ヒシミラクルはわからない   作:じゅぺっと

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CM撮影はファイナらない

「ごめんなさ〜い! ちょっと遅くなっちゃいました。ヒシミラクル、ただいま到着です。」

 

 ウマ娘TCGのCM出演のため、テレビ局に入ったヒシミラクル。撮影所に行くまでにテレビで見る芸能人を生で見たりしていたら、集合時間ぎりぎりになってしまった。

 ヒシミラクルがCM出演を決めた理由は、出演料に釣られたのもあるが、メインは他ウマ娘のセリフなので一言喋れば済むと聞かされたところが大きい。

 ヒシミラクル以外に呼ばれたウマ娘は三人。そしてもう全員揃っているようだった。

 

「おせーぞミラコー! デュエル飯は済ませたか? 三女神様にお祈りは? 収録後にゴルシちゃんとゴルフ場で24時間耐久デュエレースする準備はOK?」

「いやいや、なにゴルフ場でレースって……というか今日も恐竜のコスプレなんだね」

「知らねーのか? 最近のゴルフは打った側からダッシュしてゴルフボールを追いかけるのがトレンドなんだぜ?」

「んなわけあるか〜い。まあゴルシちゃんはいつも通りだねぇ」

 

 まず一人は既にウマ娘TCGに出演しているゴールドシップ。相変わらず普段の発言は意味不明だがヒシミラクルにとってはタニノギムレットやネオユニヴァースで慣れっこなためマイペースに受け流した。

 

「ヒシミラクル先輩、おはようございますっ。今日のカレンはくノ一コーデですよ〜ニンニンッ♪」

「わ〜さすがカレンちゃん。今日も可愛いね……なんで忍者?」

「なんでもカレンのカードは忍術モチーフらしくて、リスペクトしちゃいました♪ デジタルちゃんとアヤベさんに忍術も教わってきましたよ」 

「トレセン学園に忍術ムーヴが起きる日も近いかなこりゃ。とりあえずよろしくね〜」

 

 もう一人は、ウマスタグラムフォロワー300万人を誇る可愛すぎるウマ娘カレンチャン。

 ヒシミラクルにとってはトレセン学園内よりも、ネット動画などで見ることのほうが多いくらい有名人だ。

 

「はーっはっはっは!! ようこそヒシミラクルさん、ボクの華麗なるCM撮影所へ!! 今宵ボクが地を蹴り宙を舞い、デュエレースを駆け抜けるところをとくとご覧あれ!!」

「うおっ、まぶしっ。なんかいつにもましてキンキラキンだね、オペラオーちゃん……」

「うむっ、何と言ってもこのCMの主演を務めるのはボクだからね!! 新春覇王は黄金覇王に至高のバージョンアップを遂げたのさ!! 共演の記念にヒシミラクルさんにも黄金の鉄の塊で出来たボクの銅像をプレゼントするよ!!」

「うん、気持ちだけもらっとくね〜。オペラオーちゃん主役なら安心だよ」

 

 最後の一人は、新春衣装の上に金メッキでも塗ったようにキンキラな着物を羽織ったテイエムオペラオー。

 とりあえずこれで全員に挨拶はおわったわけだが。ヒシミラクルの脳裏にある不安がよぎる。

 

(面子が……面子が濃いよぉ……! 私が場違いな感じしかしない……!!)

 

 ゴールドシップ、カレンチャン、テイエムオペラオー。普通じゃないウマ娘揃いのトレセン学園でもお芝居やメディア出演という意味ではトップクラス間違いなしの面々に囲まれ、軽い気持ちで引き受けてしまったことを早くも後悔し始めるヒシミラクル。正直、自分以外に三人もいるなら誰かしら自分と同じシロウトがいると高をくくっていた。

 内心冷や汗のヒシミラクルをよそに、撮影スタッフからCMの台本が配られる。それぞれ一読したあと、軽く読み合わせをすることになった。

 

 どうやらカードゲームの新能力である【ファイナルエンド】というものをみんなで合唱する趣旨らしい。

 

 (いや、大丈夫。だって私が喋るのは一言だけだもん。いってみれば通行中のエキストラみたいなもののはず。いける!)

 

 今日はトレーナーはいない。ヒシミラクルが自分で自分をなんとか鼓舞する。

 

『それじゃあお願いします、3.2.1……スタート!』

 

ゴールドシップ「ファーーー!!」

カレンチャン「否っ♪」

ヒシミラクル「る〜?」

テイエムオペラオー「エンドだっ!!

 

行くぞ、歌劇王テイエムオペラオー! ボクがボクらしく輝けることこそ、本当の強さなのさ!!

