「先週は船橋巡りで忙しかったし、今日は家具屋でのんびりしよ〜っと」
ヒシミラクルにとっての最高の休日は家具屋のベッドやソファを試して回ること、今日は久しぶりに新型家具でごろごろしていた。
「ひとまずソファは堪能したし、今度はベッドにいきますか」
寝具コーナーに移動すると、見知ったウマ娘がそこにいた。大きな耳をピクピクさせながら真剣な顔つきで最新ベッドに向き合っているのは、アドマイヤベガだ。
「このベッド、値段のわりにはなかなかのふわふわね。新型の布団カバーと会わせて使うことで冬でも温かみを感じやすいようにしているんだわ」
「アヤベちゃんやっほ~。今日も家具レビュー中?」
アドマイヤベガとヒシミラクルに直接の親交はないが、ナリタトップロードという共通の友人がいて、お互い柔らかい家具が好きなのでこういう場所であって話すのは珍しくない。
「こんにちは、ヒシミラクルさん。実は私のトレーナーさんのベッドがいつの間にかぺしゃんこになってて、買い換えを検討してるの。これは80点くらいのふわふわだから彼にもちょうどいいかなと思って」
「そっか。……なんでアヤベちゃんがトレーナーさんのベッドの具合を知ってるの?」
「3年以上一緒にいるんだもの。お互いの寝具の状態くらい把握していて当然でしょう?」
「あ、はい」
あまりにも当然のように言われてそれ以上の追求はできなかった。
ともあれ、ミラクルも遠慮なく最新ベッドにを堪能しながらスマホで動画を楽しむことにする。
「おお、カレンちゃんの動画上がってる。マーちゃんとバレンタイン企画やるんだ……えっ、かわい~。このぬいぐるみ柔らかそ〜」
その時、アドマイヤベガの大きな耳がピクリと反応した。ベッドを真剣にさわっていた手が、彼女のスマホに伸びる。
動画では、カレンチャンの紹介のもと新しい勝負服を来たアストンマーチャンのPVが流れていた。
ただでさえ愛らしいマーチャンが大量のぬいぐるみと共にたわむれ、最後に巨大なくまのぬいぐるみに抱きかかえられる様はなんとも童話的に見える。
「さすがカレンちゃんにマーちゃん、可愛さも映えもばっちりだね~……アヤベちゃん?」
「カレンさん、最近忙しそうにしてると思ったら……こんなに楽しそうなことを」
何やら深刻な顔で動画を見つめるアヤベ。それからスマホで何かを打ち込んでいた。LANEでカレンに連絡しているようだ。
(そういえば、アヤベちゃんはカレンちゃんとすごくすごい仲がいいんだよね。もしかして、自分に黙ってマーちゃんと仲良くしてたのが寂しいのかな?)
アヤベとカレンの関係は、基本的にクールなアヤベにカレンがあれこれ甘えているように見える。
しかし実のところ、カレンが色々気にかけてくれていることにアヤベも感謝しているとナリタトップロードから聞いていた。
「私はもう行くわ。少し用事ができたから」
「カレンちゃんのところだよね。ついてっていい? ほら、さっきのぬいぐるみとかわたしも触ってみたいし」
「……好きにどうぞ」
「それじゃあアヤベちゃんについてくついてく、っと」
なんて言いながら拒絶されなかったことにホッとするミラクル。早足でカレンのいる場所に向かうアヤベ。
️
「ここね、カレンさん達のいる場所は」
「勝負服の撮影所か〜。そういえばアヤベちゃんもこの前トップロードちゃんと一緒に撮影してたよね」
「ええ、この建物のことはわかってるし許可はもらってあるわ。……入るわよ」
ウマ娘にとって勝負服は特別なもの。新しい勝負服に袖を通す際、特別な演出を入れた映像を撮るのが習わしとなっている。
さっきのPVはアップされたばかりだった。まだ演出用のぬいぐるみ達も残っているだろう。
アヤベは少し深呼吸をして、撮影所に入る。ミラクルにもこそっと続くことにした。
「……私は今、猛烈に感動している。私の望む世界が、今目の前にあるわ」
「どうしたの急に。わっ、直接見るとこりゃまたすごいですな〜」
マーチャンのPVで見たたくさんのぬいぐるみ達が綺麗に並んでいた。
家具やクッションには一家言あるミラクルからしても特上の触り心地であることは見て取れた。撮影所でなければ遠慮なくクッションダイブを決めたいところだ。
アヤベもその辺は弁えており、早足でぬいぐるみに近づくと、そっと一つを抱きしめた。
どうやら、PVに映っていたぬいぐるみに触りたくてたまらなかったようだ。
「95点……!!」
「うわっ、すごっ。すごくすごいふわふわ……こんなの誰でも夢中になっちゃうよ……!!」
