「いや~困ったのう!! 今週末はミラ子と一緒に船橋を満喫する予定じゃったのに、宿題が多すぎて遊びにいけそうもない! もはやワシらに救いはないのか……?」
ヒシミラクルの友人であるノーリーズンが、教室で大きな声を出して頭を抱えた。
苦手科目の宿題が大量に出てしまいぶーたれていたミラクルだったが、突然の行動に首をかしげる。
「どうしたの急に。ノーリーズンちゃんと一緒にお出かけする予定だったけど場所まで決めてたっけ?」
「何を言うミラ子よ。昨日船橋のソースラーメンが美味しいとファイン殿に食レポされてよだれを垂らさんばかりだったではないか! いや~残念至極よのう」
「そうかな……そうかも……?」
何のつもりかわからないが、ノーリーズンの事だから何か理由はあるのだろう。
とりあえず話に乗ると、ある編入生が声をかけてきた。
「宿題程度で船橋に来るのを断念するとは、だらしないですね中央。……ってなんだノーリーズンさんですか」
「なんだとはなんじゃ〜? それにミラ子もいるんじゃぞ」
「フリオーソちゃん、こんにちは〜」
割と最近このクラスに特別留学でやってきた船橋ウマ娘・フリオーソ。
他所から留学してくるウマ娘はミラクルと同期のシンボリクリスエスやファインモーションもいるが、フリオーソの場合は地方出身として中央への敵対心のようなものを露わにしている。
のんびりやりたいヒシミラクルとしては地方中央の確執もよくわからないが、無理して仲良くすることもないだろうと。当たり障りのない対応を取っていたが、ノーリーズンはかなり積極的に話しかけているのを見かけていた。
「確かにワシとミラ子は成績が良いほうではない……じゃがだからと言って大量の宿題を出して休日を! 船橋を満喫する自由を奪うなど権力による圧政ではなかろうか!」
大げさなノーリーズンの言葉。要するに船橋に行くことを対価に宿題を手伝わせる魂胆なのだろう。
あまりにも露骨な誘導だったが、フリオーソはやれやれと首を振りつつミラクルを見た。
「……はぁ、中央ウマ娘に手を貸すのは不本意ですが、船橋へのお客を減らすわけにもいきません。……ミラコさんでしたっけ。よもや船橋に来るというのが嘘ということはありませんね?」
「それはほんとだけど……いいの? 手伝ってもらって」
船橋に行くことに異存はないが、フリオーソが手伝うメリットはあまりないような気もした。
「船橋に来るのでしたら案内しますよ。レース場に来て船橋ウマ娘のレベルを見てもらっても構いません。そして船橋の魅力に取り憑かれてください」
「取り憑かれるて、そんな大げさな〜」
「いやぁ見上げた郷土愛よ! ではありがたく知恵を拝借するとして……ワシは数学、そしてミラ子は英語じゃったな。どちらからにする?」
「ちょっと待ってください。2教科あるんですか?」
「うん……だからね、手伝わなくていいんだよ? 私たちの宿題だし、いざとなれば自分のトレーナーさんに教えてもらえるから」
2人で同じ宿題をやればいいならまとめて教えてもらえばいいが、教科が別だと余計負担をかけてしまう。
フリオーソが地方ウマ娘とかは関係なく、そこまで手間を掛けさせるのは申し訳ないとミラクルは思った。
「……いえ、これも乗りかかった船橋です。手伝いましょうとも。2教科あるというならもう1人呼ぶまで」
「乗りかかった船橋??」
「しかしフリオーソ殿、このトレセン学園で船橋のために戦ってくれるもののふが他におるかのう? お主は絆されないとよく言っておるが、つまるところ味方がいないのではないか?」
ニヤリと笑うノーリーズン。教えてもらう立場なのに随分と強気な物言いだが、多分彼女としても無理に手伝わせるつもりはないのだろう。よくある戯れのようなものだ。
「確かにこのトレセン学園は中央の本拠地。しかし今の私は、船橋は1人ではありません。━━トレーナー!」
「キキキ……船橋は誰でもウェルカム……その為なら心より、協力するものです……!」
「なんか怪しい男の人来た!?」
いつの間に呼んでいたのか、フリオーソのトレーナーと思しき男性が現れた。
フリオーソは慣れ親しんだ様子で、トレーナーと軽く言葉を交わす。
「では私がノーリーズンの数学を、トレーナーはミラコさんの英語を手伝います。よろしいですね?」
「アッハイ。……フリオーソちゃんのトレーナーさん、よろしくお願いします。一応、私のトレーナーさんにも伝えておきますね」
「無問題……! 君のトレーナーにも既に一言断ってあるし、彼への船橋土産も現地で渡すことを約束してある……!」
「そこまでします!?」
フリオーソ同様、船橋のためなら何でもするタイプのようだ。
フリオーソがトレセン学園に来てからまだ一年も経っていないはずだが、2人の関係は既に何年もの時間を共にした相棒のように見える。
「まさかトレーナーも船橋から連れてくるとは!
いやはや、トレーナー移籍はウマ娘のそれと比べて遥かに大変と聞くのによくやるのう」
「ええ。……彼でなくては嫌でしたし、彼も応えてくれましたから」
「愛じゃのう〜〜〜」
「……余計なことを。さっさと終わらせて船橋に行きますよ」
「おやおや、ワシは船橋愛の事を言ったんじゃが……じゃが!」
ニヤニヤしながらも真面目に宿題に取りかかるノーリーズンと顔を赤くしながらも真剣に教えるフリオーソ。
なかなか気になる話だが、手伝ってもらっている以上宿題が優先だ。
苦手な英語の宿題を開き、問題を読むミラクル。
「まずは【私は昨日梨を買った】を英訳……梨の英語ってなんでしたっけ」
「pearだな」
「ありがとうございます。えーと、次は【私は鶏肉の唐揚げを作った】を英訳しなさい……うう、スペルわかんない〜フリトレさん、なんでしたっけ……」
「…………」
「フリトレさん?」
ちらりと目線を移すと、フリオーソのトレーナーから不透明な汗をかいていた。
「あの、もしかしてわからなかったり……」
「そんなことはないさ! ……I、cooked、flybirds!」
「それ鳥が飛んでますよね!? チキンでは!?」
時折不安になる回答がありつつも、どうにか宿題を進め、その日の夜にどちらも無事宿題は終わった。
「いやぁ助かったぞフリオーソ殿、フリトレ殿! さすが船橋からの刺客じゃ!」
「見え透いた世辞などいりません。船橋の素晴らしさ、今週末にたっぷり味わってもらうので覚悟してください」
「覚悟て。でもほんとに助かりましたな〜夜まで手伝ってくれるなんてフリオーソちゃんって優しいんだね。ちょっと誤解してたかも」
中央への敵対心は強いようだが、こちらの話を真剣に聞いて手伝ってくれた。
これからは距離を置かず仲良くしよう、ヒシミラクルはそう考えを改めたのだった。
フリオーソのトレーナーも、同意するように大きく頷いた。
「ああ、フリオーソはすごい優しいんだ。中央といえども同じクラスだし、これからも仲良くしてくれると━━」
「トレーナー! なりません、中央に絆されては……ノーリーズンさん、まさかヒシミラクルさんの緩さでトレーナーを懐柔する策でしたか!?」
「そんなわけないじゃん!?」
「にゃーはっはっは! まこと愉快な船橋愛よのう! 週末が楽しみじゃ!」
ノーリーズンの高笑いと共に、船橋を満喫することになったヒシミラクル達なのだった。
フリオーソちゃんかわいい。船橋のファンになります。