 

ウマ娘たちで、レースせよ! ボクらのレボリューションは、ファイナらない!! ウマ娘TCG、宝塚レボリューション第四段、好評発売中!!」

 

『OKです! 本番でもそんな感じでよろしくお願いします』

 

 撮影スタッフさんが本格的に機材を動かし始める。実際に読んでみてヒシミラクルは思わず突っ込まずにはいられなかった。

 

「一文字!!」

「おっなんだ? 喋りたりなかったかミラコー?」

「いやそういうわけじゃないけど……一言どころか一文字でしたよ私! これ私要る!?」

「え〜要りまくりですよ? むしろヒシミラクルさんこそがこのCMを成功させる鍵と言っても過言じゃありません!」

「過言であってほしいんだけど! というか流石に冗談だよね、カレンちゃん……?」

 

 一文字のヒシミラクルもだがゴールドシップとカレンチャンも大概セリフが少なく、ほとんどオペラオーの一人芝居にも感じたが、二人は特に不満もなさそうだ。

 

「ゴルシさん、もっと思いっきり叫んでもいいですよ? カレン、しっかり声出してヒシミラクルさんに繋げますから♪」

「さすがカレンはわかってるなっと! アタシが叫んだのをカレンが抑えて、ミラコーがゆるくしたところにオペラオーの大音声が轟くウイニングロードを完成させよーぜ!!」

 

 何やら二人で声のトーンに関する打ち合わせが始まってしまったので、ヒシミラクルはテイエムオペラオーの方を見る。何やらポーズを決めながら台本を読んでいた。

 

「え〜とオペラオーちゃん的にはどうなの? 一人だけ長台詞で緊張とか……するわけないか、オペラオーちゃんだもんね」

「当然! しかしヒシミラクルさんがこの撮影を引き受けてくれたことには安心しているとも!」

「はて、その心は?」 

 

 カレンチャンと似たような事を言っているが、正直全然ピンとこないヒシミラクル。なにせ、三人だけで十分役者は揃っているのだから。

 

「ゴルシさん、カレンさん、そして世紀末覇王であるこのボク!! CM撮影どころか長編オペラが作れるくらいのメンバーだが……それ故に、15秒程度のCMでは【うるさすぎる】のさ! 船頭多くして船山に登る、という名台詞を知ってるかい?」

「確かに、それぞれ一人だけでも十分目立つもんね……」

「仮に三人だけで撮影をしていたら全体の印象のために自己主張を抑えなくてはならないが……マイペースでゆったりしたヒシミラクルさんが間に挟まることで全員が全力で喋っても纏まりができる、というわけだね」

「な、なるほど〜」

 

 自信満々に断言されてなんとなく納得したが……しかし同時に、ヒシミラクル自身が走ったあるレースのことを思い出す。

 

(でもそっか。確かに私が宝塚記念を走ったときもメンバーが凄すぎて、私も走るのが怖くなってトレーナーさんに助けてもらったっけ。

 

 私みたいなふつ〜のウマ娘が一人いれば、見てる人も肩肘張らずにのんびりCMを楽しめる……ってことなのかな)

 

 そう考えると、自分がここにいる意味もある気がすると一瞬前向きになれたヒシミラクル。

 だったが。

 

「ちなみにCM撮影故にお互いの息がピッタリ合って完璧になるまで何十回でも撮り直すのが通例だから、今のうちに栄養補給はしておくことをオススメするよ。ハヤヒデさんオススメ炭酸抜きコーラでも飲むかい?」

「何十回!?」

「知らなかったのか? 今テレビでやってるゴルシちゃんのCMだって最初の叫びがなかなかしっくり来なくてそれだけで五十回は撮り直したんだぜ?」

「最初だけで!?」

「カレンは一人の撮影なら大体一発撮りでいけますけど……今回は四人ですから、長丁場になる覚悟はできてます! お化粧直しや水分補給のセットも持ってきましたよ♪」

「そこまでするの!?」

 

 メディア出演ガチ勢達の空気に完全に気圧されてしまうヒシミラクル。しかし三人は楽しそうに、そして期待のこもった眼差しで見つめてきた。

 

「なんだなんだ? まさかミラコーちゃんはたった一回喋ればお金が貰えるなんて何もかも無責任なこと考えてたわけじゃねーよな?」

「大丈夫、カレンがしっかりバトンを繋いでサポートしますから! いつも通り、マイペースにゆったり喋ってください♪」

「なにせトリはこのボクが務めるからね! 大船に……いや、宝船に乗ったつもりで任せてくれたまえ!!」

「ひ、ひええ……」

『それじゃあ準備できましたので、撮影はじめまーす!!』

 

 こうして、本格的なCM撮影が始まったが。普段通りマイペースに、しかも『る』だけ言えというのも逆に難しく。一番喋っているオペラオーよりも多くのリテイクを喰らいながらなんとか撮影を終えるヒシミラクルだった。

 

「トレーナーさん……私、もうCM撮影なんてこりごりです〜!!」

 

 

 

 

 

 




声優さんのエピソード聞くと短い中にも凄い手間と時間がかかってて驚きます
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