最高の触り心地に酔いしれるアヤベとミラクル。
そんな2人の背後に、そっと忍び寄るウマ娘がいた。
「ぱしゃり、ぱしゃり。マーちゃんお気に入りのふわもこさんたち、気に入っていただけましたか? 全てレンズさんのお手製ですよ」
「マーちゃん! 新しい衣装もかわいいね〜」
「こんにちは。まさか癒しセミプロのヒシミラクルさんまで来てもらえるとは、実にミラクルです。奇跡のトリプルショットです」
もちろん、この撮影の主役であるアストンマーチャンだ。夢中でぬいぐるみを抱きしめる2人の緩みきった顔と一緒に、おすまし笑顔の写真を撮ったようだ。
「雪の女王のようにクールビューティーなアヤベさんもマーちゃんのふわもこにかかればこんなに安らいだ表情になるのです。ふふ、これはバズること間違いなしですね」
「はっ……まさか、その写真、SNSに使う気?」
我に返ったアヤベが、撮られた写真を見て眉を顰める。普段のアヤベのイメージからかけ離れた安らぎに満ちた表情を撮られてしまい、少し顔を赤くしていた。
マーチャンは、その言葉にいたずらっ子のような笑みを浮かべてピースサインをした。
「もちろんただでとは言いません。SNSにアップする許可をしていただければ、今ならぬいぐるみをお1つプレゼントです。ミラクルさんもですよ?」
「えっいいの? やった〜」
ミラクルにしてみれば今更自分の緩みきった顔の1枚や2枚、SNSに挙げられても何の損失もない。それでこんなにふわもこのぬいぐるみが貰えるなら安すぎるくらいだ。
とはいえ、アヤベの性格上そうもいかないだろう。
「……だいたい、私は写真を許可した覚えはないわ。勝手に撮った写真をSNSに載せるなんて、許されることでは━━」
「おやおや。おやおやおやおや。アヤベさんともあろうウマ娘さんがここがどこだか忘れちゃいましたか? と、カレンさんからのミッションコンプリートしたマーチャンはしたり顔で言うのです」
「あっ、もしかしてそういうこと……?」
「カレンさん……! まさか……!」
ミラクルとアヤベが、撮影所の入り口を見る。そこにはいつの間にか、バレンタインモチーフの衣装をまとったカワイイの権化、SNSの女王であるカレンチャンがいた。
「じゃーん、ピンクでチョコ色なカワイイカレンチャンでーす! アヤベさん、ミラクルさん、来てくれてカレン嬉しい♪」
「カワイイカレンチャン!」
「カレンさん……これはどういうこと、説明してちょうだい」
「うふふっ、かかりましたねアヤベさん。カレンはちゃんと連絡しましたよ? 撮影所に来るならアヤベさんにも少し協力してもらいますねって♪」
ここはウマ娘の撮影所だ。許可を得て入った以上、被写体となることにも同意したことになる。
きっと、カレンはアヤベから連絡が来た時点でこれは自分たちの企画に使えると判断したのだろう。
カレンの目はいつもの甘える妹のそれではなく、完全にカワイイの権化たる女王の目をしていた。
「ぬいぐるみのふわもこに顔を預けて目を閉じるアヤベさん、超カワイイ! ミラクルさんの自然な笑みもバランスが取れてるし……これ、企画に使ってもいいですよね?」
「待って、せめて普通の顔でぬいぐるみを抱きしめる形で撮り直させて……」
「そしたらアヤベさん、表情作っちゃいますよね? 今のカレン達が欲しいのはいつもとのギャップとか、レース関係では見れない姿なんです!」
「今ならマーちゃんとのハグに、あの大きなクマさんとのハグもお付けしましょう。……お願いです、どうしても、今年のバレンタインを成功させたいのです。冬を終え、春風を無事に迎えるために」
カレンとマーチャンがアヤベにお願いする。前から後ろからあの2人に囁かれたら、常人や普通のウマ娘なら脳が蕩けてしまうところだ。
アヤベはもはや断れる雰囲気ではないことを悟ったのか、大きなため息をついた。
「わかった、わかったわ……撮影所に入るお願いをしたのは私だし。その代わり、ちゃんと企画はやりきりなさいよ」
「もちろんです。では感謝のハグをしましょう。レンズさんを呼びますね」
「わぁい、アヤベさんだーい好き! ささ、ミラクルさんもご一緒に!」
「えっ、わたしも? そ、それじゃあおじゃましま~す」
ちゃんチャン同盟にされるがまま、写真撮影をされるミラクル達。
その後アップされた写真、特にふわもこに体重を預けて目を閉じるアドマイヤベガの姿は結構なバズり方をし、バレンタイン企画の成功にほんの少し協力することになったのだった。
バレンタインイベント最高でした。ちゃんチャン同盟カワイイ。