「いや〜トレーニング後に事務仕事をするトレーナーさんを横目にのんびりテレビを見るのは最高ですねぇ」
「それだけ聞くとすごく性格が悪い台詞だな!」
夜8時頃のトレーナー室。ヒシミラクルはソファで寛ぎつつお茶を飲んでいた。ただその目線はテレビよりも己を支えてくれるトレーナーに向いている。トレーナーはパソコンに向き合ってメールチェックや書類作成をしていて、まだまだ忙しそうだ。
「まあまあ、トレーニング中はトレーナーさんが私をたくさん持ち上げてくれるんですからトレーニング後は私がトレーナーさんを励ましても良いかなと思うんですよ。がんばれ♪がんばれ♪ってやつです」
「お茶も煎れてくれたしな! うん、ありがとうヒシミラクル」
「肩が凝ったら言ってくださいね~。マッサージなり肩もみくらいしますから」
「流石にそこまでやらせるわけには……」
「いえいえ、トレーナーさんにはたくさん働いてもらって私を褒め殺した責任、取ってもらうんですから! ……な〜んて」
自分で言って気恥ずかしくなったのか、ヒシミラクルはテレビの方に視線を戻す。バラエティ番組をやっていたはずだが、ちょうどCMに入ったようだ。
直後に映ったのは━━何故か恐竜のようなコスプレをしたゴールドシップだった。
『ファーーー甘い甘い!! いけーキャプテンゴールドシップちゃんだ!! パワーこそ頂点、すべてを蹴散らせ!! ウマ娘TCGでデュエレースせよ!! 宝塚レボリューション第一弾、好評発売中!!』
キンキラキンに加工されたゴールドシップのカードを堂々と掲げている。最近トレセンでも人気のウマ娘カードゲームの宣伝CMだった。
「いやー凄いですよねゴルシちゃん。学校だと変なことばかりして怒られてることも多いけど、普通じゃ思いもつかない事がなんでもできるっていうか……噂だとVtuberもやってるっていうし」
一流アスリートであるトレセン生はテレビ出演することは珍しくないし、なんならヒシミラクル自身もG1勝利の際に出たことはある。とはいえ、ゴールドシップほど色々なメディアに出る娘はそういない。
「ヒシミラクルはCM出演に興味はないか?」
「興味っていうか……出たいって言って出れるもんでもないじゃないですか。ウイニングライブならともかくそもそも演技とか出来ないですし」
だが、トレセンウマ娘達はあくまでアスリート。女優の真似事ができるわけではない。……勿論、ゴールドシップのように多芸なウマ娘もいるが。
ところが、トレーナーは業務用のパソコンをヒシミラクルの方に向けて意外なことを口にした。
「それがな、ちょうど来てるんだ。CM出演依頼。それも今ゴールドシップが出てたウマ娘TCGのCMだ」
「え、なんで私が?」
首を傾げるヒシミラクル。メールには確かに出演依頼の旨がはっきり書かれていた。
「そりゃあ、ヒシミラクルのカードが出るからだろうな」
「それはなんだか、光栄っていうか気恥ずかしいというか……」
やっぱりCM出演なんて柄じゃない。断ろうと思ったヒシミラクルだが、トレーナーの目はトレーニング中のような褒め殺すときのテンションになっていた。
「大丈夫、ヒシミラクルならできる! G1,それも宝塚記念だって勝ったんだ、人気もあるしカードだってきっと強いはず!!」
「またまたそんな……大体、トレーナーさんデュエレースやったことあるんですか?」
「ない!! だけどヒシミラクルのカードが出るなら始める!!」
「うわぁ、清々しい断言……」
いつも通り乗せられてちょっとその気になってきた。とはいえこれはレースやテレビ出演とは違う、未体験のことだ。いまいち踏ん切りがつかないヒシミラクルにトレーナーは最後のダメ押しをした。
「ちなみにこれはレースに関係ないヒシミラクル個人への依頼だから出演料は全額ヒシミラクルに入るしセリフも一言だけでいいらしいぞ」
「出ます!! 今月お小遣い使いすぎてヤバかったところでした!!」
あっさり態度を翻し、トレーナーにOKの返信をしてもらい、ヒシミラクルはCM撮影に望むことになったのだった。
次回、CM撮影編になる。……かもしれません。実話をベースにした話なので実質パロディ