインモーションです。シュガーライツ博士、わたくしのせいで貴女に心労をおかけしたことをお詫びしに参りました」

「いえ、決して殿下に謝っていただくことでは……! どうか、顔をお上げください……!」

 

 姫君としての礼ある振る舞いに完全に恐縮してしまうライツ博士。

 ミラクルも声をかけた手前、自分から理由を聞くことにする。

 

「ファインちゃんがライツさんを見つめてた理由って、私の想像通りであってる?」

「……うん。おかしいよね。シャカールが見たことないくらい楽しそうに話してるのに、それが寂しいだなんて」

 

 ファインはシャカールと仲が良い。一匹狼で愛想の良くないシャカールにあれこれ話しかけていて、シャカールもそれをウザがりながらも憎からず思っているはずだ。

 そんなシャカールが、ライツ博士のST-2計画がやってきてから日常的に誰かに協力し、仲間と盛り上がっている。

 それを見たファインに、思うところがないはずがないのはミラクルにも理解できた。

 

「シュガーライツ博士の計画は素晴らしいものだと存じますし、ギムレットやクリスの友人としても、あなたの夢を応援しています。そして……シャカールがあんなに熱心に皆と意見を交わせる場所を作ってくれたことに、とても感謝しています」

 

 真摯にライツ博士を讃えるファイン。博士はどうしていいかわからなくて車椅子の上であわあわしていた。

 

「博士とシャカールが私の知らない言語で楽しそうに話しているのを見た時……シャカールが楽しそうで私も嬉しいはずなのになんだかとても……寂しくなってしまって。博士に不安を与えるほど見つめてしまっていたことに気づけなかった。本当にごめんなさい」

「い……いえ! もったいないお言葉です。シャカールさんにはST-2の開発で本当に助けられていますから。むしろ私の計画はこの学園の皆に支えられているのだと改めて認識しました」

 

 ともあれ、シュガー博士の不安は杞憂だった。それが分かって胸を撫で下ろす博士。

 ひとまず問題は解決したようでミラクルものんびり頷いた。

 

「うんうん。そりゃあ寂しいよね。私だってもしトレーナーさんが他のウマ娘と見たことないくらい楽しそうに話しているのを喋ってたら寂しいし嫉妬しちゃうかも」

「嫉妬……そうかもしれないね。あるまじきことだけど……」

「そんなことないよ。ファインちゃんはお姫様だし普通な私には一生わからないくらいすごい……責任感?があるけど。でも、一人のウマ娘だもん。嫉妬しちゃうことくらいあるし、むしろシャカールちゃんにもっとアタックしてもいいんじゃない? 今までみたいにさ」

「でも……あんなに楽しそうにしているのに、邪魔をしてしまわないかしら」

 

 珍しくしょんぼりしているファイン。シャカールともっとお喋りしたいけどシャカールの新たな楽しみとST-2計画を邪魔したくない葛藤に苛まれているのだろう。

 そこでライツ博士が思い切って手を挙げて発言した。

 

「恐れながら殿下……シャカールさんが貴女からの連絡を受けた時、貴女について口にしている時。悪態をついてはいますが、決して嫌がってはいません。ですので、その……大丈夫だと思います!」

「本当かしら? そうだと、いいのだけど……」

「私も学生時代……この通り、走ることとプログラ厶をいじることしかしないウマ娘でした。ですが、それでも……学友たちと過ごした何気ない日々は楽しかった。だから……その」

 

 言葉に詰まるシュガー博士。どうやらあんまり口が上手いほうではないらしい。

 しかし、言いたいことは十分伝わった。

 ファインはライツ博士に歩み寄って、その手を優しく握る。

 

「ありがとう存じます。シャカールと……これからも仲良くしてくれると嬉しいな」

「はい。……お互いに」

 

 シュガー博士からもしっかりとファインの目を見て握手をした。

 こうしてライツ博士の不安要素は取り除かれ、メカウマ娘の開発は進んでいく。

 そして、それを後方で眺めるウマ娘がヒシミラクルの他にもう一人いた。

 

「これは良い物を見た! 天に見放されたヘーパイストスがテテュスとエウリュノメーに拾われたように、理と知の獣にも真なる理解者は2人いたというわけだ! この恩讐の彼方にお前は何を見る、ヒシミラクル!」

「さっぱりわからん。いつからいたのギムレットちゃん」

 

 

 

 

 

 

 




メカウマ娘シナリオ面白かったです。ライツ博士かわいい。
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