「私だって……ポッケちゃんやタキオンちゃんに勝ちたい! やああああっ!!」
「ダンツちゃん、今日は特に気合入ってるな〜。明日レースって言ってたけどポッケちゃんたちも出るんだ」
ヒシミラクルは同室のダンツフレームが勝負服を着て走り込んでいるのを見ていた。
ダンツフレームはヒシミラクルの同室の後輩だ。デビューは1年ダンツの方が早く、アグネスタキオンやジャングルポケットのような強烈な同期に振り回されながらも誰にでも優しく接し、それでいて主役を掴むことを諦めない強さがある。
普段は大人しくても何かの拍子にとんでもないことをする子が多い中で、こんなに手のかからないウマ娘はいないほど穏やかだとミラクルは思っている。
「ダンツちゃん張り切ってるし、たまにはレースの活力になる応援でもしてあげようかな〜すべすべぷにぷにしてるだけの先輩じゃないってところを見せてあげよっと」
思い立ったが吉日。早速ミラクルは友人であるタニノギムレットにLINEをした。
『というわけで【私の後輩のダンツちゃんがマイル中距離で強すぎる】みたいなやつを書いてほしくて、明日までに』
『断る』
即答だった。いつもの長ったらしい台詞もないので調子がそこまで良くないのかもしれない。
『ごめん急に頼んじゃって! でもダンツちゃんのことならギムレットちゃんも知ってるでしょ? 距離適性も近いし』
『ああそうだな、興味深い対象ではある。
だが! 今の俺にとって書きたいものでなければ、ワタシにとって書くべきものでもない!
要するに、気分じゃないというやつだ!』
『そんなー!? 私もやるよネタ出しとか!』
他力本願ではあるが、ダンツに気合の入った応援を届けてあげたい気持ちは本物だ。
ややあってギムレットから返信が来た。
『レースの勝者には栄光を! スコアの奏者には喝采を! お前は俺の書く脚本に何を差し出す? 代償なき応援歌など何もかも無責任な戯言でしかない! ローレライの歌声に嬉々として飛び込む愚者がどこにいる!』
「えっ〜と、つまり……」
ギムレットの言葉がややこしくなり始めた。少し興味を示してくれたのかもしれない。
しかしここで理解してきちんと返信出来なければ話が終わってしまう。
なんとか言葉の意味を考えるミラクル。
多分だが、急な仕事を振るならそれなりのお礼をしろと言いたいのだと思った。
『じゃあ、書いてくれたら1週間柵の修理でも演劇の読みあわせでもなんでも付き合うから!』
『ほう?』
『……2週間!』
『お前の覚悟はその程度か?』
『1ヶ月ー!!』
『いいだろう、契約は此処に交わされた! とびきりの蒼を! ブルーアーカイブをここに記そう! ポセイドンに捧げられし牝牛のように、ヤツを讃えるがいい!』
『やったー!! えっとね、ダンツちゃんは優しくて、可愛くて〜』
ここで、ギムレットから電話がかかってきた。
ミラクルが慌てて通話開始を押すと、開幕一番ギムレットのハイテンションな声が響く。
「ここから先は、最早電子の文字列では足りん! お前が普段感じるがままに歌い上げろヒシミラクル!」
「いつも皆を助けてくれる! 道に迷ってた時もナビしてくれたし賢い! 新時代の要!」
「いいぞ! もっと話のタネを寄越せヒシミラクル」
「最近はオッチャホイ作りもどんどん上手くなってる! トップロードちゃんとも違う唯一無二の柔らかさ!」
「詳しく聞きたいわね」
「頑張り屋さんのダンツちゃん! 努力家でお菓子作りも上手! 歌とダンスも綺麗! 何着ても似合うしなんでもできる! だからポッケちゃんやタキオンちゃんにも勝てるはず!」
「誰だ今の」
関係ない声が混じったが、ダンツを褒め称えることに夢中になっているミラクルは気が付かずそのままギムレットに言われるがままに歌い上げる。
「ああダンツちゃん! 私の自慢の後輩! マイル中距離で強すぎる! 最強の後輩……舞台の主役に幸あれ〜♪♪」
「フッ……ヒシミラクル、貴様の想いしかと聞き遂げた! ちなみに、今のヤツの状態はどうなっている?」
「ダンツちゃんならまだ走ってるよ〜♪♪ ってなんかすごいスピードでこっちに来てるー!?」
我に返ったミラクルがダンツの方を見ると、全身から熱気を出しながらポッケやタキオンにも勝る速度で走ってきた。
「ミ、ミラ子先輩……褒めすぎです、皆見てるし恥ずかしいですよぉ……!!」
恥ずかしさで湯気が出るほど赤くなっているダンツ。よく見れば周りの視線もこちらに集まっていた。
トレーニングコースでダンツを讃える歌を朗々と歌っていたのだから当然の結果だ。
それに気づいたミラクルの顔も、どんどん赤くなっていった。
「あっー! 待って、これはギムレットちゃんに言われて……」
「さぁ、アリアドネの糸は紡がれた! 明日の本番で堂々と歌い上げれば、ヤツは敗北という名の迷宮から解き放たれるだろう! そしてそれが終わったらワタシとの盟約を果たしてもらおうか!」
「もうさぁ無理だよぉ何言ってるかわかんないんだからさぁ!」
赤面する後輩、周囲から突き刺さる目線、ギムレットの難解言語にパニックになるミラクル。
それを止めたのは、他ならぬダンツだった。
「でも……きっと明日のレースのために本気で応援してくれたんですよね、恥ずかしかったけどいつもより早く走れた気がします、ありがとうございますミラ子先輩、ギムレット先輩!」
「うう……ダンツちゃんは優しすぎるよ……」
そして、そんなやりとりを遠くから眺めるウマ娘達の中にはダンツのライバルであるポッケやタキオンもいた。
「応援された時のダンツのあの速さ……こりゃあオレも気合を入れなおさねーとな。久しぶりにチームに応援に来てもらうか……?」
「ファンの声援がウマ娘の力になる、それは私の研究通りだが……普段からよく知る仲間の声援もあれほどの効果を生むとはねぇ! 明日のレースではデジタルくんにありったけの応援をしてもらう実験といこう!」
こうして、明日のレースはミラクルとデジタルとポッケのチームの割れんばかりの応援が響き渡ったのだった。
ダンツフレームの実装楽しみにしてます。柔らかそうで可愛い。