ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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夢をかなえてトランセンド

夢をかなえてトランセンド

 

「トラえも〜ん! いじわるなトレーナーさんに仕返しする道具出してよ〜!」

「ほう。━━まったくミラ子くんはしょうがないなぁ……で、どしたん?」

 

 ある日、ヒシミラクルはトランセンドの部屋に駆け込むなり泣きついた。

 トランセンドはヒシミラクルと同じクラスの情報屋にして様々なガジェットを取り扱っている。

 その力を当てにしてヒシミラクルが助けを求めることがたまにあるのだ。

 ヒシミラクルは、涙を拭きながら話し始めた。

 

「バレンタインで、今年は手作りチョコをあげたの。だけどなかなか納得いく味にならなくて……」

「ははぁ。さてはつまみ食いのし過ぎて太ったのがバレてトレーナーさんにプールに叩き込まれたんだね、かわいそうに」

「そうなんだよ〜。気持ちは嬉しいしホワイトデーにちゃんとお返しするからそれまでにちゃんと痩せようって、嫌がる私を無理やり……!」

「はっはっは。仲が良くて何より」

 

 ヒシミラクルのプール嫌いは同じクラスなら誰もが知るところ。そして口では嫌々言いつつもトレーナーさんにプールに放り込まれることは受け入れているのもトランセンドは理解している。

 

「わたし、一生懸命作ったんだよ? ちょっとくらい太るのも当たり前だよ!」

「いやそのりくつはおかしい。……それで、ウチに何をお望みで?」

「トレーナーさんに嫌われたり怒られたりしない程度にちょこっと仕返しする道具が欲しい!」

「正直でよろしい。しかしかわいい感じの仕返しか〜」

 

 トランセンドがちょっと考え込み、PCの画面を今手持ちのガジェット一覧に切り替える。

 少し考えたあと、トランセンドは何か思いついたようで悪い顔をした。

 

「じゃミサイルでもうちこんでやるか」

「かわいい感じの仕返しがミサイル!?」

 

 あまりの暴挙に思わず突っ込むミラクル。

 トランセンドはお構い無しに、部屋の片隅にある一つのガジェットを取り出してどこかのネコ型ロボットのようなイントネーションを口にした。

 

「じゃじゃじゃじゃん。レターミサイル〜」

「ちっちゃなミサイルと……便箋? あ、ミサイルの中空洞になってる」

 

 トランセンドの取り出したガジェットは、ロケット花火のような形をしていた。

 彼女は得意げに説明を始める。

 

「このミサイルの中に便箋を入れて、送りたい相手に向けてミサイルを発射。結構な音と煙と共に着弾して相手をドキドキさせた状態で手紙を読ませて吊り橋効果を狙う秘密ガジェットだよん」

「なんだそういうことか〜……ところで、手紙には何を書くの?」

「そりゃあもちろん、バレンタインなんだからラブレターっしょ。突然のミサイルで仕返ししつつ、ミラちゃんの本音を伝えてアタックすれば嫌われずに済むって寸法よ」

「さすがトランちゃん、頭いい〜」

「さ、机貸してあげるからここで書いていきなよ。いじわるなトレーナーさんを驚かせてやるのだ」

 

 トレーナーをミサイルで脅かしつつ手紙で好意を伝える。バレンタインの時期ならそんなに浮くこともないだろう。

 早速便箋に向き合ったヒシミラクルは、肝心なことに気がついた。

 

「あの……トレーナーさんにラブレター、書かなきゃダメ……?」

 

 みるみるうちにヒシミラクルの顔が紅潮していく。

 気合の入ったバレンタインチョコを贈るだけでも気恥ずかしさがあるのに自分の思いを手書きで文章にするなんてあまりに恥ずかしい。しかも情報屋のクラスメイトの眼の前で。

 

「そんなー3年以上を共にした相棒相手なんだから気負うことないでしょ? さぁ、ウチの前で赤裸々な本心を見せるがいい。それが協力する対価よふはははは」

「わ、わたしのトレーナーさんへの気持ちを知ってどうするつもり……」

「ふふん。3年を共に過ごしたトレーナーとウマ娘の信頼関係の行く末をみたい顧客なんていくらでもいるものよ。特にミラちゃんみたいな応援しがいのある子はね」

「鬼! 悪魔! たぬき!」

「たぬきじゃない、ウマ娘だ。なんちて」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶヒシミラクルと、余裕たっぷりに笑っているトランセンド。

 2人で騒いでいると、トランセンドの同室であるウマ娘が帰ってきた。

 

「おんやまぁ、ミラクルさんじゃないですか。そんなに顔を赤くなさってどうしました?」

「アキュートさん! いじわるなトレーナーさんとトランちゃんがわたしをいじめるんだよ〜」

 

 ゆったりしたおばあちゃんのような口調で話すのはワンダーアキュート。ヒシミラクルやトランセンドより年下のはずだが、その佇まいと物腰には年季の入った柔らかさと深さのあるウマ娘だ。

 

「人聞きの悪い。アキュさんお帰り〜」

「ありゃ、その『みさいる』……この前トランさんが使おうとしてやめたやつでしたねぇ」

「げ、アキュさん。それ内緒にしといてって……」

「ほう? 聞き捨てなりませんなぁ。詳しく教えてくれる?」

 

 アキュートはのんびりと、この前トランセンドが使おうと便箋に書いているのを見たが、やっぱり恥ずかしくなってやめたというのを話してくれた。

 

「てっきりもう使わないのかなと思ってましたけど、ミラクルさんが使うことにしたんですねぇ。道具を大事にするのはいいことですよぉ」

「さてはトランちゃん、わたしに在庫処分を押しつける気だったね!?」

「あちゃー……ばれちゃった。ま、それで結局やる? やらない? ウチとしてはミラちゃんのトレーナーさんへの気持ちはだいたいわかったしどっちでもいいよん」

 

 やっぱりやめる、というのは簡単だ。しかしそれではトレーナーへの仕返しをしたい気持ちは収まらないしただ恥ずかしい思いをしただけになってしまう。

 困り果てるヒシミラクルだったが━━その時、ふと閃いた! このアイデアは、トレーナーさんへの仕返しに使えるかもしれない!

 

「そうだ、トランちゃんもアキュートさんももう自分のトレーナーさんがついてるよね? みんなで書こうみんなで! ラブレター、みんなで書けば怖くない!!」

「そうきたか〜……さすがミラちゃん、いざという時の胆力は持ってるわ。ま、こういうノリでならトレちゃんにも気軽に渡せるかな」

「あたしもですか? そうさねぇ、せっかくオペラオーちゃんのトレーナーさんに見てもらえることになったんですもの。オペラオーちゃんを見習って気持ちを伝えるのもいいかもねぇ」

 

 こうして、バレンタインの時期にそれぞれ己のトレーナーへの手紙を書くことになった3人だった。

 その後、ミサイルでトレーナーを驚かせることには成功したが肝心のラブレター(感謝の手紙)を額縁に入れて飾られて余計恥ずかしくなったのはまた別のお話。

 

 




トランセンドが引けたのでヒシミラクルとの会話を想像したら◯ラえもんが出力されました。
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