ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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開店! オルフェの暴君麻婆店

 

「いただきま〜す。今日もご飯が美味しくて大豊食祭さまさまだよ」

 

 大豊食祭は、理事長の超満足で幕を閉じた。

 だがその過程で生まれたメニューは今でも食堂に並んでいる。畑も有志のウマ娘達によって野菜が作られているようだ。

 ヒシミラクルとしても毎日の楽しみが増えて超満足である。強いて言うなら食べすぎてトレーナーに叱られるのが怖いくらいだ。

 ご満悦のミラクルの前に、一人のウマ娘がお盆をもってやってきた。

 

「ミラクルさん……こちら、座ってもよろしいでしょうか……?」

「スティルちゃん、どうぞどうぞ」

 

 スティルインラブが目の前に座る。

 皿を見ると、麻婆豆腐のようだ。丁寧に手を合わせて食べ始めたスティルの顔が、もう秋も深まってきたというのにみるみるうちに汗が垂れていく。

 

「嗚呼、この辛さ、この痛覚を刺激する味わい……思わず……血が、滾って……!」

「大丈夫? お水持ってこようか?」

「本能のままに、すべて晒して……喰らわせてぇ!!」

「スティルちゃん、ステイステイ」

 

 ガツガツと麻婆豆腐をかき込むスティルを落ち着かせるミラクル。スティルはハッとなって既に紅潮した頬を隠すようにハンカチで拭く。

 

「私ったら、先輩の前でなんてはしたない……でも、食べ尽くさなければ、収まらない……!」

「スティルちゃんって麻婆好きなの?」

「実は最近、あるお方の作る麻婆に夢中になってしまいまして……」

「あるお方? 食堂のメニューじゃないんだ」

 

 そういえば、スティルの皿にある麻婆は食堂のメニューに比べてだいぶ赤い。唐辛子がたっぷり入っているのが見て取れる。

 スティルが食堂の一角を指さす。そこでは数人のウマ娘達が一糸乱れぬ隊列を組んで中華鍋を振るっていた。

 そこからスティルとミラクルの会話に気づいてこちらにやってくるウマ娘が1人。

 黄金の髪を靡かせ、まるで古代の王様のように威風堂々と歩いてくるのは勿論。

 

「余だよ」

「オルフェさん!?」

「理事長から唐辛子畑を貰い受けた故、余の実装……もとい、出走までの暇つぶしに麻婆店を開くことにした」

「オルフェさん料理とかするんだ〜」

「たわけ。余が料理人の真似事などするはずなかろう。作っているのは臣下達だ。畑仕事も含めてな。王はただ見ているだけで良い」

 

 なんとも暴君らしい物言い。事実、トレーニングや畑仕事をオルフェが悠然と眺めている姿は時折見かけたことがある。

 

「オルフェさんに、試供品として麻婆を頂いてから、あの味が忘れられなくて……でも、そのたびにワタシが目覚めてしまうんです」

「スティルの事情はスイープから聞いていたからな。ティアラとはいえ余と同じく3冠を手にした身だ。懊悩を晴らしてやるのも一興よ」

「オルフェさんってまだデビュー前だよね……?」

 

 オルフェは自分がクラシック3冠を取ることを前提に話す。菊花賞を奇跡的に勝ったミラクルにしてみれば信じられないほどの自信だ。

 

「スティル。貴様は己の本性を恥じているようだが、そも他者の痛みと嘆きを悦とすることに何の矛盾があるというのだ。出走したウマ娘のあり方に定型などない」

「そんな……良識に反してしまいます……」

「ウマ娘として生を受けたものは、己の魂に嘘はつけぬ。……姉上でさえもな。スイープは貴様の望み通り抑え込もうと努力しているが、それでは甘すぎる」

「ま、まぁまぁ。落ち着いてよオルフェさん」

 

 オルフェの威圧感に俯いて縮こまるスティルを見て、思わず仲裁に入るミラクル。

 

「えっと、要するにオルフェさんもスティルちゃんの悩みを解決したいんだよね? スイープちゃんに頼まれたとかで」

「……不敬であろう。何故、余があの小娘に従わねばならぬ」

「いや、だって同じトレーナーさんの元でなんだかんだ仲良くしてるってデュランダルちゃんが」

「━━お前は余の言う事を否定するのか?」

「ナンデモナイデス……」

 

 やっぱりミラクルにはオルフェを止めるのは無理だった。あっさり黙らされてしまう。

 最早どうすることもできないかに思えたその時、大鍋を持った魔女っ子ウマ娘がこちらにやってきた。

 

「スティル〜ご飯は済んだ? でもまだ食べられるわよね! 今日は特別にシチューを持ってきたあげたわ。ウララから貰ってきた唐辛子をたっぷり入れてあるから、悪魔に負けない根性つけなさい!」

「スイープ、貴様……誰が持っていって良いと言った」

「は? なんでオルフェの許可がいるのよ。てかスティルにちょっかい出さないでくれる? やり方が乱暴なのよいつも」

「お前から話を持ちかけてきたのを忘れたのか??」

「どうすればいいか聞いてみただけで、勝手なことしないでよね……スティルは私の友達なんだから!」

 

 大鍋を持ったまま食って掛かるスイープ。オルフェの威圧感にも全く動じていないのは流石だが。 

 勢い余って、大鍋の中身をオルフェの顔面にぶちまけてしまった。

 

「あっー!! ちょっ、オルフェさん大丈夫?」

「顔が焼ける……! おのれ、スイープ……!」

「は? オルフェが余計な茶々入れたせいでしょ、むしろ謝りなさいよ!」

「ス、スティルちゃん、スイープちゃんを落ち着かせてあげてー!」

 

 トレセン学園トップクラスに我が強い2人の言い争いで収拾がつかなくなってきた。

 ずっと俯いて黙っているスティルに助けを求めるミラクル。

 しかし顔をあげたスティルの表情は……どうしようもないくらい、狂気と衝動に満ちていた。

 

「嗚呼! 3冠を獲ると豪語する美しさ、スイープさんと互角に争う勇ましさが、こんなに真っ赤に乱れてしまって……ワタシ……もう……抑えられない! アナタたちがアナタたちとしてあるのがいけない! この衝動のままに喰らわせてぇ!」

「スティルちゃーん!?」

「よもや貴様そこまでッ……やめろ! 顔を舐めるな! おのれおのれおのれぇ!!」

 

 ミラクルと、オルフェの緊急事態に駆け寄ってきた臣下達でなんとかスティルを引き剥がし、オルフェは治療のため運ばれていった。

 

「とほほ……もう当分唐辛子はこりごりだよ〜」

 

 一応デュランダルに連絡はしつつ、気の強い子達の相手に疲れてしまったミラクルだった。




オルフェとスティルが並んでる公式絵を見て金ピカと神父みたいだな……と以前思ったので書きました。
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